• 更新日 : 2023年3月23日

委任契約の解除とは?民法改正における変更点を解説

委任契約は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる契約です(民法第643条)。民法は、委任契約の解除について、他の契約類型とは異なったルールを定めています。ここでは、委任契約の解除の条件や、実際に委任契約を解除する場合の流れを解説します。

委任契約の解除とは

そもそも契約の解除とは、契約が有効に成立した後、契約の当事者の一方が解除権を有する場合に、相手方に対する意思表示によって契約関係を解消することをいいます(民法540条)。

契約は、当事者の申込みと承諾によって成立するものです。一度有効に成立した契約は、当事者の一方的な都合や理由だけでは、契約を一方的に解除することはできません。

これに対して、委任契約はどちらの当事者もいつでも理由なく解除することができる、とされています(民法第651条第1項)。これは、委任契約は当事者同士の信頼関係を前提とするものなので、信頼関係がなくなった当事者間ではもはや契約を継続させる意味がない、という考え方に基づいています。

委任契約の詳しい内容は下記記事をご覧ください。

民法改正で委任契約の解除による損害賠償要件が変更

上述のとおり、委任契約はいつでも理由なく解除できます。しかし、突然契約を解除された当事者は損害を被ってしまう場合があります。そこで民法は、委任契約をいつでも解除できるとしつつ、一定の場合には相手方に損害を賠償しなければならないとしています。

この点について、2020年4月施行の改正民法で変更された改正民法では、以下のいずれかに当たる場合に、相手方への損害賠償をしなければならないと定めています(民法第651条第2項)。

  • ①相手方の不利な時期に解除した場合
  • ②受任者の利益をも目的とする委任契約を委任者が解除した場合

ただし、やむを得ない事由があるときは損害を賠償する必要はありません(同項但ただし書き)。

なお、①・②いずれの場合でも、損害を賠償する義務は生じますが、委任契約を解除できます。

以下では、①②それぞれの場合について、詳しく見ていきましょう。

①相手方の不利な時期に解除した場合

不利な時期とは、委託した法律行為(事実行為)に関して相手方に不利な時期のことです。たとえば、受任者が解除したときに委託した法律行為を受任者以外に委託することができないなどです。また、委任者が解除をした場合では、たとえば、受任者が委任された法律行為に関して既に費用を支出していた場合などがこれに当たります。

②受任者の利益をも目的とする委任契約を委任者が解除した場合

2020年4月施行の改正民法では、受任者の利益をも目的とする委任を解除したとき(651条第2項第2号)が新たに追加されました。①が解除時期により生じた損害賠償に関するものであるのに対し、②は委任の目的に関するものです。

受任者の利益をも目的とする場合とは、たとえば、「債務者が第三者に対して有する債権について、債権者が債務者から回収の委託を受け、回収した金額を債権者の債務者に対する債権の弁済に充てることによって債権の回収を確実にするという利益を得る場合」などが挙げられます(部会資料72A17ページ) 。

なお、解除されることによって委任契約の報酬が得られなくなることについては損害賠償の対象にはなりません(民法第651条第2項第2号括弧書き)。

委任契約を解除する流れ

次に、実際に委任契約を解除する際の流れを解説します。

すでに見たとおり、委任契約はいずれの当事者から、いつでも、理由なく解除することができます。したがって、通常の契約で債務不履行解除(民法第541条)をするときのように、相手方に対して契約の履行を催告するといった手続は必要ありません。相手方に対して委任契約を解除することを告知するだけで、すぐに解除ができます。

書面で解除の告知をする

委任契約の解除の方法については、特に法的なルールは定められていないので、口頭で告知するだけであっても解除でき、書面の作成は必須とはされていません。

しかしながら、口頭で解除の告知をするだけでは客観的な証拠が残りません。委任者が解除したつもりでも、受任者は契約が継続しているものとして報酬を請求してくるなど、無用な争いが起きてしまう恐れがあります。前章のとおり、相手方の不利な時期に解除をすると損害賠償をしなければならず、解除の日付もはっきりさせておく必要があります。

解除をする場合には、必ず書面による客観的な証拠を作るようにしましょう。

たとえば、解約通知書を作成して相手方に送付することが考えられます。その場合、内容証明郵便を利用することで、より確実な証拠にすることができます。また、損害賠償責任が生じる可能性がある場合、相手方と話し合った上で合意ができるのであれば、損害賠償責任がないことを明記した解約合意書を締結することも考えられるでしょう。

委任契約を解除する場合は、その時々の状況に応じて適切な書面を作成して、後々争いが生じないように対応することを心がけましょう。

委任契約はいつでも解除できるが損害賠償に注意

委任契約の解除は、どちらの当事者からもいつでも解除ができます。この点で、契約違反など相手方に何らかの理由がなければ解除ができない通常の契約とは大きく異なります。

反面、解除によって相手方に損害が生じたときは、一定の場合に損害賠償をしなければならないので注意が必要です。また、実際に解除をする際は、解除をしたことが客観的な証拠として残るように書面を作成しておくことも重要です。

委任契約を解除するときは、これらの点に注意しておく必要があります。

よくある質問

委任契約を解除できる場合とは?

委任契約は当事者同士の信頼関係を前提とするものであり、信頼関係がなくなった当事者間ではもはや契約を継続させる意味がないという考え方から、委任契約はいつでも理由なく解除できます。詳しくはこちらをご覧ください。

民法改正で委任契約の解除の何が変わった?

解除により相手方に生じた損害を賠償すべき場合として、受任者の利益をも目的とする委任契約を委任者が解除した場合が追加されました。詳しくはこちらをご覧ください。


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