- 作成日 : 2024年9月3日
遺産分割協議書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
遺産分割協議書は、遺産の分け方について話し合った結果を書面化したものです。作成方法に決まりはないものの、ポイントをおさえて作成しないとトラブルにつながりかねません。本記事では、遺産分割協議書の書き方だけでなく、具体的な記載事項や注意点なども紹介します。
目次
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続が発生した際に「故人の財産を誰がどのように受け継ぐのか」を当事者間で話し合った結果がまとめられた文書をいいます。
相続が発生すると、民法で定められた法定相続分に従って財産が分割されますが、必ずしもこの通りにする必要はありません。相続人の合意があれば法定相続分とは異なる分割方法を選択することも可能です。遺産分割協議書は、このような話し合いの結果を記録して、相続手続きや後々のトラブルを避けるために作成されます。
これが作成されていないと、協議に参加した当事者以外、財産の新しい所有者が判別できません。そのため、名義変更がスムーズに進まず、本当の所有者が誰なのか客観的に判断することもできません。
遺産分割協議書を作成するケース
遺産分割を行わないのであれば遺産分割協議書を作成する必要はありません。そのため次のケースでは不要となります。
- 相続人が1人しかいないケース
- 遺言書で全財産についての指定がされているケース
相続人が1人なら分割を行うことなくその方がすべてを承継します。また、当事者全員で「遺言書に記載されている以外の方法で分割する」と意見を一致させない限り遺産分割協議を行う必要がありません。
一方、遺産分割を行う場面では遺産分割協議書も作成します。そして作成するケースは次の3つに分けられます。
- 遺言書がない+法定相続分とは異なる遺産分割を行う
- 遺言書がある+遺言書の内容に不備がある
- 遺言書がある+遺言書に記載されていない財産がある
各ケースの詳細は以下の通りです。
遺言書がない+法定相続分とは異なる遺産分割を行う場合
遺言書が作成されておらず、法定相続分と異なる割合で遺産を取得して分割するのなら、遺産分割協議書を作成します。なぜなら、証明できる書類がないと対外的に遺産分割の結果について示すことが難しいからです。
例えば、故人の妻・長男・長女が相続人になる場合、法定相続分はそれぞれ1/2・1/4・1/4です。しかし妻に2/3と多くの財産を残す形で遺産分割をするのなら、長男と長女はそれぞれ1/6ずつとなります。
これは法定相続分と異なる割合なので、特に“法定相続分を超える取得分について主張するため”に遺産分割協議書を作成しておいた方がよいのです。
遺言書がある+遺言書の内容に不備がある場合
遺言書で遺産分割について指示がある場合、その通りに従うのが原則です。遺産は元々亡くなった被相続人の財産で、その所有者の意思を尊重しなくてはなりません。
ただ、法的な効力を遺言書に持たせるには、法律で定められた要件を満たす必要があります。もし作成方法や内容に不備がある場合には、遺言書が無効になる可能性があることを頭に入れておきましょう。
全部が無効になったり、遺言内容が部分的に無効になったりと、パターンはさまざまです。無効になった部分については協議を行い、その結果を遺産分割協議書にまとめます。
遺言書がある+遺言書に記載されていない財産が発覚した場合
有効な遺言書が作成されていても、そこで言及されていない財産があるときは、その財産についての遺産分割が必要です。
例えば、遺言書に記載されていた財産が預貯金と自宅であって、「妻に自宅、長男に預貯金を相続させる」といった遺言が残っていたとしましょう。
相続開始後に預貯金と自宅以外に株式を持っていたことが判明した場合、この株式の相続には遺言書の影響を受けません。どのように分割するのか相続人で話し合い、その結果を遺産分割協議書にまとめることとなります。
なお、遺言の方法にもいくつか形式があり、上記のように財産を具体的に指定するケースもあれば、「妻に2/3、長男に1/3を相続させる」と割合で指定するケースもあります。後者の場合は財産の内容に変化があっても全財産に効力がおよびます。
遺産分割協議書のひな形
ここからは遺産分割協議書を作成する際に知っておきたいポイント、記載事項などを紹介していきます。そこでまずはこちらのページからダウンロードできるひな形をチェックしていただければと思います。
基本的な事項をまとめたシンプルなひな形です。ぜひ作成時の参考にしてください。
遺産分割協議書に記載すべき内容
遺産分割協議書を作成するときは、まず「被相続人と相続人が誰なのか」をわかるように記載しましょう。書き方や順序に決まりはありません。
被相続人に関する表示 |
---|
氏名 〇〇 〇〇 生年月日 昭和〇〇年〇〇月〇〇日 死亡日 令和〇〇年〇〇月〇〇日 最後の住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 最後の本籍 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 |
相続人に関する表示 |
相続人全員は、上記被相続人の相続について、その相続が被相続人の妻 〇〇 〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生。以下「妻」という。)、被相続人の長男 〇〇 〇〇(平成〇〇年〇月〇日生。以下「長男」という。)、被相続人の次男 〇〇 〇〇(平成〇〇年〇月〇日生。以下「次男」という。)の3名であり、ほかに相続人が存しないことを確認した。 |
丁寧に明記すべきなのは「誰が何を取得するのか」の部分です。対象となる財産については、可能な限り具体的に記載しましょう。
不動産を特定するときの記載例 |
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妻は、次の遺産を取得する。 (1) 土地 所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号 地目 宅地 地番 〇番〇 地積 〇〇㎡ (2) 建物 所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号 家屋番号 〇番〇 種類 居宅 構造 木造瓦葺2階建 床面積 1階 〇〇㎡ 2階 〇〇㎡ |
預貯金を特定するときの記載例 |
長男は、以下の被相続人名義の預貯金を取得する。 〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇 |
このように、債務も含めて話し合った財産について、誰がどれだけ取得するのかをまとめていきます。
そして最後には、遺産分割協議書の作成日および作成に関わった当事者の署名捺印を行いましょう。
“各相続人が本書の通り、遺産を分割し、相続することに合意した。”といった旨の記載と署名捺印も行うことで、当該相続人の意思で合意したと証明しやすくなります。
捺印に際しては、必ず相続人それぞれが自身の実印で捺印するものとして、捺印した実印の印鑑登録証明書とセットで遺産分割協議書を保管するようにしましょう。
遺産分割協議書を作成する際の注意点
遺産分割協議書の作成にあたっては、いくつか重要な注意点があります。
まず、「相続人を正確に特定して全員の意思確認を行うこと」に注意してください。
戸籍謄本などを収集して法定相続人を漏れなく調査します。遺産分割協議の際は、遠方に住んでいる方や仕事などで都合がつかない方においても、オンラインでの参加を促すなど柔軟に対応しましょう。最終的に全員の合意が得られなければ遺産分割協議書を作成してもその結果は有効なものとして扱われません。
また、「相続人以外の参加者も把握すること」も大事です。
基本的には相続人の全員が遺産分割協議の参加者ですが、遺言書で遺贈に関する記載がされていると、第三者が受遺者として遺産に係る当事者となることもあります。これは包括遺贈(第三者の取得する遺産が割合で指定されているときの遺贈)がなされている場合です。指定された割合の限度で受遺者は相続人と同じ立場に立ち、遺産分割協議にも参加する権限が与えられるのです。
次に、「被相続人の財産についてプラスとマイナスの両方を漏れなく把握し、正確に評価すること」にも注意してください。
不動産や株式の評価など、専門知識が必要な財産に関しては、税理士をはじめとする専門家への相談も検討しましょう。また、故人が生前に贈与を行っていた場合は、それらを遺産に持戻す可能性があります。この点も併せて専門家に相談してください。
遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書を作成するまでの流れは、おおむね次の通りです。ただし相続人同士の関係性や人数、財産状況に応じて進め方が変わってくるので、相続に詳しい専門家に相談しながら手続きを進めていきましょう。
- 遺産のリストアップ
- 遺産分割協議の対象となる財産をまとめて一覧にしておく
- 財産の評価額についても調べておく
- 遺産分割協議の準備
- 被相続人の戸籍情報をもとにすべての相続人を調べておく
- 協議の方法(対面やオンラインなど)や日程を調整
- 財産状況などを共有しておく
- 遺産分割協議の実施
- 遺産分割の成立には全員の合意が必要であるが、必ずしもその全員が一堂に会して話し合う必要はない
- 司法書士や弁護士などの専門家のサポートも受けることが望ましい
- 遺産分割協議書の作成
- 分割内容を書面にまとめていく
- 書面には全員の署名捺印を行い、全員の合意があったと証明できるようにしておく
- 参加できない方がおり、不同意となるリスクも小さいときは、遺産分割協議証明書を用いた簡易な方法(多数の方に遺産分割協議書を回して順次署名捺印をしてもらう手間、その過程での散逸などを避けられる)で遺産分割を成立させることもある
その後は、遺産分割協議書を用いて各自相続登記などの名義変更手続きも進めていきます。
遺産分割協議書の提出先
作成した遺産分割協議書は、状況に応じて次の機関へ提出することがあります。
- 税務署
- 金融機関
- 法務局
- 運輸支局
取得した財産の種類や価額に応じて提出の必要性も変わってきます。
税務署
税務署への提出が必要になるのは、相続税の申告を行うときです。
取得した遺産の総額が一定以上(少なくとも3,000万円以上)になるときに限り、相続税の申告や納付の義務が生じます。期限は相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。税務署に相続税申告書と遺産分割協議書(写し)を提出しなければなりません。
遺産分割協議書の提出が必要なのは、遺産分割をすることにより相続税の税率にも影響してくるためです。ほかにも被相続人の戸籍謄本や住民票の除票(または戸籍の附票)、相続人の戸籍謄本や本人確認書類なども用意しましょう。
金融機関
預貯金口座の解約や名義変更を行う際、遺産分割協議書を口座のある金融機関の支店に提出することもあります。
提出期限は特にないものの、相続手続きをスムーズに進めるため、可能な限り早めに手続きしましょう。
遺産分割協議書に加え、被相続人の死亡診断書、相続人の本人確認書類、印鑑登録証明書など、その他の書類を求められることもあるため、窓口で何が必要なのか聞いておくとよいでしょう。場合によっては原本の提出を求められるなど、取り扱いが異なります。
法務局
遺産に不動産が含まれているときは、法務局で不動産の名義変更(相続登記)を行う必要があります。
※相続登記は法改正により相続人の義務となった。これを怠ったときは過料と呼ばれる金銭的なペナルティを受ける危険性があるため要注意。
この相続登記の際、遺産分割協議書を不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。相続登記は3年以内に行えばよいとされていますが、相続登記を行わない間は相続人全員で固定資産税を負担することになり、また不動産を売却したり担保に入れたりすることができません。
そのため、登記申請は早めに行うほうが得策です。
運輸支局
遺産に自動車が含まれている場合、自動車の登録地を管轄する運輸支局で名義変更の手続きを行います。その際、遺産分割協議書が必要になります。
申請書と遺産分割協議書に加え、自動車検査証や被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本、ほかにも新所有者の印鑑登録証明書や印鑑なども用意しておきます。詳細は各運輸支局にて確認しておきましょう。
提出書類は取得者によって変更となる可能性があります。
遺産分割協議をしたときは必ず書面にまとめよう
遺産分割協議書がなくても遺産分割は有効ですが、その後の相続手続きが難航してしまったり財産を失ったりするリスクが高まります。そのため、可能な限り遺産分割協議書を用意するようにしましょう。
遺産分割協議書を作成するときは、参加者の氏名や財産について、さらに署名捺印のうえ全員の合意を得られたことについて示すようにしてください。作成に不安があるときはひな形を用いてもよいですし、併せて専門家にも相談することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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