- 更新日 : 2022年2月4日
廃掃法とは?改正の背景や改正後の内容について詳しく解説!
廃棄物の管理・処分方法は廃掃法で定められており、特に産業廃棄物の処分は管理票による処分管理の仕組み(マニフェスト制度)が定められていましたが、廃棄物の不適正処理事件を機に改正されました。ここでは、改正内容や改正前と改正後の違いなどについて解説します。
目次
廃掃法とは
廃掃法は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の略称で、「廃棄物処理法」と呼ばれることもあります。廃掃法は廃棄物の排出を抑制し、廃棄物を適正に処理して生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全・公衆衛生の向上を図ることを目的とする法律です(廃掃法1条)。
廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物とに分けられ(廃掃法2条2項)、廃掃法ではそれぞれについて行政が処理計画を定め、行政の許可を得た業者が適切に処分することが定められています。
廃掃法の定めに従わずに廃棄物を処理したり、廃棄物を放置したりすると、廃掃法に基づいて行政から立入検査や勧告、措置命令を受けることがあり、悪質な場合は廃掃法が定める罰則を科されます。
2017年に廃掃法改正が成立
廃掃法は昭和45年(1970年)に制定された法律ですが、ゴミ(廃棄物)の処理方法等については廃掃法制定後にたびたび社会問題となり、その都度国は廃掃法や廃掃法施行令等の廃掃法関連法規を改正することで対応してきました。
社会の発展に伴って排出される廃棄物の量が増え、その内容も多岐にわたるようになりました。社会の発展に合わせるように、また廃棄物の処理によって健康被害や環境問題が生じないようにするために廃掃法が改正されています。
平成28年(2016年)に食品廃棄物の不正転売事案が判明し、社会問題化したことへの対応が急務となりました。
そして、鉛等の有害物質を含む電子機器類で、廃棄物として最終処分されていないもの(雑品スクラップ)の保管方法がずさんなまま放置されていることが、火災や有害物質漏出の原因となっていることなどへの対策として、平成29年(2017年)に国会で改正廃掃法が成立しました。
参考:廃棄物政策の変遷及びこれまでの取組等について|平成28年5月19日第1回廃棄物処理制度専門委員会
重要なのは2020年施行の電子マニフェストの義務化
2017年に改正廃掃法が成立しましたが、改正法に基づく制度の仕組みづくり等のために準備期間を設ける必要があったことから、改正廃掃法は2018年4月1日、2020年4月1日と順を追って施行されることとなりました。
改正廃掃法において最も重要な制度として、2020年施行の「電子マニフェストの義務化」が挙げられます。改正前は産業廃棄物の収集・運搬・処分といった処理過程は、紙媒体のマニフェストによって管理されていました。
改正後は一定以上の規模の産業廃棄物を出す事業者に対して、電子マニフェストを使用することが義務化されました(廃掃法12条の5)。
電子マニフェストの使用を義務化したことで、事業者自身及び行政が産業廃棄物の処理過程を容易に把握できるようになり、廃棄物の放置等の不適切な処理を未然に防ぐことができるようになりました。
参考:
平成29年改正廃棄物処理法について|環境省
廃棄物の処理及び清掃に関する法律|e-Gov法令検索
廃掃法改正の背景
2017年の廃掃法改正の背景には、CO2削減を図る地球全体での取り組みや、廃棄物による環境汚染、健康被害等を防止するための社会全体の適切な制度づくりを目指す国の方針がありました。
このような国の方針のもと、廃掃法では廃棄物の管理については最終的に行政が指導監督し、場合によっては事業者に刑罰を科すといった廃棄物処分に関する制度が定められています。
しかし、社会の発展に伴って廃棄物の量が増え、また廃棄物の種類・内容も多岐にわたるようになったため、従前の廃掃法では対応できないケースも見られるようになりました。
法律は、このような社会情勢の変化に応じて改正されていくものです。2017年の廃掃法の改正も、社会の発展・変容に対応し、より適切な制度にするべく行われました。
廃掃法改正前の状況・課題
2017年の廃掃法改正前は、産業廃棄物は紙媒体での管理票の交付・保管によって管理されていました。事業者が産業廃棄物の処分を処理業者に委託する場合、排出事業者が廃棄物を排出・交付したことを証する管理票(A票)、運搬業者が処理業者への運搬を完了したことを証する管理票(B票)、処理業者が最終処分を完了したことを証する管理票(E票)など、各事業者が管理票を作成し、排出事業者がそれらを管理することが義務付けられています。
管理票によって産業廃棄物処理過程を把握する仕組みをマニフェスト制度といいますが、紙媒体で行うと、処理業者からの管理票の返送(回収)を排出事業者が受けたかどうか等の管理が難しく、行政側も個別の産業廃棄物の処理状況については調査をしなければわからないという課題がありました。
また、従前の廃掃法では廃棄物処理の許可を取り消された処理業者に対して、行政が指導や是正命令を行う権限がありませんでした。
そのため、廃掃法に違反する方法で廃棄物を保管・処理していた処理業者が許可を取り消され、その後、廃掃法に違反する違法状態が継続しているにもかかわらず、行政としては処理業者に対して措置を取ることができないという不都合が生じていたのです。このような課題を解消するべく、2017年に廃掃法が改正されたのです。
廃棄物の不適正処理事案の発生
2017年の廃掃法改正の契機となる廃棄物の不適正処理事案が、2016年に発生しました。食品業者が処理業者に廃棄処分を委託した冷凍カツを、処理業者が他の業者に転売し、スーパーマーケットの店頭で販売されていたことが明らかになったのです。
処理業者は食品業者や行政に対して、廃棄を委託された冷凍カツの最終処分が完了したという虚偽の報告を行っていました。この事案を機に、マニフェストの虚偽報告を防止するための仕組みづくりをはじめ、廃掃法におけるマニフェスト制度の在り方を整備するための法改正の議論が進められていくことになりました。
この事案では、処理業者が処理能力をはるかに超える量の廃棄物処理を受託していたことも明らかになり、廃棄物処理業者への行政の指導・監督の在り方も整備されるべきであるとして、法改正に向けて議論が進められました。
雑品スクラップの保管等による影響
使用済みの電気電子機器は、廃棄物として廃掃法に則って適切に処分されていれば問題ありませんが、粉砕されただけの状態など、廃棄物として最終処分されていない雑品スクラップとして放置されているという問題がありました。
雑品スクラップは解体業者や工場、一般家庭などで排出され、その多くは不用品回収業者などを通じて、雑品スクラップ業者の保管場に運び込まれます。
雑品スクラップは保管場で野積みにされることが多いのですが、その中には鉛等の有害物質が含まれているため、土壌汚染を引き起こすおそれがあります。また、燃焼物質が含まれていることもあり、ずさんな管理方法と相まって火災となるケースが散見されました。
廃掃法改正後に変わったこと
上記のような課題に対応すべく、2017年に廃掃法が改正されました。改正の主なポイントは、一定量以上の産業廃棄物を排出する事業者に対して、電子マニフェストの使用を義務化したことです。
処理業者として許可を取り消された事業者に対しても、廃棄物が未処理であれば行政が必要な措置を講じることができるとしたことによる不適正処理事案への対応の強化と、廃棄物として処分されない雑品スクラップについて、事業者に対して行政への届出と処理基準の遵守を義務付けたことが挙げられます。
①廃棄物の不適正処理への対応の強化
廃棄物の不適正処理への行政の対応を強化するため、一定量以上の産業廃棄物の排出事業者に電子マニフェストの使用を義務付け、許可を取り消された廃棄物処理業者に対しても措置命令等を出せるようになりました。
許可を取り消された者等に対する措置の強化
改正前の廃掃法では、廃棄物処理業者が廃掃法で定める基準に違反する態様で廃棄物の保管を行っていた等の違反行為により行政が廃棄物処理の許可を取り消した後は、行政から処理業者に是正命令を出す権限がありませんでした。そのため、いつまでも廃掃法違反の状態が解消されないという不都合がありました。
このような不都合を解消するために、2017年に改正された廃掃法では、許可取り消し後においても、処理業者が廃掃法に違反する態様での廃棄物保管を行っている(放置している)場合においても、行政から処理業者に対して是正命令等の必要な措置を講じることができるようになりました(廃掃法19条の10)。
同規定の創設により、許可取り消し後に違反状態が継続し、是正命令を出しても処理業者が従わなかった場合は、生活環境保全のために必要があると行政が判断したときは最終的に行政が廃棄物の除去等の廃棄物処理を行い、その費用を処理業者に負担させることができるようになりました。
マニフェスト制度の強化
改正廃掃法では、大量の産業廃棄物を排出する事業者に対して、電子マニフェストの使用が義務付けられました(廃掃法12条の5)。電子マニフェスト使用が義務付けられたのは、年間50トン以上の産業廃棄物を排出する事業者です。
電子マニフェストの使用により、排出事業者は運搬業者・処理業者からの管理票の回収と管理・保存が容易になり、行政側も排出された産業廃棄物の処理状況を容易に把握することができます。
これにより、行政は不適切な処理状況を早期に発見・調査して原因を究明し、処理業者に対して指導・勧告等の必要な措置をスムーズにできるようになります。改正廃掃法による電子マニフェスト使用義務化は、2020年4月1日に施行されました。
②有害使用済機器の適正な保管等の義務付け
使用済みの電子機器等で廃棄物として処理されていない雑品スクラップについては、雑品スクラップの保管・処分を業として行う事業者に対して、都道府県知事への事業の届出と、雑品スクラップの保管・処分について、廃掃法で定める処理基準を遵守することが義務付けられました(廃掃法17条の2)。
雑品スクラップの事業者が処理基準に違反する態様で雑品スクラップを保管している場合は、行政による立入検査を受けたり、指導・是正命令等を受けたりする可能性があります。
その他、改正後に変わった点
2017年に改正された廃掃法では、二以上の事業者が親子会社であり一体的な経営を行っている等の一定の要件を満たすとして都道府県知事の許可を受けた場合は、廃棄物処理業者の許可を受けずに産業廃棄物の処理を行うことができます(廃掃法12条の7)。
これは、そもそも廃掃法では、排出事業者が自ら廃掃法の基準に則って産業廃棄物を処理する場合には行政の許可は必要ではありませんが(廃掃法12条1項)、親会社が子会社に産業廃棄物の処理を委託する場合には、廃掃法上は第三者に処理を委託することになるため、行政の許可が必要となってしまうという不都合があったことから、こうした事態を解消するために改正されたものです。
廃掃法改正による実務への影響
廃掃法が改正されたことで、事業者は廃棄物処理に対する法令遵守(コンプライアンス)がより求められることになります。
産業廃棄物を排出する事業者は、電子マニフェストを通じて自身が排出した産業廃棄物が適切に処理されたことを把握する必要があり、処理業者から電子上で管理票の提出が遅れた場合は、すぐに行政から問い合わせを受ける可能性があります。排出事業者としては、運搬業者・処理業者から管理票が提出され、廃棄物が適切に処理されたことについて、これまで以上に意識する必要があるでしょう。
運搬業者・処理業者も同様に、管理票の提出が遅れたり、管理票の記載を誤ったりすると行政の指導を受ける可能性があります。排出事業者としては、自身が電子マニフェストの使用義務の対象者であるかどうかも正しく把握しておかなければなりません。
これまでは、雑品スクラップを取り扱っている事業者には廃掃法が適用されていませんでしたが、改正後は廃掃法の定めに則って行政への届出や、雑品スクラップの管理を適切に行う必要があります。
改正前と改正後の廃掃法の違いを押さえておこう
2017年に改正された廃掃法では、一定量以上の産業廃棄物を排出する事業者に対して電子マニフェストの使用が義務化され、廃棄物処理業者は許可取り消し後においても行政が是正命令等を出せるようになるなど、行政による監督を強めています。また、雑品スクラップを取り扱う事業者が、廃掃法における処理基準を遵守することも定められています。
中には、廃棄物を山奥に放置するといった悪質な処理業者もいます。放置された廃棄物が原因で火災や土砂崩れなどが発生した場合は、ほとんどのケースで賠償責任が問われます。
電子マニフェストの使用義務化により、廃棄物の放置は場合によっては放置した処理業者だけでなく、排出事業者・運搬業者や行政の監督責任が問われることもあるでしょう。
自身が廃掃法において電子マニフェストの使用を義務付けられる事業者かどうか、また、排出した廃棄物が適切に処理されているかどうか、正確に把握することが大切です。
よくある質問
2020年の廃掃法改正における重要なポイントは何ですか?
電子マニフェスト使用の義務化です。改正廃掃法では、年間50トン以上の産業廃棄物を排出する事業者は電子マニフェストの使用が義務付けられています。詳しくはこちらをご覧ください。
廃掃法改正による実務への影響には何がありますか?
廃棄物が廃掃法に則って適切に処理されているか、管理票の回収を含めて正確に把握しておく必要があります。場合によっては行政からの指導等を受けることもあり得ます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労務提供とは?労働者と交わす契約の種類や労務の内容、労働契約違反について解説
従業員を雇うことで、会社は賃金を支払う代わりに、事業のために必要な業務を従業員に行ってもらうことができます。雇われている会社のために従業員が働くことを「労務提供」といいます。当記事では労務提供について詳しく解説します。 労務提供とは? 「労…
詳しくみる特許とは?法的な定義や特許権の内容をわかりやすく解説
特許とは、発明を公開する代わりに、その発明を保護する制度のことです。特許権を得ると、出願から20年間、権利の対象となる発明の実施を独占できます。本記事では、特許や特許権の意味のほか、取得方法や特許侵害にならないようにするポイントなどを解説し…
詳しくみる時効とは?刑事と民事における定義や完成猶予などを解説
時効とは、ある出来事が一定期間継続しているとき、その状態に即した権利関係を確定させることです。時効というと、刑事上の時効を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実は民事上の時効も存在し、時効によって権利の取得や消滅が起きます。今回は、時効の概…
詳しくみる契約とは?民法の観点からわかりやすく解説!
契約は誰もが日常的に関わるものですが、その内容や根拠について法律の条文を調べる機会はあまりないのではないでしょうか。しかし、2022年4月1日に改正民法が施行され、契約当事者・主体になれる成年年齢の引き下げがあったため、契約の基本を理解する…
詳しくみるリース契約とは?種類やメリットをわかりやすく解説
リース契約とは、機械設備等の必要な物品をユーザーが購入するのではなく、リース会社にリース料を支払って利用する契約形態のことを指します。 ここでは、リース契約の仕組みや種類、メリット・デメリット、レンタルとの違いを解説します。 リース契約とは…
詳しくみる反社(反社会的勢力)とは?定義や種類、見分け方などを簡単に解説
「反社(反社会的勢力)」は、社会の秩序を乱して違法な活動を行い、経済や日常生活に多大な悪影響を及ぼします。反社との関わりを避けるためには、反社について基本的な知識や種類を理解し、正しく見分けることが重要です。 この記事では、反社の定義や種類…
詳しくみる