- 更新日 : 2024年8月30日
不動産取引は電子契約できる?メリット・デメリット、やり方を解説
2021年に可決したいわゆる「デジタル改革関連法」により、不動産取引の多くを電子契約化することが可能となり、今後は不動産契約における効率化が予想されます。しかし、電子契約化のためには、満たさなければならない法律の定めなどがある上、紙の契約にはない特有のリスクもあるでしょう。本記事では、不動産取引の電子契約化に関する法律や実際の流れを解説します。
目次
不動産取引の電子契約化への流れ
従来、不動産契約の際には書面での契約締結が定められている書類があり、完全に電子化することは難しいと言われていました。
しかし、前述の通り2021年5月に可決したデジタル改革関連法により、それらの契約書も電子化が可能となり、不動産取引における契約書の全面電子化が解禁されることとなりました。
そもそも電子契約とは?
電子契約とは、文字通り、契約の取り交わしを電子媒体で行うことです。
前提として、契約行為は口頭のみでも成立することが可能です。しかし口約束だけでは、後になってから「言った言わない」の問題が発生する可能性が高くなります。そこで、お互いに同意した内容について明確にし記録するために契約書を作成し、署名・捺印を行います。この契約書によって、契約の当事者たちがそれぞれ同意したことを証明できるようになります。
この場合、契約書に捺印や署名がなければ、その後もし内容をめぐって争うことがあったとしても、その契約の内容は信憑性に欠けます。また、場合によっては捺印などのない書類は、後になって悪意を持って改竄することが可能です。契約書における署名・捺印はとても重要な要素だといえます。
一方で、電子契約では、紙の契約書のように物理的に捺印したり署名できません。つまり、紙の契約書とは別の方法で、お互いに同意したり改竄がなかったことについて証明をしなければなりません。そこで必要になってくるのが、電子署名の技術です。電子署名がなされた契約書は、作成者を証明することができるため、紙の契約書と同じ効力を持ちます。
電子契約について、詳しくは下記記事で解説しています。
電子契約にかかわる法律
電子契約に関係する法律はたくさんありますが、ここで押さえておきたい法律は、大きく以下の4つです。
①電子契約が法的効力を持つ理由に関わる法律(民法・電子署名法・民事訴訟法)
まず、民法では、有効に成立するための契約書の形式について、特に定めはありません。紙と電子媒体のどちらでも問題はないです。
ただし民事訴訟法では、契約をめぐって争い契約書を証拠として提出する場合、契約書の成立の真正性を満たす必要があります。紙の契約書では、いわゆる二段の推定(「契約当事者の印影が契約当事者の印章によって押印されているのであれば、本人の意思にもとづいて押印していると事実上推定し(一段目の推定)、本人の意思にもとづいて押印している場合には契約書が真正に成立したものと推定する(二段目の推定)」という考え方)により、契約書の成立の真正性が確保されていました。
では、電子契約の場合はどうでしょうか。電子署名法では、本人による電子署名が付与された契約であれば、真正性があります。つまり、適切に電子署名がなされた契約書であれば、電子であっても裁判の際の証拠として提出することが可能です。
②電子契約では印紙税が非課税である理由に関わる法律(印紙税法)
印紙税とは、紙の契約書に対して、文書中に記載のある契約金額に応じて課税される税金で、印紙税法により定められています。ただし、同法における契約書(課税文書)は「用紙等」と定められているため注意が必要です。「用紙」は紙である必要があるため、電子契約は印紙税法の課税対象とはならず、非課税であることがわかります。
③電子契約の作成時に書面契約を電子化可能か確認が必要な法律(デジタル改革関連法・宅建業法)
2021年のデジタル改革関連法により、それまで電子化できなかった契約書について、不動産業界を中心に電子契約が認められるようになりました。ただし、事業用定期借地契約などは引き続き書面での契約が求められているため、注意が必要です。
④電子契約の保管時に満たすべき要件のある法律(電子帳簿保存法・法人税法)
電子契約といえど、契約書である以上は適切に保管することが引き続き求められます。具体的には、1989年に施行された電子帳簿保存法では帳簿書類について一定の要件を満たした上で電子データで保存することが求められています。条件は「電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け」「見読可能装置の備付け等」「検索機能の確保」「真実性の確保」です。
電子契約できる主な不動産取引
前述の通り、「デジタル改革関連法」の成立により不動産取引においても契約の電子化が認められるようになりましたが、具体的には次の書類の電子化が認められるようになりました。
①媒介契約書
媒介契約とは、家を売る時、不動産会社に間に入ってもらい、買主を探してもらうために結ぶ契約のことです。
②重要事項説明書
売買の対象となる物件や、取引条件にかかわる重要事項が記載された書類です。後述の賃貸借契約締結の際にも、重要事項説明書は取り交わされます。
③賃貸借契約書
賃貸物件を借りるための契約書です。
④定期借地権設定契約書
定期借地権設定契約書とは、一定期間のみ土地を賃借するときに作成する契約書です。
なお、電子で契約を締結する際には、相手方の同意が必要です。そのため、物件の所有者などがPCの操作などに慣れていない場合などに備えて、引き続き紙の契約書でも契約を締結できるように備えておきましょう。
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電子化できない不動産取引
前述の通り、不動産契約の多くは電子化できますが、一部の契約については例外となります。
例えば、事業用定期借地に関する契約については、公正証書で契約することが求められています。そのため、依然として電子化はできない契約です。その理由は、事業用定期借地権の制度が、脱法行為として利用されることを防ぐためです。
なお公正証書とは、公証人がその権限に基づいて作成する公文書をさします。公証人により作成されることにより、文書の成立について真正であることの強い推定(形式的証明力)が働きます。
そのほかにも「企業担保権の設定又は変更を目的とする契約」および「任意後見契約書」についても、公正証書による契約締結が法的に求められているため電子化はできません。
ただし2023年の時点で、2025年上期に向けた公正証書のデジタル化に向けた動きが進んでおり、今後は上記の書類についても電子化できる見込みです。現在は公証役場に出頭しなければ作成できない公正証書も、ウェブ会議・電子署名を利用して作成できる予定です。これが実現されれば、大幅にコストや時間を削減することが可能でしょう。
不動産取引を電子契約化するメリット
不動産取引を電子契約化するには、いくつかの必要条件がありますが、その代わりに、いくつかの大きなメリットがあります。デメリットについては後述しますが、基本的には時間も含めたコスト削減が可能となっており、利用が進められる領域であれば、積極的に活用を検討する価値はあるでしょう。
遠方でもオンラインで契約できる
電子契約となるため、インターネットを介して電子ファイルにより契約を締結できます。つまり、他県などにいる方ともオンラインで契約手続きを完結できることになります。これにより、相手方と直接会うために予定を調整し、移動するなどの物理的に必要な時間を削減することが可能です。この点は、特に相手方が遠方にいる場合には大きなメリットだといえます。
手間やコストを削減できる
前述の通り、オンラインで契約締結は、対面で契約する時のように時間や場所などを相手方と話し合って調整する手間を省けます。
それに加えて、例えば遠方にいる相手方と書面でやりとりを行う場合などは、従来であれば郵送で契約書の送付などを行っていたものを、オンラインで完結できるようになるため、郵送にかかる費用や手間を削減できます。
文書ファイルを電子化して保存できる
契約を電子化することで、契約内容や契約に付随する書類をデータで保管することができます。紙からデータにすることで、一回の契約でも、相当数の紙の削減につなげることができます。印刷用紙やインク代の節約だけでなく、ファイルや棚のスペース削減にも繋げることができ、近年、重要課題となっているSDGsの取り組みにもつなげられます。
不動産取引を電子契約化するデメリットや注意点
これまでは、不動産取引を電子契約化することによるメリットを見てきましたが、もちろんデメリットも同様に存在します。電子契約化を検討している事業者の方については、メリットだけではなく、デメリットも的確に把握しておくことが重要です。
セキュリティ対策やバックアップが必要
電子契約の場合、基本的にオンラインで情報のやり取りが発生します。オンラインの情報送受信では、当然ながらサイバー攻撃による情報流出の危険性や、重要なデータが破損してしまう危険性があるため注意は必要です。堅牢な情報セキュリティ体制の構築や、万が一破損してしまった場合のバックアップ対策などを行う必要があります。
取引先に環境を整備してもらう必要も
不動産仲介の場合は、仲介業者・買主・売主の三者による取引となります。電子契約の場合、それぞれの同意が必要です。例えば、買主がPC操作に慣れていない、またはそもそもPCを持っていない場合は、電子契約はできません。取引先が契約の電子化に対応していない場合は、環境を整備してもらう必要があります。
不動産会社の業務フローの検討
不動産契約の電子化が解禁されてからまだ日も浅く、まだその仕組みなどについては社会に浸透しているとは言い難い状況です。そのため、使用する電子契約サービスなどにあわせて、自社であらかじめ業務フローを構築する必要があります。
例えば、まず「相手方への意思確認・電⼦契約の旨の告知」はどのように行うのか、IT重要事項説明の際にはどのツールを使うのか、電子署名依頼の送信はどのように行うのかなど、あらかじめ確認し準備しておきましょう。
不動産取引で電子契約を締結する流れ
不動産取引を電子契約で行うためには、いくつか実施しなければならない工程が存在します。特に、重要事項説明をオンラインで行う場合は、事前にその旨の同意を取引先から得ておく必要があるなど、重大な注意点があります。事前に契約の流れをイメージして、実際のフローを構築することが必要です。
1. 重要事項説明をオンラインで行う
宅建士と買主による、対面での読み合わせが必要だった重要事項説明についても、オンラインで実施できるようになりました(厳密には、2013年の「世界最先端IT国家創造宣言(閣議決定)」を受けてから徐々に導入開始)。
オンラインで行う場合、基本的にWeb会議システムなどを用いて行います。ただし、重要事項説明書を実際に見せながら説明する必要があるため、事前に重要事項説明書等を取引先に送りましょう。
相手方がオンラインで対応可能か確認し、重要事項説明書を事前に送付し、全て準備が整った上で実施します。
2. 重要事項説明についての同意を得る
オンラインで重要事項説明を行う場合は、相手方の同意を得る必要があります。原則として紙の書面による同意書の取得が必要です。しかし、IT重要事項説明に関しての実施マニュアルなどでは、登録事業者及び説明の相手方が同意したことについて「証跡が残る方法」であれば、手法を問わずに同意が得られると規定されています。
オンラインで同意を検討する場合、以下のような方法が挙げられます。
- 電子署名を用いて同意書を送信・受信する
- 事業者・説明の相手方の両方が同意書ファイルへの電子署名を行う
- 登録事業者が同意書の内容を記載し,送付したメールに返信する
3. 電子署名をし電子契約を結ぶ
上記までの流れで、オンラインでの重要説明の同意を取得し、準備が完了したら、電子契約サービスを利用して電子契約を結びます。
一般的な不動産契約であれば、契約に関わるのは「売主(または貸主)」「買主(または借主)」「宅建士」の三者です。電子署名を行う場合でも、非対面での契約ではなりすましのリスクがあります。そのため、電子契約サービスなどの機能で、契約当事者が本人かどうかを確認した上で電子署名を行える仕組みを導入しましょう。
リスクに対処しながら、電子契約で業務効率化を
デジタル改革関連法により、不動産契約の多くをオンラインで完結できるようになってきました。導入できれば、手間やコストの面で多くのメリットがありますが、セキュリティの問題など課題も残されています。また、不動産契約の電子化は導入されてから日が浅いため、前例が少なく、実際に導入する場合は工夫しながらフローを構築しなくてはいけません。
導入を検討している企業の方は、電子契約サービスをうまく利用しリスクを低減しながら、実務の中に取り込んでいきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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