• 更新日 : 2024年7月12日

努力義務とは?法的な意味や罰則、事業者に求められる対応を解説

努力義務という言葉は「~するよう努めなければならない」という意味を表します。法律上「~しないといけない」などと表現される義務規定とは異なり、必ずしも従う必要はないルールなどでこの表現が使われます。では実際に法律で規定されている努力義務とはどのようなものなのか、事例を交えてここで解説します。

努力義務規定とは

努力義務は、法律の条文において「~するよう努めなければならない」「~努めるものとする」などと規定される内容を指す言葉で、このような規定を努力義務規定といいます。では、実際に法律にはどのように書かれているのでしょうか。ここでは条文例や努力義務に違反した場合の罰則があるかどうかや似ている言葉との違いについて解説します。

努力義務規定の条文例

努力義務規定は、企業にとって重要な法律の一つである労働基準法にも存在します。例えば、労働基準法第1条には以下のように書かれています。

労働条件の原則
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

この労働基準法第1条第2項の後半に書かれているのが、努力義務です。具体的には「その(労働条件の)向上を図るように努めなければならない」と規定された部分が努力義務となります。

努力義務違反に罰則はないがリスクはある

努力義務に法的拘束力はないため、違反したとしても罰則は科されません。ただし、これは努力義務規定に違反しても構わないという意味ではありません。別のリスクが考えられるためです。

例えば努力義務に反することで第三者から損害賠償請求を受ける可能性があります。

努力義務に従わないことが法定の罰則につながるわけではありませんが、結果的に民法上の不法行為に該当する恐れはあります。第三者に損害が生じてしまうと「〇〇(努力義務規定)を守らなかったからだ」などと主張されて、損害賠償請求において事業者側が不利な立場に立たされてしまうでしょう。

また、努力義務の遵守を担保するための行政措置として、行政指導を受けるリスクもあります。強制力はなくペナルティもありませんが、何らかの対応を求められることがありますし、もし行政指導を受けた事実が知られてしまうと事業者の信用低下につながる恐れがあります。このような事実上の不利益を被る可能性は考慮しておくべきでしょう。

義務、努力義務、配慮義務の違い

努力義務と似ている言葉に「義務」と「配慮義務」があります。これらの違いについて見ていきましょう。

項目概要
義務必ず守らないといけないこと。

法的拘束力を持ち、罰則が適用されることもある。

努力義務守るように求められていること。

法的拘束力を持たず、罰則の適用もない。実際に遵守するかどうか、どの程度遵守するかは当事者に委ねられる。

配慮義務目的を実現するための取り組み、措置を促すこと。

義務ほどの強い拘束力は持たないが、努力義務に比べると強い拘束力を持つ。

義務の場合、法令では「~しなければならない」「~してはならない」などのように規定されます。その通りに従う必要があり、違反した場合は罰則が科されることもあります。

配慮義務は、「~配慮をするものとする」「~配慮するものとする」などのように規定されます。努力義務と同様に、配慮がない場合は損害賠償を請求される可能性があります。

努力義務規定や配慮義務規定だからといって、おろそかにしてよいわけではありません。努力義務規定や配慮義務規定であっても損害賠償請求の根拠となる可能性があるほか、将来的には義務規定に改正される場合もあるからです。

努力義務が課されている事例

では、実際に努力義務はどのような法令で課されているのでしょうか。ここでは、3つの努力義務を紹介します。

自転車でのヘルメット着用の努力義務

道路交通法の改正により、自転車利用者に対してヘルメット着用の努力義務が課されています。

自転車の運転者等の遵守事項
第六十三条の十一 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
2 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
3 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

引用:道路交通法|e-Gov法令検索

ヘルメット着用に関する努力義務は自転車の所有者が自ら運転する場合に限らず適用され、「他人を自転車に乗車させるときはその他人に対して着用させるようと努めないといけない」「子どもが自転車に乗るときはヘルメットをかぶらせるよう努めないといけない」とも規定されています。

また、条例でヘルメット着用に関するルールが設けられているケースもありますので、各自治体の条例もチェックしておきましょう。

高齢者マークの貼り付けの努力義務

70歳以上の人が普通自動車を運転する際、高齢者マーク(高齢運転者標識)をつけることはよく知られています。高齢者マークをつける義務については、道路交通法第71条の5第3項で以下のように定められています。

第八十五条第一項若しくは第二項又は第八十六条第一項若しくは第二項の規定により普通自動車を運転することができる免許(以下「普通自動車対応免許」という。)を受けた者で七十五歳以上のものは、内閣府令で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けないで普通自動車を運転してはならない。

引用:道路交通法|e-Gov法令検索

75歳以上の人が高齢者マークをつけることが義務規定として記されています。一方、道路交通法附則第22条第1項では、70~74歳の人については努力義務とする旨が規定されています。

第七十一条の五第三項の規定は、当分の間、適用しない。この場合において、同条第四項中「七十歳以上七十五歳未満」とあるのは、「七十歳以上」とする。

引用:道路交通法|e-Gov法令検索

このように、現在70~74歳の人が高齢者マークをつけることは努力義務となっています。今後法改正によって道路交通法附則第22条第1項が削除された場合は、努力義務から義務になります。義務になった場合は、対象となる人(70歳以上の人)が高齢者マークをつけずに普通自動車を運転すると、高齢運転者標識表示義務違反となります。

70歳までの雇用の努力義務

2021年4月に施行された改正「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」には、65歳から70歳までの就業機会の確保を努力義務とする規定があります。したがって、企業は以下のいずれかの措置を講ずるよう努めなくてはなりません。

  • 定年を70歳まで引き上げ
  • 定年制の廃止
  • 70歳までの継続雇用制度の導入
  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入(社会貢献事業など)

努力義務に対して事業者が取るべき対応

努力義務が課されているルールに関しても、できるだけ遵守しようとする姿勢が大事です。コストなどの問題があり対応が難しいというときはすぐに体制を変える必要はありませんが、長期的に見直していけるよう少しずつ取り組みを始めましょう。そのためには、関係する役員や従業員に対してコンプライアンス研修を実施したり、顧問弁護士にアドバイスを求めたりすることが有効といえます。

なお、この取り組みの重要性は次の2点から説明することができます。

  • 将来、法改正により努力義務が義務へと変わる可能性があるため
    突然義務化されることはなく、アナウンスされてから数年の猶予は通常設けられるが、あらかじめ取り組みを進めておけば強制される変化にも無理なく対応できる。
  • 社会的評価に影響するため
    努力義務にも前向きに取り組む姿勢は、取引先や一般消費者、投資家に対してもプラスの印象を与えることができる。

努力義務規定に反しても罰則はないが注意点も

努力義務規定とは、法令などで「~するよう努めなければならない」「~努めるものとする」などと規定される内容のことです。義務ではなく、違反したとしても罰則は科せられません。一方で努力義務を怠った場合は、努力義務違反として損害賠償を請求されることもあります。また、将来的には努力義務規定が義務規定に変わることもあるため、言葉どおり規定の内容を守るよう努めることが大切です。

よくある質問

努力義務とは何ですか?

法令などで「~するよう努めなければならない」「~努めるものとする」などと規定される内容のこと(努力義務規定)です。努力義務規定に違反したとしても、罰則はありません。詳しくはこちらをご覧ください。

努力義務が課されている事例について教えてください。

労働基準法における「労働条件の向上を図る」や、道路交通法における「70歳以上の人が運転する際につける高齢者マーク」、高年齢者雇用安定法における「70歳までの就労機会確保」などが努力義務です。 詳しくはこちらをご覧ください。


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