• 作成日 : 2025年2月6日

新リース会計基準が賃貸借契約や家賃に与える影響は?対応ポイントを解説

2027年4月より強制適用される新リース会計基準では、不動産の賃貸借契約が原則としてリース取引とされ、多くの企業の契約管理や会計処理に影響を与えます。リース取引と判定されれば、賃貸借契約は貸借対照表への計上(オンバランス)が必須です。

本記事では、新リース会計基準における賃貸借契約や家賃の対応ポイントを解説します。

新リース会計基準で家賃を含む不動産賃貸借契約がリースとしてみなされるように

新リース会計基準の適用開始により、不動産の賃貸借契約は、原則リース取引としてみなされます。ここでは、新リース会計基準が賃貸借契約に与える影響と適用される対象企業について解説します。

賃貸借契約はリース取引として処理が必要に

オフィスや店舗といった不動産の賃貸借契約には、2027年4月1日から開始される事業年度より、原則として新リース会計基準が強制適用されます。

すなわち、従来は経費として費用処理されていた借り手の家賃は、リース取引として新リース会計基準に則した処理が必要です。

新基準では、賃貸借契約が以下の要件を満たした場合にリース取引と識別されます。

  • 賃借を受ける資産が特定されること
  • 不動産の借り手が、特定資産の使用から生じる経済的利益のほとんど全てを受ける権利を有すること
  • 不動産の借り手が特定資産に対する指図権を有すること

仮に、契約書上に「リース」という文言が明記されていなくても、賃貸借契約がリース取引と識別される可能性がある点に注意が必要です。

新リース会計基準の適用会社

新リース会計基準は、主に上場企業とそのグループ会社、会社法上の大会社等の会計監査人設置が義務付けられている会社などに対して適用されます。

  • 上場企業など金融商品取引法の適用を受ける会社とその子会社・関連会社
  • 大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社)
  • 監査等委員会設置会社
  • 指名委員会等設置会社
  • 会計監査人の任意設置を行った会社およびその子会社

一方、新リース会計基準が適用されない企業では、「中小企業の会計に関する指針」に従ったリース取引の処理が必要です。

新リース会計基準による賃貸借契約の対応ポイント

新リース会計基準の開始にともない、賃貸借契約がリースに該当する場合、従来の費用処理ではなく「使用権資産」および「リース負債」として貸借対照表への計上(オンバランス)が求められます。

とくに多店舗展開している企業にとっては、賃貸借契約が多数存在するため、リース判定や会計方針の変更に大きな負担を強いられるでしょう。

ここでは、賃貸借契約において適切に新リース会計基準へ対応するためのポイントを解説します。

店舗の賃貸借契約の内容を全て把握する必要がある

不動産の借り手は、店舗など賃借する全ての不動産が、リース取引に該当するか否か確認しなければなりません。この手続きを「リースの識別」といい、特定された資産に対し、使用権が借り手へ移転するか否かを判定します。

リースの識別にあたっては、現存する全ての賃貸借契約を棚卸しし、内容を精査する作業が必要です。

さらに、リースに該当する賃貸借契約においては、後述する会計処理の変更に対応するために、以下の契約内容を漏れなく把握しなければなりません。

  • 契約期間(解約不能期間)
  • 更新条件
  • 解約条件
  • 付随サービス費用(原状回復費用や清掃費など)

経費処理していたオペレーティング・リースがファイナンス・リース同様の処理に変わる

新リース会計基準では、短期や少額の場合を除く全てのリース取引は「使用権資産」、および「リース負債」として貸借対照表へ計上(オンバランス)しなくてはなりません。

リース取引の借り手において、従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分は廃止され、これまでオペレーティング・リースとして費用処理されていたリース取引も、ファイナンス・リース同様にオンバランスへの変更が必要です。

リース取引と識別された賃貸借契約においても、「使用権資産」と「リース負債」を算定してオンバランスする必要があるため、新基準が規定する新たな手続きが生じます。

保守費や清掃費は従来通り費用として処理する

不動産の賃貸借契約に付随する保守費や清掃費は、使用権資産およびリース負債に含めずに、経費として費用処理(オフバランス)しなければなりません。

新基準下における賃貸借契約では、契約内容によってオンバランスとオフバランスを明確に区別して処理する必要があります。そのため、締結した賃貸借契約の内容を慎重に確認したうえで、リース取引に該当する部分と該当しない付随サービスを明確に区別しなければなりません。

リース期間を適切に設定する

リース期間の設定は、新リース会計基準において重要なポイントのひとつです。

なぜなら、従来と異なりリース期間は契約書に記載された契約期間(解約不能期間)だけでなく、延長オプションや解約オプションも考慮した、合理的に確実な期間を算出する必要があるためです。

とくに賃貸借契約の場合、契約更改回数を合理的に見積ってリース期間に含める必要があります。新基準の適用にあたり、リース期間設定の妥当性の精査が新たな検討課題となるでしょう。

新リース会計基準で賃貸借契約の一元管理が必要に

新リース会計基準は、2027年4月以降に開始される事業年度より強制適用が始まります。

とくに賃借物件を多く抱える企業では、新基準に準拠した迅速かつ正確な手続きのために、賃貸借契約の一元管理が欠かせません。その理由は以下の2つです。

正確な財務報告

賃貸借契約の確認漏れやミスなどにより、使用権資産やリース負債の計上に誤りがあれば、財務報告に大きな影響を与えるおそれがあります。

これを防ぐためには、全社レベルで契約書の取り扱いルールを統一化し、包括的に管理・保管する仕組みの構築が欠かせません。契約書を一元管理すれば、締結時点で正確かつ網羅的に情報を把握できるだけでなく、契約更新・変更時の情報も漏れなく把握できるでしょう。結果、手続きの漏れやミスを防ぎ、正確な財務報告につながります。

コスト削減

新リース会計基準に正しく対応するためには、賃貸借契約内容の正確な把握と、それにもとづく適切な手続きが求められます。賃借物件が多ければ多いほど、契約内容の確認作業や会計処理にかかる負担が大きく、多くのリソースを割かれることは間違いありません。

契約書が散在していれば、検索や確認の作業に多くの時間がかかることは容易に想像できるでしょう。システム導入や専門家のサポートを受けながら契約書の一元管理を実現すれば、検索に要する時間や契約内容の確認作業を効率化し、無駄な作業コストを削減できます。

新リース会計基準に違反するとどうなる?

新リース会計基準に違反すれば、財務諸表の信頼性が損なわれ、企業は財務的および法的なリスクに直面するおそれがあります。基準違反が発覚した場合、以下のような影響が考えられるでしょう。

監査リスクの増加監査法人から指摘を受けることで、修正や再提出を求められる場合があります。
罰金やペナルティ重大な違反が確認された場合、金融当局や税務当局から罰則を科される可能性があります。
信用の失墜財務諸表の信頼性が低下し、投資家や取引先からの信用が損なわれるリスクがあります。

これらの違反リスクを防止するためには、契約管理システムを導入したり、専門家の支援を受けたりするなど、ルール遵守のための適切な仕組みづくりが必要です。

賃貸借契約の新リース会計基準対応には早めの準備を!

従来は費用処理されていた賃貸借契約が、新リース会計基準の適用によりリース取引と識別された場合、オンバランスが強制されます。

新基準の適用後は、個々の契約条件の精査や会計処理の変更がともなうため、とくに賃借物件の家賃支払いが多い企業では、大きな負担となることは間違いありません。

新基準に適合した適切な手続きを行うためには、業務フローの見直しや効率化につながるシステムの導入、既存システムの更改を早期に進めることが必要です。たとえば、契約書を一元管理するシステムの導入や、新基準に対応した会計システムの更改が効果的といえます。

新しい法対応への準備は、早ければ早いほど業務への影響を最小限に抑えられるため、すぐにでも新リース会計基準への対応計画の策定を始めましょう。


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