- 更新日 : 2022年4月13日
賃貸借契約とは?必要な契約書類や手続の流れをわかりやすく解説
「賃貸借契約」と聞くと、「法律が関係していて難しそう」と感じる人が多いのではないでしょうか。家を借りる際に結ぶことになる賃貸借契約ですが、契約書にほとんど目を通さず、不動産会社の指示どおりに手続きを進める人が多いでしょう。
しかし、契約内容を理解すること、そして契約を結ぶまでの作業の流れをあらかじめ知っておくことによって、後で「こんなはずではなかった」「それは知らなかった」といったことになるリスクを減らすことができます。
今回の記事では、賃貸借契約の概要と契約の流れ、必要書類についてわかりやすく解説します。しっかり理解して、スムーズな手続きとトラブル防止に役立ててください。
目次
賃貸借契約とは
賃貸借契約は、当事者の一方が物の使用や収益を相手方にさせることを約束し、相手方が賃料を支払うことを約束することによって効力が生じる契約です。賃貸物件を借りる際に、貸主と締結するケースでよく使われます。法的根拠を有することや、「借家契約(家を借りる賃貸借契約)」には「普通借家契約」と「定期借家契約」があることなど、物件を借りるにあたって専門家でなくても頭に入れておくべき基礎知識があります。まずは、賃貸借契約の基礎知識について見ていきましょう。
賃貸借契約に関連する法律
不動産の賃貸借契約に関連する法律として、民法や借地借家法、消費者契約法などが挙げられます。
賃貸借契約に関する基本的な考え方を規定しているのは、民法です。民法601条では、賃貸借について以下のように定められています。
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
引用:民法第601条|e-GOV法令検索
借主が貸主に対して賃料を支払うとともに、契約終了後に借りたものの返還を約束するのが賃貸借です。民法では賃貸借の効力・終了・敷金などについて定められており、修繕や解約、貸主による通知など賃貸借契約で必要となる基本事項が規定されています。
民法に加えて、消費者(借主)保護の観点から借地借家法や消費者契約法では民法に優先する規定を設けています。借地借家法では賃貸借契約の更新や効力、解約、更新拒絶の制限などが規定され、消費者契約法では事業者と消費者の情報量および交渉力の格差を考慮して、契約の取り消しや消費者団体による差止請求などが規定されています。
これらの法律があることで賃貸借契約手続きをスムーズに進められ、借主が不当な不利益を被りにくくなっています。2020年4月に民法が改正され、賃貸借中の修繕に関する要件や賃貸借終了時における原状回復・収去義務、敷金のルールなどが明確化されました。詳細は、法務省が作成したパンフレットを参照してください。
普通借家契約と定期借家契約の違い
建物の賃貸借契約には、普通借家契約と定期借家契約があります。一般的な普通借家契約に加えて、2000年に定期借家契約の制度が盛り込まれました。ここからは、両者の違いについて説明します。
普通借家契約
普通借家契約は、特に手続きを行わなくても賃貸借期間が終了すると自動更新となる契約です。賃貸借期間は2年間とされるケースが多く、正当な理由がない限り、また借主が解約を望まない限り、貸主は契約の更新を拒絶することができません。借主からは中途解約の通知が可能であり、予告期間や解約時の金銭の支払いなどについて契約書に盛り込まれるのが一般的です。
借主としては同じ住宅に長く住み続けられるメリットがある一方で、転勤や単身赴任などにより一時的に住居を貸したくても安心して貸すことができません。立場が弱くなりがちな借主の保護にはなりますが、賃貸住宅の安定的な供給の妨げになるとされていました。
これを受けて2000年に借地借家法が改正され、更新のない賃貸借契約である定期借家契約が新たに認められるようになりました。
定期借家契約
定期借家契約は普通借家契約と異なり、契約期間満了と同時に終了となり、更新されない賃貸借契約です。もちろん借主・貸主双方の合意があれば住み続けることもできますが、この場合は契約の延長ではなく再契約となります。
借主からすると、数ヵ月から1年間という短期での契約も考えられ、期間が限られる分賃料が相場より安い物件に住める可能性が高まるのはメリットといえます。また貸主が将来住む、あるいはセカンドハウスとして使用するケースも多く、一般的な賃貸物件より質が良いこともあります。
「建物賃貸借契約」と「土地賃貸借契約」について
普通借家契約と定期借家契約という分類だけではなく、賃貸借契約の対象の違いによって「建物賃貸借契約」と「土地賃貸借契約」にも分類できます。ここでは、両者の違いについて説明します。
建物賃貸借契約
建物賃貸借契約は、その名のとおり建物を対象とする賃貸借契約です。「借家契約」とも呼ばれることがあり、前述のとおり契約更新の有無などの違いによって普通借家契約(普通建物賃貸借契約)と定期借家契約(定期建物賃貸借契約)に分かれます。
集合住宅や一軒家を借りる際に大家と結ぶ契約は、建物賃貸借契約ということになります。多くの人にとって、身近な賃貸借契約といえるでしょう。
土地賃貸借契約
土地賃貸借契約は、土地を対象とする賃貸借契約で「借地契約」とも呼ばれます。土地賃貸借契約の中で「土地上に建物を建築して所有する土地賃貸借契約」には借地借家法が適用され、借主が強く保護されます。つまり、借主が貸主から借りた土地の上に建物を建築し、その建物を利用する際に締結する契約です。
建物所有目的の土地賃貸借契約の場合は、建物賃貸借契約と同じように、契約内容によって普通借地契約と定期借地契約に分けられます。普通借地権の存続期間は原則30年で、1回目の更新後の存続期間は原則20年、2回目以降の更新後の存続期間は原則10年と定められています。
最初の存続期間を30年未満、更新後の存続期間を20年未満や10年未満と定めても、その取り決めは無効となり、存続期間はそれぞれ30年・20年・10年となります。ただし、これらよりも長い期間を存続期間とする分には問題ありません。
契約が満了したら借主は建物を解体し、更地にしてから貸主へ土地を返却する必要があります。
賃貸借契約において必要な書類
賃貸借契約では、賃貸借契約書を取り交わす必要があります。また契約書とは別に、不動産会社が借主に対して契約内容や契約条件、契約期間などの内容を示す重要事項説明書を交付しなければなりません。
賃貸借契約書
賃貸借契約において、賃貸物件を借りる・貸すのに必要となる書類が賃貸借契約書です。建物の概要や契約期間をはじめ、賃料や貸主・借主の氏名、共益費、敷金、契約の解除・終了などの必要事項が記載されています。こちらを両者が了承して記名・捺印すると、はじめて契約が成立します。
フォーマットに制約があるわけではありませんが、ここでは国土交通省が作成している「賃貸住宅標準契約書」の記載に沿って内容を説明します。
①契約期間と更新
契約の開始時期と終了時期を明記するとともに、契約更新の是非についても記載します。いつからいつまで住宅を借りられるのか明確にするためにも、この記載は極めて重要です。定期借家契約の場合は契約更新がないため、上記の文面・表記は若干変わります。
②賃料や管理費、支払先、敷金
賃料や共益費、敷金の支払期限や支払方法を明記します。また、敷金やその他一時金、附属施設の使用料などについても記載します。賃料の改定についても、契約書に記載されることがあります。借主としては、どういった条件で賃料が改定される可能性があるのか(例えば「協議の上」と記載されている、など)確認が必要です。
③反社会的勢力の排除
貸主や管理業者、借主・同居人の氏名・社名を記載するとともに、お互いが反社会的勢力に無関係であることを確約する文言が記載されます。また脅迫的な言動や暴力、業務妨害行為などを禁止する旨も記載されます。
④禁止事項
反社会的勢力との関わりに加えて、契約遂行にあたって借主が禁止・制限される行為の一覧が列挙されます。貸借権の譲渡・転貸や物件の増改築に加え、ペットや騒音、異臭、危険物の持ち込みなどが禁止されるのが一般的です。通常は別表に詳細が記載されているので、必ず目を通しておきましょう。
⑤修繕
借主と貸主の間でトラブルにならないよう、修繕の責任者や費用などについても取り決める必要があります。経年劣化のように借主の過失によらないと考えられる損傷は貸主負担、借主の過失であれば借主負担となるのが原則ですが、契約内容によって変わる場合もあります。
設備に破損が生じた場合の負担を借主と貸主のどちらが負うのか、内容を必ずチェックしましょう。
⑥契約の解除
どのような条件で貸主から契約解除ができるのかを定めます。標準契約書では賃料や共益費の支払義務、修繕費の負担義務、使用目的遵守義務などが記載されていますが、他に気になる解除条件がないかチェックすべきです。
⑦借主からの解約
契約満了前に借主から解約できるか、解約するためにはどういった手続きを踏む必要があるのかを確認しましょう。一般的には、前もって(上記の例では最低30日前)解約を申し入れれば問題はないはずですが、短期での解約の場合は貸主から違約金を求められるケースもあるため注意が必要です。
⑧原状回復の範囲
引っ越す際の原状回復や敷金の返還は、トラブルが起きやすい部分なので特に注意が必要です。2020年4月の民法改正で、敷金の返還義務や借主による原状回復義務、原状回復費用の負担割合が明文化されたことを受けて、契約書にもこれらが盛り込まれるケースが増えるでしょう。
明確な内容が盛り込まれていないようであれば、必ず相手先や不動産会社に確認しましょう。ただでさえ引越しには費用がかかるのに、予想外の原状回復費用を請求されては困ります。判断に迷った場合は、専門家に相談することをおすすめします。
⑨特約事項
その他特約事項がある場合は、契約書に追記して借主・貸主が内容を共有します。標準契約書に記載のないものとして、契約更新時の更新料や喫煙禁止、・楽器演奏禁止などの用途制限などが考えられます。
重要事項説明書
重要事項説明書は、宅地建物取引業者が取引を仲介するときに作成義務が課せられる書類です。借主に対して、建物の概要や水道・電気・ガス・下水などの整備状況、台所・トイレなど設備の状況、契約解除や違約金、そして権利関係や法令上の利用制限などを説明するために作成し、内容を説明しなければなりません。
不動産の専門知識を有さない人が借主になり、重要事項について十分理解しないまま契約を締結すると、予想外の不利益を被ることがあります。そこで宅地建物取引業法第35条では、宅建業者(不動産会社など)は重要事項を説明しなければならないと規定し、情報の非対称性を解消しようとしています。
重要事項の説明や説明書の交付は、契約の前に行われます。宅地建物取引主任者資格試験に合格・登録し、主任者証の交付を受けた「宅地建物取引主任者」でないと重要事項説明を行うことができません。説明の際は、主任者証を提示することが義務づけられています。
当然ながら、賃貸借契約書とともに重要事項説明書も保管しておくことが求められます。
賃貸借契約の手続き
|
| STEP1 問い合わせ~物件探し |
|
| STEP2 内見~物件の決定 |
|
| STEP3 入居申し込み~審査 |
|
| STEP4 契約~物件引き渡し |
賃貸借契約の流れと、主な作業は上記の表のとおりです。
STEP1:問い合わせ~物件探し
借主としては、物件探しに際して希望する具体的な条件を洗い出すことが重要です。エリアや家賃相場、部屋の広さ・間取り、階数、近隣施設、セキュリティ対策などについて、希望に合う物件がないかインターネットなどで調べましょう。
STEP2:内見~物件の決定
不動産会社から希望に合う物件の紹介を受けたら、内見と初期費用の確認を行います。室内の様子に加えて、建物全体と近隣エリアの状況もチェックしましょう。事前に家電や家具などを採寸し、配置をイメージしてもよいでしょう。また家賃のみならず、敷金・礼金や仲介手数料などの諸費用も含めた初期費用の見積もりも必要です。不動産会社に見積もりを依頼しましょう。
STEP3:入居申し込み~審査
物件を決めたら、入居申し込みを行います。入居申込書に必要事項を記入し、運転免許証やパスポートなどの本人確認書類のコピー、源泉徴収票や給与証明書などの収入証明書類のコピーなどとともに不動産会社に提出します。
申し込み内容をもとにて審査が行われます。審査は2~3日から1週間程度で完了するのが一般的です。場合によっては、連帯保証人や緊急連絡先の人に確認の連絡が入ることもあるため、事前に連絡がある旨を伝えておきましょう。
STEP4:契約~物件引き渡し
審査に通過したら、不動産会社から重要事項の説明を受け、契約手続きが行われます。宅地建物取引士の資格を持つ担当者が、書面を読みながら口頭で説明をしてくれるので内容をしっかり確認し、不明点はその場で確認しましょう。
契約の際は、契約金や印鑑、本人確認書類、収入証明書類、住民票、連帯保証人の承諾書など、多くの書類が必要です。事前に不動産会社から必要書類の一覧を教えてもらえますので、余裕を持って準備を進めてください。
契約が完了したら、物件の引き渡しです。担当者から鍵を受け取り、引越しや水道・電気・ガス・インターネットなどの手続きを進めます。
契約時に必要な書類の例
会社からもらえる源泉徴収票をはじめ、納税証明書、確定申告書の写しなどがこれに当たります。場合によっては、申し込みの段階で必要となることもあります。 | |
役所で受け取ることができます。実印登録をしていない場合は、まず登録手続きが必要です。また住民票については、契約者のみならず入居者全員が記載されたものを受け取ります。 | |
連帯保証人がいる場合、その承諾書や収入証明書類、住民票、印鑑証明書などの提出を求められることがあります。 |
契約時に必要になる主な書類に、収入証明書類、住民票および印鑑証明書、保証人関連書類があります。いずれも契約当日に取得できるものではないため、事前に準備しておかなければなりません。特に保証人関連書類は他の人に作業を依頼するものなので、早めに依頼することをおすすめします。
契約の際は、書類以外に印鑑(ゴム印不可が一般的)、お金(手付金、前払い家賃、敷金・礼金、保険料、仲介手数料など)も準備しておきましょう。契約時に支払うお金は、家賃の半年分ほどになることもあります。
賃貸借契約の全体の流れを理解しよう
賃貸借契約の流れと契約内容を頭に入れておくことで、契約後にトラブルが起こるリスクを大きく減らすことができます。住居や法律などの専門知識を暗記する必要はありませんが、全体の流れは理解しておいて損はありません。実際に住居を借りる手続きに入ると、書類の手配や不動産会社・保証人との連絡などで忙しくなるので、手続きの前に本記事を読み返して全体の流れを復習してください。
よくある質問
賃貸借契約とは何ですか?
当事者の一方が物の使用や収益を相手方にさせることを約束し、相手方が賃料を支払うことを約束することによって効力が生じる契約です。例えば、建物や土地などを借りる際に貸主と結ぶ、不動産の賃貸借契約などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
賃貸借契約を結ぶには何をする必要がありますか?
物件探しや不動産会社・大家への問い合わせ、内見、入居申し込み、入居審査、重要事項説明、契約、物件引き渡しなどがあります。また、収入証明書類や住民票・印鑑証明書など、必要となる書類も多いので、抜け漏れのないように準備しましょう。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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