- 作成日 : 2023年11月10日
金融商品取引法とは?概要や禁止行為、罰則をわかりやすく解説
金融商品取引法とは、経済の健全な発展や投資家の保護を目的とした法律です。証券会社や投資ファンド、投資顧問会社などの金融商品取引業者は金融商品取引法という法律にのっとって業務を行わなければなりません。
この記事では金融商品取引法の規制内容や対象、禁止行為や罰則についてご説明します。金融商品取引業者の方、投資家の方は必読です。
目次
金融商品取引法とは?わかりやすく解説
金融商品取引法とは、有価証券や金融商品の公正な取引や価格の維持、流通の円滑化を図り、経済の健全な発展や投資家の保護を目的とした法律です。
(目的)
第一条 この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。
金融商品取引会社や投資家が有価証券や金融商品を取引する際に守るべきルールについて定められています。
そもそも金融商品とは?
金融商品の規制の対象となる有価証券や金融商品については金融商品取引法第2条に定義がなされています。有価証券とは具体的には国債証券や地方債証券、社債券、株券などが挙げられます。
金融商品とは、金融資産、金融負債およびデリバティブ取引に関わる契約を総称したものが該当します。例えば、預金や株式、投資信託、債権、保険、コモディティ(金や銀、穀物などの経済的物品)など、幅広い商品が該当します。
金融商品取引法の規制対象となる取引は「デリバティブ取引」というものです。デリバティブ取引とは通貨や債券、株式など原資産の値動きに応じて理論価格が決まる金融商品の取引を指します。例として、先物取引やオプション取引、スワップ取引などが挙げられます。FX(外国為替証拠金取引)やCFD(差金決済取引)もデリバティブ取引の一種です。
金融商品取引法の成立の背景
金融商品取引法は2007年9月に制定された、比較的新しい法律です。それ以前にも「金融先物取引法」「外国証券業者に関する法律」「有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律」「抵当証券業の規制等に関する法律」など、投資に関わる法律はさまざまありました。
経済が発展し、グローバル化が進む中、政府は「貯蓄から投資へ」という方針を掲げています。インターネットの普及に伴い、個人でも証券口座の開設や金融商品の売買が手軽にできるようになり、2015年以降、個人投資家の数も増加しています。
公正な取引や価格維持を担保し、投資家を守りつつ投資による経済発展を目指すべく、従来の投資に関わる法律を統廃合しています。金融商品取引法は、時代の流れに合わせた、新しい法律と言えるでしょう。
金融商品取引法の規制対象となる業者
金融商品取引法は金融商品取引業者を規制する法律です。対象者は「第一種金融商品取引業」「第二種金融商品取引業」「投資運用業」「投資助言・代理業」の4種類に区分され、これらに該当する業者は金融庁に届出や登録をし、金融商品取引法を遵守して業務を行わなければなりません。それぞれ詳しく見ていきましょう。
第一種金融商品取引業
第一種金融商品取引業については金融商品取引法第28条に定義がなされており、上場株式などの流動性のある有価証券の販売や勧誘を行う業者、顧客の資産管理を業務とするような業者のことを指します。具体的には証券会社やFX業者などが挙げられます。
第二種金融商品取引業
第二種金融商品取引業については金融商品取引法第28条2項に定義がなされており、ファンドなどの有価証券の販売や勧誘などを行う業者のことを指します。集団投資スキームの自己募集、ファンドの募集もしくは私募、有価証券を除く市場デリバティブ取引、不動産信託受益権の売買を行っている業者が該当します。具体的にはファンドの販売業者が挙げられます。
投資助言・代理業
投資助言・代理業は金融商品取引法第28条3項に定義がなされており、その名のとおり顧客に対して投資に関するアドバイスや取引の代行業者のことを指します。具体的には投資顧問会社や投資アドバイザー・コンサルタントなどが該当します。
投資運用業
投資運用業については金融商品取引法第28条4項に定義がなされており、顧客から集めた資金を使って株式などの有価証券に投資を行う業者が該当します。具体的には投資ファンドや投資顧問会社、投資信託委託会社などが当てはまります。
金融商品取引法の4つの特徴
これまでも投資に関する法律はありましたが、なぜあえて2007年に金融商品取引法という新しい法律を制定する必要があったのか。それには以下の4つの大きなポイントがあります。
多様な金融商品の法律を横断的に規制(横断化)
前述のとおり、金融商品取引法は4つの法律を統合することで作られた法律です。従来であれば有価証券の現物取引やデリバティブ取引は証券取引法、金融先物取引は金融先物取引法で規制されていました。しかし、グローバル化や経済の発展、技術革新によって、投資の手法も多様化を遂げたものの、新しい手法を規制する法律が存在しませんでした。
そこで、さまざまな金融商品や取引を横断的に規制でき、一般投資家を保護できるよう、金融商品取引法が制定されました。
投資家の保護ルール(柔軟化)
投資はリスクが伴う行為です。大きな利益が得られる可能性を秘める一方で、損失を被る危険性もあります。また、一般投資家とりわけ専門知識が乏しい投資初心者は金融商品の性質や相場をよく知らないまま金融商品を購入して損失を被ってしまう、詐欺などの犯罪に巻き込まれてしまうといった危険性も高くなるでしょう。
金融商品への投資の勧誘や広告に関するルール、契約締結前の書面交付や説明義務など、一般投資家が損失を被るリスクを抑えられ、公正な取引が実現できるような規制が設けられています。
一方で、投資に関する知識やスキルがあるプロの投資家(特定投資家)に対しては規制を緩和するなど、従来の法律と比較すると投資家のレベルに合わせて規制を適用できる、柔軟性が高いものになっています。
上場企業の情報開示(公正透明化)
市場の公正性と透明性を維持すべく、金融商品取引法には上場企業を対象として有価証券報告書の確認書の提出や内部統制報告書(財務諸表など)の作成、会計監査の実施、四半期報告書の作成と開示の義務も盛り込まれています。
罰則の強化(厳格化)
一般の投資家を狙った詐欺や悪質な勧誘行為などは後を絶ちません。また、自分の利益を確保するために不正な取引をする業者や投資家も存在します。金融商品取引法ではより投資家保護を強化し、不正を防止すべく、違反行為に対する厳罰化も盛り込まれました。
金融商品取引法の禁止行為
金融商品取引法では金融商品取引業者の業務や金融商品の取引に関するさまざまなルールが定められています。特に以下の行為は禁止されているので、しっかりと押さえておきましょう。
無登録営業
前述のとおり有価証券やデリバティブ取引の販売・勧誘、投資助言や投資運用、顧客の資産管理を生業とする金融商品取引業者は金融商品取引法の規制対象者となり、登録が必要です。未登録のまま上記の業務を行った場合、処分の対象となります。
インサイダー取引
インサイダー取引とは上場会社の関係者などが、その立場で知り得た社内の未公開情報を利用して自己の利益に有利になるような取引をする行為です。インサイダー取引をすることで、上場株式の価格に大きな影響を与え、市場の公平性が失われます。
また、一般の投資家にとっては損失を被ったり利益を得る機会が失われたりするリスクが高くなります。そのため、公平な取引の担保と投資家保護の両方の観点から、金融商品取引法ではインサイダー取引が禁止されています。相場の価格を意図的に変動もしくは固定させる相場操縦も禁止です。
損失補填
投資は損失が出ることがありますが、金融商品取引業者が顧客の損失を補填する行為も禁止されています。また、顧客が金融商品取引業者に対して損失の補填を要求することもできません。一見すると損失補填は投資家の保護につながると思われますが、市場全体で考えると取引の公平性が担保できなくなる恐れがあるため、金融商品取引法では規制されています。
金融商品取引法に違反するとどうなる?罰則は?
もしも金融商品取引法に違反行為をした場合、ペナルティが科せられる恐れがあります。罰則は「刑事罰」「業務改善命令」「課徴金納付命令」の3つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
刑事罰
刑事罰とは刑事裁判にかけられて有罪判決を受けた者に対して科せられるペナルティです。無登録で金融商品取引業を行った者には5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金、またはこの両方を科すと定められています。
有価証券届出書や有価証券報告書に虚偽を記載した場合、インサイダー取引や相場操縦を行った場合は10年以下の懲役、もしくは1,000万円以下の罰金、またはこの両方が科せられる恐れがあります。
損失補填を行った場合は懲役3年もしくは300万円以下の罰金、またはこの両方が科せられる恐れがあります。
なお、いずれも違反行為した個人はもちろん、法人に対しても刑罰が科せられる恐れがあるため、十分な注意が必要です。
業務改善命令など
業務改善命令とは違反した金融商品取引業者に対して金融庁が業務の方法や運営の改善に関して必要な措置を取るよう命令する行政処分です。業務改善計画を提出し、再度違反や問題行為がないよう努める必要があります。
課徴金納付命令
課徴金制度とは違反者に対して金銭的な負担を課す処分です。お金を支払うという点では罰金と同じです。しかし、罰金は刑事罰であるため前科がつきますが、課徴金制度の場合は行政処分なので前科はつきません。ただし、支払金額が非常に高額になる場合があります。
金融商品取引法違反の例
実際に上記のような刑事罰や行政処分を受けてしまうケースも少なくありません。ここからは金融商品取引法違反の事例について見ていきましょう。
上場会社の役員から情報を得てインサイダー取引を行った事例
違反者Aは上場会社B社の役員から、B社が第三者割当による株式および新株予約権の発行を行うことを決定したという情報を得ました。そこで、AがB社の株を買い付け、買付価格よりも高い金額で売却したのです。これがインサイダー取引にあたり、98万円の課徴金がAに科せられました。
相場操縦によって高値形成を行い不当な利益を得た事例
違反者CはD社の株に大量の買い注文を出して高値を形成し、他の投資家からの買い注文が増加するように誘引しました。D社の株価が上昇したところで、Cは持ち株を売却し利益を得ましたが、これが相場操縦とみなされ、Cに対して100万円の課徴金が科せられました。
約定させる意思がない売り注文を発注して買い注文を誘引した事例
違反者FはG社の株券の売買を誘引する目的で、直前約定値よりも高値で約定させるつもりのない売り注文を発注して売り板を厚く見せ、他の投資家の売り注文を誘引し、その結果G社の株価は下落。
そのタイミングでFはG社の株を買い付け、今度は約定させる意思がない買い注文を発注して買い板を厚く見せ、株価が上昇したタイミングで売却して利益を得ました。Fは計28回の違反行為を繰り返し、159万円の課徴金が科せられました。
金融商品取引法の改正のポイント
2023年3月に「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、2023年7月1日より施行されました。今回の改正では「顧客本位の業務運営」「金融リテラシー」「企業開示」「その他のデジタル化の進展等に対応した顧客等の利便向上・保護に係る施策」が大きな柱です。
「顧客本位の業務運営」という点では、顧客に対して誠実かつ公正に業務を遂行すべきという義務を金融事業者や企業年金等関係者に対して幅広く規定するほか、顧客属性に応じた説明義務の規定、デジタル技術を活用した情報提供に関する規定が盛り込まれました。
「金融リテラシー」に関しては、資産形成の支援に関する施策を総合的に推進するための基本方針を策定しています。金融教育を強化すべく「金融経済教育推進機構」を設立し、国と地方公共団体、事業者が協力・連携して資産形成を支援していく流れとなりました。
「企業開示」の面では企業開示の効率化の観点から四半期報告書の義務が廃止される一方で、半期報告書、臨時報告書の公衆縦覧期間が5年間に延長されました。
その他、ソーシャルレンティング(インターネット上で集めた資金を企業に貸し付ける仕組み)事業を行う第二種金融商品取引業者が顧客に対して行う運用報告規定の整備、不動産特定共同事業契約のトークン化に金融商品取引法のルールの適用、金融商品取引業者の公式ホームページにて営業所に掲げる標識と同内容の情報の公表に関する義務付け、虚偽の財務書類の開示を行った企業などに対する課徴金納付命令にかかる審判手続のデジタル化なども含まれています。
知らなかったでは済まされない!金融商品取引法をしっかりと把握しよう
証券会社や投資顧問会社、投資アドバイザーやコンサルタントなどの金融商品取引業者は金融商品取引法に基づいて業務を行わなければなりません。また、投資家も同様に金融商品取引法に従って投資する必要があります。
仮に違反した場合は懲役刑や罰金、課徴金が科せられる恐れもあります。「知らなかった」では済まされないので、しっかりと金融商品取引法の内容を把握しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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