- 作成日 : 2024年12月3日
契約書は後から作成できる?遡及適用の文例やバックデートとの違いについて解説
契約書は「後から作ったから無効!」ということはありません。ただし締結時点で契約書を作成できていないとトラブルになるリスクが高くなりますので、できるだけ事後的な対応は避けた方がよいでしょう。
当記事では作成時期や効力発生日、バックデートのリスクなどを解説していきます。ここで契約に関する基礎知識を身に付けておきましょう。
目次
契約書は後から作成できる?
契約締結日と契約開始日(効力発生日)を過去の日付にすることで、契約書を後から作成したい場合にも対応できます。
契約書は後々のトラブルを避けるために作成されるので、理想は締結と同時に作成されるべきですが、その時点でできていないケースもあります。明示的に契約を締結する前から取引を始めている場合や、過去の一定期間に遡って適用させたい場合など、後から作成することもあるでしょう。
契約締結日と契約開始日(効力発生日)の違い
契約書の作成については、「契約締結日」と「契約開始日」という2つの日付が関与します。
契約締結日とは、当事者間で協議した内容が合意に至って、契約として成立した日を指します。
つまり、互いが「この内容で異論はありません」「同意します」と合意に至った瞬間の日付を意味します。一般的には署名・捺印をした日を指すことが多いのですが、必ずしもそうとは限りません。例えば口頭でのやり取りやメールのやり取りなどによって合意が成立した場合は、その時点が締結日となります。
一方の契約開始日は、その効力が発生する日を指します。
つまり、約束した内容に基づいた権利義務が発生し始める日であり、その日から実際に適用されることとなります。
これら2つの日付が一致するケースは多いものの、必ずしも一致する必要はありません。
効力発生日を契約締結日より過去の日付に設定する(遡及適用)
契約を交わす際、通常は締結日以降に効力が発生しますが、締結日よりも前に遡って効力を発生させることも可能です。これを「遡及適用」といいます。
利用するケース
遡及適用は、以下のようなケースで利用されます。
- 契約前に取引が開始されているケース
- 口約束で取引を開始した後、改めて契約書を作成する場合など。
- 例)10月1日から口頭で賃貸借契約を締結し入居を開始。10月10日に契約書を作成し、契約開始日を10月1日とする。
- 過去の一定期間に遡ってルールを適用させるケース
- 過去の取引にも一定のルールを適用させたい場合など。
- 例)業務委託契約を締結し、締結日からではなく、過去3カ月分の作業についても報酬の支払いを求める。
- 秘密保持契約を情報公開後に交わすケース
- 情報公開の前に秘密保持契約を締結し忘れた場合など。
- 例)取引先へ企画書を送付した後、秘密保持契約を締結し、企画書送付日からの秘密保持義務を課す。
契約書に記載する文例
遡及効を適用する旨を記載する時は、「契約全体に遡及効を適用する場合」と「一部の条項についてのみ遡及効を適用する場合」で、文言を使い分けることになります。
なお、いずれの場合においても当事者間の合意が成立要件であることは大前提であり、そのうえで税務上・法律上の問題が生じないよう注意してください。また、遡及適用を行う際は明確な文言を用いるようにしましょう。もし不明な点がある場合は専門家に相談することも検討すべきです。
契約全体について遡及効を適用する場合
全体に遡及効を適用する場合、契約全体が過去のある時点から効力を有することにする必要があります。そこで次のような文例が考えられます。
- 「本契約は、20XX年XX月XX日に遡って効力を生じるものとする」
- 「本契約の効力発生日は、20XX年XX月XX日とする」
- 「甲乙は、本契約の締結日に関わらず、20XX年XX月XX日から本契約の全ての条項が適用されることに合意する」
一部の条項について遡及効を適用する場合
一部の条項についてのみ遡及効を適用する場合は、次のように特定の条項を明記する必要があります。
- 「第〇条は、20XX年XX月XX日に遡って効力を生じるものとする」
- 「本契約のうち、第〇条及び第△条については、20XX年XX月XX日に遡って適用する」
- 「甲乙は、20XX年XX月XX日から発生した全ての取引について、第〇条を適用することに合意する」
効力発生日を契約締結日より未来の日付に設定する
通常は締結日以降にその効力は生じますが、契約日よりも先(未来)の日付を効力発生日として設定することも可能です。将来の特定の時点から契約の効力を発生させたい場合は、締結日と異なる将来の効力発生日を定めます。
利用するケース
効力発生日を未来の日付に設定するケースとして、次のような例が考えられます。
- 将来開始する予定のプロジェクトに関する契約を交わすケース
- 新規事業の開始や共同研究開発など、将来のある時点からプロジェクトが開始される場合、事前に契約を締結しておき、プロジェクト開始日に効力が発生するように設定することも考えられる。
- 例)11月1日に共同研究開発契約を締結し、研究開発が実際に開始される12月1日を効力発生日とする。
- 一定の条件を満たした時に効力を生じさせるケース
- 締結時にまだ満たされていない条件があり、その条件が満たされた時点から効力を発生させたい場合に利用される。
- 例)11月1日に○○契約を締結し、△△の審査に通過する日(12月1日)を効力発生日とする。
- 契約の準備期間を設けるケース
- 契約内容を実行するための準備期間を設けたい場合に、準備期間満了日を効力発生日として設定する。
- 例)11月1日に○○契約を締結し、店舗の準備を整える期間を設け、12月1日から効力を発生させる。
- 取引開始前に契約を締結しておくケース
- 取引が始まる前に契約を交わすこともあり、その場合は未来の日付を効力発生日として定めることもある。
- 例)11月1日に業務委託契約を締結し、実際の業務開始日である11月15日を効力発生日とする。
契約書に記載する文例
効力発生日を未来の日付に設定する場合、以下のような文言を記載します。
- 「本契約は、20XX年XX月XX日から効力を生じるものとする」
- 「本契約の効力発生日は、20XX年XX月XX日とする」
- 「甲乙は、本契約の締結日に関わらず、20XX年XX月XX日より本契約の全ての条項が適用されることに合意する」
契約書のバックデートとは
「バックデート」とは、契約が成立した本当の日以前の日付を記載することをいいます。
※例)実際に契約が成立していたのが11月1日であったにも関わらず、書面上では10月1日に締結した旨を記載する。
バックデートと遡及適用の違い
「バックデート」と「遡及適用」は、どちらも過去の日付が関わってくる点で似ていますが、以下のように違いを整理することができます。
- バックデート・・・実際には後から作成した契約書に、過去の日付を記載すること。
- 遡及適用・・・契約が成立した日よりも過去の日付を効力発生日として設定すること。
遡及適用は締結日を偽るのではなく、「効力を過去にも適用させる」というアプローチをとりますが、バックデートでは「そもそも契約は過去に締結されていた」というアプローチにより過去の時点ですでに効力は生じていたということにしています。
バックデートは違法?
バックデートは当然に違法になるものではありませんが、場合によっては違法となる可能性もありますので注意が必要です。例えば以下のようなケースです。
- 脱税を目的とする(課税を免れるために、実際よりも過去の取引日を記載する)
- 詐欺を目的とする(虚偽の日付を記載することで、相手方を欺いて利益を得る)
- 粉飾決算を目的とする(売上の計上時期を調整し、対外的な業績の見え方を変える)
独立行政法人に関する事案ですが、過去には契約決裁日より過去の日付を締結日とする契約書を作成したことを理由に「不適正な会計経理を行った」と評価されたケースもあります。
参考:https://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-0189-0.htm
また、違法とならないケースであってもコンプライアンスやリスクマネジメントの観点からバックデートは避けるべきと考えられています。
特に上記のような悪質な目的に基づくバックデートだと、企業の信用が失墜し、一般消費者・他社との取引に悪影響が及ぶ危険性があります。
契約書を作成しないまま作業を開始した場合、契約は成立する?
契約書の作成・合意が後回しになり、口約束だけで作業に着手してしまうケースもあります。このような場合でも、法律上、契約は成立しています(保証契約など一部を除く)。
原則として契約書がなくても、契約自体は成立する
契約は、当事者間の合意があれば成立します。合意の内容が口頭によるものであっても、メールのやり取りによるものであっても、法的拘束力を持つ契約は成立しています。このことは民法の条文からも確認できます。
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
この条文は2020年施行の改正民法で新設されたもので、第2項では「書面の作成…」と契約書が必須ではないことが明確に示されています。
そのため、書面を作成しないまま作業を開始した場合でも、当事者間で作業内容や報酬、納期などについて合意があれば、契約は成立していると判断される可能性が高いのです。
ただし、口約束だけで作業を開始した場合、後々トラブルが発生するリスクが高まります。
例えば、「作業内容や報酬について認識のずれ」「納期や成果物に関する認識違い」による争い、「責任の所在が不明確でトラブルが発生時の対応が難しくなる」などの問題が起こり得ます。
契約書を作成する重要性
上記のようなトラブルを避けるためにも、契約業務はとても重要なプロセスと捉え、着実に作成をしておくべきといえます。
契約書を作成しておけば当事者間の合意内容を明確化でき、認識のずれを防ぐことができます。また、責任の所在も明瞭にすることができ、紛争の予防や紛争が起こったとしても解決しやすくなります。
契約書は、どのような約束が交わされたのかを客観的に示す重要な資料としても機能しますので、訴訟が提起されたとしても裁判所にこれを提出すればどちらの主張する内容が正当なのかを判断してもらいやすくなります。
契約書のひな形・テンプレート
契約書に記載する事項・記載方法などは基本的に自由ですが、作成の意義を考えれば当事者の表示など一定の事項については記載をしておかないといけません。その他契約の種類別に記載しておきたい事項などがありますので、作成時はひな形・テンプレートを活用するとよいでしょう。
こちらのページから各種契約書のテンプレートがダウンロードできるため、これから作成に取り掛かるという場合にご利用ください。
日付(契約締結日・効力発生日)にも留意して契約書を作成しよう
契約書はビジネスを行ううえでとても重要なものです。トラブルにならないよう、当事者の表示、取引金額の記載、権利義務の記載など、契約内容に即した情報を的確に取りまとめる必要があります。
そしてこの時、契約締結日や契約開始日(効力発生日)の違いにも着目することが大切です。またいつから効力を適用させるのかという点についても検討しましょう。特に遡及適用やバックデートについては注意が必要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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