- 作成日 : 2022年9月30日
契約書を紛失したら?確認すべきことや対処法について解説
契約書を紛失した場合は、適切に対応しないと自社が不利益を被るリスクがあります。紛失時に取るべき行動を事前に確認しておきましょう。
また、契約書を書面で保管している場合は、紛失しないための管理体制を構築することも大切です。
ここでは、契約書を紛失した場合の対処法と紛失リスク対策について解説します。
目次
契約書の紛失に気づいた際に確認すべきこと
契約書を紛失したからといって、直ちに契約が無効になることはありません。民法において、契約は当事者が契約内容に合意したことで成立するものと定められています(民法第522条)。
つまり、口約束のみでも契約は成立します。契約書を作成する理由は、当事者が合意した内容を証拠として残すためです。
とはいえ契約書は会社にとって重要書類の一つなので、紛失したとなれば会社の信用が損なわれるおそれがあります。紛失したまま放置すると取引先とのトラブルにつながる可能性も高くため、契約の内容が争われたときに契約書でその内容を証明することもできなくなるため、すみやかに対処する必要があります。
ここでは、契約書の紛失に気づいた際に確認すべきことを解説します。
本当に紛失したか再確認
あるべきはずの場所に契約書が保管されていない場合でも、紛失したのではなく他の場所に置き忘れた、または保管場所を移動したことも考えられます。再度確認してみましょう。
【紛失パターンの具体例】
- 外出先で置き忘れた(電車やバス、タクシーの座席、営業先など)
- 他の書類に紛れ込んでいる
- 複合機の近くに置き忘れた
- 他の社員が閲覧している
- オフィスの移転や書類整理のタイミングで保管場所を移動した
落ち着いて探せば見つかるかもしれません。自分で解決できない場合は、同僚に声をかけて手伝ってもらうとよいでしょう。
社内で共有する
心当たりのある場所を探しても契約書が見つからない場合は、紛失の可能性がある旨を速やかに社内で共有しましょう(上司や他部署など)。
紛失したまま放置すると、取引先とのトラブルに発展しかねません。
例えば、自社が取引先に商品を納入する立場だったとしましょう。契約書を紛失したことで契約内容を確認できないと、契約時に定めた商品の数量や納期、その他仕様の詳細がわかりません。
取引先が希望する期日までに指定の商品を納入できず、トラブルが生じるリスクがあります。そうなる前に取引先に確認するとしても、「なぜ契約書を確認しないのか」と不信に思われるでしょう。
取引先との不要なトラブルを避けるためにも、可能な限り早期に社内で共有しておくことが大切です。
契約書のコピーがないか確認する
取引先と契約を締結するまでの過程で、自社が契約書(原本)のコピーを取っている可能性があります。契約書の紛失が疑われる場合は、コピーした文書が社内に残っていないかを確認しましょう。
例えば押印記録簿や稟議書などに、参考書類として契約書のコピーを添付するケースがあります。契約締結時の社内フローを確認し、該当部署に相談してみましょう。
スキャンデータが残っていないか確認する
契約書が書面として残っていなくても、スキャンデータとして保存されている場合があります。社内データが保存されているフォルダや、電子メールの履歴などを確認してみましょう。
契約書を紛失した場合の対処法
契約書の紛失が明らかになった場合は、相手方に謝罪した上で再発行を依頼する、コピーを取らせてもらうなど複数の選択肢があります。
どの選択肢を取るかで注意点が異なるため、状況に合った方法を検討してください。
ここでは、契約書を紛失した際の対処法について解説します。
契約書を再発行する
契約書の原本・コピーが残っていない場合などに、再度契約書を作成する方法です。
当事者が合意した契約内容に基づいて契約書を作成し、相手方に確認した上で、双方が署名・捺印します。
自社の過失によって契約書を再発行する場合は丁寧に謝罪するなど、誠意ある対応を心がけましょう。
契約書を再発行する際は、以下の点に注意してください。
【契約書を再発行する際の注意点】
- 契約の再締結にあたって、相手方から条件交渉を持ちかけられる場合がある
- 再発行する契約書には収入印紙を貼付する必要がある
- バックデートを避ける
「バックデートを避ける」について補足します。バックデートとは、当事者が合意した日よりも前の日付を契約締結日として契約書に記入することです。
契約書を紛失した場合は、過去の日付に遡って契約締結日を指定したいケースが多いでしょう。しかし、契約に合意した日と契約締結日がずれてしまうと、事実と異なる内容を契約書に記載することになります。
契約締結日を過去の日付にしたい場合は、契約の遡及(そきゅう)を適用する条項を加えておきましょう(下記参照)。
【条文の具体例】
契約締結日に関わらず、○年×月△日より遡及的に本契約を有効とする。
正本や認証のある謄本を作成して保管する
自社で保管していたコピーが見つかった場合や、相手方が保管している原本のコピーを取らせてもらう場合に、それらのコピーを謄本として取り扱う方法です。
【原本と謄本の違い】
原本:最初に作成した契約書(オリジナルの文書)
謄本:原本の記載内容のすべてを写したもの
契約時に原本を2通作成して、それぞれが1通ずつ保管するのが一般的です。自社が保管している契約書を紛失した場合は、取引先が保管している原本をコピーさせてもらう方法もあります。
その際に注意したいのは、謄本には3種類あることです。
謄本には「正本」「認証のある謄本」「写し(認証のない謄本)」があります。「正本」と「認証のある謄本」は、裁判において原本に準じるものとして取り扱われます。
【謄本の種類】
正本:謄本のうち、権限のある者によって作成された文書
認証のある謄本:謄本のうち、権限のある者が原本の内容と同一であると認証した文書
写し:認証のない謄本(単なるコピー)
相手方とのトラブルに備えて契約書を保管する際は、コピーした契約書の書面上に「原本と相違ないことを証明する」といった文言を記載し、取引先に署名・捺印してもらうとトラブルの際に役立ちます。
ただし原本と比べた場合、謄本は裁判時の証拠書類としての証明力が劣る点に注意が必要です。
コピー(単なる写し)を保管する
先述のとおり、謄本には「正本」「認証のある謄本」「写し(認証のない謄本)」があります。
正本や認証のある謄本を作成する際は、相手方に押印してもらう必要があるため手間がかかります。
紛失した契約書の内容や自社の方針によっては、自社で対応できる範囲で対処することもできます。例えば契約金額が低く、取引先と大きなトラブルに発展する可能性が低い場合は、契約書の単なる写しを保管する方法もあります。
ただし、単なる写しを保管する場合は、トラブル発生時の証拠書類としては証明力が低くなります。自社が不利になるリスクがあるため、注意が必要です。
契約書の紛失リスクを減らすには
契約書は、契約の種類によって保管期間が定められているものもあります。例えば法人税法上は、法人の取引に関する契約書の保管期間は7年間または10年間です。
契約書の保管期間については、下記の記事で詳しく解説しています。
いずれにせよ、通常、契約書は長期にわたって保管する必要があるため、紛失リスクに備えて管理体制を整えておくことが大切です。
電子契約システムの導入は、有効な手段の一つです。「システムの導入」と聞くと大がかりな作業が必要になるイメージがあるかもしれませんが、クラウド型のシステムであればコストや手間を抑えられます。
電子データとして管理すれば、紛失リスク対策になるだけでなく、契約書を探す手間も省けるので業務効率化につながります。リスク管理と業務効率化に向けて、導入を検討してはいかがでしょうか。
契約書の紛失時は落ち着いて、誠意ある対応を!
契約書を紛失しても、直ちに契約が無効になるわけではありません。紛失が疑われる場合は、落ち着いて社内を探してみましょう。
万が一契約書を紛失した際は、相手方の協力を得て再作成する、コピーを謄本として保管するなど、複数の選択肢があります。相手方の協力が必要になる場合は、誠意ある対応を心がけましょう。
よくある質問
契約書を紛失した場合、どのように対応すればよいですか?
取引先に協力してもらい、契約書を再作成する、コピーを謄本として保管するといった方法があります。選択した方法によって注意点が異なるため、事前に確認しておきましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
契約書を紛失するリスクを減らしたい場合、どのような対策を講じればよいですか?
選択肢の一つとして、電子契約サービスの導入が挙げられます。リスク管理だけでなく、業務効率化の観点からも有効な手段です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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