- 更新日 : 2024年8月30日
取締役決定書とは?ひな形をもとに書き方や本店移転登記申請時の注意点を解説
取締役決定書とは、取締役会を設置していない会社で、重要な事項について取締役が決定したことを証明する書類を指します。会社法上において、作成は義務ではありませんが、本店移転時や合同会社の移転時など登記簿を変更する際に法務局への提出が求められます。
本記事では、取締役決定書とは何かや作成するタイミング、記載すべき項目の具体例、書き方のポイントを紹介します。
目次
取締役決定書とは
取締役決定書とは、取締役会を設置していない会社において、取締役が重要な経営事項を決定したことを記録する書類です。業務執行に関する取締役の判断内容を明確にし、後日の確認や検証に役立てるために作成されます。
株式会社で取締役会を設置している場合、一般的に業務執行の重要事項は取締役会の決議を経て決定されます。取締役会の決議の内容を示すものとして取締役会議事録が作成されます。取締法役会の議事録は会社法において作成する義務があります(会社法369条)
一方、取締役会非設置会社の場合は、次のような手順で決定がなされます。
- 取締役が1名の場合:その取締役の判断で単独決定
- 取締役が複数名の場合:取締役の過半数の同意により決定
取締役会非設置会社では、取締役による決定に関して、必ずしも取締役会を開催する必要はありません。したがって、会議を開かずに持ち回りで同意を得て、決定事項を取締役決定書としてまとめることも可能です。
取締役決定書の作成は会社法上において義務とされていませんが、本店移転や支店設置など一定の登記申請の際に法務局への提出が求められる場合があります。
登記申請時に取締役の同意を証明する書面の提出が必要な場合に備えて、取締役決定書を予め作成しておくとよいでしょう。また、取締役が1名の会社や登記を要しない決定の場合でも、決定の証拠として本書を作成しておくことをおすすめします。
取締役決定書の具体的な書き方やひな形、記載事項については後述します。適切なタイミングで取締役決定書を作成できるよう、ポイントを押さえておきましょう。
取締役決定書を作成するタイミング
取締役決定書を作成するタイミングとして、以下の内容が挙げられます。
- 本店移転時
- 合同会社の本店移転時
本店移転時には、取締役の過半数の一致により、移転時期と場所を決定し、登記簿の変更のために必要な書類として取締役決定書を作成し法務局へ提出します。また、合同会社においても、本店移転時には登記のために取締役決定書の作成が必要です。
本項では、取締役決定書の作成タイミングについて解説します。
本店移転時
取締役会非設置会社が本店を移転する際、移転先が最小行政区画外となる場合は、以下の手順で進めます。
- 株主総会の特別決議により定款変更
- 取締役の過半数の一致により、移転時期と場所を決定
- 本店移転登記申請時に、取締役決定書をほかの必要書類と合わせて提出
一方、本店移転先が同一の最小行政区画内(「市」「町」「村」の単位)である場合は、定款変更および株主総会の特別決議は不要です。ただし、取締役の過半数による決定は必要なため、取締役決定書を作成しましょう。
例えば、定款上の本店所在地が「東京都港区」と規定されている取締役会非設置会社が、港区内で本店を移転する場合、定款変更は不要です。しかし、取締役の過半数の同意を得た上で取締役決定書を作成し、登記申請時に提出します。
なお、定款上は「東京都〇〇区」と規定されていても、登記簿謄本上は「東京都〇〇区~」のように詳細に記載されているため、最小行政区画内での移転であっても、登記申請が必要な点に注意してください。
合同会社の本店移転時
合同会社が本店を移転する場合、定款に別段の定めがない限り、以下のように取り扱います。
- 最小行政区画外への移転:総社員の同意による定款変更が必要
- 最行政区画内外問わず:業務執行社員の過半数による決定が必要
したがって、合同会社においても株式会社と同様に、本店移転の際は取締役決定書に相当する書面を作成するとよいでしょう。
取締役決定書のひな形
取締役決定書の作成にあたり、具体的にどのような内容を記載すべきか、ひな形があると作業がスムーズに進められます。下記のサイトでは、取締役決定書のテンプレートを用意しており、必要な項目や文言のポイントが網羅されています。
Word形式のため、自社の状況に合わせて編集も簡単で、無料で利用できるためぜひ利用してみてください。
取締役決定書に記載すべき内容
取締役決定書を作成する際、以下の項目を漏れなく記載することが重要です。
- 決定の日付
- 決定の結果
- 決定事項
- 移転日
- 移転先の住所
- 決定者の氏名と押印
本項では、取締役決定書に記載すべき主な内容を具体例とともに解説します。
決定の日付
取締役による決定が行われた日付を記載します。下記のように記載します。
「令和6年6月25日」
決定の結果
取締役の決定がどのような方法で行われたのかを明記します。全員一致なのか、過半数の同意なのかを以下のように記すとよいでしょう。
「取締役全員の同意により決定した」
「取締役の過半数により決定した」
決定事項
本店移転に関する具体的な内容を記載する箇所です。特に、移転日と移転先住所は登記申請に際して重要な情報です。
移転日
本店移転の予定日を明記します。以下のような表現が考えられます。
「令和〇年〇月〇日をもって本店を移転することとする」
移転先の住所
移転先の住所を正確に記載します。記載例は次の通りです。
「本店を東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号に移転する」
決定者の氏名と押印
決定に関与した取締役の氏名を記載し、それぞれが押印します。代表取締役の場合は登記された代表者印、そのほかの取締役は認印を用いるのが一般的です。
取締役決定書の作成ポイント
取締役決定書を作成する際には、会社法で書類の方式が定められていないため、各社の事情に沿って記載する必要があります。また、取締役が欠席している場合は、出席した取締役の氏名を記載します。
ほかにも、決議は電子メールなどを用いて同意を得ることも可能です。本項では、取締役決定書の作成ポイントを解説します。
方式を定めて記載
取締役決定書の記載内容や様式は、法令等で厳密に定められているわけではありません。したがって、各社の実情に応じて書式を定めて作成することが求められます。
ただし、本店移転登記の際など、取締役決定書の提出が必要になるケースでは、移転先の新住所や移転日など、登記申請に必要な情報を漏れなく記載しなければなりません。加えて、定款変更や印鑑届出など、関連する手続きが発生する場合もあるため、注意が必要です。
手続きに不安がある場合や、スムーズかつ確実に進めたい場合は、専門家に相談するのも一つの方法でしょう。
取締役の欠席時は出席している取締役のみの氏名を記載
取締役会非設置会社において、一部の取締役が欠席した状態で過半数の同意により決定した場合、出席した取締役のみの氏名を記載すれば問題ありません。
例えば、取締役が3名いる会社で、1名が欠席の上、2名の同意により決定した場合は、出席した2名の取締役の氏名のみを記載します。
取締役会非設置会社は書面決議も可能
定款に特段の規定がなくても、取締役会非設置会社では、書面決議(みなし決議)の方法で決定できます。つまり、必ずしも取締役が物理的に一堂に会する必要はなく、電子メールなどを用いて同意を得ることも可能です。
また、テレビ会議や電話会議など、オンラインでの出席も認められています。リモートワークが広がりを見せる昨今において、書面決議やオンラインでの出席を活用することで、効率的な意思決定が期待できるでしょう。
本店移転登記の申請時に気をつけるべきポイント
本店移転に伴う登記申請を行う際には、いくつかの注意点があります。例えば、2週間以内に登記申請を行う点です。方式を定めて記載する点です。取締役会非設置会社の場合、登記申請の際に、取締役決定書の提出が求められます。
また、取締役決定書以外にも、提出が必要な書類があります。
本項では、本店移転登記の申請時に、気をつけるべきポイントを解説します。
2週間以内に登記申請を行う
本店を移転した場合、移転日から2週間以内に、所管の法務局に変更登記の申請を行わなければなりません。この期限を徒過すると、過料の制裁を受ける可能性があるため、速やかな手続きが求められます。
取締役会非設置会社の場合、登記申請の際に、取締役決定書を提出する必要があります。この書面は、取締役の過半数の同意があったことを証明するものです。
なお、本店移転以外にも、支店の設置や支配人の選定、代表取締役の選定などの手続きにおいても取締役決定書の提出が必要になるケースがあります。登記申請の要否や必要書類については、事前によく確認しておきましょう。
必要な書類を用意する
本店移転の登記申請に際して準備すべき主な書類は、次の通りです。ただし、定款変更の要否など個別の事情により、必要書類が異なる場合があります。
- 登記申請書
- 取締役会議事録(取締役会設置会社の場合)または取締役決定書(取締役会非設置会社の場合)
また、下記のような場合には、上記に追加して書類が必要です。
必要になる状況 | 必要な書類 |
---|---|
定款変更が必要な場合 | 株主総会議事録、株主リスト(株主の情報を記載した法務局所定の書面) |
登記所管轄区域外への移転の場合 | 印鑑届出書(会社代表印の届出書面)、印鑑カード交付申請書(印鑑証明書発行に必要なカード取得のための書類) |
司法書士等へ依頼する場合 | 委任状 |
登記申請書や取締役決定書を含む各種書式は、法務局のWebサイトからダウンロードできます。書類の作成にあたっては、これらのひな形を参考にすると便利でしょう。
参考:法務局
取締役決定書は取締役会非設置会社において重要
取締役決定書とは、取締役会非設置会社において、取締役会議事録に相当する書類です。本店移転や支店設置など、登記を要する事項の決定には、取締役の過半数の同意を証する取締役決定書の提出が求められます 。
適切な内容で取締役決定書を作成するためには、以下の項目を漏れなく記載することが大切です 。
- 決定日
- 決定方法
- 決定事項
- 決定者の氏名と押印
本記事で解説した内容をもとに、取締役決定書を作成しましょう。
そのほかの情報は、法務局のサイトなどを参考にしてください。
参考:法務局 添付書面の記載例
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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