• 更新日 : 2024年11月14日

電子契約の締結日はいつになる?決め方やバックデート問題を解説

近年、電子契約を採用する企業が増えています。電子契約を交わす場合、契約の締結日の決まり方は、書面の契約とは異なるため注意が必要です。本記事では、電子契約における契約締結日がいつになるのか、契約締結日を前倒しする「バックデート」に問題はないのかなどについて、幅広く解説しています。

電子契約における締結日

契約の締結とは、契約の内容について当事者全員が合意することをいいます。合意に基づいて、契約書を結んだ日が契約締結日です。特段の定めがない場合、契約の法的効力が発生する「効力発生日」と同じになります。

契約書に、効力発生日を別に定めることも可能です。契約締結前に始まった取引に対して、後付けで契約を結ぶ「遡及適用」を行う場合などに使われます。

締結日は記載しなければならないか

効力発生日を別に定めていない場合、契約締結日は契約の起点となる重要な日付です。契約開始時期を巡って訴訟になった際などにも、重要な役割を果たします。後々のトラブルを防ぐためにも、契約書には締結日の記載を忘れないようにしましょう。

電子契約の締結日の決め方

電子契約の場合、書面のように当事者全員が集まって署名捺印を行う必要はありません。どの時点をもって契約締結とするか、当事者間で決められます。

主な決め方は5通りあり、以下でそれぞれの方法を説明します。どの方法を選ぶ場合でも、双方で事前に合意しておくことが必要です。

電子契約書に記載した日付

契約書に記載されることのある日付には、契約締結日のほかに、契約開始日があります。契約開始日は、契約書に定めた内容が有効になる日付のことです。

契約の効力を発効させたいタイミングを契約締結日とそろえるケースが、実務上はよくあります。10月1日に開始する取引について、10月1日を契約締結日とするやり方です。

契約書の条項に「契約締結日を契約開始日とする」旨を盛り込む場合もあります。

タイムスタンプの日付

電子契約では、タイムスタンプが発行されるのが一般的です。電子契約システムは通常、電子署名が行われたタイミングで、自動的にタイムスタンプを付与します。時刻の記録は秒単位です。

タイムスタンプは第三者機関から発行され、「契約書の存在」と「改ざんされていないこと」の証明をする機能があります。人為的に動かせないタイムスタンプの日付を締結日とするのも、一つの方法です。

最初にした電子署名の日付(複数人の場合)

契約当事者が複数いるケースでは、最初の1人が電子署名した日を締結日とすることがあります。この方法を採用する場合、後から署名する側にとっては、内容に同意する前に契約が結ばれていることになります。トラブルを引き起こす恐れもあるため、この方式を採用することを事前に合意しておくことが大切です。

最後にした電子署名の日付(複数人の場合)

前項とは逆に、最後の1人が電子署名した日を契約締結日とすることもあります。書面の契約では一般的なパターンであり、電子契約でもよく用いられます。

書面の契約書では、締結日の欄を空白にしておき、最後に日付を記入することも少なくありません。書面の場合は、署名者が日付を誤記入したり、改ざんしたりする可能性があるため、注意が必要です。

合意形成のあった日付

内容についての実質的な合意形成がなされた日を締結日とするケースは、書面でも電子契約でも、多くあります。使われる日付は「内容への合意がなされた会議が開かれた日」や「合意する旨の連絡を行った日」などです。

電子契約の締結日とタイムスタンプとのズレは問題ないのか?

前述したように、電子契約では一般的にタイムスタンプが発行され、その役割は以下の2点です。

  • その時点以前に電子データとして契約書が存在していたことの証明
  • その時点以後に電子データが改ざんされていないことの証明

タイムスタンプは自動的に発行されるため、契約締結日とタイムスタンプの日付が異なってしまうことも少なくありません。

契約締結日を10月1日とすることで当事者双方が合意していても、社内手続きなどの関係で電子署名が1日遅れてしまい、タイムスタンプの日付が10月2日になったとします。この場合は、実務上やむを得ず発生した日付のズレであることが明らかです。書面でのやり取りでも頻繁に起こることであり、不正などに問われることはありません。

タイムスタンプはいつ記録される?

タイムスタンプは、契約当事者が最後に電子署名したタイミングで記録されるものです。その時点を契約締結日と定めていれば、タイムスタンプの日付と契約締結日は同じにできます。

「最初にした電子署名の日付」や「合意形成のあった日付」などを契約締結日としている場合には、契約締結日とタイムスタンプの日付が異なってしまいますが、これはシステム上避けられません。

議論になる「バックデート」とは?

契約が実際に結ばれた日より過去の日付を契約締結日とすることを「バックデート」と呼びます。バックデートが問題にならないケースと問題になるケースに分けて次の項で解説します。

バックデートが問題ないケース

この項では、バックデートが不正とみなされないケースを解説します。

意図しないバックデート

電子契約のタイムスタンプと契約締結日が異なる事例で説明したように、バックデートが意図せずに発生したものであれば、不正とはみなされません。

実務においては、契約締結日と契約書に署名捺印などをした日は異なることがしばしばあります。書面の契約書では、郵送でのやり取りや稟議などに時間を要し、署名日と契約締結日がズレてしまうことが少なくありません。

電子契約ではタイムスタンプの日付が自動的に記録されるため、契約締結日との差異が生じてしまいます。実務上やむを得ないと考えられるものは、不正にはあたりません。

バックデートが問題となるケース

では、バックデートが問題になるケースとはどのようなものでしょうか。以下で、事例ごとに解説します。

事実に反するバックデート

日付の捏造など、事実に反するバックデートを行った場合は、不正とみなされます。本来は次の決算期の売上とすべきものを今期に計上するため、意図的に契約締結日を実際の合意形成より前の(今期中の)日付とするなどが典型例です。

うるう年ではない年の2月29日など暦にない日付を記載してしまうと、事実に反するバックデートとみなされかねません。月末を契約締結日にするつもりの間違いである可能性もありますが、契約書の信憑性を損なうこととなります。

月末が30日の「小の月」であるのに、「31日」と記載してしまうケアレスミスにも注意が必要です。

契約書作成から調印までが長すぎる

契約書の作成から電子署名するまでの期間が長すぎる場合も、バックデートが不正とみなされる懸念があります。合意形成から電子署名までの期間が数ヶ月も離れているようなケースでは、契約の内容を書き替えたのではないかと疑いを持たれかねません。

契約の相手方との信頼関係にも影響しかねず、訴訟などに発展する可能性もあります。契約においてはタイムラグをなるべく短くすることが重要です。

代表者交代後に新代表者名義でのバックデート

企業の代表者が交代した後のバックデートは、問題となる可能性があります。6月24日の株主総会と、その後の取締役会で代表取締役が交代した場合で考えてみましょう。契約への合意が6月18日にあり、契約締結日を6月30日にしたとすると、合意のタイミングと締結日で代表者の名義が異なることになります。

この場合、6月24日の取締役会後に、代表者の名義が変わっています。6月18日時点では、新代表者となった人には権限はなく、契約書の真正性に疑問が持たれかねません。

不正なバックデートは罪に問われることも

不正なバックデートは契約の相手方との法的紛争に発展する危険性があるだけでなく、刑法の私文書偽造罪に問われる恐れがあります。押印や署名のない電子契約でも、データを改ざんしたり不正に作ったりした場合には、電磁的記録不正作出罪にあたる可能性があります。

電磁的記録不正作出罪の法定刑は、私文書の場合は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

参考:刑法

電子契約の締結日を後付けで変更する方法

実務上、契約を締結する前に取引が始まってしまうようなケースは、しばしば発生します。電子契約の締結日を後付けで変更すると、問題のあるバックデートとみなされかねません。不正なバックデートとみなされるのを回避するには、契約書で効力発生日を変更する方法があります。

過去の日付から効力を発生できるよう変更するもので、「遡及適用」と呼ばれます。遡及適用するためには、契約書にその旨を記載したほうが安全です。契約書の記載例は以下のとおりです。

  • 本契約は〇〇年〇月〇日に遡って適用する
  • 契約締結日にかかわらず、〇〇年〇月〇日から効力を有するものとする
  • 本契約の有効期間は契約締結日にかかわらず〇〇年〇月〇日より1年間とする

電子契約の締結日に関する注意点

電子契約には、書面での契約とは異なる注意点があります。この項では、電子契約に特有の注意点について説明します。

タイムスタンプには有効期限がある

電子契約が書面の契約書と異なるのは、タイムスタンプの存在です。タイムスタンプには有効期限があるため、長期間の契約を結ぶ際は注意が必要です。

電子契約で使用されるタイムスタンプの有効期限は最長10年間で、それを過ぎるとタイムスタンプは失効してしまいます。契約期間が10年を超える場合は、有効期限が切れる前にタイムスタンプの更新が必要です。

電子署名の有効期限が切れてしまうと、真正性の証明ができず裁判の証拠にならないなどの悪影響も考えられます。

契約の撤回・解除方法を定める

書面の契約書を締結した場合、契約が解除されたら契約書原本の返却を定めることがあります。電子契約では原本がないため、契約の撤回や解除があった際の対応を決めておく必要があります。

契約の当事者間で撤回や解除の方法を協議し、合意内容を契約書内に明示しておくことが、後のトラブルを防止するうえで重要です。

契約締結日を明記する

電子契約にはタイムスタンプがあり、契約に合意が成立した日付とは異なる場合もあります。契約締結日に関して疑義が生じないよう、契約書に契約締結日を明記しておくとよいでしょう。

電子契約の締結を効率化する電子契約システムとは?

電子契約の締結を効率よく行うには、電子契約システムの導入がおすすめです。電子契約はシステム上で手続きが完了するため、書面の契約書をやり取りする手間や時間がかかりません。紙の保管もないため、オフィスのスペース効率も向上します。

電子契約ではタイムスタンプが発行されることにより、契約の存在と改ざんされていないことの証明が可能です。契約書データを紛失してしまったような場合でも、バックアップを取っていれば迅速に復旧できます。

「マネーフォワード クラウド契約」は、契約書の作成から締結、保管までワンストップで対応するシステムです。電子契約だけでなく、書面の契約書もあわせて管理できます。他社の電子契約システムから契約締結時にデータを自動で取り込むことでき、業務効率の向上に役立つでしょう。

意図しないバックデートは問題なし

電子契約では、契約内容に当事者双方が合意した日と、自動発行されるタイムスタンプは一致しないこともしばしばあります。実務上やむを得ずにそうなった場合は問題ありません。意図的に日付の捏造などをした場合は、罪に問われる可能性があります。

近年広がりを見せている電子契約は、業務の効率化、コスト削減、改ざん防止など多くのメリットを持ちます。生産性の向上で働きやすい職場づくりにも資する、電子契約システムの導入を検討してはいかがでしょうか。


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