• 作成日 : 2024年1月26日

譲渡禁止条項とは?具体的な書き方やレビュー時の注意点を紹介

譲渡禁止条項とは?具体的な書き方やレビュー時の注意点を紹介

譲渡禁止条項とは「権利や義務を他人に譲り渡すこと」について禁止する、契約上の条項のことです。契約締結後、予想外のトラブルが起こることを防ぐ手段の1つとして、譲渡禁止条項を定めることがあります。契約書にはどのように書くのか、あるいはどのようにレビューすべきかをここで紹介します。

譲渡禁止条項とは

譲渡禁止条項は、契約上の地位そのものや、契約の締結から生じる権利義務を第三者に譲渡する行為を禁止するための条項です。

例えばお金の貸し借りについての契約を交わして金銭を交付した場合、債権者が債務者に「お金を返して」と主張する権利と、債務者が債権者にお金を返す義務が残っています。

この場面において債権の譲渡がなされると、元々の債権者とは違う人物(債権の譲受人)が権利の主張をできることとなります。債務者目線ではお金を返す相手方が変わることとなります。
逆に債務の譲渡がなされたとすれば、お金を返すべき人物が変更されます。債権者は別の人物(債務の譲受人)に権利の主張をすることになり、元々の債務者はお金を返す義務の履行をする必要がなくなります。

権利や義務の譲渡があるとこのような変化が起こるのですが、これをしないという約束を「譲渡禁止条項」として取り交わすのです。

譲渡禁止条項を設定する目的

権利を行使する相手方や、義務を履行する相手方が勝手に変わってしまうと、当事者が予期していなかったトラブルが起こる可能性があります。このトラブルを防ぐために譲渡禁止条項は設定されます。

特に問題となるのは義務の譲渡がなされてしまうケースです。債務者が変更されてしまいますので、債権者は当初の契約相手とは異なる人物に請求をしないといけません。このとき義務を引き受けた人物に十分な資力がなければ、債権者は満足に債権回収を行えなくなってしまいます。

債権が譲渡されたときにもトラブルは起こり得ます。「当初の債権者に対してすでに義務は果たした」と主張する債務者に対して、「債権を譲り受けた私に対して義務を履行してください」と新たな債権者が主張してくるなど、意見の食い違いが起こることがあります。
また、債権の二重譲渡がされてしまって複数の人物から債務者が請求を受けるといった事態に陥るリスクもあります。

こういった権利や義務の譲渡については民法でもルールが設けられており、契約書に定めるまでもなく一定の行為については規制されています。しかし契約書上にこれを禁ずる旨を明記しておくことで、契約当事者間で認識を共有し、トラブルの防止が期待できます。

そこで譲渡禁止条項が定められている契約書も多いです。ただし、常に譲渡は禁止すべきとはいえませんので、契約内容に合わせて記載の有無や規制内容を検討することが大事です。

譲渡禁止条項の具体的な書き方

譲渡禁止条項は、よく次のような形で書かれます。

「甲および乙は、本契約から生じた契約上の地位を移転すること、又は本契約から生じた権利義務の全部もしくは一部の第三者への譲渡、もしくは担保に供してはならない。ただし、事前に相手方の書面による承諾があるときはその限りではない。」

譲渡禁止条項において禁止対象となる行為は主に①債権の譲渡と担保②債務の譲渡③契約上の地位の移転、の3つです。

権利の譲渡と担保(債権譲渡)を制限する

権利の譲渡や担保に供することを防ぐ、つまり債権譲渡の制限をかけるには、“権利の譲渡”や“担保に供すること”を条文で明示したうえで、これをしてはいけない旨を記載します。

なお、民法上のルールとしては原則「債権の譲渡は可能」です。そして「債権の譲渡について禁止をしても、譲渡を妨げることはできない」とも定められています。

(債権の譲渡性)
第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。

引用:e-Gov法令検索 民法第466条第1項・第2項・第3項

ただし、同条第3項に規定されているように、債権を譲り受ける者が譲渡禁止条項について知っていれば(※)、債務者は債権譲渡がなかったものとして処理することができます。

※債権を譲り受けた者が容易に譲渡禁止条項について知ることができたはずであるのに、不注意でこれを知らなかった場合も同様。

厳密にはこの場合においても債権譲渡が無効になるわけではありません。しかし債務者は譲受人からの請求を拒むことができ、元の債権者に対して義務を履行すれば債務を消滅させられます。

そのため債権譲渡を禁止したいときはその旨を契約書に記載しておく必要性が高いといえます。

義務の譲渡(債務引受)を制限する

義務を譲渡する行為は「債務引受」とも表現されます。この債務引受に制限をかけるには、“義務の譲渡”を条文上で明示したうえで、これをしてはいけない旨を記載します。

なお、債務引受に関しては契約書に記載するまでもなく、債務者が勝手に行うことは民法上認められていません。

債務引受には、債務者と新たに連帯責任を負う債務者が登場する「併存的債務引受」と、元々の債務者が免責されて新たな債務者だけが債務を引き受ける「免責的債務引受」があるのですが、いずれにしても債務引受を有効に実行するには債権者の承諾が必要です。

そこで債務引受について契約書にわざわざ定める必要性が高いとはいえませんが、それでも契約当事者が民法のルールを網羅しているとは限らないため、あえて明示しておくことには一定の意味があるとも考えられます。

契約上の地位の移転を制限する

「契約上の地位の移転」でも結局は権利や義務が譲渡されるため、債権譲渡や債務引受を制限すれば実質的に「契約上の地位の移転」に制限をかけたことになります。

そして民法上も次のようにルールが設けられています。

第五百三十九条の二 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。

引用:e-Gov法令検索 民法539条の2

当事者の一方と第三者だけで移転させることはできず、他方当事者の承諾も移転には必要です。そこで別途契約書に条項を設けなくても制限はすでにかかっています。

ただ、やはりわかりやすくルールを共有する意味でも、禁止事項として“本契約から生じた契約上の地位を移転すること”などと列挙しておくとよいでしょう。

譲渡禁止条項をレビューする際の注意点

自社が契約書を作成するのではなく、相手方が契約書を作成してこれを受け取るケースもあります。この場合は自社が不利な条件が記載されていないか、注意深くレビューする必要があります。

まずは「譲渡禁止条項の必要性」を考えましょう。契約上の地位の移転や債務引受については民法によってすでに規制がかかっていますので、特に着目すべきは債権譲渡についてです。

上述の通り債権については譲渡を禁止しても有効に譲り渡すことが可能です。しかしながら第三者がその事実を知っている場合などには譲渡から生じるリスクを回避できるため、債務者の立場としてはこれを設けておいた方が安心です。
二重払いを避けられますし、支払い先が変更されることによる事務作業の発生、譲受人に対する反社チェックの負担なども避けられます。

もう1つ「承諾の方法」についてもチェックしておきましょう。

一般的には書面による事前承諾を譲渡の要件とすることが多いです。法律上は単に“承諾”とだけ定められており、その方法まで細かく指定はされていません。そこで口頭であっても法的には有効であるところ、口頭だと「承諾を得た」「承諾はしていない」の押し問答が発生する危険があるのです。
そのため、できるだけ揉めごとを回避するためにも承諾の有無が形として残る方法を指定するようにしましょう。

民法改正が譲渡禁止条項に及ぼす影響

譲渡禁止条項に関わるルールを定めた民法は、近年改正法が施行されています。

変更後のルールについては上述した通りで、原則として債権譲渡が有効であることや、債務引受や契約上の地位の移転をするには契約の相手方の承諾が必要であることなどが明記されています。

民法改正による影響を受けているのは、このうち債権譲渡についてです。
譲渡を制限する条項があっても譲渡自体を無効にすることはできません。譲渡禁止条項を設けたことを知った第三者が譲り受けたときでも、債務者はその無効を主張することはできません。請求を拒むことができるに過ぎません。

債務引受や契約上の地位の移転については民法改正によってルールが明文化されましたが、それ以前から同様のルールに基づく法令上の運用がなされていたため、実質的な変化はありません。

譲渡禁止条項を設定するときは「債権譲渡」を意識しよう

譲渡禁止条項は「契約から生じる権利義務を第三者に譲渡しないでください」と約束するために設定するものです。しかしながら、民法ではこれを禁止しても債権の譲渡は有効であると定められていますし、義務についてはそもそも勝手に移転することが認められていません。

そこで譲渡禁止条項の存在意義は主に「権利の譲渡をしてほしくないことや義務の譲渡は認められていないことの確認」にあるといえます。

ただ、債権の譲渡については禁止の特約があることで、一定の場合に債務者が救済を受けられます。民法上、二重払い等のリスク回避につながる効力が生じるため、譲渡禁止条項の設定においては特に債権譲渡へ意識を向けるとよいでしょう。


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