- 作成日 : 2025年1月31日
損害賠償とは?種類や慰謝料との違い、金額の決め方などを簡単に解説
損害賠償は人に損害を与えた場合に、その発生した損害を金銭的に評価し、その損害価格を弁償する制度であり、大きく不法行為に基づくものと債務不履行に基づくものに分けられます。
債務不履行では通常生ずべき損害の賠償が必要であり、不法行為では因果関係のある人的・物的損害の賠償をしなければなりません。
本記事では、損害賠償の意味や種類、請求金額の決め方などを解説します。
目次
損害賠償とは
損害賠償とは、不法行為や債務不履行などによって他人に損害を与えた場合に、損害を賠償させる制度です。
たとえば、他人に所有物を壊された場合、被害を受けた所有者は、壊されたものの弁償を請求できます。
損害賠償は、損失補償や慰謝料とは異なります。違いをみてみましょう。
損害賠償と損失補償の違い
損失補償とは、適法な行政活動や公共事業の際に発生する財産上の損失を補償する法制度です。
発生した損害を補償するという点で損害賠償と同じですが、両者は原因となった行為が違法ないしは債務不履行が原因かどうかという点が異なります。
損害賠償は違法行為ないしは債務不履行を前提にした賠償責任であるのに対し、損失補償は適法な行為によって生じた損失であっても補償することを指します。
また、損害賠償は私人でも公権力・私人の間の法律関係にも発生するのに対し、損失補償は基本的には公権力と私人間の法律関係で用いられます。
損害賠償と慰謝料の違い
損害賠償と慰謝料は別々に存在するものではなく、慰謝料は損害賠償金に含まれる項目です。
損害賠償は、加害者に対して請求できる賠償金の総額を指し、慰謝料はその中で、被害者が受けた肉体的・精神的苦痛を慰謝するために支払われるお金を指します。
そのため、損害を受けた被害者は、経済的な損失に加えて、肉体的・精神的に受けた損害に対する慰謝料も損害賠償の内容として請求が可能です。
民法における損害賠償の種類
民法上の損害賠償は、大きく分けて債務不履行によるものと不法行為によるものの2種類があります。
ここでは、損害賠償の種類を解説します。
債務不履行による損害賠償
債務不履行に基づく損害賠償とは、契約等に基づく債務を履行しなかったことにより生じた損害を賠償することです。
債務の存在と債務不履行の事実がある場合、債権者は債務者に対し、債務不履行によって受けた損害の賠償を請求できます。ただし、債務不履行が債務者の責めに帰すべき事由によらない場合には債務者は責任を免れ、賠償責任を負いません。
たとえば、X社がY社から商品を仕入れる契約をしたが、Y社が一方的にキャンセルを受けたためにX社に損害が出た場合、キャンセルがやむを得ない事由でない限り、X社はY社に対して損害賠償請求ができます。
不法行為による損害賠償
不法行為による損害賠償とは、故意または過失によって他人の権利や利益を侵害した加害者が、被害者側に対してその損害を賠償することです。
被害者は不法行為によって生じた経済的・精神的な損害を請求できます。
たとえば、車を運転していて、不注意により歩行者に接触して怪我をさせた場合、被害者は治療費や、後遺症に対する慰謝料などを請求できます。
債務不履行による損害賠償は契約関係にある当事者間に発生するのに対し、不法行為は契約関係にかかわらず発生するものです。契約関係にある当事者間では、債務不履行のほか、不法行為による損害賠償が発生する場合もあります。
損害賠償の請求金額の決め方
損害賠償の請求金額を決める方法は、債務不履行と不法行為で異なります。
それぞれの決め方をみていきましょう。
債務不履行の場合
債務不履行による損害賠償の対象となるのは、原則として、債務不履行により通常生ずべき損害(民法416条1項)に限ります。ただし、特別の事情により生じた損害であっても、債務者がその事情を予見すべきであった場合は、損害賠償の対象に含まれます。
そのため、債務不履行の場合、次の2点が損害賠償の範囲です。
- 債務不履行により通常生ずべき損害
- 予見すべき特別の事情によって生じた損害
また、債務不履行やそれによる損害の発生、あるいは拡大について債権者側にも過失があったときは、損害賠償の額と過失相殺される可能性があります。
不法行為の場合
不法行為の損害賠償は、当該不法行為によって生じた損害を財産的に評価して、その損害額の積み上げることによって計算します。
人的損害の損害賠償額には、入院費や投薬料など治療関係費、休業損害、逸失利益、葬儀費、慰謝料などがあげられます
物的損害の損害賠償額は、車両や家屋の修理費など、被害を受けた物に生じた損害が計算の対象です。
これらの金額に過失相殺と損益相殺を行い、加害者や加害者の保険会社から支払われている既払金を精算し、弁護士に依頼した場合には弁護士費用も加えて算出します。
実際の支払い金額は、当事者間の話合いによる示談で決定されることが多いでしょう。
参考:e-GOV法令検索 民法
損害賠償請求されても払えない場合
自分に責任のある損害賠償請求は支払いを免れることはできず、支払いをしないと裁判を起こされる可能性があります。
裁判を無視すると相手側の主張がすべて認められてしまうため、裁判の中でしっかりと対応しなければなりません。裁判になると、損害額の元金だけでなく遅延損害金についても請求される可能性があるでしょう。
損害賠償請求を支払えない場合、次のような対処法があげられます。
- 弁護士に相談する
- 分割払いを交渉する
それぞれ、詳しくみていきましょう。
弁護士に相談する
損害賠償の支払いができないときは、まず弁護士に相談してみましょう。請求された金額が妥当でない場合や相手にも過失があるケースでは、交渉により減額できる可能性があります。
当事者同士で話し合っても解決できない場合があり、弁護士が代理人として交渉することで、話し合いに応じてもらえる可能性が高いでしょう。
万が一裁判に発展した場合にも、そのままサポートしてもらえます。
分割払いを交渉する
減額が難しく、高額なために一度で支払えない場合、分割支払いの相談をしてみるのも方法のひとつです。支払いの意思を示せば、交渉に応じてもらえる可能性があります。
誠意を示しながら、すぐには支払いが難しいことを説明すれば、納得してもらえるかもしれません。
交渉が難しい場合は、弁護士に代理人となって交渉してもらうとよいでしょう。
損害賠償請求に備えるためのポイント
車の運転はもちろん、自転車の運転やスポーツなどでも、人や物に損害を与える可能性はあります。故意はなくても過失が認められれば損害賠償責任が発生し、高額な損害賠償請求をされるケースもあるでしょう。
ここでは、損害賠償請求に備えるためのポイントを紹介します。
損害賠償保険に加入する
損害賠償請求に備えるためには、損害賠償保険への加入がおすすめです。損害賠償保険とは、不法行為により法律上の損害賠償責任を負った場合、その損害を補償する保険です。
個人向け、法人向けなど、さまざまな種類の保険が提供されています。保険会社が販売しているほか、クレジットカードのサービスとして付帯されているものもあります。自治体による共済として提供されているものもあります。
保険は、故意による事故・トラブルには適用されないのが一般的です。酔って記憶をなくして起こした事故でも故意が認められ、保険が適用されないケースもあるでしょう。
契約書に損害賠償条項を記載する
債務不履行による損害賠償請求に備える場合、契約書に損害賠償条項を記載する方法があります。損害賠償条項とは、当事者に契約違反があった場合に、損害賠償のルールを定めておく契約条項です。
損害賠償責任の要件や範囲、損害賠償額の上限などを記載することで、万が一債務不履行が起きた場合、多額の損害賠償金を負うリスクを回避できます。
民法にも損害賠償の規定がありますが、特約によって変更ができると考えられています。契約書に損害賠償条項を記載することで、民法とは異なるルールを設定することが可能です。
損害賠償を請求される場面を理解しておこう
損害賠償は主に不法行為と債務不履行に基づくものがあり、不法行為による賠償責任については、自動車の事故など、誰しもが負う可能性があります。過失が認められれば、高額な賠償請求を受けることもあるでしょう。
不法行為による損害賠償については、保険に加入して万が一に備えることができます。債務不履行の場合も、契約書に損害賠償条項を記載してリスクを抑えることが可能です。
損害賠償を請求される場面を想定し、万が一の場合に備えておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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