- 作成日 : 2025年1月30日
時効の援用を内容証明で送るには?書き方、郵送方法をひな形つきで解説
時効の援用は、消滅時効が成立した債務を免れるために行う手続きのことです。ここでは、事業者の方に向けて消滅時効や時効の援用について解説し、実務上重要となる内容証明郵便を使った手続きなどについても紹介します。適切な通知書の書き方についても取り上げていますので、ぜひご一読ください。
目次
時効の援用とは?
時効の援用(じこうのえんよう)とは、「一定期間の経過により権利が消滅したことを主張する行為」を指しています。
債権者からの請求が一定期間行われなかったなどの場合には、債務者は民法に基づいて、その権利の消滅を主張することが可能です。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
金銭の支払いを求める権利など一般的な債権については、「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間」と「権利を行使することができる時から十年間」のいずれか早い方で消滅時効が完成します。
ただし、時効期間が経過しただけで権利が自動的に消滅するのではなく、当事者がその旨を「援用」する意思表示が求められる点に注意が必要です。
時効の援用を通知するケース
どのようなケースで事業者が時効の援用を行うのか、以下に具体的な状況をいくつか挙げて説明します。これらのケースでは、事業者は請求書や契約書の内容を確認し、最終的な支払期日から一定期間(通常5年)が経過しているかどうかを確認することが重要です。
商品納入後の未払金請求
例)ある卸売業者が小売業者に対して商品を納入した際、30日以内の支払いが合意されていた。しかし、小売業者はさまざまな理由により支払いを行わず、そのまま数年が経過。その後、卸売業者は小売業者に対して請求を行ったが、小売業者は時効の援用を主張して支払いを拒んだ。
サービス提供後の契約金未払い
例)あるコンサル会社が、クライアントに対してサービスを提供した後に請求書を送付したものの、クライアントは支払いを行わなかった。そのまま年月が経過して時効が完成。コンサル会社に対し時効の援用の通知を行うことで、権利を消滅させられる。
業務委託契約に基づく報酬の未払い
例)フリーランスとして働くデザイナーが、クライアントから依頼されたデザイン制作を完了させてから請求書を発行した。しかし、クライアントは支払いを怠り、そのまま年月が経過して時効が完成。その後、フリーランス側が請求を再度行ったが、クライアントは時効の援用を通知することで請求権の消滅を主張できる。
時効の援用通知書のひな形・例文
時効の援用をするには、相手方にその意思を伝えなくてはなりません。そのときの通知書として使えるひな形をこちらに用意しましたので、作成時の参考にしてください。
時効の援用通知書に記載すべき内容や書き方
時効の援用をするための通知書の書き方に決まりはありません。もともと援用は口頭でもよく、それを形に残すための通知書ですので、要点さえ押さえておけば自由な形式で作成できます。
作成時のポイントは、以下で紹介する「債権の特定」と「時効援用の意思表示」です。これらに加えて、作成日も記載しておきましょう。
債権の特定
時効の援用通知書では、どの債権に対して時効の援用を行うかを明確にしなければなりません。具体的には以下の情報を記載します。
- 債権者の情報・・・債権者が法人の場合は名称・代表者名・住所を、個人の場合は氏名と住所を記載する
- 債務者の情報・・・自分自身(債務者)の氏名・生年月日・住所を記載する
- 契約内容・・・契約日・契約金額・最終支払日などを具体的に記載、契約番号などもあれば記載する
- 証拠資料・・・契約書や請求書など、関連する証拠資料についても言及するとよい
特に、同じ債権者と複数の契約を交わしているケースでは、どの契約について時効を主張しているのかを明確にすることが重要です。
時効援用の意思表示
通知書には「時効の援用を行う」という明確な意思表示も必要です。具体的には、次のような文言を書き加えておくとよいでしょう。
・・・令和●年〇月〇日の経過により、民法166条規定の消滅時効が既に成立しております。したがいまして、当方は上記消滅時効を援用し、貴社の前記債権の支払い請求を拒絶させていただきます。
法律の条項を引用して法的根拠を強調することも効果的です。
時効の援用通知書を作成する際の注意点
時効の援用に関してよくあるトラブルとしては、「時効が成立していなかったケース」や「通知書の内容に不備があるケース」などが挙げられます。たとえば、知らない間に債権者から訴訟を起こされていたり、過去に一部でも支払いを行っていたりした場合には、時効の更新または時効の完成の猶予が起こっていることもあるのです。
そこで、通知書を送付する前に、必ず時効が確実に成立しているか確認してください。一般的に時効期間は5年または10年ですが、併せて時効の起算日や更新事由の有無なども把握しておく必要があります。弁護士にも相談しながら確認作業を進めていきましょう。
時効の援用通知書は内容証明郵便を利用
内容証明郵便は、文書の内容や発送日を郵便局が証明するサービスであり、法的な手続きや重要な通知を行う際によく使われる手段です。訴訟トラブルに発展する可能性も考慮し、時効の援用を通知する際には内容証明郵便を活用しましょう。
訴訟にまで発展しない場合であっても、普通郵便で通知書を送付するより、内容証明を使った方が相手方に本気度を伝えることができます。通知書を無視されるリスクを小さくできますので、内容証明郵便での送付がおすすめです。
なお、内容証明郵便を利用するときは、封筒に受取人の住所・氏名と差出人の情報を記載し、封筒内の文書と一致させる必要があります。また、文字数や行数などの書式にもルールがあるため注意してください。
時効の援用通知書の保管期間、保管方法
時効の援用通知書に関して、法律上の保存義務はありません。しかし、実務上は長期間保管することが推奨されます。
通知書は債務の消滅を証明する重要な証拠であるため、後々起こり得るトラブルや訴訟に備えて、破棄せず保管しておくべきです。併せて、内容証明郵便の控えや配達証明の記録、時効援用後の債権者とのやり取り、債権者からの返答なども保管しておくとよいでしょう。
保管方法についても決まりはありません。とはいえ、重要な情報が記載されている文書なので、債権ごとに整理し、カギ付きの棚で保管するなど厳重に管理する必要があります。
時効の援用通知書の電子化は可能?
時効の援用は方法が限定されているわけではないため、電子的な方法をとることは可能です。具体的には、時効の援用通知書を電子的に作成し、メールなどで相手方に送付して権利を消滅させます。
さらに、電子化する際に電子署名やタイムスタンプなどの技術を活用すれば、差出人の本人性や送付日時の確認も可能です。ただし、時効の援用通知書の電子化はまだ一般的ではなく、相手方の環境によっては電子的なやり取りに対応できないことも考えられます。
こうした状況を鑑みると、確実に時効の援用を行うためには、紙で通知書を作成して内容証明郵便で送付するのがおすすめです。
時効援用の重要性を理解・実践しよう
時効の援用は債務者にとって重要な法的手続きです。ここで紹介した通知書の書き方を踏まえて、適切に主張できるように備えましょう。
また、内容証明郵便で通知書を送付し、相手方に意思表示する方法について理解しておくことも重要です。どうやって通知するのか、何に注意しないといけないのかなどについては、当記事を参考にするほか、専門家に相談しながら慎重に対応していくことをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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