- 作成日 : 2022年8月5日
下請事業者とは?下請法の対象や親事業者の義務などを解説
下請事業者とは、個人または資本金が一定金額以下の法人で、親事業者から製造委託等を受ける事業者を指します。下請事業者の定義は「下請法」で定められていますので、自社が下請事業者かどうか判断する際、法律に対する理解を深めることが大切です。
ここでは、下請法における下請事業者の定義や下請法違反があった際の対応などを解説します。
目次
下請法における下請事業者とは
自社が下請法における下請事業者かどうか判断する際のポイントは、取引当事者の「資本金」と「取引内容」です。下請事業者について深く理解できるように、まずは下請法について解説します。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、親事業者と下請事業者による取引の公平性を保ち、下請事業者の利益を守るための法律です。
規模が大きく資金力がある事業者(委託者)から、規模が小さな事業者(受託者)へ業務を委託する取引では、委託者の立場が有利になりやすい構造です。
受託者による委託者への依存度が高いため、受託者に不利な要求でも受け入れざるを得ないことがあるでしょう。例えば「料金の値引きを強いられる」「支払期日までに代金を支払ってもらえない」といったトラブルが生じる場合があります。
下請法は、優位な立場にある親事業者による優越的地位の濫用を取り締まり、下請事業者の利益を守るために作られた法律です。同法律は、独占禁止法の補完法として1956年に制定されました。
下請事業者の定義
下請法における「下請事業者」とは、以下のいずれかに該当する事業者を指します。
【下請事業者の定義】
- 個人または資本金3億円以下の法人で、資本金3億円超えの親事業者から製造委託等を受ける事業者
- 個人または資本金1,000万円以下の法人で、資本金1,000万円超え3億円以下の親事業者から製造委託等を受ける事業者
- 個人または資本金5,000万円以下の法人で、資本金5,000万円超えの親事業者から情報成果物の作成委託または役務提供委託を受ける事業者
- 個人または資本金1,000万円以下の法人で、資本金1,000万円超え5,000万円以下の親事業者から情報成果物の作成委託または役務提供委託を受ける事業者
参考:e-Gov法令検索_下請代金支払遅延等防止法(第2条・第8項)
上記のように、1・2と3・4における下請事業者の定義は、取引内容や親事業者の資本金によって異なります。
1・2では資本金3億円を超える法人、3・4では資本金5,000万円を超える法人は、下請事業者に該当しません。
「製造委託」や「情報成果物の作成委託」といった取引内容については後ほどご紹介しますので、ここでは資本金の目安など概要をご確認いただければと思います。
下請法の対象となる「委託」とは、親事業者が規格や品質などを指定した上で依頼する取引を指します。市販品の売買に関する取引は、下請法の対象外です。
下請法は「下請事業者」と「親事業者」の取引において適用される法律ですので、親事業者の定義についても併せて確認しておきましょう。
親事業者にあたるのはどんな企業?
下請法における「親事業者」とは、以下のいずれかに該当する事業者を指します。
【親事業者の定義】
- 資本金3億円超えの法人で、個人または資本金3億円以下の法人に製造委託等をする事業者
- 資本金1,000万円超え3億円以下の法人で、個人または資本金1,000万円以下の事業者に製造委託等をする事業者
- 資本金5,000万円を超える法人で、個人または資本金5,000万円以下の法人に情報成果物の作成委託または役務提供委託をする事業者
- 資本金1,000万円超え5,000万円以下の法人で個人または資本金1,000万円以下の法人に情報成果物の作成委託または役務提供委託をする事業者
参考:e-Gov法令検索_下請代金支払遅延等防止法(第2条・第7項)
上記の通り、親事業者とは下請事業者よりも資本金の金額が大きな法人を指します。資本金1,000万円以下の法人は親事業者に該当しません。
下請法の対象になる取引
ここでは下請法の対象となる以下の4つの取引について、具体例を交えながら解説します。
【下請法の対象となる取引】
- 物品の製造委託
- 修理委託
- 情報成果物の作成委託
- 役務提供委託
取引内容について解説後、親事業者・下請事業者の基準を表にまとめていますので、そちらも併せてご確認ください。
物品の製造委託
「動産の製造委託」とは、動産の製造や販売、修理等を行う事業者が、他の事業者へ製造・加工等を委託する取引です。取引の対象はあくまでも「動産」ですので、「不動産」は対象外となっています。
【動産の製造委託における具体例】
- ある商品を製造したいメーカーX社が、その商品に使用する部品の製造をメーカーY社へ委託した
- ある商品を修理したいメーカーX社が、修理に必要な部品の製造をメーカーY社へ委託した
上記の例では、メーカーX社が親事業者、メーカーY社が下請事業者です。
※ただし、資本金の大きさによっては親事業者・下請事業者に該当しない場合があります。
修理委託
「修理委託」とは、物品の修理を請け負う事業者が、その修理を他の事業者に委託する取引や、自社で使用・修理する物品について修理の一部を他の事業者へ委託する取引を指します。
「修理」とは、物品が本来の機能を失った場合において、正常な状態に戻す行為です。取引の対象となる行為が「点検」や「メンテナンス」の場合、物品が正常に稼働しているのであれば「修理委託」ではなく後述する「役務提供委託」に該当します。
【修理委託における具体例】
- 電化製品の販売店X社が請け負った製品の修理を、修理業者Y社へ委託する
- 自社工場で使用する設備を自社で修理しているメーカーX社が、その設備の修理を修理業者Y社へ委託する
上記の例では、販売店X社・メーカーX社が親事業者、修理業者Y社が下請事業者です。
※ただし、資本金の大きさによっては親事業者・下請事業者に該当しない場合があります。
情報成果物の作成委託
「情報成果物の作成委託」とは、プログラムや映像といった情報成果物の提供・制作を行う事業者が、その制作を他の事業者へ委託する取引を指します。
「情報成果物」とは、具体的に以下のようなものです。
【情報成果物の具体例】
- TVゲームソフト、会計ソフトなどのプログラム
- アニメーション、映画など映像や音声によって構成されるもの
- ポスター、図面といった文字や図形等で構成されるもの
【情報成果物の作成委託における具体例】
- 広告会社Xが得意先からポスター制作依頼を受け、そのポスターの制作をデザイン制作会社Yへ委託した
上記の場合、広告会社Xが親事業者、デザイン制作会社Yが下請事業者です。
※ただし、資本金の大きさによっては親事業者・下請事業者に該当しない場合があります。
役務提供委託
役務提供委託とは、他者から各種サービスの提供(役務)を請け負った事業者が、その役務の提供を他の事業者へ委託する取引を指します。
ここで対象となる「役務」とは、委託事業者が「他者へ提供するもの」です。委託事業者が自社で利用することを目的とした役務は対象となりません。
また、建設業者が請け負う建設工事は、建設業法に類似の規定が定められているため、下請法の対象外となる点にも注意が必要です。
【役務提供委託における具体例】
- 電化製品を製造・販売するメーカーX社が製品の定期点検作業をメンテナンス業者Y社へ委託した
上記の場合、メーカーX社が親事業者、メンテナンス業者Y社が下請事業者になります。
※ただし、資本金の大きさによっては親事業者・下請事業者に該当しない場合があります。
【表で解説】取引内容別の親事業者・下請事業者の基準
親事業者・下請事業者の基準を2つのパターンに分けて表にまとめました。
【パターン1:製造委託等】
該当する取引内容は以下の通りです。
- 製造委託
- 修理委託
- 政令で定められる情報成果物の作成委託、役務提供委託(※該当する取引のみ)
※プログラムの作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理に関連する取引
親事業者の基準 | 下請事業者の基準 |
---|---|
3億円超えの法人 | 個人または資本金3億円以下の法人 |
1,000万円超え3億円以下の法人 | 個人または資本金1,000万円以下の法人 |
【パターン2:情報成果物の作成委託等】
該当する取引内容は以下の通りです。
- 情報成果物の作成委託※
- 役務提供委託※
※パターン1で対象外の取引を指します
親事業者の基準 | 下請事業者の基準 |
---|---|
5,000万円超えの法人 | 個人または資本金5,000万円以下の法人 |
1,000万円超え5,000万円以下の法人 | 個人または資本金1,000万円以下の法人 |
親事業者が下請事業者に対して負う義務
親事業者は、下請事業者に対して以下の4つの義務を負っています。
【親事業者の義務】
義務※ | 概要 |
---|---|
書面の交付義務 (第3条) | 発注の際は、直ちに3条書面を交付すること。 |
支払期日を定める義務 (第2条・第2項) | 下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。 |
書類の作成・保存義務 (第5条) | 下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること。 |
遅延利息の支払義務 (第4条・第2項) | 支払いが遅延した場合は遅延利息を支払うこと。 |
※()内は下請法の根拠となる条項です。
引用:公正取引委員会ホームページ
下請取引では下請事業者が不利益を被らないために、書面交付や支払期日を定める等、親事業者に義務が課せられています。
親事業者に課せられる禁止事項
下請法では、親事業者に課せられる禁止事項として以下の11項目が定められています。
【親事業者の禁止事項】
禁止事項(※1) | 概要 |
---|---|
受領拒否 (第1項・第1号) | 注文した物品等の受領を拒むこと。 |
下請代金の支払遅延 (第1項・第2号) | 下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。 |
下請代金の減額 (第1項・第3号) | あらかじめ定めた下請代金を減額すること。 |
返品 (第1項・第4号) | 受け取った物を返品すること。 |
買いたたき (第1項・第5号) | 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。 |
購入・利用強制 (第1項・第6号) | 親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。 |
報復措置 (第1項・第7号) | 下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。 |
有償支給原材料等の対価の早期決済 (第2項・第1号) | 有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。 |
割引困難な手形の交付(※2) (第2項・第2号) | 一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。 |
不当な経済上の利益の提供要請 (第2項・第3号) | 下請事業者からの金銭、労務の提供等をさせること。 |
不当な給付内容の変更及び不当なやり直し (第2項・第4号) | 費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること。 |
引用:公正取引委員会ホームページ
※1:()内は、下請法 第4条の根拠となる条項です。
※2:割引困難な手形:繊維業は90日、その他の事業は120日など長期の手形を指します。手形は、満期を待たずに換金すると金融機関が定めた金利に応じて手取り金額が割り引かれる仕組みです。長期の手形による支払いは下請代金の減額につながるため、禁止されています。
親事業者による下請法違反が起きたらどうする?
親事業者が下請法を遵守しないと、どのようなトラブルが起こり得るのか具体例をご紹介します。
【下請法違反で起こり得るトラブル事例】
- 親事業者が得意先から注文のキャンセル受け、下請事業者への発注をキャンセル。下請事業者はすでに原材料を調達していたが、それらの代金を支払わない。
- 消費者に製品を販売する親事業者が、値引きセールを実施。そのセールを理由に下請代金から値引きする。
- 親事業者が一度受領した製品を、売れ残り・賞味期限切れ等を理由に返品する。
上記のトラブル事例は、ほんの一例です。
親事業者による下請法違反が起きたら、下請法上で問題となる点を指摘し、改善を促しましょう。相手方によっては、単に下請法に対する理解が不足しているケースもあります。
そうは言っても、直に指摘することが難しい場合もあるでしょう。公正取引委員会では、地域ごとに相談窓口を設けているので、そちらへの相談も選択肢の1つです。
公正取引委員会が下請事業者から相談を受けた場合、親事業者の行為が下請法上の問題となるか否かを調査し、必要に応じて改善指導等を行います。
親事業者からの報復措置(取引停止、数量の削減等)を心配する方もいると思いますが、そのような行為は下請法で禁止されています。(第4条 第1項・第7号)自社の損害が大きくなる前に、早い段階で相談しましょう。
下請法を正しく理解し、公正な取引を行いましょう!
自社の取引が下請法の対象となる場合、親事業者であれば下請事業者に対する義務・禁止事項が定められています。下請法違反は企業価値を損ねる要因になりかねないため、下請法の内容を正しく理解し、当事者間で公正な取引を行いましょう。
自社が下請事業者の場合、下請法について知らずに大きな損をしてしまう可能性があります。下請法の内容やトラブル発生時の相談先等を正しく理解し、万が一の事態に備えましょう。
よくある質問
下請事業者とはどのような事業者ですか?
個人または資本金が一定金額以下の法人で、親事業者から製造委託等を受ける事業者です。資本金の基準は、取引内容や親事業者の資本金によって異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
下請法の対象になるのはどのような取引ですか?
下請法の対象となる取引とは、親事業者が規格・品質などを指定した上で、下請事業者へ業務を委託する取引を指します。取引内容には「製造委託」「修理委託」「情報成果物の作成委託」「役務提供委託」があります。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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