- 更新日 : 2022年10月3日
差止請求とは?請求の対象や流れをわかりやすく解説
他人から違法もしくは不当な行為をされている場合、「差止請求」を行うことでその行為を止めさせることができる場合があります 。ご自身の権利や利益を守るために、差止請求の概要や方法を確認しておきましょう。
今回は、差止請求を行うケースや手続きの流れなどをわかりやすく説明します。
目次
差止請求とは?
差止請求とは、他人が違法もしくは不当な行為を行っている、あるいは行うおそれがある場合に、その行為を止めさせるための法的手続のことです。
例えば、拒否したのに何度も自宅に訪れて契約締結を迫る訪問販売業者がいたとします。これは特定商取引法違反の不当な勧誘行為に該当する可能性があり、平穏に暮らす権利を侵害する行為です。裁判所に訴えることで、不当な勧誘行為を止めさせることができます。
差止請求と比べられる用語に、損害賠償請求があります。損害賠償請求とは、他人の行為で権利を侵害された場合や損害を被った場合に、その回復を求めることです。一方で差止請求は、将来生じ得る権利侵害や損害を防ぐために行われます。
どのような時に差止請求をする?
損害賠償請求については民法709条に定められていますが、実は差止請求については明記されていません。ただし各法令に規定があり、それに該当した場合は差止請求を行うことができます。例えば、前述のしつこい勧誘行為は特定商取引法違反に該当する可能性があり、同法に差止請求に関する規定があることで、その不法行為に対して差止請求ができる仕組みになっているのです。
ここからは差止請求ができるケースについて、法令ごとに見ていきましょう。
商法・会社法
商号の不正利用
商法や会社法では、不当な目的をもって他の会社あるいは商人と誤認されるような商号(会社名など)を使用してはならないと定められています。例えば、ある会社が別の会社名を真似したり、消費者が有名企業と誤認するような名称を利用したりすることで、真似された会社の営業上の利益が侵害されるおそれがある場合は、差止請求を行うことができます。
取締役が違法行為や定款に反する行為をしたとき
株式会社の株主は取締役が違法行為や定款に反する行為を行い、それによって会社に著しい損害が生じるおそれがある場合は、その行為を止めるよう差止請求を行うことができます。
株式が違法あるいは不公正な方法で発行されている場合
株式の発行が法律や定款に違反していたり、不公正な方法で行われていたりして、それによって株主が不利益を被るおそれがある場合、株主は会社に対して差止請求を行うことができます。
知的財産法
知的財産権とは著作物や商標、発明などを、それを生み出した者(著作権者など)が独占して利用できる権利のことです。例えば、著作物を無断で使用・複製されて 著作権が侵害された場合は、差止請求によってその行為を止めさせることができます。
知的財産法にはさまざまな種類があり、以下の法律に違反する行為があった場合は差止請求を行うことができます。
- 特許法
- 著作権法
- 実用新案法
- 商標法
- 意匠法
- 種苗法
- 半導体集積回路の回路配置に関する法律
不正競争防止法
不正競争防止法は、不公正な競争の防止と健全な経済発展を目的として作られた法律です。不正競争とは他の商品を模倣する、有名な商品やブランドと混同させるような表示を行う、営業秘密を不正な手段で取得して活用する、ドメインを不正取得するといった行為などのことです。
これらの行為を第三者に行われて、不利益を被るおそれがある場合は差止請求を行うことができます。
独占禁止法
独占禁止法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」で、私的支配(他の事業者を排除して市場を支配し、一定の取引分野の競争を制限するような行為)を禁止しています。私的支配とは、リベートを支払うなどして他社商品を買わせない行為や、競争入札において入札業者同士が話し合って入札価格や受注企業を決める行為(いわゆる談合)、メーカーが小売店に対して価格設定を制限して、それに従わない場合は取引を停止する行為のことです。
独占禁止法違反行為によって不利益を被った場合も、差止請求を行うことができます。
消費者法
消費者法を目的とした法律に反する行為があった場合、消費者は適格消費者団体を通じて差止請求を行うことができます。
消費者契約法は、消費者と事業者が契約を締結する際のルールを定めた法律です。例えば、重要事項を告知せずに契約を締結する、断定的判断(確実でないものを確実であるように誤認させること)の提供、消費者の自宅や勤務先に事業者が居座る、店舗や事業所等から消費者が帰ることを妨害するといった行為が規制されています。
特定商取引法は、特定の商取引(訪問販売・通信販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供・業務提供誘引販売取引・訪問購入)を規制する法律です。誇大広告や嘘の説明によって契約させる、事前に勧誘であることを告げずに勧誘する、消費者を威圧して契約をさせる行為などが挙げられます。
景品表示法は商品・サービスの品質や価格、内容などの表示について定めた法律です。優良誤認(実際の商品やサービスよりも品質が優れているように思わせる)や有利誤認(実際の契約内容よりも有利であると誤認させる)を招く表示や虚偽の表示を規制しています。
食品表示法とは食品に関する表示が食品を接種する際の安全性の確保および消費者が自主的かつ合理的に食品を選択する機会を確保することを目的に、販売される食品に関する表示について定められた法律です。名称や産地、消費期限、原材料、添加物、栄養成分の量および熱量などの表示について定められています。
その他
その他にも、ある行為によって人格権や環境権が侵害されていると裁判所が判断した場合は、差止請求が認められることがあります。人格権とは、個人の人格的利益を守るための権利のことです。名誉毀損やプライバシーの侵害などは、人格権侵害の代表例です。
環境権とは、良好な環境の中で生活を営む権利のことです。騒音や悪臭、空気汚染、水質汚染などの公害を発生させて他人の平穏な生活や健康的な生活を妨げた場合は、環境権の侵害に該当することがあります。
差止請求の流れ
ここからは差止請求の具体的な手続きの流れについて見ていきましょう。
書面による請求
まずは、文書によって不当行為や違法行為を止めるよう相手方に請求します。ただし、これは必須ではありません。口頭による請求も可能です。
訴えを提起
文書で請求を行っても当該行為を止めない場合は裁判所に仮処分を申し立て、その上で訴訟を提起します。
審理
提起内容に基づいて、裁判所で審理が行われます。
判決
裁判官が判決を下し、相手方に当該行為を止めるよう命令します。
強制執行
相手方が判決を無視して当該行為を止めない場合は、裁判所の協力を得て強制的に行為を止めさせる手続きを行います。
適格消費者団体が行う差止請求
日常生活において多いのが、いわゆる「消費者トラブル」です。前述のとおり、セールスマンからしつこく勧誘される、契約締結を迫られる、誇大広告に釣られて商品を購入してしまうといったトラブルが相次いでいます。
トラブルに巻き込まれた消費者の代わりに、適格消費者団体と呼ばれる団体が差止請求を行うこともあります。
適格消費者団体とは
消費者団体は消費者の代表として権利を守り、消費者の権利が侵害された場合に回復を目指すことを目的として結成された団体です。適格消費者団体は消費者トラブルによって損害を被った被害者たちの代わりに訴訟を行うことができる消費者団体で、内閣総理大臣の認定を受けています。前述のような消費者トラブルが発生した場合は、適格消費者団体が消費者に代わって差止請求を行います。
一般人が訴訟を提起し、事業者の不当行為や違法行為を止めさせるのは容易ではありませんし、他にも同じような権利侵害や損害を被っている消費者がいる可能性があります。特定適格消費者団体が差止請求を行うことで、当該消費者の権利を回復し、不特定多数の消費者の利益を守ることにつながります。
適格消費者団体が差止請求を行う対象
適格消費者団体は消費者契約法・特定商取引法・景品表示法・食品表示法に反する行為があった場合、事業者に対して差止請求を行います。
例えば、しつこい勧誘を受けた、強引に契約を迫られた、虚偽・誇大広告・優良誤認表示・有利誤認表示によって商品・サービスを買ってしまった、不当な手段で契約を締結させられた、といったケースです。
自分の権利を守るために、差止請求について知っておきましょう
第三者が違法行為や不法行為を行い、それによって自分の権利や利益が侵害された場合は、差止請求を行って当該行為を止めさせることができる場合があります 。ご自身を守るためにも、差止請求の概要や方法を確認しておくことをおすすめします。
消費者トラブルに巻き込まれた場合は、適格消費者団体が差止請求を行ってくれます。困ったことがあれば、相談してみるとよいでしょう。
よくある質問
差止請求とは何ですか?
第三者の不当行為や違法行為を止めさせるための法的手続 です。書面による請求を行い、それでも止めなければ裁判所に仮処分を申し立て、訴訟を提起します。詳しくはこちらをご覧ください。
差止請求はどのような場合に行いますか?
第三者の不当行為や違法行為によって、自分の権利や利益が侵害された場合に行います。消費者トラブルの場合は、適格消費者団体が消費者に代わって差止請求を行うこともあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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