- 更新日 : 2024年11月12日
フリーランス新法とインボイス制度の関係は?影響や禁止行為を解説
フリーランス新法は、組織に所属しないで働くフリーランスを保護することを目的とした法律です。法律ではフリーランスに対する禁止行為が規定されており、インボイス制度に関連する行為も適用されると考えられています。
本記事では、フリーランス新法とインボイス制度の関係や、インボイス制度で禁止されると考えられる行為などを解説します。
目次
フリーランス新法とインボイス制度の関係
フリーランス新法とは、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」と呼ばれ、フリーランスの労働環境を保護することを目的として定められた法律です。対象となるのは、発注事業者とフリーランスというBtoBの業務委託による取引です。
ここでは、フリーランス新法の概要や制定された背景、インボイス制度との関係を解説します。
フリーランス新法の背景
フリーランス新法は2023年4月28日に可決され、同年5月12日に公布、2024年11月1日に施行が予定されています。
近年、社会では多くのフリーランスが活躍している状況があり、フリーランス新法はこのような時代を背景に制定されました。優越的な地位にある発注者の一方的な報酬減額や発注取り消しといった不公正な取引を防ぎ、フリーランスが安心して働ける環境を整えることを目的とした法律です。
法律ではフリーランスを「特定受託事業者」とし、フリーランスに業務を委託する発注事業者を「特定業務委託事業者」と定義しています。「特定業務委託事業者」はフリーランスに業務委託をする事業者であり、かつ継続的に従業員を使用するものが該当します。
「特定業務委託事業者」に該当する場合は法の適用を受け、定められている遵守事項を守らなければなりません。
インボイス制度との関係
フリーランス新法が制定されることになった理由の一つに、インボイス制度があげられます。2023年10月に開始されたインボイス制度によって、免税事業者に対する発注額の減額や発注停止などのトラブルが発生すると予想されていました。そのようなトラブルからフリーランスを保護することも、法律が制定される目的のひとつだったと考えられています。
業務委託を受けたフリーランスを保護する法律には下請法があり、これによってもフリーランスの保護は可能です。下請法とは、親事業者による下請事業者に対する不当な扱いを禁止し、下請事業者の利益を保護するために制定された法律です。
下請法が適用されればフリーランスは保護されますが、適用には発注事業者の資本金が1,000万円を超える場合に限られるという制限があります。フリーランスに取引を発注する委託事業者の多くは資本金1,000万円以下であり、下請法では保護されないケースが多いのが実情です。
フリーランス新法であれば資本金による発注事業者の限定がないため、下請法が適用されないフリーランスも保護を受けられます。
フリーランス新法で定められるインボイス制度の禁止行為
フリーランス新法では、フリーランスに対する次の行為が禁止されています。
- フリーランスの責めに帰すべき事由のない給付の受領拒絶
- フリーランスの責めに帰すべき事由のない報酬の減額
- フリーランスの責めに帰すべき事由のない返品
- 通常の相場に比べ、著しく低い報酬の額を不当に定める
- 正当な理由がなく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制する
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させる
- フリーランスの責めに帰すべき事由のない給付内容の変更、またはやり直し
インボイス制度のもとで、次に紹介する行為もこれらの禁止行為に該当すると考えられています。
詳しくみていきましょう。
免税事業者に消費税相当額を支払わない
業務委託は、原則として消費税の課税対象になります。発注事業者がフリーランスに業務委託の報酬を支払う際、報酬となる金額に税率から計算した消費税額を加えて支払わなければなりません。
しかし、インボイス制度では事業者が消費税を納税する際、受注者からインボイス(適格請求書)を発行してもらわなければ仕入税額控除を適用できません。そのため、インボイスを発行できない免税事業者には消費税を支払わないという事態が発生する可能性があります。
免税事業者だから消費税相当額を支払わなくてよいということはなく、インボイス制度のもとでも、免税事業者は取引先に対して消費税分を請求できます。
インボイスを発行できないことを理由に消費税相当額を支払わないのは、フリーランス側の責めに帰すべき理由のない報酬の減額にあたるとして、禁止行為とされる可能性があるでしょう。
発注側が課税事業者になることを迫る
インボイスを発行させるために、免税事業者に対して課税事業者になることを迫ることも、フリーランス新法で禁止されている行為にあたると考えられます。
フリーランス新法において発注事業者は、正当な理由がなく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制することを禁じられています。
これは、一方的もしくは不当な理由でフリーランスが不利益を受ける扱いを禁じているものと解釈すれば、課税事業者になることを一方的に迫ることもこのような行為に該当すると考えられます。禁止行為となり、法律違反になると考えられるでしょう。
消費税分の値上げに応じない
インボイス制度が施行されたあとは、発注停止などの不利益を避けるために課税事業者になるフリーランスも少なくありません。課税事業者になることで、免税事業者のときには納めずに済んだ消費税分を納めなければならず、実質的に収入が減ってしまいます。
そのため、事業者に値上げ交渉をするフリーランスもいるでしょう。そのような場合、フリーランスからの値上げ交渉に応じないことも、一方的もしくは不当な理由でフリーランスが不利益を受ける扱いと考えられ、禁止行為にあたると考えられます。
ただし、フリーランス新法で禁止されるのはあくまで発注事業者側の一方的な行為であり、双方の合意のもとに行われる価格交渉自体は禁止されません。
フリーランス新法に違反するとどうなる?
フリーランス新法に違反した場合、公正取引委員会や中小企業庁長官、または厚生労働大臣が事業者に対し、違反行為について次の措置を講じます。
- 助言
- 指導
- 報告徴収・立入検査
- 勧告
- 公表
- 命令
これらの命令に違反したり検査拒否などをしたりする場合は、50万円以下の罰金が科せられる場合があります。
また、法人に所属する役員や従業員が法人の業務に関連して違法行為を行った場合、それら個人だけでなく、法人も併せて罰せられる法人両罰規定もあります。
フリーランス新法に伴う事業者側の対応
フリーランス新法の施行に伴い、フリーランスが業務に安心して取り組めるよう、発注事業者には次のような対応が求められています。
契約条件を書面で提供すること
事業者がフリーランスに業務委託をする際は、契約の条件を書面またはメールで明示しなければなりません。
明示すべき事項は、次のとおりです。
- 給付の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 公正取引委員会規則が定めるその他の事項
その他の事項については今後、公正取引委員会規則で定められる予定です。
メールで契約の条件を明示した場合でも、フリーランスから書面の交付を求められたときには、遅滞なく書面で交付すべきことも定められています。
60日以内に報酬を支払うこと
事業者は原則として、フリーランスから役務の提供を受けた日から起算して60日以内に、できる限り早く報酬を支払わなければなりません。
たとえば、月末締め・翌月末払いという支払期日は60日以内での支払いができるため、適法です。しかし、「月末締め・翌々月10日払い」にすると60日以上の期間が開いてしまうため、フリーランス新法に違反することになります。
なお、業務委託が再委託の場合には、事業者が発注元から支払いを受ける期日から30日以内に支払いを完了させる必要があります。
募集情報は適切に表示すること
事業者が新聞や雑誌その他の刊行物に掲載する広告等でフリーランスを募集する場合、正確かつ最新の情報を掲載しなければなりません。
虚偽の表示や、誤解を生じさせる表示をすることも禁じられています。虚偽表示の例としては、実際の報酬額よりも高い額を表示することがあげられるでしょう。
また、誤解を生じさせる表示については、一例として、確約ではないのに報酬額が確約されているように見える表示があげられます。
労働環境整備に努めること
事業者とフリーランス間には雇用関係がないため、労働基準法などの法令は適用されません。しかし、フリーランス新法では労働者と同様に、出産・育児・介護への配慮や、ハラスメント行為に対する相談対応など、労働環の整備に努めるべきことを規定しています。
これらの対象となるのは長期的な継続的業務委託を行う場合であり、一度限りの業務委託契約は対象となりません。
フリーランス新法とインボイスの関係を把握しておこう
2024年11月に施行されるフリーランス新法では、インボイス制度のもとで不利益を受ける可能性があるフリーランスの保護が期待されています。
インボイス制度では、免税事業者に対して報酬の減額や発注停止などのトラブルが起こる可能性があります。しかし、フリーランス新法が適用されることで、これらのトラブルを防止することが可能です。
施行を前に法律の概要をよく理解し、フリーランスとの取引を適切に進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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