• 作成日 : 2024年11月26日

IT業界の契約書作成はなぜ重要か?契約形態や使い分けを解説(ひな形あり)

IT業界において、契約書の作成はプロジェクトの成功と円滑な業務遂行のためにきわめて重要です。適切な契約書を作成することで、トラブルを未然に防ぎ、双方の権利と義務を明確にできます。

本記事では、IT業界特有の契約形態や契約書作成のポイント、さらには各種契約書に含めるべき内容まで詳しく解説します。

IT業界の契約書作成はなぜ重要か?

IT業界では、技術の急速な進歩や複雑なプロジェクト構造、案件の高額化などにより、契約書の重要性が一層高まっています。適切な契約書の作成が重要である理由としては、以下の点が挙げられます。

責任範囲が不明確で起こるトラブルの防止

IT開発プロジェクトでは、発注者と受注者の責任範囲が不明確になりがちです。たとえば、要件定義の変更や追加機能の実装など、プロジェクトの進行に伴って生じる変更点について、誰がどこまで責任を負うのかを明確にしておく必要があります。契約書にこうした点を明記することで、後々のトラブルを防ぐことが可能です。

知的財産権をめぐる争い

ソフトウェア開発やシステム構築において、成果物の知的財産権の帰属は非常に重要な問題です。契約書に知的財産権の帰属や利用許諾の範囲を明確に定めておかないと、後に紛争が生じる可能性があります。特に、オープンソースソフトウェアを使用する場合や、既存のシステムに新機能を追加する場合などは、慎重な取り決めが必要です。

契約形態の誤認による法的リスク

IT業界では、請負契約、準委任契約、労働者派遣契約など、さまざまな契約形態が存在します。実態とは異なる誤った契約形態を適用すると、労働法違反や下請法違反などの法的リスクが否定できません。

実質的には労働者派遣に該当する業務を請負契約として締結した場合、偽装請負として問題になる恐れがあります。

スケジュールの遅延や品質を保つため

IT業界におけるプロジェクトでは、スケジュールの遅延や成果物の品質問題が頻繁に発生します。あらかじめ契約書に納期や品質基準、遅延時のペナルティなどを明確に定めておくことで、こうした問題に対する対応をスムーズに行えるようになります。また、検収条件を明確にすることで、成果物の品質確保にもつながるでしょう。

IT業界の契約書を作成する際のポイント

IT業界の契約書を作成する際は、以下のポイントに注意する必要があります。変更管理プロセスや知的財産についてなど、IT業界で問題が起こりやすい点を紹介しましょう。

業務範囲と成果物を明確にする

IT業界に限ったことではありませんが、何らかのプロジェクトを行うに際しては業務範囲と成果物について、可能な限り細かい部分まで定義することが大切です。要件定義書や機能仕様書などの関連ドキュメントを契約書の一部として組み込み、双方の認識を一致させましょう。

また、成果物の定義には、ソースコード、ドキュメント、テストデータなど、納品物の詳細を明記することが望ましいです。

要件の変更・追加の規程をする

IT業界における開発プロジェクトでは、要件の変更や追加が頻繁に発生します。こうした変更に対応するため、契約書には変更管理についての流れなどを明確に規定する必要があります。

変更要求の提出方法、承認プロセス、費用や納期への影響の評価方法などをF定めておくことで、スムーズな変更管理ができるでしょう。

知的財産権の取り扱い

ソフトウェア開発では、知的財産権の取り扱いも論点になります。契約書には、成果物の著作権や特許権などの知的財産権の帰属先を定めておきましょう。定めがないと、後々トラブルにつながる可能性があります。

また、発注者が成果物を利用する際の条件(複製、改変、第三者への提供など)についても詳細に規定しておくといいでしょう。

セキュリティと機密情報の保護

顧客データなどの機密情報を扱う場合には、セキュリティと機密情報の保護に関する条項は特に重要です。契約書には、情報セキュリティ対策の実施義務、機密情報の定義と取り扱い方法、情報漏洩時の対応などを明記する必要があります。

また、プロジェクト終了後のデータの取り扱いについても、規定しておくとより安心でしょう。

IT業界の主な契約形態

IT業界では、主に請負契約、準委任契約(SES契約)、労働者派遣契約の3つの契約形態が用いられます。それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。

請負契約

請負契約は、受注者が発注者の指示に基づいて仕事を完成させ、その結果に対して報酬を受け取る契約形態です。システム開発やWebサイト制作など、成果物が明確に定義できる業務に適しています。

【請負契約のメリット】

  • 成果物の完成に対して責任を負うため、品質管理がしやすい
  • 作業の進め方や人員配置を受注者が自由に決められる

【請負契約のデメリット】

  • 要件変更への対応が難しい
  • 成果物の完成リスクを受注者が負う

準委任契約(SES契約)

準委任契約は業務委託契約の一種であり、受注者が発注者から依頼された業務を遂行する契約形態ではありますが成果物の完成ではなく、業務の遂行自体が目的になります。

IT業界では、システムエンジニアリングサービス(SES)契約が準委任契約に該当します。SES契約では、特定の業務や役割を担うエンジニアが受注者から発注者に提供され、発注者の元で業務を行います。

【SES契約のメリット】

  • 柔軟な業務内容の変更が可能
  • 実際のプロジェクトの動きに応じて労働力を確保しやすい

【SES契約のデメリット】

  • 成果物の完成を保証しないため、品質管理が難しい
  • 偽装請負のリスクがある

労働者派遣契約

労働者派遣契約は、派遣元が雇用するエンジニアを派遣先の指揮命令下で働かせる契約形態です。SES契約は派遣元からの指示を受けて業務を遂行するのに対し、労働者派遣契約では派遣先の指揮・管理下で業務を行うという違いがあります。

【労働者派遣契約のメリット】

  • 必要な期間だけ人材を確保できる
  • エンジニアは派遣先の指揮命令下で働くため、状況に応じた業務遂行が可能

【労働者派遣契約のデメリット】

  • 派遣期間の制限がある
  • SES契約と同じく成果物の完成保証はない

IT業務の請負契約作成に含めるべき内容

請負契約は特定の成果物を完成させることを目的とした契約形態で、IT業界ではシステム開発やアプリケーション制作などで広く利用されています。

請負契約では、成果物の定義付けが特に重要です。以下で、契約書に含めるべき項目をみていきましょう。

業務内容と成果物に何が含まれるか定義する

成果物は請負契約において契約の核心となる部分であり、発注者が求める成果物と、それを実現するための業務内容を明確に定義します。

システム開発の場合、要件定義書や機能仕様書を参照し、機能要件や性能要件を記載します。また、成果物には、ソースコード、実行可能ファイル、各種ドキュメント、テストデータなどが含まれることを明記しましょう。

プロジェクトの納期と品質確保の条件

プロジェクトの完了時期を明確にするため、納期を定めます。また、成果物の品質を確保するため、検収条件と検収方法を詳細に規定しましょう。

機能テストの合格基準や、性能要件の達成基準などを明記します。検収までの期間や、不具合が見つかった場合の修正作業についての対応についても細かく定めておくことが望ましいでしょう。

知的財産権はどこに帰属するか

成果物について知的財産権がどこへ帰属するかという点も、重視されるべき部分です。この部分では著作権だけでなく特許権等についても言及し、それぞれどこまで利用可能かという点についてもしっかり記載しておくべきでしょう。

後々のトラブルになりやすいポイントでもあるため、契約にあたってはよく話し合い、お互いに共通の認識を持っていることを確認しておくことが求められます。

不具合時にどれくらい修正義務があるか(契約不適合責任)

契約不適合責任についても、詳細を決めておく必要があります。不具合時にはどれくらい修正義務があるか、それによって生じた損害賠償の扱いなどについても事前に合意し、契約書に含めておくことがトラブル回避につながります。

また、この部分でも軽微な不具合か、重大な不具合かによって対応方法を分けておくことがおすすめです。

IT業務の準委任契約作成に含めるべき内容

準委任契約、SES契約では業務内容や役割、稼働時間などの明確な定義が求められます。

業務内容と役割の定義

SES契約などの準委任契約では、特定の成果物ではなく、業務内容と役割を明確に定義します。例を挙げると、「プロジェクトマネージャーとして要件定義から設計までを担当する」といった形で、担当する工程や役割を詳細に記載します。

また、業務遂行に必要なスキルや経験についても、契約書に明記することが望ましいでしょう。

業務期間と稼働時間

業務の開始日と終了日を明確に定めましょう。他方で、稼働時間(例:週5日、1日8時間)や休日や時間外労働の取り扱いについては、注意が必要です。契約内容から見て発注者側の指揮監督下にあると判断されると、実質的に雇用契約(ないしは労働者派遣契約)とみなされ、違法となるリスクがあります。

長期プロジェクトの場合は、契約更新の条件や手続きについても記載します。

業務を行う場所と機材の提供

業務を遂行する場所(発注者のオフィス、受注者のオフィス、リモートワークなど)を明記します。また、業務に必要な機材(PC、ソフトウェアライセンスなど)の提供の有無、提供がある場合は提供者についても契約書に盛り込むべきといえます。

リモートワークの場合は、セキュリティ対策や通信費の負担についても規定しておくようにしましょう。

契約解除の条件

契約期間中の解除条件を定めておきましょう。業務遂行能力が著しく不足している場合や、重大な違反行為があった場合などの解除事由を記載します。また、解除の手続き(事前通知の期間など)についても規定しておくことが重要です。

IT業務の労働者派遣契約作成に含めるべき内容

労働者派遣契約は、就業条件や派遣先の責任、派遣労働者の安全衛生管理などが重視される要素といえます。法令遵守が求められるため、適切な取り決めが必要です。

派遣業務の内容と期間

業務内容や職種を定義し、派遣開始日と終了日を明記します。法令遵守の観点から、派遣可能期間にも十分注意を払う必要があります。

就業条件

就業条件には勤務時間、休憩時間、休日、休暇などが含まれます。労働基準法に準拠しつつ、派遣先の就業規則との整合性も考慮して設定しましょう。また、時間外労働や休日労働の取り扱いについても明確に規定し、派遣労働者の労働条件を保護します。

派遣先の責任と義務

派遣先の責任と義務には、安全衛生管理、ハラスメント防止、個人情報保護などが含まれます。派遣先は派遣労働者に対して適切な就業環境を提供し、必要な教育訓練を行う責任があります。また、派遣元への定期的な就業状況報告も義務のひとつです。

なお、いずれの契約形態においても、機密情報の取り扱いと報酬などの支払条件、損害賠償については共通して重要度の高い項目といえます。秘密保持義務の範囲、情報管理方法、報酬の算定方法、支払いタイミングなどを明確に定めましょう。トラブルを未然に防ぎ、円滑な業務遂行のためのポイントです。

IT業界でよく使用される契約書の種類とひな形

IT業界でよく用いる主な契約書の種類と、ひな形リンクを紹介します。すべて弁護士監修のワード形式の契約書で、基本的な内容になっているためそれぞれの企業に合わせカスタマイズして利用してください。

システム開発委託契約

システム開発を依頼する企業と、開発を請け負うエンジニアが締結する書類で、事前に契約の形態や開発に際しての認識をすり合わせたうえで締結します。

システム保守契約

システムに不具合など発生した場合の対応、修理など保守義務に関する事項についての取り決めを記載した契約書です。

ソフトウェアライセンス契約

業務にあたって必要なソフトウェアの使用権利を許諾するための書類です。

ソフトウェア開発委託契約

システム上で動くアプリやソフトの開発業務を委託する際に使用する契約書です。

マーケティング業務委託契約書

マーケティングを外部に委託する際に使用する契約書です。

ITコンサルティング契約書

IT化に向けた取り組みに関する指導など、ITコンサルを委託する際に使用できる契約書です。

秘密保持契約書(NDA)

IT関連に限らず、幅広い業界・雇用形態で必要な契約であり、自社の秘密情報の取り扱いについて定めた文書です。

必要な契約を正しく締結してトラブルを防ごう

IT業界の契約書作成において、正確な契約形態の選択と詳細な内容の明確化はプロジェクトの成功を左右する重要なポイントです。請負、準委任、派遣契約それぞれの特性を理解し、機密情報の取り扱いや報酬条件を適切に定めることで、予期せぬトラブルを未然に防ぎ、円滑なビジネスの遂行が可能になります。

法的リスクを最小限に抑え、双方にとって有益な関係を構築しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事