- 更新日 : 2023年9月8日
2022年施行の特許法改正のポイントは?業務への影響も解説
自社の独自技術やサービスを他社に真似されたり、無断で使用されたりしないために、特許権や商標権などで保護することができます。特許権に関わる特許法は、時代の変化に合わせて定期的に改正されています。今回は、2022年に施行された改正特許法等の施行日や内容を紹介します。
目次
2022年に施行された改正特許法とは?
令和3年(2021年)5月14日、改正特許法(正式名称「特許法等の一部を改正する法律」)が国会で可決・成立し、同月21日に公布されました。改正前に発生していた課題を解決するため、現代社会の動向を盛り込んだ内容になっています。まずは、改正の背景と施行日についてお伝えします。
改正の背景
改正の目的・背景として、経済産業省は以下の3点を挙げています。
1. 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続きの整備
2. デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
3. 訴訟手続きや料金体系の見直し等の知的財産制度の基盤の強化
詳細は次の「改正の重要ポイント」で説明しますが、特に新型コロナウイルスの感染拡大への対応と権利保護の見直しについては、現代社会の変化に合わせた改正内容といえます。
特許法は2年前の令和元年(2019年)にも改正されており、1990年代に入ってからは1~3年ほどのスパンで改正が行われています。社会や企業活動の変化に対応する必要のある特許法・意匠法・商標法などの法律は、短いスパンで改正されることがあります。
今後も、その時々の社会・経済・企業活動の変化や大きなイベントに合わせて、特許法は改正されていくでしょう。
施行日
今回の改正特許法の多くの項目についての施行日は、令和4年(2022年)4月1日です。
「審判の口頭審理をオンラインで実施する」「特許料等の支払い方法として、銀行振込等による予納を可能とする」など、一部の新型コロナウイルス対応項目については、令和3年(2021年)10月1日に前倒しで施行されました。
改正の重要ポイント
先に挙げた3つの目的・背景に沿って、今回の改正案における重要なポイントを見ていきます。「特許法等」とあるとおり、今回は特許法だけではなく意匠法、商標法、実用新案法、弁理士法など全部で7つの法律が改正されました。ここでは、特許法の改正内容を中心に取り上げます。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けた手続き整備
特許法の範囲内では、主な変更点として以下の2点が挙げられます。
- 審判の口頭審理等のオンライン化を可能に
- 感染症拡大や災害等によって特許料納付期間を経過した際の救済措置(割増特許料の納付免除規定の新設)
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ビジネスや消費者向けサービス、接客、飲食など、対面でのコミュニケーションを減らす取り組みが社会のあらゆる領域で行われるようになりました。今回の特許法改正は、そのような変化を受けた手続きの整備といえます。
例えば、審判手続における口頭審理は、これまで審判廷に当事者が出頭する形で行われていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、非接触型で「密」を避ける形の生活様式が浸透する中、対面方式のみの審判は難しいといえます。
また、企業活動がパンデミックの影響を受ける中で、所定の期間内に特許料を納付できない企業が増えたことが推測されます。今回の特許法改正では、これらの課題の解決が大きな目的の一つとなっています。
企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
デジタル技術の進展を受けて、特許権のライセンス形態が複雑化したことへの対応策が特許法の改正案として盛り込まれました。
特許権が成立した後でも、過去の発明と類似しているなどの理由で無効の申し立てを受け、その対応を迫られることがあります。その場合は特許権者は権利範囲を変更・縮小するなどの形で特許権を訂正・放棄することになりますが、従来は特許権者から特許ライセンスをすでに受けている(通常実施権者である)ライセンシーの承諾を得る必要がありました。
しかしながら、当然特許権者(ライセンサー)にとってライセンシーの承諾を得る義務があるのは大きな負担です。そこで、今回の改正ではライセンシーの承諾要件が撤廃されることになりました。
特許法以外では、意匠法や商標法に関連する模倣品対策が加わりました。海外事業者が模倣品を国内に持ち込む(事業者による「輸入」だけでなく個人使用目的の持ち込みを含む)と、商標権等の侵害と見なされるようになりました。
知的財産制度の基盤強化
特許法の主な変更点は以下の2点です。
- 特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
- 特許料等の料金体系見直し(引き上げ)
特許権侵害訴訟の結果は、訴訟の当事者のみならず、他の業界に対しても、その事業活動に対して多大な影響を与える可能性があります。また、当事者にとって、他の業界の事業実態などに関する証拠収集が困難なときがあります。そのため、当事者の申し立てがあれば、裁判所が必要と認めるときにかぎり、広く一般の第三者に対して意見募集を行うことができるようになります。
特許料等の料金体系見直しは、特許特別会計の収支悪化への対応と考えられます。審査負担の増大や手続きのデジタル化等による利用者の利便性向上のために、料金体系の見直しがされました。
本改正の影響を受ける企業
それでは、今回の改正の影響を受けるのはどのような企業でしょうか。次項で見ていきましょう。
知的財産権関連の出願を行う全企業
新型コロナウイルスの対応策については、知的財産権関連の出願を行う多くの企業が影響を受け得ることになります。審判手続きのオンライン化は、審判に関わる多くの企業に影響を及ぼします。
特許料納付期間経過後の割増特許料免除規定も、多くの出願企業に影響します。もちろん、パンデミックによって全ての企業が所定期間内に特許料を納付できなくなったわけではありませんが、企業活動の制約や緊急事態宣言、まん延防止等重点措置などによって納付作業が遅延する可能性はどの企業にもあります。特許料等の金額見直しもまた、多くの企業に影響します。以下の表のとおり、全体的に値上げとなる予定です。
改定前 | 改定後 | |
---|---|---|
第1年から第3年 | 毎年2,100円+請求項の数×200円 | 毎年4,300円+請求項の数×300円 |
第4年から第6年 | 毎年6,400円+請求項の数×500円 | 毎年1万300円+請求項の数×800円 |
第7年から第9年 | 毎年1万9,300円+請求項の数×1,500円 | 毎年2万4,800円+請求項の数×1,900円 |
第10年から第25年 | 毎年5万5,400円+請求項の数×4,300円 | 毎年5万9,400円+請求項の数×4,600円 |
参考:令和3年特許法等改正に伴う料金改定のお知らせ | 特許庁
海外からの模倣品被害を受ける企業
厳密には特許法ではありませんが、意匠法・商標法の改正によって海外からの模倣品持ち込みが権利の侵害として位置づけられたことにより、海外からの模倣品被害に苦しむ企業が差止めや損害賠償請求などの対策がとりやすくなります。また、税関における水際差止めが増えることも予想されます。
もともと事業者による輸入は違法でしたが、これを「個人の私的利用のために持ち込んだ」と見せかけることによる事実上の模倣品輸入が絶えませんでした。ECサイト経由の個人輸入が増加していることを踏まえると、現行法では権利保護に大きな課題があったのです。しかし、今回の法改正によって、このような模倣品被害を解決することが期待されます。
特許ライセンス契約に関わる企業
訂正手続きにおける通常実施権者の承諾要件撤廃は、特許ライセンス契約を締結する企業、特に特許権を有する企業に大きな影響を及ぼします。
特許権を取得した後も、競合企業や取引先企業などから「無効である」との主張を受け、対応を迫られることがあります。特許権の範囲を変更して対応するとしても、従来はそのライセンス契約を締結する相手方に訂正の承諾を得る必要がありましたが、承諾撤廃という形で訂正手続きが簡素化されたことで、特許権の範囲縮小などの対応が行いやすくなりました。
改正による業務への影響は?
特許法の改正により、知的財産権関連の審判手続きがオンライン化されます。出願の手間・時間が軽減されるため、ほかの業務に時間を充てられるようになるでしょう。
また、模倣品の販売や輸入がより厳しく規制されることで、正規品に対するニーズが増え、販売数が増加することも期待できます。店舗やスタッフの増加が必要になるかもしれません。
しかし、その一方で、特許権を有する商品・サービスの優位性が減る可能性があります。特許権を取得してPRするだけでは継続する競争力を獲得できなくなり、新しい商品・サービスの開発サイクルを早める必要性が生じるかもしれません。
令和元年の改正特許法とは?
前述のとおり、特許法は数年に一度の頻度で改正されてきました。最後に、前回の令和元年(2019年)の特許法改正における査証制度の創設と、損害賠償額見直しについて解説します。
中立的な専門家による査証制度の創設
査証制度は、中立的な立場の専門家が特許権を侵害していると疑われる相手方の工場などに立ち入り、必要な調査を行って裁判所へ報告書を提出するというものです。令和元年の特許法改正によって、一定の要件を満たせば査証制度を利用できることになりました。
特許はモノではなく公開されている情報なので、物理的に盗む必要がありません。また、侵害の証拠は侵害者側が握っており、被害者側は容易に立証できません。刑事事件のように起訴が行われるものでもないため、侵害を抑止しにくいといった特殊性もあります。査証制度は、特に侵害立証の難しさを解決する手段として導入されました。
損害賠償額算定方法の見直し
損害賠償額のうち、特に「ライセンス料相当額」についての見直しが行われました。これは、特許権の侵害者が得た利益のうち、特許権者の生産能力を超えるとして賠償が否定されていた部分です。
中小企業やベンチャー企業のように規模の小さい企業の生産・販売能力は、それほど大きくありません。場合によっては、はるかに大きな生産・販売能力を持つ企業が特許侵害品を販売し、莫大な利益を得る可能性があります。この改正によって、権利者の生産・販売能力を超える部分のうちライセンス料に相当する部分も、損害賠償額に組み込まれることになりました。
特許法の改正については定期的に経産省の情報を確認しよう
令和3年(2021年)の改正によって、特許法は新型コロナウイルスの感染拡大や特許権訂正手続きの簡素化など、社会や企業活動の変化に対応する形でアップデートされました。意匠法・商標法などの改正によって、海外からの模倣品被害の解決も期待されます。
今後も2~3年に一度の頻度で特許法等が改正される可能性が高いので、特許関連の業務に携わる方は、定期的に経済産業省や特許庁の動きを確認するようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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