- 更新日 : 2025年3月5日
独占禁止法とは?違反した企業の事例や規制内容、罰則をわかりやすく解説
独占禁止法は公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とする法律で、中小企業を含む事業者が対象です。独占禁止法に違反すると公正取引委員会から排除措置命令が出され、無視すると罰則が科されます。事業者は無過失責任のもと、被害者から損害賠償請求を受けるリスクもあります。ここでは、具体例や下請法との関係も含めて解説します。
目次
独占禁止法とは
独占禁止法は、市場における公正な競争を確保するための法律で、正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。
独占禁止法3条で「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」と定められています。
「事業者」「私的独占」「不当な取引制限」の定義は同法2条で定められており、「事業者」には会社の規模等による制限はなく、中小企業なども事業者に該当します。
ここからは、独占禁止法3条で禁止される「私的独占」「不当な取引制限」について解説します。
独占禁止法の目的
独占禁止法の目的は、市場において特定の企業や事業者が支配的な立場を利用して競争を妨げるのを防ぎ、消費者の利益を守ることです。
市場メカニズムが正しく機能していれば、事業者は自らの創意工夫によってより安くて優れた商品を提供して売上を伸ばすことができますし、消費者もニーズに合った商品を選択することができます。事業者間の公正な競争によって、消費者の利益が確保されるのです。
独占禁止法は、一般消費者の利益確保と経済の健全な発達促進という目的を果たすために、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法などの禁止項目を定めています。
独占禁止法は中小企業も対象
独占禁止法2条1項で、事業者は「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」と定義されています。会社の規模に関わらず、事業を行う者はすべて独占禁止法の「事業者」に該当するのです。
したがって、中小企業も独占禁止法の対象となります。中小企業であっても、その事業に関して私的独占を行ったり、他の同種事業者とカルテルを行うなど不公正な取引方法を行ったりした場合は、公正取引委員会から排除措置命令を受けたり、課徴金を課されたりするリスクがあります。
独占禁止法の規制内容
独占禁止法の規制内容は、以下の通りです。
私的独占の禁止
私的独占は「排除型私的独占」と「支配型私的独占」に大別されます。排除型私的独占は事業者が単独又は共同して、不当に低価格販売などの手段を用いて競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占したりする行為です。支配型私的独占は事業者が単独又は共同して、株式取得などにより他の事業者の事業活動に制約を与えて、市場を支配しようとする行為です。
不当な取引制限(カルテル)の禁止
独占禁止法3条で禁止されている「不当な取引制限」の典型例として挙げられるのが、「カルテル」です。カルテルとは、事業者同士が相互に連絡を取り合い、本来ならば各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為を指します。
独占禁止法で禁止されている「不当な取引制限」に該当する例には、「入札談合」もあります。談合とは、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し、事前に受注事業者や受注金額などを決める行為のことです。
独占禁止法を補完する下請法の規制内容
下請法は、独占禁止法を補完するための法律という位置付けです。つまり、独占禁止法はカルテルや談合、私的独占など、事業者間の相互連絡や一社独占によって市場の発展が妨げられる行為を禁止するもので、事業者間の横のつながりに重きを置いて、市場の健全性を保つことを目的とする法律といえます。
しかし、独占禁止法は元請けと下請けの関係性など、事業者間の縦のつながりについてはカバーできていません。優越的地位の濫用の禁止など、独占禁止法による規制もありますが十分ではありません。そこで、下請法がこの点を補完します。下請法は、下請業者への代金支払いの遅延や不相当な減額など、親事業者による優越的地位の濫用を抑止するための法律で、独占禁止法における優越的地位の濫用の点を補完しているといえます。
独占禁止法に違反した最近の企業事例
カルテルに関する具体例としては、タクシー料金に関して、市場占有率80%を超えるタクシー事業者数社の間で、共同して最低運賃を定めるなどした行為が独占禁止法で禁止するカルテルにあたるとして、排除措置命令を受けた事例があります。
参照:(平成27年2月27日)都タクシー株式会社ほか14社に対する審決について|公正取引委員会
また、ある旅行業者5社は、ある年に実施される市立中学校の修学旅行について、貸切バス代金の額、宿泊費の額などの基準を設けることに合意しました。これによって市立中学校は、どの旅行会社に依頼しても旅行業者間で取り決めた基準以上の費用を負担することになりました。公正取引委員会による調査の結果、「カルテル」にあたるとして旅行業者に排除措置命令が下されました。
入札談合については、行政からの電気設備工事の入札に関して、入札参加業者10社が数年間にわたって最低落札価格が下がらないようにするため、共同して入札のたびに事業者10社間で受注する業者を決めていたという事例があります。この事例では、公正取引委員会の調査により入札談合に該当するとして、排除措置命令と課徴金納付命令が出されました。
参照:電気設備工事の入札参加業者による入札談合|公正取引委員会
独占禁止法に違反した場合の罰則
公正取引委員会が調査し、独占禁止法に違反する私的独占や不当な取引制限があると判断された場合、当該事業者は、当該行為の差止や違反行為を排除するために必要な措置を取るべきことを内容とする排除措置命令を受けます(独占禁止法7条等)。
また、公正取引委員会から課徴金の支払いを命じられることもあります。
加えて、独占禁止法違反の行為による被害者がいる場合は、被害者から損害賠償を請求されるリスクもあります。損害賠償請求に対しては、事業者は故意過失の不存在を証明しても責任を免れることができない、つまり、無過失責任を負うことになります(独占禁止法25条)。
排除措置命令を無視したらどうなる?
公正取引委員会から排除措置命令が出された場合、その効力を争うためには抗告訴訟を提起するなど、法律上の手続きに則って対抗しなければなりません。このような対抗措置を取らずに放置・無視していた場合、排除措置命令が確定し、確定後も排除措置命令を無視し続けた場合は刑事罰の対象となります。
排除措置命令を無視した場合、事業者には2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(独占禁止法90条)。事業者が法人または法人でない団体である場合は、その法人・団体の代表者や使用人などに対して罰金が科されます(同法95条)。
独占禁止法は消費者の利益を守るための法律
独占禁止法は事業者間の自由な競争を確保し、一般消費者の利益を守るための法律です。事業者は自社の利益を減らさないため、同種事業者と協定を結んで価格を設定することもあると思いますが、このような行為は独占禁止法違反となる可能性があります。
入札談合も同じ仕組みです。各事業者が持ち回りで入札できるように最低落札価格を事業者間で調整することは、独占禁止法で禁止されている行為です。
事業者は「自社の利益を確保するためにはやむを得ない」と考えるかもしれませんが、消費者から見ればこのような事業者の行為は背信行為であり、独占禁止法はこのような行為を固く禁止しています。
参照:昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)|e-GOV
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