- 作成日 : 2024年3月29日
仲裁条項とは?設定するケースや記載の具体例、注意点を解説
仲裁条項とは、契約に関して紛争が発生した場合に、その解決を特定の第三者に委ねることに合意する契約書内の条項です。通常、紛争は裁判によって解決を図りますが、あえて裁判を利用せず、当事者間の合意によって決めた第三者に委ねることがあります。仲裁条項を設定するケースやメリット、注意点について解説します。
目次
契約書における仲裁条項とは?
仲裁条項(ちゅうさいじょうこう)とは、紛争が発生した場合に備え、解決を特定の第三者に委ねることを記した契約書内の条項です。通常、紛争は裁判によって解決を図りますが、状況によっては、裁判ではなく当事者間の合意によって定めた第三者に委ねることがあります。
仲裁によって紛争解決を目指す目的としては、以下のものが挙げられます。
- 紛争関連の秘密を保持したい
- 紛争を早期に解決したい
- 信頼できない国や地域での裁判避ける
裁判とは異なり、仲裁による審理は非公開で実施されます。紛争関連の情報を秘密にしておきたいときには仲裁を選ぶほうがよいでしょう。
また、裁判とは異なり、仲裁では既定の審理段階を踏む必要がありません。紛争を早期に解決したいときにも適しています。
国や地域によっては、賄賂が横行し、公平な裁判を受けられない可能性も想定されます。そのような国や地域で裁判を受けないために、仲裁を選択するのも1つの方法です。
仲裁条項を定めるケース
次のような状況では、契約書内に仲裁条項を定めることがあります。
- 公正な裁判を期待できないとき
- 審理する内容に重大な秘密が含まれるとき
- 強制執行を希望するとき
それぞれのケースについて解説します。
公正な裁判を期待できないとき
裁判は常に公正であるべきですが、必ずしも公正な裁判を受けられるとは限りません。例えば、次のような国や地域では、公正な裁判を期待できない可能性があります。
- 司法制度が整っていない
- 陪審制で結果が予測できない
- 商習慣が本国とは異なる
- 賄賂が横行している
上記のようなケースでは、信用できる第三者に仲裁を依頼するほうがよいと考えられます。仲裁条項を契約書に含めておきましょう。
審理する内容に重大な秘密が含まれるとき
多くの国では、裁判は公開法廷で行われるため、無関係な第三者が傍聴する可能性があります。審理内容に企業秘密ともいうべき重大な情報が含まれている場合は、裁判をとおして情報が漏洩し、多大な損害を被るかもしれません。
例えば、競合企業の関係者が裁判を傍聴し、新しい技術や製品・サービスなどの情報が漏洩する可能性もあるでしょう。万が一に備えて、仲裁条項を定めておくほうがよいかもしれません。
強制執行を希望するとき
裁判で判決が決まっても、敗訴側が必ずしも判決通りに対応するとは限りません。裁判所が強制的に判決に沿った対応を実施するのが強制執行(きょうせいしっこう)です。裁判所が判決に基づいて強制執行を実施してくれる場合は、賠償金などを受け取りやすくなります。
しかし、どの程度まで強制的に執行するのか、そもそも強制執行の制度があるのかについては、国や地域によって異なる点に注意が必要です。強制力が弱い、もしくは強制執行制度がない国や地域で裁判を受けるときには、判決が出ても賠償金を受け取れないかもしれません。強制執行のスムーズな執行を希望するときは、契約書内に仲裁条項を定めておくようにしましょう。
仲裁条項を定めるメリット
仲裁条項を定めておくことには、次のメリットがあります。
- 信頼性が高い方法で判断を得られる
- 短時間で紛争を解決できる
仲裁条項を定めておくことで、信頼性が低いと思われる国や地域の裁判を経ずに、紛争を解決できるようになります。本国以外で裁判を受ける可能性があるときも、仲裁条項を定めておけるでしょう。
また、裁判には時間がかかることが一般的です。上訴制度のある国や地域で裁判を受けるなら、さらに時間がかかります。仲裁条項を定めておくことで、審理にかかる時間を短縮し、早期に紛争解決を実現できます。
仲裁条項を定めるデメリット
仲裁条項を定めることには、デメリットもあります。主なデメリットは、次の2点です。
- 紛争解決にかかる費用が高額になる可能性がある
- 上訴できない
通常、裁判は公費で実施されるため、被告・原告ともに低額な実費と弁護士などにかかる費用のみを負担します。しかし、仲裁は私費で実施するため、弁護士や仲裁人にかかる費用や、手続きや仲裁場所の確保にかかる費用もすべて用意しなくてはいけません。
また、必ずしも期待した結果になるとは限りません。裁判なら上訴により再度審理の機会を得られますが、仲裁の場合は上訴ができないため、期待した結果ではないときも受け入れることが必要です。
仲裁条項の具体例
仲裁条項の例をいくつか紹介します。日本語以外の言語で併記する場合は、契約書の翻訳を専門とする信頼できる機関に翻訳を依頼するようにしてください。
仲裁機関を設定する場合
仲裁機関を設定する場合の仲裁条項は、以下のように記載します。
第〇条(仲裁)
- 本契約もしくは本契約によって発生するすべての紛争や論争は、〇〇(仲裁機関名)の仲裁により解決されるものとする。
- 仲裁地は〇〇、仲裁人は〇人、仲裁手続きは〇〇語とする。
- 仲裁による判断は最終的なものであり、両当事者を拘束する。
仲裁機関を設定しない場合
仲裁機関を設定しない場合は、以下のように仲裁条項を記載します。
第〇条(仲裁)
- 本契約もしくは本契約によって発生するすべての紛争や論争は、〇〇(仲裁規則名)に従って実施される仲裁により解決されるものとする。
- 仲裁地は〇〇、仲裁人は〇人、仲裁手続きは〇〇語とする。
- 仲裁による判断は最終的なものであり、両当事者を拘束する。
仲裁条項で定めるべき事項
仲裁条項では、次の事柄を定めておく必要があります。
- 仲裁の種類
- 仲裁機関、準拠規則
- 仲裁場所、仲裁人の人数、仲裁言語
- 仲裁判断の拘束力
いずれも有効な仲裁条項を作成するのに必要な事柄です。それぞれについて解説します。
仲裁の種類
仲裁には次の種類があります。
- 機関仲裁
- アド・ホック仲裁
機関仲裁とは、仲裁専門の機関を通じて実施する仲裁です。例えば日本では「一般社団法人 日本商事仲裁協会」などを仲裁機関と設定することがあります。
一方、アド・ホック仲裁とは、当事者間の合意によって選任した仲裁者を通じて実施する仲裁です。機関仲裁と比べると費用を抑えられますが、仲裁者の選定がスムーズに進まない可能性があります。
仲裁機関、準拠規則
機関仲裁を選択する場合は、仲裁機関を決めます。アド・ホック仲裁を選択するときは、仲裁の際に準拠する規則を決めることが一般的です。ただし、いずれの場合も、準拠法については決めておく必要があります。
仲裁場所、仲裁人の人数、仲裁言語
仲裁場所はアクセスが便利という点だけでなく、適用される準拠法にも注目して選ぶ必要があります。契約当事者の拠点が異なる場合は、第三国を仲裁地として選ぶこともあります。
また、仲裁人の人数と手続きの言語も定めておきましょう。仲裁条項によっては、仲裁人の国籍や経歴などを指定することもあります。
仲裁判断の拘束力
仲裁判断の拘束力を示すために、「仲裁判断が最終的な決定となる」と記載しておくことが必要です。拘束力について規定しない場合、仲裁結果によって不利益が生じる側が訴訟を起こす可能性が想定されます。
仲裁条項を定める場合の注意点
仲裁条項を定めるときには、次の点に注意が必要です。
- 仲裁と合意管轄を比較する
- 仲裁言語・仲裁人・仲裁場所を適切に定める
仲裁条項ではなく、合意管轄条項を定めることもあります。合意管轄条項とは、紛争発生時に利用する裁判所を決める条項です。特定の国や地域の裁判所を管轄裁判所とすることで、裁判所の場所についての議論を回避し、よりスムーズな紛争解決を期待できます。
しかし、異なる国や地域の間で契約を締結するときは、特定の国や地域の裁判所を管轄裁判所とするのは不公平になる可能性があります。両当事者の合意を得にくいときは、合意管轄条項ではなく仲裁条項を設定するほうがよいでしょう。
また、仲裁を選ぶ場合は、言語・仲裁人・場所を適切に定めることが大切です。異なる言語を母国語とする場合には、英語などの国際的な公用語を選ぶことが一般的です。
また、仲裁人の構成も公平になるように、国籍や経歴などがバランスの取れたものであるのか確認しておくようにしてください。仲裁場所も同様です。どちらか一方にとって極端に不利にならないように調整しておきましょう。
英文契約書で仲裁条項を定めるときの注意点
英文契約書で仲裁条項を定めるときも、次の点を明確にすることが大切です。
- 仲裁機関
- 仲裁言語
- 仲裁人の人数、構成
- 仲裁場所
上記を含めることに加え、仲裁場所が自国以外の場合は、現地弁護士についても調べておくことが必要です。仲裁が始まってからでは適切な弁護士を見つけられない可能性があります。万が一のときにスムーズに仲裁手続きを進めて行くためにも、契約を締結するまでに仲裁場所での弁護士を確保しておきましょう。
海外関連の契約には仲裁条項を設定しておこう
海外関連の契約には、仲裁条項の設定が必要になることがあります。異なる法律、異なる商習慣での契約の場合、トラブルが発生しがちです。事前に仲裁条項を設定することで、トラブルを回避しましょう。
また、国内事業者や個人との契約においても、早期に紛争解決を実現したいときや重要な秘密が含まれるときなどには、仲裁条項の設定を検討できるかもしれません。契約を締結するときには、常に「契約が履行されないこと」や「契約相手が誠実に対応しないこと」なども想定し、トラブルを未然に防ぐ施策を取っておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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