• 作成日 : 2025年1月31日

債務不履行とは?成立要件や損害賠償請求の方法、時効などをわかりやすく解説

債務不履行とは、契約上の義務が果たされないことを指します。ただし、債務不履行が成立するには要件があるため、注意が必要です。

本記事では、債務不履行の概要や債務不履行の種類、債務不履行が成立する要件などについて解説します。債務不履行による損害賠償が認められた裁判例も紹介するので、企業法務担当者の方はぜひ参考にしてください。

債務不履行とは

債務不履行とは、契約で約束した義務が果たされないことをいいます。たとえば、お金を返す約束をしていたのに、約束どおりにお金を返さなかった場合などを考えると理解しやすいでしょう。

ここでは、債務不履行の意味や不法行為との違いなどについて解説します。

債務不履行の意味

債務不履行について理解する前に、債務という言葉について解説します。債務とは、特定の人物(債権者)に対して、物や金銭など何らかの行為を提供する法的義務を追うことです。つまり、債務不履行とは、負っている義務を実行しない/果たさないことになります。なお、債務を負っている人物は債務者です。

債務不履行とは、契約上の義務が果たされなかったことで、具体的には次のようなケースが債務不履行に該当します。

  • お金を返す契約で借りたにもかかわらず、お金を返さない
  • 請け負った仕事を完了したにもかかわらず、その報酬が支払われない

債務不履行の読み方

債務不履行は、「さいむふりこう」と読みます。債務不履行は英語の「default」(デフォルト)の日本語訳です。

債務不履行と不法行為の違い

債務不履行と似た言葉に、不法行為という言葉があります。債務不履行と不法行為は法律上、明確な違いがあるため注意しましょう。

民法によると、不法行為とは他人の権利または法律上保護される利益を故意、または過失によって侵害することです。不法行為が認められる場合には、損害賠償請求などの対応が取られます。

それぞれの違いは、債務者と債権者の関係性がすでに成立しているかどうかという点です。前述したように、債務不履行はすでに債権者と債務者という関係が成立している場合に発生するもので、不法行為はそのような関係がない場合でも成立するものと考えると理解しやすいでしょう。

たとえば、歩行者を脇見運転ではねてケガさせた事故を起こしたとします。この場合、運転中に脇見をしてしまったことは過失に該当しますが、債務不履行ではありません。

ドライバーは事故を起こさないように安全運転を心がける義務がありますが、この被害者に対して負っている義務ではなく、車を運転するうえで負う一般的な義務です。そのため、債務とは言えません。

したがって、このケースでは債務不履行ではなく不法行為と考えることになります。

参考:e-GOV法令検索 民法

債券の債務不履行(デフォルト)とは

債券の債務不履行(デフォルト)とは、債券の償還や元利払いなどができなくなる状態を指します。つまり、債務者が故意または過失によって債務を履行しないことです。

債務不履行の種類

債務不履行には、履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類があります。ここでは、各債務不履行の種類について解説します。

履行不能

履行不能とは、契約の履行ができなくなった状態のことを指します。たとえば、特定物である商品に注文が入ったため引き渡す予定だったものの、その商品がなくなったことによって引き渡しができなくなった場合が該当します。

履行遅滞

履行遅滞とは、契約時に取り決めた期日までに義務が果たされない状況のことです。たとえば、お金を借りたものの期日までに返済しなかった場合や、注文のあった商品を期日までに納品しなかった場合などが該当します。

なお、履行遅滞には2種類あります。

  • 確定期限:契約の時点で期限が定められているもの
  • 不確定期限:将来発生することは確実だが明確な日時が定かではないもの

不確定期限の例としては、遺言が挙げられます。遺言は遺言者が死亡したあとに有効になりますが、いつ亡くなるかは不明なため不確定期限です。

不完全履行

不完全履行とは、一部分の契約内容だけが履行されていたり、履行内容が不完全だったりすることです。たとえば、引き渡した商品が不良品だった場合や商品が違っていた場合などが該当します。

債務不履行が成立する要件

債務不履行によって損害を負わせた場合、債権者から損害賠償を請求される可能性があります。債務不履行が成立する要件は、次の3つです。トラブルに巻き込まれないように、あらかじめ理解しておきましょう。

  • 当事者間で契約が締結されている
  • 債務者が債務を履行しない
  • 債務不履行により債権者に損害が発生したこと及びその額

債務不履行が成立するためには、当事者間で契約が成立している必要があります。当事者間で約束がないと債務は発生しないためです。

また、債務者が債務を履行しない場合であることもポイントです。債務の履行がなされていれば、損害が発生したとはいえないでしょう。なお、履行しない状態は、前述した不完全履行、履行遅滞、履行不能のいずれの場合でも該当します。

そして、債務不履行によって債権者に損害が生じたということも重要な条件です。つまり、債務不履行と損害発生の間に因果関係が必要であるということです。

なお、債務不履行が債務者の責に帰することができない事由によるものであることを債務者が主張立証した場合、損害賠償責任を免責されます。

債務不履行の対応方法

相手が債務不履行の場合の対応方法は次の4つです。

  • 履行を請求する
  • 損害賠償を請求する
  • 契約を解除する
  • 強制執行を行う

それぞれ詳しく見ていきましょう。

履行を請求する

債務不履行の場合は、再度履行を請求しましょう。たとえば、以下のようなことが挙げられます。

  • 納品物の種類が違う → 交換を求める
  • 納品物が壊れている → 修理を求める
  • 納品数が不足している → 不足分の送付を求める

損害賠償を請求する

債務不履行によって損害が生じたのであれば、債務者に対して損害賠償を請求できます。実際の損害額を計算し、債務者に対して内容証明郵便等で請求書を送付しましょう。

契約を解除する

契約を解除することも手段のひとつです。履行遅滞や不完全履行による債務不履行が発生したあと、債務者に履行の催告をしたものの、相当の期間内に履行されない場合には契約解除が可能です。

強制執行を行う

債務者が損害賠償や履行の請求などに応じない場合は、債務名義を取得したうえで裁判所に強制執行を申し立てる方法もあります。債務名義とは、強制執行によって実現されるべき債権の存在、範囲を公的に証明した文書のことです。例えば確定判決などがあります。

強制執行が開始されれば、債務者の財産を差し押さえたうえで換価し、債務の弁済に充てられます。

債務不履行による損害賠償が認められた裁判例

債務不履行による損害賠償が認められた裁判例を2つ紹介します。

自動車修理会社の従業員が預かった車両を損傷させたケース

自動車の修理会社の従業員が、修理をするために預かっていた車両を誤って損傷させたケースです。誤って車両を損傷させた場合は修理契約の債務不履行に当たるため、車両所有者が修理会社に対して債務不履行に基づく損害賠償の請求をしました。

この裁判では、車両を誤って損傷させたことで車両が修復歴のある車(事故車)扱いとなり、自動車の価値に損害が生じたとして、自動車の価値の減少分に対して損害賠償を命じました。

無断欠勤した派遣社員の欠員補充を派遣先が費用負担して行ったケース

無断欠勤した派遣社員の補充のために、派遣先が負担した費用の賠償を派遣会社に求めたケースです。この裁判では、派遣会社に対して債務不履行による損害賠償として、派遣先が出費した額の3割相当額の賠償を命じました。

この判例では、派遣社員の無断欠勤は派遣会社の債務不履行に該当するものの、派遣先にも派遣社員に仕事を任せきりにしたり、指導・監督を怠ったりしたことに落ち度があるとして、3割の賠償に収まっています。

債務不履行責任を追及する場合の注意点

債務不履行責任を追及する場合の注意点を紹介します。主な注意点は次の2つです。

  • 債務不履行に基づく損害賠償請求権には時効がある
  • 債務不履行による損害額を明確に証明する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

債務不履行に基づく損害賠償請求権には時効がある

債務不履行に基づく損害賠償請求権には時効があることを理解しておきましょう。債権や損害賠償請求権は、権利を行使できると知ってから5年間、または権利を行使できるときから10年間行使しない場合、消滅時効にかかります。

債務不履行による損害額を明確に証明する

損害賠償を請求する際には、相手の債務不履行によってどのような損害が生じたのかを、証拠で明らかにする必要があります。債務不履行で費用が発生した場合には、その領収書を保管するなど、証拠資料を残すようにしましょう。

債務不履行の成立要件を正しく理解しよう

債務不履行が成立するには、当事者間で契約が締結されていることや債務者が債務を履行しないこと、債務不履行により債権者に損害が発生していること及びその額など、3つの要件があります。

また、相手が債務不履行の場合の対応方法は、履行の請求や損害賠償の請求など4つです。ただし、債務不履行責任を追及するうえでは、時効や損害額を明確に証明するなど、注意点も存在します。

債務不履行について正しい知識を身につけ、しっかりと対応しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事