- 作成日 : 2024年12月3日
契約書の訂正にスペースがない!二重線・訂正印、再作成など訂正方法まとめ
契約書の誤りを見つけた時、訂正印を利用するなどして修正する方法が考えられます。しかし訂正印を押すスペースがないケースもあるでしょう。そのような時には改めて契約書を作成するなど状況に応じた対応が必要です。
当記事で契約書を訂正する方法をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
目次
契約書の訂正が必要なケースとは?
契約書の作成中や作成後、誤りが見つかったり、状況の変化によって内容を変更する必要が生じたりすることがあります。このような場合に契約書の訂正が必要となります。まずはこの「契約書の訂正が必要となるケース」について、具体例とともに解説をしていきます。
誤字・脱字の修正
契約書の作成段階で氏名や住所、金額、日付などの誤字脱字が発生することがあります。また、条文中の言葉の誤りや脱字も見落とされる可能性があります。
例えば次のような誤字・脱字が考えられます。
- 契約当事者の会社名で「株式会社〇〇」と書くべきところを「〇〇株式会社」と記載してしまった。
- 契約金額について「100万円」と書くべきところを「10万円」と記載してしまった。
- 納期について「2025年1月10日」と書くべきところを「2024年1月10日」と記載してしまった。
このような誤字脱字は、契約内容の解釈にも影響を与える可能性があるため、訂正が必要です。
契約条件の変更
契約締結後に当初の合意内容を変更するケースもあります。
例えば次のような変更です。
- 製品納入の遅延により、納期を当初の「2025年1月10日」から「2025年2月10日」に変更する必要が生じた。
- 原材料価格の高騰により、当初の契約金額を「100万円」から「120万円」に値上げする必要が生じた。
- 新たなサービスを追加提供することになり、契約内容にサービス内容と料金を追加する必要が生じた。
このような契約条件の変更は、当事者間の合意に基づいて行われる必要があり、契約書に反映させるために訂正が必要となります。
契約相手の変更
契約締結後、次のように契約相手を変更するケースも稀にあります。
- 会社の合併により、契約相手が当初の「A社」から「B社」に変更になった。
- 事業譲渡により、契約上の権利義務が「C社」から「D社」に移転した。
- 契約当事者の一方が死亡し、相続人が契約を引き継ぐことになった。
このような契約相手の変更は契約関係に大きな影響を与えるため、契約書にも反映しておきましょう。
法律上の要件の追加
法改正や新たな判例の登場などの影響を受け、次のように契約書に新たな条項を追加する必要が生じる場合もあります。
- 個人情報保護法の改正に伴い、個人情報の取り扱いに関する条項を追加する必要が生じた。
- 消費者契約法の改正に伴い、契約の取り消しに関する条項を追加する必要が生じた。
- 特定商取引法の改正に伴い、契約書面に記載すべき事項が追加された。
契約書の訂正には当事者の合意が必要
契約は、当事者間の合意に基づいて締結されるものです。そのため契約書の内容を訂正する場合も原則として相手方との合意が不可欠です。
些細な誤字脱字であれば大きな問題となる可能性は低いのですが、それでも相手方に伝え、同意を得たうえで訂正を行うべきです。
訂正の合意を得る方法に決まりはなく、口頭で確認する方法もありますが、書面または電子契約書やメールなどの電磁的記録として残しておくとより確実です。
また、訂正内容によっては新たな契約書を作成する必要が生じるケースもあります。例えば、契約金額や納期など、重要な条件を変更する場合には、改めて契約書を作成するのが一般的です。
契約書の訂正にスペースがない!場合の訂正方法
訂正箇所のすぐ横に十分なスペースがあれば、二重線と訂正印で修正を行うことができます。しかしスペースが足りず、訂正印を押すのが難しいケースであれば、訂正方法にも工夫が必要です。
どのように訂正を行えばよいのか、どのような方法があるのか、以下で取り上げていきます。
近くの余白を利用する
訂正箇所のすぐ横にスペースがない場合でも、同じページ内のほかの余白部分を利用して訂正することも可能です。例えば、ページの上部や下部、あるいは行間にスペースがあれば、そこに訂正内容を記入し、訂正印を押すことができます。
その際は、訂正箇所と訂正内容を明確に結びつけるために、矢印や番号などを用いて対応関係を示すことが重要です。
別紙を作成する
訂正箇所が多い、あるいはページ内に全く余白がない場合には、別紙を作成して訂正内容を記載するという方法もあります。別紙には、訂正箇所を特定するための情報(ページ番号、行番号など)と、訂正後の正しい内容を明確に記載しましょう。
さらに当該別紙を契約書の一部とするため、別紙に当事者全員が署名・押印をします。
覚書を作成する
契約書の訂正内容が特定の条項の修正や追加など、比較的軽微なものである場合には、「覚書」を作成するという方法もあります。
覚書には訂正内容を具体的に記載し、当事者全員が署名・押印しましょう。覚書も契約書と一体のものとして評価されますので、契約書の内容を補足または変更する効力を持ちます。
一部変更契約書を作成する
契約書の訂正内容が金額や納期など、重要な条項の一部におよぶ場合には、一部変更契約書を作成するという方法もあります。
例えば、当初の契約金額を「100万円」から「120万円」に変更する場合であれば、次のような手順で作成します。
- 「〇〇(契約の名称)の一部変更契約」などの表題で変更契約書を作成する。
- 変更契約書にて、元の契約書を特定する情報(契約書名、締結日など)を記載する。
- 変更する条項の番号や変更内容を明確に記載する。
- 当事者全員が変更契約書に署名・押印する。
全面変更契約書を作成する
契約書の訂正内容が契約期間や契約の目的など契約の根幹に関わるような内容、あるいは広範囲におよぶ場合には、全面変更契約書を作成する方法が考えられます。
全面変更契約は、実質的に新たな契約を締結することと同じ意味合いを持ちます。元の契約書の内容を全面的に見直し、変更後の内容を反映した契約書を作ります。
契約書を再作成する
訂正箇所がとても多い場合は契約書を改めて作成する方が効率的です。
契約書を再作成する場合は、元の契約書の内容を参考にしながら訂正箇所を修正し、新たな契約書として当事者全員が署名・押印します。
このように、訂正箇所にスペースがない場合でも、訂正の範囲や内容に応じて適切な方法を選択することで、契約内容を正確に反映することができます。
契約書の基本的な訂正方法
契約書の訂正方法として最も基本的な方法が「訂正印と二重線」を使った訂正です。これは誤字脱字や数値の修正など、比較的軽微なミスに対して用いられる手法です。
一方、契約書にあらかじめ「捨印」が押されている場合は、訂正印を押すことなく捨印によって訂正を認める効力を持たせることができます。
以下ではこれら訂正印と捨印の概要やそれぞれの違い、具体的な訂正手順について解説していきます。
訂正印と二重線で契約書を訂正する
訂正印と二重線を用いて訂正する場合、以下の手順で行います。
- 誤った部分を二重線で消す(修正液や修正テープは使用せず、訂正前の内容が判別できるように黒のボールペンなどで二重線を引いて消す)
- 正しい内容を記入する(二重線で消した箇所のすぐうえに、正しい情報に記入する)
- 訂正情報を欄外に記載する(「△字削除、□字加筆」のように、訂正した文字数を記載する)
- 訂正印を押す(欄外に記載した訂正内容の横に、契約書に押印した印鑑と同じ印鑑で訂正印を押す)
捨印で契約書を訂正する
捨印は、契約書作成時にあらかじめ余白に押しておく印鑑のことです。捨印を押しておくことで、軽微な誤りがあった場合、訂正印を押さなくても訂正を認める効力を持たせることができます。
ただし、捨印は相手方の修正を自由に認めてしまうことになるためリスクも大きく、できれば使用を避けましょう。
訂正印・捨印は契約書に押印した印鑑を使用する
訂正印や捨印には、原則として契約書に押印した印鑑と同じ印鑑を使用します。これは、「確かに契約書にサインをした契約当事者が訂正を行った」ということを示し、訂正が正式な手続きによって行われたことを表すために求められます。
契約書の最適な訂正方法の選び方
最適な訂正方法は、訂正の範囲や内容によっても異なります。
例えば「訂正箇所が少ない場合」なら、訂正印や捨印を使った訂正方法が一般的です。ただし訂正箇所が当該契約において特に重要な意味を持つ時は、覚書を作成したり一部変更契約書を作成したりしてより厳格に対応した方がよいでしょう。
また、訂正印などを使った修正が認められないケースもあります。例えば登記所に提出するこちらの書類に関しては「訂正印による訂正はできません」とあり、誤りのないものを再度作成するよう求めています。
ほかにも提出する相手方が訂正印などの利用を認めていない時は、新しく作り直すようにしましょう。
これに対し「訂正箇所が多い場合」には、別紙を作成したり、改めて契約書を作成し直したりすることが推奨されます。
契約書を訂正する際の注意点
契約書への訂正が原因で揉める危険性もあるため、その問題を回避するためにいくつか注意しておきたい点もあります。
改ざん防止のため漢数字の使用を避ける
訂正印による修正では、「3字削除、4字加筆」のように算用数字を使用するようにしましょう。漢数字を使った場合だと、「三」を「五」に書き換えたり、「一」を「二」に書き換えたりするなど容易に改ざんができてしまいます。
訂正箇所を明確にする
自分だけに理解できる訂正方法ではいけません。少なくとも契約の相手方がはっきりと認識できること、そして第三者から見ても明確に訂正内容がわかるようにすべきです。万が一トラブルになった場合、最終的な審理は裁判所で行われますので、誰が見てもわかるようにしておかないといけません。
そこで、「どの文言を訂正したのか」「どのように訂正したのか」など、訂正箇所をわかりやすく示しましょう。スペースが不十分でわかりやすく訂正ができないと思われる時は別の方法による修正も検討すべきです。
訂正箇所は全当事者の訂正印・捨印が必要
契約書の訂正は当事者全員の合意に基づいて行われる必要があります。
後で「勝手に契約内容を変えた!」と主張されるリスクを回避するためにも、全員の合意があったことを示せるよう、訂正箇所には当事者全員が訂正印を押しましょう。
修正ペンの使用はしない
契約書を訂正する際は、修正液や修正テープの使用は避け、黒のボールペンなどで二重線を引いて訂正するようにしましょう。修正液や修正テープを使用すると、訂正前の内容がわからなくなり、改ざんの疑いを招く可能性があるためです。また、修正液や修正テープが剥げてしまう恐れもあります。
同様に、鉛筆やシャーペンのような容易に消すことができてしまう方法で訂正をするのも避けましょう。
収入印紙が必要な場合がある
契約内容によっては、訂正によって収入印紙が必要になる場合があります。
例えば契約金額が増額した場合などです。収入印紙が必要かどうか、必要な場合はいくら分の収入印紙を貼ればよいか、契約内容や金額によっても変わってくるため事前に確認しておきましょう。
電子契約書の訂正方法
紙の契約書とは異なり、電子契約書であればデータとしてやり取りされるため、一度締結した後に直接内容を訂正することはできません。
そこで電子契約書の内容を訂正する時は覚書の作成により対応するのが一般的です。覚書に訂正内容を具体的に記載し、当事者全員が電子署名を行うことで、安全に修正を行うのです。
なお、電子契約書には従来の契約業務が通用しないこともありますが、さまざまな点で作業効率が向上します。訂正のため新たに契約書を作成することになっても大した手間にはなりません。電子契約システムを導入するなど、環境が整っていればすぐに訂正ができるでしょう。
契約書の訂正でトラブルにならないよう基本を押さえておこう
人間が行う作業である以上、契約書の作成段階でミスが発生してしまう可能性をゼロにすることは困難です。また、状況の変化に伴い契約内容の修正が必要となるケースも出てくることでしょう。
訂正方法・手順を誤ると契約の有効性に影響をおよぼしたり、トラブルに発展してしまったりすることもあります。このような場合に備え、当記事の内容も参考にしていただき、適切な訂正方法を理解しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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