- 作成日 : 2022年10月28日
住宅瑕疵担保履行法とは?適用範囲や対象者を解説
マイホームという非常に大きな買い物には、大きなリスクが伴います。取引金額自体が大きいだけでなく、住宅に欠陥があると修補にも莫大な費用がかかることがあるからです。このような消費者のリスクを軽減するためにあるのが、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」です。
この記事では、この法律では具体的にどのようなルールが設けられており、どのような仕組みでリスクを軽減しているのかについて解説します。
目次
住宅瑕疵担保履行法とは?
「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(以下、「住宅瑕疵担保履行法」といいます。)」は、住宅の瑕疵を防ぎ国民の生活基盤を支えるため、瑕疵担保(かしたんぽ)責任の履行等について定めた法律です。
住宅を供給する事業者は住宅の欠陥について責任を負いますが、その事業者が倒産するなどして修補等の対応ができなくなると、住宅を購入した人が多額の費用を負担することになります。このような事態を防ぐためにあるのが、住宅瑕疵担保履行法です。
住宅瑕疵担保履行法が適用される住宅は?
住宅瑕疵担保履行法が適用されれば、住宅に瑕疵があったとしてもその修補等にかかるコストが軽減されます。ただし、すべての不動産に同法が適用されるわけではありません。適用を受けるのは、新築住宅に限られます。
そのため、同法が指す新築住宅の定義を知っておく必要があります。
住宅瑕疵担保履行法では「住宅」および「新築住宅」について、その定義をするにあたり住宅品質確保法の規定を流用しており、住宅品質確保法では以下のように規定しています。
第二条 この法律において「住宅」とは、人の居住の用に供する家屋又は家屋の部分(人の居住の用以外の用に供する家屋の部分との共用に供する部分を含む。)をいう。
2 この法律において「新築住宅」とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して一年を経過したものを除く。)をいう。
この規定によると、まず住宅については「人が住むための家屋や家屋の部分」としています。そのため戸建の住宅のみならず、マンションや賃貸住宅なども住宅にあたります。これに対し、例えば倉庫や事務所は人が住むために供されるものではないため、住宅には該当しません。
新築住宅の定義のポイントは「建設工事の完了から1年以内」「人がまだ住んだことがない」の2点です。これらを満たすことで、同法による保護を受けることができます。
建設から1年以内であっても、一度でも人が居住したことがある物件は、「新築住宅」に該当しないことから、住宅瑕疵担保履行法の保護対象外ということです。
住宅瑕疵担保責任の範囲は?
住宅瑕疵担保履行法では、住宅瑕疵担保責任を負う物理的範囲を「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」としています。
それぞれの具体例は以下のとおりです。
- 構造耐力上主要な部分
- 基礎
- 基礎ぐい
- 壁
- 柱
- 小屋組
- 土台
- 斜材
- 床版 など
- 雨水の浸入を防止する部分
- 屋根や外壁の仕上げ、下地など
- 屋根や外壁の開口部に設ける戸・枠その他の建具(サッシなど)
- 雨水を排除するため設ける排水管のうち、屋根や外壁の内部または屋内にある部分
資力確保の義務を負う対象者は?
住宅瑕疵担保責任を負い、後述の資力確保をしなければならないのは「新築住宅の建設をする建設業者」と「新築住宅の売主となる宅地建物取引業者」です。
ただし発注者が宅建業者であり、宅建業者がその新築住宅の引渡しを受ける場合、引渡す建設業者に資力確保の義務は課されません。
パターンに分けると以下のようになります。
注文住宅の場合 | 分譲住宅の場合 | 賃貸住宅を新築する場合 | |
---|---|---|---|
資力確保の義務を負う者 | 請負人である 建設業者 | 売主である 宅建業者 | 請負人である 建設業者 |
資力確保の義務が生じないケース | 発注者が宅建業者のとき | 買主が宅建業者のとき | 賃貸人・発注者が宅建業者のとき |
資力確保はどう行う?
住宅瑕疵担保履行法によって新築住宅取得者が保護されるには、事業者が資力確保を行う必要があります。資力確保は、事業者が「保険」または「供託」によって行います。
保証金の供託
供託によって資力確保を行う場合は、事業者が一定の額を保証金としてあらかじめ法務局等の供託所に預け置きます。
瑕疵が発見された場合は、住宅購入者等はまず売主等に対し補償請求などを行うことになります。売主等がすでに倒産しているなどの理由で補償を受けられない場合、住宅購入者等は供託所に対し還付請求を行います。あらかじめ売主等から供託されていた保証金から還付を受けることができるため、住宅購入者等の負担は軽減されます。
保険に加入
保険への加入によって資力確保を図る場合は、個々の住宅について保険契約を締結することになり、瑕疵による損害が発生した場合は保険金が支払われることで住宅購入者等が救済されます。
売主等は、事前に国土交通大臣による指定を受けた住宅瑕疵担保責任保険法人に対し、保険料を支払います。瑕疵を発見したものの売主等の倒産などによりその補償が実行されない場合は、住宅購入者等は直接保険法人に保険金を請求し」、その支払を受けることで修補等の負担をカバーすることになります。
住宅瑕疵担保履行法により安全な新築住宅の取引が図られている
「建設後のリスクはすべて住宅購入者が負う」とすると、住宅を購入することをためらう人が増えるでしょう。しかし住宅瑕疵担保履行法があるため、安心して新築住宅を購入することができるのです。
消費者側は同法で保護される範囲をよく確認し、引渡しを行う事業者はどのような義務を課されているのかをよく確認しておくことが大切です。
よくある質問
住宅瑕疵担保履行法とはどのような法律ですか?
住宅瑕疵担保履行法は、新築住宅を引渡す事業者が資力確保を行うことで、瑕疵担保に関する責任の履行確保を図る法律です。詳しくはこちらをご覧ください。
住宅瑕疵担保履行法が適用されるのはどのような住宅ですか?
同法が適用されるのは住宅品質確保法で定義される新築住宅で、建設工事完了から1年以内かつ誰も居住したことがない住宅です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
下請法とは?対象かどうか判断する条件や親事業者の禁止事項などをわかりやすく解説
下請法は、規模が大きい事業者が、規模が小さい事業者に業務を委託する際、立場の弱い、規模が小さい事業者を不当な扱いから守るために制定されました。資本金区分を満たす、物品の製造や修理など4つの取引を適用対象とし、親事業者に遵守すべき義務と禁止事…
詳しくみる情報流通プラットフォーム対処法とは?法改正のポイントと具体的な実務対策
情報流通プラットフォーム対処法は、従来のプロバイダ責任制限法を改正し、インターネット上の誹謗中傷など違法・有害情報への対策を強化した法律です。特に利用者が多い大規模プラットフォーム事業者に対し、権利侵害情報への迅速な対応や削除判断プロセスの…
詳しくみる労働法とは?概要や事業者が気をつけるべき点をわかりやすく解説
労働法とは、労働基準法や労働組合法、男女雇用機会均等法などの働くことに関する法律の総称です。労働者を保護し、労働者の権利を守るために定められています。 働法にはどのような種類があるのか、また、使用者や労働者は何に注意すべきかまとめました。労…
詳しくみる新たな加工食品の原料原産地表示制度とは?改正内容や注意点を紹介
2022年4月1日から、新たな加工食品の原料原産地表示制度が全面施行されました。対象となる加工食品の販売事業者は、新表示制度に準拠した原料原産地の表示を行う必要があります。本記事では、新たな加工食品の原料原産地表示制度の改正内容や注意点など…
詳しくみる個人情報保護法をわかりやすく解説!具体例、違反した場合の罰則、改正内容など
個人情報保護法は、個人情報を取り扱う際のルールを定めた法律です。企業は法律に基づいて個人情報を適正に取り扱う必要がありますが、具体的な内容や度重なる法改正についていけない方も多いのではないでしょうか。 本記事では、個人情報保護法の基本ルール…
詳しくみる努力義務とは?法的な意味や罰則、事業者に求められる対応を解説
努力義務という言葉は「~するよう努めなければならない」という意味を表します。法律上「~しないといけない」などと表現される義務規定とは異なり、必ずしも従う必要はないルールなどでこの表現が使われます。では実際に法律で規定されている努力義務とはど…
詳しくみる