• 作成日 : 2024年9月26日

転質契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説

転質とは、質権者が質物をほかの人に担保として預けることです。転質契約書を取り交わす具体例として、質権者自身が第三者からお金を借りるケースが挙げられます。

転質契約書に盛り込む主な条項・項目は、転質権の設定合意や質物の処分などです。本記事では、流質・承諾転質・責任転質の概要や転質契約書作成時のポイントについても解説します。

転質とは

転質(てんしち、てんじち)とは、質権者が債権の担保として受け取った物を、さらにほかの人に預け入れることです。

質権者が転質する主な目的として、資金調達が挙げられます。質権設定者に対してお金を貸している質権者自身もお金が必要になった際に、質物を預けることで借り入れすることがあるでしょう。

民法では、権利が存続している期間であれば質権者が自己責任で転質できることが定められています(民法第348条)。ただし、転質によって損失が生じた場合は、不可抗力であっても転質した質権者が責任を負わなければなりません。

ここから、流質と転質や、承諾転質と責任転質の違いについて解説します。

参考:民法第三百四十八条|e-Gov 法令検索

承諾転質と責任転質の違い

債務者などの質権設定者の承諾があるかないかが、承諾転質と責任転質の主な違いです。

承諾転質では、質権設定者の同意を得たうえで質権者が転質します。一方、責任転質は質権設定者に無断で質権者が転質することです。

すでに述べたとおり、民法第348条には質権設定者の承諾がなくても質権者が自己の責任で転質できることが規定されています。ただし、責任転質する場合は、転質しなければ生じなかった損害に対して責任を負わなければなりません。たとえ不可抗力であっても、転質した質権者が損害に対して責任を負います。

流質と転質

流質(りゅうしち)と転質を混同しないようにしましょう。

流質とは、弁済期を過ぎても債務者が返済せず、債務不履行をおこした場合に、質権者に質物の所有権を取得・処分させることによって弁済することです。民法第349条では、弁済期前に質権設定者と質権者で流質契約を結ぶことを禁じています。なぜなら、質権者が資金を必要とする質権設定者の足元を見て、債務額よりも価値のある物に対して質権を設定する可能性があるためです。

なお、商法第515条(商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権)や質屋営業法のように、例外的に流質契約の締結を認めている法律もあります。

参考:民法第三百四十九条|e-Gov 法令検索
参考:商法第五百十五条|e-Gov 法令検索

転質契約書を作成するケース

質屋や宝石・貴金属等取扱事業者など、債務者に質権を設定してもらうことがある業者や、質権を設定してもらうことを条件として取引先にお金を貸している事業者は、転質契約書を作成する可能性があります。たとえば、Bに対してお金を貸す代わりに腕時計を質物として預かっているAが、資金繰りに困った際に転質でCからお金を調達する場合に、転質契約書を作成することがあるでしょう。

転質契約書を作成して転質契約を締結するのは、トラブルの発生を防ぐためです。転質契約書では、転質権を設定していることや物品の名前や型番などをはっきりさせます。

また、双方の曖昧な認識によりB(第三債務者)の質物に損害が生じることを防ぐためにも、転質契約書を作成しておくことが重要です。

転質契約書のひな形

転質契約書のひな形は、以下のページから無料でダウンロードできます。

最初から作成するよりも楽に作成できるので、ぜひお気軽にご活用ください。

転質契約書に記載すべき内容

転質契約書には、まず債権者(甲)・債務者(乙)の名前と転質契約を締結することを記載します。その次に、記載すべき内容は、主に以下のとおりです。

  • 被担保債務
  • 転質権の設定合意
  • 善管注意義務
  • 期限の利益の喪失
  • 質物の処分・受戻権

それぞれ詳しく解説します。

被担保債務

被担保債務とは、債務者が債権者に対して負担する債務のうち、質権などの担保権で担保されている金額のことです。転質契約書の「被担保債務」には、債務者が負担する元本・利息・遅延損害金・弁済期を記載します。

債権者・債務者で締結した金銭消費貸借契約を参考に、金額や弁済期などを記載しましょう。転質契約書内には、対象の金銭消費貸借契約の日付も盛り込みます。

転質権の設定合意

「転質権の設定合意」には、債務者が質物に転質権を設定したうえで質物を引き渡すことを盛り込みます。また、転質可能な質物の物品名や型番を特定することもポイントです。

さらに、債務者がもともと誰に対して有する質権なのかを記載します。「乙は、甲に対し、本債務を担保するため、乙が第三債務者〇〇に対して有する原質権の対象である以下の物(以下「質物」という。)に転質権を設定し、質物を引き渡す」などとするとよいでしょう。

善管注意義務

善管注意義務とは、占有者(今回のケースでは債権者)が転質の対象物を引き渡すまでに、管理者として一般的・客観的に要求される程度の注意を払わなければならない義務のことです。転質契約書の「善管注意義務」には、債権者が「善良なる管理者の注意をもって質物を保管する」ことなどを定めます。

また、さらに転質されることを防ぐため、債権者が債務者の事前承諾なしに使用・賃貸・担保に出してはならないことも盛り込むとよいでしょう。

期限の利益の喪失

期限の利益とは、期限が到来するまでは、債務者が返済しなくてもよいという権利です。ただし、期限の利益を喪失する事項に該当すると、債務者は全額まとめて返済しなければなりません。

転質契約書の「期限の利益の喪失」には、監督官庁より営業の許可取り消しや停止処分を受けた場合、第三者から差し押さえの処分を受けた場合など、期限の利益喪失に該当する具体的なケースを記載します。

質物の処分・受戻権

「質物の処分」には、債務者が期限の利益を喪失した場合に、債権者が通知なしに質物を任意に売却して弁済に充てられることを盛り込みます。また、売却しても債務額に満たない場合は債権者が債務者に支払いを請求できること、その反対に売却後残余がある場合は債権者が債務者に残余額を返還することを記載することもポイントです。

「受戻権」には、債務者が期限の利益を喪失しても、債権者が売却するまでは弁済により質物を受け戻せることを記載します。

そのほか

そのほかにも、契約の一方が他方に損害を与えた場合に賠償すること(「損害賠償」)や訴訟の必要が生じた際に第一審の専属的合意管轄裁判所とする場所(「合意管轄」)を記載します。また、契約に関して疑義が生じた場合や定めのない事由が生じた場合に、信義誠実の原則に従って協議すること(「協議」)も記載しましょう。

なお、転質契約書の最後には、契約日や双方の署名捺印(もしくは記名押印)も必要です。

転質契約書を作成する際の注意点

転質契約書を作成するにあたって、必要事項を漏らさないようにしましょう。善管注意義務や質物の処分などの記載を失念すると、後にトラブルにつながる可能性があります。

相手が契約書を作成した場合は、自分にとって不利益な項目がないか確認することも必要です。また、債務者はあとから慌てることのないように、どのような場合に「期限の利益の喪失」に該当するかも確認しておきましょう。

さらに、双方で認識のずれが生じることを防ぐのも重要です。口頭で同意していることでも、のちに「言った」「言わない」で揉めないよう、極力転質契約書内に落とし込むことを心がけましょう。

そのほか、転質の対象となる質物の概要が正しく記載されているかを確認しておくことも大切です。

質権者が資金調達で転質契約を結ぶことがある

質権者自身の資金繰りが悪化し、第三者から資金調達する際に転質契約を締結することがあります。転質契約書に盛り込む項目は、転質権の設定合意や善管注意義務、質物の処分などです。

転質契約書を作成する際は、必要事項を漏らさないようにしましょう。また、債務者は期限の利益喪失にあたる事項が何かを確認することが大切です。


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