- 作成日 : 2025年1月30日
私道利用契約書とは?ひな形をもとに書き方・例文、覚書との違いを解説
「私道利用契約書」は、私有地を通路として使用させてもらう契約を結ぶ際に作成する文書です。土地所有者と利用者の権利義務を明確にし、将来のトラブルを防ぐうえで重要な役割を担っています。当記事では、私道利用契約書の概要や書き方、注意点などを、具体例を交えつつ解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
私道利用契約書とは?
私道利用契約書(しどうりようけいやくしょ)は、ある私道を通る権利を得るため、私道の所有者と利用者が契約を交わす際に作成される文書です。契約当事者の特定、通行権の範囲や制限、利用にあたって発生する料金やその支払い方法など、さまざまなルールが記載されます。
私道利用契約書の法的効力
私道利用契約については、契約書の作成が法的な要件として定められているわけではありません。
しかしながら、契約書を作っておくことで、私道の利用に関する当事者双方の権利義務が明確化され、将来的なトラブルを防ぎやすくなるでしょう。また、契約書として契約内容を客観的に示しやすくしておけば、第三者に対してもその権利の存在を主張しやすくなります。
ただし、新しい私道の所有者など、第三者に対して権利を主張するには「通行地役権」の設定が必要です。私道利用の目的が通行にあるのなら、通行地役権を設定し、登記することも検討してみましょう。そうすることで、第三者への権利の主張をより強固にできます。
私道利用契約書を交わすケース
私道利用契約書が交わされるのは、次のようなケースです。
公道に接していない土地を持っているとき
もっとも一般的なのは、自身の土地が公道に直接接しておらず、他人が所有する私道を通行する必要があるケース。たとえば、奥まった場所に位置する土地を取得したときには、前面の私道を使わなければ公道にアクセスできないことがあります。
新築・改築時
土地を購入して建物を新たに建築する場合や既存の建物を改築する際に、水道管やガス管などのライフラインを私道下に埋設することがあります。この工事の際に、私道の掘削や使用について所有者の承諾が必要になるケースがあるでしょう。
私道所有者が変わったとき
私道の所有者が変更されるとき、新しい所有者との間で改めて利用契約を締結し、契約書を作成するケースがあります。
利用条件などを整理するとき
これまでは慣習的に私道を利用していたけれど、将来的なトラブルを防ぐため、改めて契約書を交わすことがあります。これにより通行権や利用条件などが明確化され、揉め事も起こりにくくできるでしょう。
私道利用契約書のひな形・テンプレート
私道利用契約を締結したときは、契約書も作成しておくべきです。こちらにひな形を用意しておりますので、契約書を作るときの参考にしていただければと思います。
私道利用契約書の書き方や例文
私道利用契約書を作成するときは、以下の点について言及することを忘れないようにしましょう。
- 私道利用に対する合意
- 金額の設定や支払い方法
- 契約期間や更新
- 禁止事項
その他一般条項も含め、例文とともに具体的な書き方を以下で解説していきます。
私道利用に対する合意
私道利用契約書の冒頭部分では、契約当事者を明確にし、契約の目的を定義します。
○○(以下「甲」という。)と、●●(以下「乙」という。)は、本日、次のとおり、私道利用契約(以下「本契約」という。)を締結した。
次に、私道の利用目的も具体的に記述しましょう。どの私道を利用するのか特定する必要がありますが、条文内にすべての情報を盛り込むのではなく、次のように別紙を活用し、そちらの情報を参照する形で条文を作ることも可能です。
第〇条 甲は、甲所有の別紙1記載の土地を、乙が、乙所有の別紙2記載の土地と公道との間を通行する目的で、私道として利用すること(以下「本利用」という。)を認める。
2 甲と乙は、本利用は、乙とその家族もしくは関係者が徒歩または車両にて通行することをいい、甲土地上へ物品や車両を置くことを認めるものではないことにつき合意した。
金額の設定や支払い方法
私道の利用料の具体的な金額、支払いの頻度、方法、そして将来的な料金改定の可能性などにも言及して、次のように条文を定めます。
第〇条 乙は、甲に対し、本利用の対価として、月額金〇円を支払う。
2 乙は、前項の利用料を、毎年〇月と〇月末日限り、翌6ヶ月分を甲の指定する口座宛に振り込んで支払う。振込手数料は、乙の負担とする。なお、本契約締結後に初めて到来する〇月における支払額は、〇ヶ月分とする。
3 甲及び乙は、協議の上、本条1項記載の賃料を改定することができる。
金銭に関するやり取りでは揉め事が起こりやすいため、金額や支払いに関することなどは必ず明確にしておきましょう。
契約期間や更新
契約期間や更新に関する条項は、私道利用の継続性と安定性を確保するうえで重要な役割を担います。この部分を作成するにあたっては、まず、次のように具体的な日付を入れて、契約期間を明確に設定しましょう。
第〇条 本契約の契約期間は、令和〇年〇月〇日から令和●年●月●日までの〇年間とする。ただし、期間満了の○か月前までに甲乙いずれからも何らの申出のない場合は、本契約と同一条件で更に○年間継続するものとし、以後も同様とする。
また、契約の自動更新に関する規定を設けるのも一般的です。この規定があることで、当事者が特段の意思表示をしない限り、契約が自動的に継続されることになります。
例文中で「期間満了の○か月前までに甲乙いずれからも何らの申出のない場合は、本契約と同一条件で更に○年間継続する」と規定された箇所です。この自動更新条項は、契約の安定性を高め、不必要な交渉や手続きを避けるのに役立ちます。
禁止事項
契約の目的を達成しつつ、できるだけトラブルを防ぐためには、禁止事項を設けることも重要です。よくある記載項目として、以下のようなものがあります。
- 不適切な利用の禁止
例:私道上への車両・物品の放置や、定めた目的以外での利用を禁止する - 権利義務の譲渡の禁止
例:第三者に権利義務を譲渡することを禁止する。もしくは第三者の担保に供することを禁止する - 私道の改変の禁止
例:許可なく私道の形状を変えたり、構造物を置いたりすることを禁止する - 迷惑行為
例:騒音や悪臭などの迷惑行為を禁止して、周辺住民への配慮を求める
状況に応じた禁止事項を定めることで、私道の適切な利用を促すことができるでしょう。
その他一般条項など
契約一般で定めることの多い条項、たとえば「解約条項」なども重要です。私道利用の解約に関しては次のような例が挙げられますが、実情に合わせて具体的な事由を列挙しておきます。
第〇条 甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合には、何らの通知催告を要することなく、本契約を解除することができる。
⑴ 利用料の未払いが〇ヶ月以上続いたとき
⑵ 近隣の迷惑となる行為があり、改善の申し入れに従わないとき
⑶ その他、本契約の条項に違反したとき
ほかにも、契約期間中に状況が大きく変わった場合に備え、「協議条項(契約に定めていなかった事柄について、事後的に対応するためのルール)」や「管轄条項(裁判所を利用する場合の指定)」なども、次の具体例のように記載しておくとよいでしょう。
本契約に定めのない事項については、別途協議して解決を図るものとする。
本契約に関して生じた紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的裁判所とする。
私道利用契約書を作成する上での注意点
私道利用契約書を作成するときは、上述の各条項を設けることに加え、以下のポイントに注意することも重要です。
私道の特定
対象となる私道の所在地、面積、境界などの情報を正確に記載します。可能であれば図面や地図を添付し、誤解のないようにするとよいでしょう。
維持管理責任の明確化
私道の維持管理(清掃、補修など)の責任者と費用負担について明確にしておきましょう。
契約期間と更新条件
契約期間を明確にし、自動更新の可否、更新手続きの方法、更新料の有無など、更新の条件を定めます。
専門家による確認
契約内容が関連法規に抵触していないか、弁護士などの専門家にチェックしてもらいます。契約で定めたとしても、特定のルール(強行法規)については法律上の規定が優先的に適用されるため、思い通りの結果が得られないことも起こり得ます。
なお、契約書には記名押印や署名を行うのが一般的ですが、これらがなくても契約が無効になることはありません。とはいえ、余計な争いを生まないためには、実務上、押印や署名は必須と考えておくべきでしょう。
私道利用に関する契約書や合意書、覚書との違い
私道利用に関する文書には、契約書のほかに「合意書」や「覚書」などがあります。いずれも私道の利用に関する当事者の意思表示を記録するものですが、使いどころや意味合いに若干の差異があるので注意が必要です。
「契約書」はもっとも厳格さが求められ、契約期間や利用条件、金銭のことなど細かいルールなどが記されます。
「合意書」は、紛争解決や重要なルールをまとめた文書を指すことがほとんどです。
「覚書」は、契約書より簡潔な内容を記録する場面で使われます。たとえば、既存の私道利用契約における条件変更や追加事項を記録する場面などです。
契約書も当事者間の合意を記すものですので、本質的には合意書と変わりありませんし、覚書も契約書を補完する役割を担っているため、効力に差があるわけではありません。そのため、文書の名称に着目するのではなく、その内容に意識を向けることが重要といえるでしょう。
私道利用契約書の電子化は可能?
私道利用契約書の電子化は可能です。そもそも、契約書の存在は契約成立の条件とされていないため、電子的に作成しても問題はありません。
紙で作成した契約書をスキャンして電子データで保存したり、初めから電子的に契約書を作成してそのままデータで保管したりすることも可能です。
ただし、なりすまし防止や改ざん防止のため、電子契約を行う際は電子署名やタイムスタンプの付与など、適切なセキュリティ対策を施しておくようにしましょう。電子契約サービスを導入すれば、これらの技術的な課題もスムーズにクリアできます。
私道利用契約書で通行権を確保しよう
私道利用契約書は、私道の所有者と利用者双方の権利義務を明確にする重要な文書です。利用範囲の明確な定義、適切な利用料や契約期間、そして禁止事項の明記など、ここで紹介した各ポイントを押さえて通行権を確保しましょう。
近年は電子契約に対するハードルが下がっており、ITツールを導入することで、より効率的な契約締結が実現できます。電子契約サービスを積極的に活用し、適切な私道利用契約書の作成に取り組みましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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