- 作成日 : 2024年4月12日
著作物とは?法的な定義や具体例、事業者が注意すべき点を解説
著作物とは思想または感情を表現したもので、著作権法で保護されています。法に定められている方法で利用する場合は、事前に著作権者の許可を得なければなりません。
今回は、著作物として保護される要件や種類、具体例などを解説します。保護の内容や事業者が起こしやすいトラブルも紹介しますので、参考にしてください。
目次
著作物とは?
著作物とは、思想または感情を表現した創造作品であり、単なる事実とは違います。著作物には著作権という権利が発生し、著作権法により保護されています。
著作物を保護する著作権は、知的財産権のひとつです。知的財産権は著作権のほかに産業財産権(特許権、意匠権、商標権など)があります。
産業財産権は登録をしなければ発生しない権利であるのに対し、著作権は創作したときに権利が発生し、登録は必要ありません。そのため、世間には数多くの著作物があり、それぞれが著作権を持っています。
ここでは、著作物の法的な定義と種類をみていきましょう。
法的な定義
著作権法では、著作物について「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています。
著作権法で保護される著作物といえるためには、この定義にあてはまらなければなりません。
まず「思想または感情」を表現したものであるため、単なる事実やデータは著作物にあたりません。また「思想または感情」は人間固有のものであり、AIなど人間以外が作ったものは原則として著作物ではないため注意が必要です。
「創作的に」という要件は、創作者の個性が多少でも現れていれば該当します。幼稚園児や小学生が創作した作品も十分に著作物です。しかし、他人の著作物を模倣したものは複製物であり、著作物ではありません。誰が表現しても変わらないありふれた内容も創作的とはいえず、著作物にはならないとされています。
「表現したもの」という要件が必要なのは、形にならないイメージやアイデアではなく、作品として世に出されてはじめて著作物になるためです。
「文芸、学術、美術または音楽の範囲に属する」については、法律で具体的な例があげられています。具体例については、あとの項目で紹介します。
なお、著作権法についての詳細は下記記事でも解説しています。
著作物の種類
法律では、著作物の種類について次のものを一例にあげています。
- 言語の著作物
- 音楽の著作物
- 舞踊・無言劇の著作物
- 美術の著作物
- 建築の著作物
- 図形の著作物
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物
あくまで例示列挙であり、著作物がこれらに限定されているわけではありません。
また、次のものも著作物にあたるとされています。
- 二次的著作物
- 編集著作物・データベースの著作物
- 共同著作物
二次的著作物とは、著作物を翻訳や編曲、変形するなどして創作した著作物です。
また、百科事典や新聞、雑誌のような編集物は収録されている個々の著作物のほか、全体が編集著作物として保護されます。データベースの著作物とは、データベースで情報の選択または体系的な構成に創作性があるものを指します。
共同著作物とは、複数の人が共同して創作した創作物で、それぞれが担当した部分を分離して利用できないもののことです。
著作物はどのように保護されている?
著作権は、財産的な権利を保護する著作財産権と、人格的な権利を保護する著作者人格権の2つに分かれます。
それぞれの保護内容をみていきましょう。
著作財産権
著作財産権は自身の著作物の利用を独占し、第三者が無断で著作物を利用していればそれを排除できる権利です。一般的に著作権と呼ばれているのはこちらの著作財産権です。
著作権法では、著作財産権の内容について、著作物の利用方法ごとに権利を次のように細かく定めています。
- 複製権
- 上演権・演奏権
- 上映権
- 公衆送信権・公の伝達権
- 口述権
- 展示権
- 頒布権
- 譲渡権
- 貸与権
- 翻訳権・翻案権など
- 二次的著作物に関する原著作者の権利
著作権法に定められている方法で著作物を利用する場合、事前に著作権者の許可を得ることが必要です。
著作権法で保護されている他人の著作物を無断で利用すると、原則として著作権侵害となります。販売などの利用行為の差し止め・没収・損害賠償の請求などを受ける可能性があるほか、故意に著作権侵害を行った場合には刑事罰の対象となります。
著作権は、他人に自由に一部または全部を譲渡あるいは相続でき、著作者と著作権者が異なるというケースも少なくありません。
著作人格権
著作者人格権とは、著作物の創作者が作品に対してもつ名誉権などの人格的利益を保護する権利です。著作者人格権の内容は「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」で、これらの著作者人格権を侵害された場合、侵害者に対して差し止めや損害賠償の請求ができます。
また、著作者の名誉や社会的な評価を傷つけるような方法で著作物を利用すると、著作者人格権を侵害したものとみなされることがあります。
著作者人格権は、創作した者だけが保有できる権利です。譲渡や相続はできず、原則として作者の死亡によって消滅します。
なお、著作人格権については下記記事でも詳しく解説しています。
著作物の具体例
著作物の種類について前の項目で紹介しましたが、それぞれの具体例は次のとおりです。
カテゴリ | 具体的な例 |
---|---|
言語の著作物 | 論文、小説、俳句、詩、川柳、台本、辞典、講演、座談会など |
音楽の著作物 | 楽曲、楽曲を伴う歌詞、即興演奏など |
舞踊・無言劇の著作物 | 日本舞踊、バレエ、ダンス、振付など |
美術の著作物 | 絵画、彫刻、版画、書、オブジェ、漫画、舞台装置など |
建築の著作物 | ビル、タワー、神社、芸術的な建造物 |
図形の著作物 | 地図、図面、年表、時刻表、設計図、立体模型など |
映画の著作物 | 劇場用映画、テレビドラマ、ネット配信動画、コマーシャルフィルム、ビデオ、アニメ、ゲーム |
写真の著作物 | 写真、グラビアなど |
プログラムの著作物 | コンピューター・プログラム |
著作物にあたらないもの
著作物の4つの要件に該当しないものは著作物にあたらず、著作権法で保護されません。
著作物にあたらないものは、一例として次のようなものがあげられます。
- 歴史的事実・データ
- 事実の伝達・事件の報道
- ありふれた表現
- 短い文章
- アイデア
- 実用品・工業製品
- 機械・コンピュータによる作成
- マンガ・アニメのキャラクター自体
これらの表現は著作物の定義にある「思想または感情」「創作したもの」「表現したもの」「文芸、学術、美術または音楽の範囲に属する」のいずれかの要件に該当せず、著作物にはあたりません。
著作物に関して起こりやすいトラブル
私たちの身の周りには著作物があふれ、事業者がトラブルに巻き込まれる事例も少なくありません。
これまで、実際に起こった著作物に関するトラブルの事例をみてみましょう。
- 会社や店舗でBGMとして音楽を再生
- ダンス教室でダンスを振り付け
- 音楽教室での生徒や先生による演奏
社内や店先でBGMとして音楽をかける場合、購入したCDを使用した場合でも、日本音楽著作権協会(JASRAC)などの著作権管理団体を通して使用料を支払わなければなりません。
ただし、商用利用ができる有料音楽サービスを利用するのであれば、利用料の中に著作権使用料が含まれているため、著作権を侵害せず店舗で利用できます。
このほか、振付や演奏などでも著作権の問題が発生するため、特に事業で利用する場合は注意が必要です。
作物に対して事業者が注意すべきこと
世の中にある創造物の多くは、著作権法で保護されています。事業者が自社で創造したもの以外を利用する際は、著作物であることを意識し、適切に対応しなければなりません。
著作物を利用する場合は著作権者の許諾などが必要であり、許諾が必要かどうかは次の手順で調べます。
- 日本人が作り、国内で最初に発行されているか
- 条約により日本が保護義務を負うか
- 保護期間内(原則として著作者の死後70年間)のものか
- 許諾なく使える場合か
以上のすべてに該当したら、著作権者を調べて許諾を得る必要があります。
著作物の利用には十分注意しよう
世間には著作権法で守られている著作物が多く、特に事業で利用する際は適切な対応が必要です。著作物にあたるものの要件を把握し、著作権侵害といったトラブルを起こさないよう、著作権法についてよく確認しておくとよいでしょう。
e-GOV法令検索では法律の最新情報も掲載しているため、適宜チェックして、著作物を正しく取り扱ってください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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