- 更新日 : 2023年12月6日
民事裁判・民事訴訟とは?費用から流れまでわかりやすく解説
裁判の一種である民事裁判(民事訴訟)は、一般の人が金銭や資産をめぐるトラブルに巻き込まれた際に開かれる可能性がある裁判です。意図せず民事裁判の当事者になると、手続きの流れや費用相場などがわからず戸惑うかもしれません。
そこで今回は、民事裁判の性質、手続きの流れ、民事調停との違い、費用についてご説明します。基礎的な知識を身につけて、裁判当事者となっても慌てないようにしましょう。
目次
民事裁判とは
民事裁判とは、私人(一般の人)の間で発生した紛争(争い)について裁判所が判断をするための手続きを指しています。たとえば不倫や交通事故などの慰謝料請求、傷害事件における損害賠償請求、名誉毀損の際の損害賠償請求、債権の回収、建物明け渡し請求など、私人のお金や権利に関する紛争を取り扱うのが特徴です。民事裁判が取り扱う紛争を民事事件と呼びます。
訴えを起こした原告が、訴えを起こされる被告に対して何らかの訴えを行います。原告と被告によって主張された事実が本当に存在するのか、提出された証拠や主張を法律や過去の判例にあてはめて裁判所が認定をするとともに、紛争を解決するための判決を下すことになります。なお、裁判の途中で裁判官から提案された和解案によって解決するなど、全ての紛争が判決によって解決するわけではありません。
なお、民事裁判ではなく「民事訴訟」と呼ばれることもあります。裁判と訴訟はほとんど同じ意味ですが、厳密には裁判所が判断を下す行為を裁判、裁判を含む裁判所による行為および当事者による行為をまとめて訴訟と呼びます。そのため、裁判所をはじめとした公的機関のホームページでは「民事訴訟」と呼ばれることが多く、根拠となる法律の名称も「民事訴訟法」です。
「民事裁判」と「刑事裁判」の違いは?
裁判には、民事裁判と刑事裁判の2種類があります。刑事裁判は刑事事件を取り扱い、被告人が罪を犯したかどうかや刑罰の内容などを決めるための手続きです。民事裁判とはその性質が大きく異なります。ここでは民事裁判を、当事者・和解の有無・判決内容の3点から解説していきます。
当事者
民事裁判の当事者である原告と被告は、双方とも私人です。基本的には誰でも原告として訴訟を提起することができます。原告・被告に関わる弁護人を含めて、何らかの強制力や特別な捜査権限を持っているわけではなく、対等な立場で裁判に臨み、原告と被告の双方が証拠を出し合い、主張をしていきます。
一方の刑事裁判では、国家機関の一員である検察官と、犯罪を起こしたと疑われている被告人が当事者となります。警察官と検察官が犯罪捜査を行い、検察官が被疑者を起訴して刑事裁判を起こします。私人は刑事裁判を提起できません。国は被疑者の身柄拘束や逮捕のような特別な権限を有しています。なお、訴えを起こされる方の当事者は厳密には「被告人」と呼びます。一般には民事事件と同じように「被告」と呼ばれるケースもありますが、裁判用語としては正しくありません。
和解の有無
民事裁判と刑事裁判の2つ目の違いが、和解の有無です。民事裁判の最終目標が紛争の解決であることから、原告と被告の双方が納得できれば裁判によらず和解で終わっても問題ありません。訴訟の途中で裁判官から提案を受け、話し合いを重ねて紛争解決に至るケースも多く存在します。最後に和解条件をまとめた書類を「和解調書」と呼び、判決と同じ効力を持ちます。
一方の刑事裁判では、犯罪の有無や刑罰の重さを決めるための手続きであることから、和解という選択肢は存在しません。起訴されたら必ず判決で終了します。被告人の犯罪を検察官が証明できれば有罪になり、できなければ無罪になります。
判決内容
判決内容も民事事件と刑事事件で異なります。民事事件では、賠償金額や支払金額、権利の有無などを決定しますが、仮に原告が勝訴したとしても、被告が罪に問われることはありません。刑事事件では、有罪/無罪刑罰の重さが決められます。被告人の有罪が決まると、罰金や禁固・懲役などの刑罰が必ず決められます。
刑事裁判と民事裁判の双方が行われるケースも存在します。たとえば交通事故のケースにおいて、まず刑事裁判で被告人の犯罪事実が認定され刑罰が決まったとしても、被害者自身は刑事裁判の当事者ではないため、被告人=犯人から損害賠償金を受け取ることは直接的にはできません。そのため示談できなかった場合などには、刑事裁判とは別に肉体的・精神的苦痛への補償を求めて民事裁判を起こす必要があります。仮に刑事裁判で無罪となったり刑事裁判の前に不起訴となったりしたケースについても、民事裁判を起こすことが可能です。
民事裁判の種類
民事裁判(民事訴訟)は、大きく通常訴訟・手形小切手訴訟・少額訴訟・人事訴訟・行政訴訟の5つに分類することができます。
通常訴訟
一般の人同士の法的な紛争の解決を求める訴訟です。その多くは、金銭の支払いや権利の帰属など財産権に関するものとなっています。賠償請求、慰謝料請求など、多くの民事裁判は通常訴訟に分類されます。
手形小切手訴訟
通常訴訟と同じように財産に関する訴訟ではあるものの、手形の支払いを求めるなら手形訴訟、小切手の支払いを求めるなら小切手訴訟と呼び、さらに両者を総称して手形小切手訴訟と呼んでいます。
当事者は手形や小切手に関する訴訟ではあっても通常訴訟を選択することは可能ですが、手形小切手訴訟の方が簡易で早期に判決を下してもらえるメリットがあります。
少額訴訟
60万円以下という少額の金銭支払いを求める場合に限って、少額訴訟を選択することができます。1回の期日で審理を終えて判決を出してもらえるのが当事者のメリットです。ただし判決に異議があっても控訴はできず、異議の申し立てのみ認められています。
人事訴訟
離婚や婚姻の無効・取り消し、子供の認知のように、夫婦や親子などの関係にまつわる紛争を解決するための訴訟が人事訴訟です。基本的な手続きは通常訴訟と変わりませんが、家庭裁判所における人事訴訟では「参与員」と呼ばれる担当者が審理や和解の話し合いに立ち会って意見を述べることがあります。また、家庭裁判所調査官が関係者に面接調査を行うこともあります。
行政訴訟
行政訴訟は、行政処分が法的に適切であるかどうかを紛争のテーマとして、その取り消しや変更を求める訴訟です。私人や各種団体が原告となり、国や地方公共団体を相手取って訴訟を提起します。
「民事訴訟」と「民事調停」との違いは?
紛争を解決するための手段として、民事裁判以外に民事調停があります。民事訴訟との違いに着目して、民事調停についても簡単にご説明します。
民事調停とは
民事調停とは、私人間の紛争を当事者同士の話し合いによって解決を図る手続きです。裁判所で双方が主張を出し合い、最終的に裁判官の判決によって白黒をつける民事裁判と異なり、裁判所の調停委員会が当事者双方の言い分を聞いた上で話し合いを仲介し、合意を促します。
民事裁判と同じように、民事調停では財産や権利に関する幅広い紛争を取り扱えます。賠償請求や残業代の支払い請求など、さまざまな紛争が対象です。なお、離婚や相続など家庭に関する紛争の取り扱いは、「家事調停」が対象です。
民事調停のメリット
第一に、訴訟より手続きが簡単で早く完結するケースが多数ですし、費用も安価です。申し立ての際にも法的な専門知識は必要ありませんので、自分だけで対応できます。話し合いであることから、訴訟に比べて3ヵ月程度という短期間で解決まで持っていけるケースも少なくありません。それでいて合意内容をまとめた調停調書の効力は判決と同等であり、債務者が約束を守らない場合は強制執行を申し立てられます。
第二に、プライバシーが守られます。手続きが公開され第三者が誰でも傍聴できる裁判とは異なり、民事調停は非公開で行われる上に調停委員にも守秘義務があるため、周囲に民事調停を進めている旨を知られずに済みます。
最後に、円満な解決が期待できます。どうしても対立関係が際立つ裁判と異なり、民事調停では当事者の合意を目的としています。
民事調停の流れ
まずは申し立てを行います。
裁判所のウェブサイトからダウンロードしたり簡易裁判所の窓口で受け取ったりして申立書を取得し、必要事項を記入した上で捺印し提出します。この際、申立手数料と郵便料金が必要です。
関係者に申立書が送られたあと、調停委員が指名されて調停期日が決まり、当日に当事者が呼び出されて調停を行います。合意が成立した場合は、合意内容を記した調停調書が作成されます。
債務者は調停で決まった義務を履行しなければなりません。合意不成立の場合は、調停に変わる「審判」という形で裁判所の判断が示されることがあります。
民事裁判の流れ
民事裁判は、民事調停よりもやや複雑な段階を踏んで和解や判決に至ります。訴えを起こすところから、流れをご説明します。
原告が訴状を裁判所に提出
訴えを起こす原告ないしその代理人である弁護士が、裁判所に訴状や証拠、委任状などをはじめとした必要書類を提出します。ここから民事裁判がスタートします。
裁判所の訴状受付、被告への訴状の送付
裁判所が書類に不足や不備がないか確認し、問題なければ訴状を正式に受理します。その後被告へ訴状などの書類を送達します。
訴状の送達
訴状が被告へ送達され、被告が訴状を受け取リます。
口頭弁論期日の指定・呼び出し
裁判所は第1回の口頭弁論期日を指定し、原告・被告の双方に対して出廷するよう呼び出しを行います。原告は証拠や証人の準備などを行うケースがあります。
被告は原告の主張に対する認否や自分の主張を答弁書に記載して、期日までに提出しなければなりません。
答弁書の提出・送付・受領
被告が提出した答弁書を裁判所が原告へ送達し、原告が受領します。
審理
審理では、口頭弁論と呼ばれる手続きが行われます。最初に訴状の内容を裁判所が原告に対して確認し、その後被告の答弁書を確認します。
その後、弁論準備という手続きに付されて争点が整理されます。
争点が整理されたら証人尋問を行います。口頭弁論や弁論準備は通常、複数回行われます。
裁判所が「証拠・証人が揃った」と判断すれば、口頭弁論を終結して判決が下されます。その前に話し合いで合意が成立すれば和解です。
控訴
第一審の判決内容に不服がある場合、より上級の裁判所で改めて審理してもらうべく控訴できます。この場合、判決書の受け取り後2週間以内に控訴状を第一審の裁判所へ提出するとともに、控訴申し立て後50日以内に控訴理由書を提出しなければなりません。
上告
控訴審の判決内容にも不服である場合、さらに上級の裁判所へ上告や上告受理申し立てをすることができます。判決書受け取り後2週間以内に控訴審の裁判所へ上告状や上告受理申立書を提出するとともに、裁判所から来た通知書受け取り後50日以内に上告理由書か上告理由申立書を提出します。
民事裁判の判決ポイント
裁判では、自由心証主義に基づいて判決が下されます。民事訴訟法第247条には、口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果を斟酌して、裁判官の自由な心証によって主張に対する認否を判断すると書かれています。口頭弁論における原告と被告の主張内容や態度、物的証拠や証人などを全てひっくるめて、裁判官が判断するわけです。
民事裁判における証拠とは?
書証は、文書の形で提出された証拠です。公務員が職務上作成した公文書、契約書や遺言書などの処分証書、領収書や日記、診断書などの報告証書をはじめ、さまざまな文書が提出されます。
また、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の文書以外のものについても、「準文書」として書証手続きの対象に含まれます。
検証
検証とは、身体や土地、建物を含む検証物の形状や状態、性質などを観察して、得られた結果を証拠資料とする証拠調べの手続きを指します。
証人
証人は、紛争に関わる証言を求められた第三者です。裁判所は証人の出頭を求め、尋問を行うことができます。証人尋問への受け答え内容や態度から、裁判官は心証を形成していきます。
当事者
当事者とは原告・被告のことです。当事者に対して行われる尋問を「当事者尋問」と呼び、証人尋問同様、回答のひとつひとつが証拠となり、裁判官の心証を形成する重要な要素となっています。
鑑定
鑑定とは、起用された専門家から判断に必要な材料を提供してもらう手続きです。当事者の提出した証拠や主張だけでは判断しきれないような専門的な紛争の際に、該当分野の学識経験者や専門家などを起用して鑑定を行ってもらいます。鑑定人から提出された意見書や鑑定書は重要な証拠として判断材料となります。
民事裁判にかかる費用の相場
民事裁判を行う場合、裁判所に対する手数料や印紙代のほかに、弁護士へ支払う費用もかかります。裁判所手数料(収入印紙)は法律で定められており、以下の通りとなっています。
訴訟の目的の価額 | 手数料額 |
---|---|
100万円までの部分 | 10万円ごとに1000円 |
100万超500万円までの部分 | 20万円ごとに1000円 |
500万円超1000万円までの部分 | 50万円ごとに2000円 |
1000万円超10億円までの部分 | 100万円ごとに3000円 |
10億円超50億円までの部分 | 500万円ごとに1万円 |
50億円超 | 1000万円ごとに1万円 |
この体系に沿って、訴訟価額ごとにかかる具体的な手数料の早見表が裁判所のホームページに記載されています。
弁護士相談費用の相場
裁判になった時に弁護士に支払う費用には、主に依頼時に支払う着手金、処理が終了した時に支払う報酬金、実費の3種類があります。このうち実費については、交通費や通信費、コピー代など事件内容によって大きく変わるため、相場を示すことはできません。
着手金と報酬金は、かつては日本弁護士連合会が統一的な基準を定めていたものの、2004年に廃止されました。そのためそれぞれの弁護士事務所が事案の種類などに応じた価格を定めています。廃止された基準を参考に着手金と報酬金の額を定めている事務所もあるため、参考までに記載します。
経済的な利益の額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下の場合 | 経済的利益の8% | 経済的利益の16% |
300万円を超えて3000万円以下の場合 | 経済的利益の5%+9万円 | 経済的利益の10%+18万円 |
3000万円を超えて3億円以下の場合 | 経済的利益の3%+69万円 | 経済的利益の6%+138万円 |
3億円を超える場合 | 経済的利益の2%+369万円 | 経済的利益の4%+738万円 |
もし民事裁判の判決を無視したらどうなるの?
民事裁判で勝訴したのに、相手が判決を無視して金銭の支払いや建物の明け渡しなどをしない場合は、強制執行の申し立てをすることができます。
お金の支払いをしない場合は、相手の資産(不動産や自動車、家財道具など)を差し押さえて競売にかけ、その代金を債権回収に充てることになります。相手の給与や預貯金などを差し押さえ、その取り立て分を債権回収に充てるやり方もポピュラーです。
民事裁判の理解を深め、もしものトラブルにも落ち着いて対応しましょう
私人間の紛争を取り扱う民事裁判は、お金や資産に関するトラブルに巻き込まれた人の多くが関わる可能性のある裁判です。「裁判」と聞くと不安になりますが、あらかじめ基礎的な理解をしておけば恐れる必要はありません。トラブルに巻き込まれても、状況を一旦客観的に見つめ直し、落ち着いて対応するようにしましょう。
よくある質問
民事裁判とは?
私人間の紛争(民事事件)を解決するための裁判です。詳しくはこちらをご覧ください。
民事裁判にはいくらかかる?
裁判所手数料は法律で決まっていますが、そのほかの実費や弁護士費用などは弁護士事務所や事案の種類、出張や高度な鑑定の有無などによって大きく変わってきます。可能であればあらかじめ相談先の弁護士事務所の費用相場を調べておくとともに、初回の相談時に質問するとよいでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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