• 作成日 : 2024年12月27日

飲食店の開業時に必要な契約と注意点は?無断キャンセルの対応や経営の業務委託についても解説

飲食店の開業時には賃貸借契約や雇用契約など、さまざまな契約を結ぶ必要があります。契約内容ごとに気を付けるポイントが異なるので、契約書作成時などに漏れのないよう注意しましょう。この記事では飲食店開業時に締結する契約の種類や注意点について説明し、契約関連で皆さんが悩まれがちなポイントについても紹介します。

飲食店を開業するまでに経営者が締結する契約

飲食店を開業する際には物件の賃貸契約をはじめ、従業員の雇用契約や業務委託契約など、さまざまな契約の締結が必要です。まずは多くの飲食店で開業時に必須となる不動産物件契約と従業員の雇用契約について説明します。

不動産の物件契約

飲食店を始めるためには、まずは店舗として使う物件を確保する必要があります。賃貸で物件を借りる際には賃貸借契約を締結し、契約書には賃料、敷金・保証金、契約期間、解約時の条件などの要項が含まれます。

また飲食店向けの物件では、厨房設備や排気設備の設置条件、火災保険加入の義務など業種特有の項目も契約書に記載されることが一般的です。

従業員の雇用契約

従業員を雇う場合は「労働条件通知書」を作成して、労働条件を従業員に通知した上で雇用契約を締結することが、法律で義務付けられています。

労働基準法第15条では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」と定められています。

参考:労働基準法 | e-Gov 法令検索

事前に提示された労働条件と実態が異なっていた場合、労働者は即時労働契約を解除することができます。

飲食店開業のために店舗の物件契約をするまでの流れと注意点

飲食店を開業するためには、立地や周辺環境などが自身の事業計画や構想とマッチする物件を調達することが重要です。ここからは店舗として使用する物件契約の流れと注意点について見ていきましょう。

現地調査・物件探し

物件探しの第一歩は店舗を構えるエリアの現地調査です。空き物件探しには不動産サイトを活用するほか、地域の不動産会社に相談してみましょう。

候補となる物件が定まったら立地条件や周辺環境を確認し、競合店の有無や人通りの多さなどを調査しましょう。この際、複数の時間帯や曜日にわたって調査するとより詳細なデータが獲得できます。

飲食店向けの物件には排水設備や換気設備の条件が重要です。建物の用途や立地が飲食店営業に適しているかどうかを確認しましょう。ほかにも内見時には物件の構造や状態などもしっかりとチェックしておくことが大切です。

物件の申し込み

借りる物件が確定したら申し込み手続きを行います。事前に物件の契約条件や賃料、保証金の有無を確認しておきましょう。物件によっては手付金や申込金が必要なケースもあります。

申し込み時には事業計画書を準備して不動産会社や物件のオーナーに事業の運営方法や見通しなどを伝えることで、契約成立の可能性が高まります。

申し込み段階で注意すべきポイントは、物件の利用規約や契約解除時の条件です。例えば、内装工事後の原状回復義務がどの範囲に及ぶかを理解しておくことが挙げられます。これによって退去時の費用負担が大きく異なります。

融資の申し込み・審査

物件契約の前には開業資金や賃貸料を賄うための融資を申し込む必要があります。融資をスムーズに進めるためには、収支計画を詳細に記載した事業計画書を提出し、資金使途を金融機関の担当者に伝えるよう心がけましょう。

審査が通って借り入れができるまでには数週間から数カ月かかることもあるので、スケジュールに余裕を持って手続きを行いましょう。また、金利や返済条件についても細かい部分まできちんと確認しておくことが大切です。

物件契約

審査が通って融資が確定したら、物件の賃貸借契約を締結します。賃貸借契約書の内容を詳細まで確認し、不明点や納得できない点があれば不動産会社や場合によっては弁護士などの法律の専門家に相談しましょう。

特に契約期間、更新条件、保証金といった条件はトラブルになりやすい点なので、契約時に細かい部分までチェックします。

契約書には飲食業の営業に関する特別条件が記載されている場合があります。例えば深夜営業の可否や近隣住民への配慮事項などです。これらを把握し、契約後のトラブルを回避するように運営しましょう。

飲食店が従業員を雇用する際の契約書と注意点

前述の通り、従業員を雇用する際には労働条件通知書の作成が義務付けられています。加えて雇用契約書を作成しておくことで、双方が条件を明確に把握できるようになります。

雇用契約書は義務ではないが作成した方がよい

雇用契約書は雇用契約が締結されたことを示す書類です。契約は口頭でも成立するため、法律上作成義務でありません。しかし、口約束では後々「言った・言わない」というトラブルが発生する可能性が高いでしょう。これを防ぐためにも契約時に雇用契約書を作成して雇用契約を締結するのが一般的です。

雇用契約書には以下のような内容を盛り込みましょう。

  • 雇入日
  • 雇用期間
  • 業務内容
  • 就業時間

労働条件通知書の作成は義務

前述の通り、労働基準法第15条第1項 では労働条件通知書の交付が義務付けられています。労働条件通知書は必ず書面で交付する必要があり、雇用条件を明確にして実際の業務内容との乖離が出ないよう気を付けなければなりません。

記載すべき項目は、以下のようなものが挙げられます。

  • 労働契約の期間
  • 期間に定めのある労働契約を更新する場合の基準
  • 就業の場所、従業すべき業務
  • 始業および終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日など
  • 賃金、計算および支払いの方法
  • 退職に関する事項
  • 退職手当が適用される諸条件
  • 賞与等臨時に支払われる賃金および最低賃金額
  • 労働者が負担する食費、作業用品など
  • 安全、衛生に関する事項
  • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰および制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

10人以上雇用する場合は就業規則を作成する

労働基準法では従業員を10人以上雇用する事業所では、労働条件通知書に加えて就業規則の作成が義務付けられています。就業規則は労働条件の詳細や職場ルールを定めた文書であり、パート・アルバイトを含む全従業員に適用され、以下のような内容を定めます。

  • 労働時間
  • 休暇制度
  • 懲戒規定
  • 福利厚生

飲食店では特に衛生管理や接客ルールに関する内容を明記しておくと、日常業務の円滑化に役立ちます。就業規則を作成したら、それを労働基準監督署に届け出る必要があります。その後、従業員に周知して実際の業務に活かしましょう。

飲食店の無断キャンセルは契約違反になる?

飲食店における予約は、法的には契約に該当します。そのため、お客さまが無断キャンセルをした場合は契約違反と見なされ、店舗側には損害賠償請求を行う権利が発生します。しかし、実際には請求の手間や費用的負担がかかることから、泣き寝入りしてしまう店舗経営者が多いようです。そのため、いかに無断キャンセルをされないかが重要となってきます。

無断キャンセルが契約違反とされる理由

法的には飲食店の予約は「事業者(飲食店)」と「消費者(お客さま)」との間で「サービス提供契約」が成立したと見なされます。契約は解約特約がない限り原則解約はできません。店舗は予約時間に備えて材料の仕入れやスタッフの配置を行うため、無断キャンセルによって生じた損失を請求する権利があります。

ただし、損害額を証明する必要があることから法的手続きが複雑化しやすく、手間とコストがかかるため多くの店舗では実際の請求に踏み切れていないのが現状です。

無断キャンセルを防ぐための仕組み作り

無断キャンセルを減らすための対策として、多くの飲食店が取り入れている3つの対策法をご紹介します。

  1. 事前決済システムの導入
    オンライン予約時にクレジットカード情報を登録し予約の段階で決済をしておけば、キャンセル料を自動的に徴収できます。また、「なんとなく予約をする」といったキャンセルされるリスクの高い予約が減ることも期待できます。
  2. キャンセルポリシーの明確化
    Webサイトや予約時の規約に「当日キャンセルの場合は全額請求」などのルールを表示しておくことで、無断キャンセルの抑止力になり、実際にキャンセル料が請求しやすくなります。
  3. リマインダーの送信
    予約日前日にリマインダーメールを送ることで、お客さまが予約を忘れるリスクを軽減できます。

店舗独自の工夫も重要

無断キャンセル防止のために、キャンセルのリスクが低い常連客には特別な予約枠を用意する、SNSを活用して予約に関する注意点を発信するなど店舗独自の工夫も効果的です。ただ、SNSでメッセージを発信する際は強すぎる言葉を使ったり、キャンセルしたお客さまを誹謗中傷したりすると炎上するリスクがあるので、慎重に言葉を選びましょう。

また予約なしで来られるお客さまを対象に「ウェイティングリスト」や「キャンセル待ち」などの予約状況が分かるようなシステムがあれば、キャンセルが出てもその枠を埋められ、損失を抑えられるでしょう。

飲食店の経営を業務委託契約してもいい?

飲食店で業務委託契約を利用する際には、物件の貸主から必ず許可を得る必要があります。許可がない場合、転貸と見なされるリスクがあり、契約違反としてトラブルに発展することもあります。ここからは業務委託と転貸の違い、トラブル回避の方法についてご紹介します。

転貸との違い

転貸とは物件の借主が貸主の許可を得ないまま、第三者に貸し出す行為のことです。「又貸し」「転貸し」とも呼ばれます。一方、業務委託契約は物件の使用権は元の借主のままで、第三者である受託者が一部の業務を遂行するという方式です。

ただし、受託者が経営の全てを担っている場合など業務の実態によっては転貸と見なされる場合もあるため、契約内容を明確化して貸主の事前承諾を得るようにしましょう。

無許可での転貸は賃貸借契約の解除原因となり得るので、必ず連絡をしてください。

業務委託契約のトラブルを回避するには

業務委託契約によるトラブルを防ぐには、契約書に契約形態や契約内容を明確に記載しましょう。契約者間の認識の齟齬がなくなり、トラブルを未然に防ぐことができます。

特に業務範囲、報酬、契約期間などの条件は具体的に定め、使用目的が物件の賃貸借契約に反しないよう注意を払いましょう。

また、契約締結前に貸主の承諾を得る、専門家のアドバイスを受けることもトラブル対策として有効です。特に弁護士に相談しておけばトラブルが発生してしまった場合も、相談を仰ぎ専門的なアドバイスを受けることで冷静に対処できます。

賃貸契約も雇用契約も法律を守ることがトラブル回避の一歩

飲食店はジャンルにかかわらず、ほとんどのケースで物件に関する契約と従業員の雇用契約を締結します。契約書はそれぞれに決まりごとがあって作成や確認作業が大変な面もありますが、後々問題がこじれないよう法律に則りきちんとした内容で書類を作成し、分からないところがあれば双方納得するまですり合わせましょう。最初に条件等を明確にしておけばトラブルを回避できる可能性も上がります。


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