- 更新日 : 2024年11月7日
契約書に貼る収入印紙代はどちらが負担するの?
契約書を作成した場合、「収入印紙」を購入して貼ることがあります。収入印紙代は、自社と相手方のどちらが負担すべきなのでしょうか。そもそも収入印紙とはどのようなもので、どのような文書に貼らなければならないのでしょうか。
今回は「収入印紙代はどちらが負担すべきか?」という疑問を解消し、収入印紙が必要なケースや契約書の種類についても説明します。
目次
そもそも収入印紙とは
収入印紙とは、国に対する税金や手数料を支払うことを目的として発行される証票のことです。切手のような見た目で、収入印紙を購入して文書に貼付すると、国に税金や手数料を納めたことになります。
契約書や受取書、証書などの文書を作成した場合は、「印紙税」という税金を国に納めなければなりません。収入印紙を貼り忘れたり、故意に貼らなかったりした場合は、過怠税という税金がペナルティとして課せられます。
詳しくは以下の記事でも解説しています。
収入印紙が必要な場合
印紙税法第2条では、印紙税法別表第一に掲げられている1号から20号までの文書を作成する場合に印紙税を課すことを定めています。
(課税物件)
第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。
別表第一の課税物件とは、以下の20種類の文書のことです。
- (1)不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約
(2)地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
(3)消費貸借に関する契約書
(4)運送に関する契約書(傭船契約書を含む。) - 請負に関する契約書
- 約束手形又は為替手形
- 株券、出資証券若しくは社債券又は投資信託、貸付信託、特定目的信託若しくは受益証券発行信託の受益証券
- 合併契約書又は吸収分割契約書若しくは新設分割計画書
- 定款
- 継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。)
- 預貯金証書
- 倉荷証券、船荷証券又は複合運送証券
- 保険証券
- 信用状
- 信託行為に関する契約書
- 債務の保証に関する契約書(主たる債務の契約書に併記するものを除く。)
- 金銭又は有価証券の寄託に関する契約書
- 債権譲渡又は債務引受けに関する契約書
- 配当金領収証又は配当金振込通知書
- (1)売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書
(2)金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外のもの - 預貯金通帳、信託行為に関する通帳、銀行若しくは無尽会社の作成する掛金通帳、生命保険会社の作成する保険料通帳又は生命共済の掛金通帳
- 第一号、第二号、第十四号又は第十七号に掲げる文書により証されるべき事項を付け込んで証明する目的をもつて作成する通帳(前号に掲げる通帳を除く。)
- 判取帳
上記の文書を作成した場合は、記載された金額に応じて収入印紙を購入し、貼付する必要があります。
馴染みがないものも多いため、難しいと感じるかもしれません。私たちに馴染みがあるものについては、後ほどピックアップしてわかりやすく説明します。まずは、上記の文書を作成した際に印紙税がかかることを頭に入れておきましょう。
収入印紙が不要な場合
とはいえ、すべてのビジネス文書に収入印紙を貼付する必要があるわけではありません。上記の20種類の文書以外、例えば見積書や納品書、請求書などには収入印紙の貼付は不要です。また、文書ごとに「非課税物件」というルールが定められており、それに該当する場合は印紙税がかかりません。例えば「請負に関する契約書」では、契約金額が1万円未満のものであれば印紙税は課されません。
契約書の収入印紙代はどちらが負担する?
契約書の収入印紙代は、自社と相手側のどちらが負担すべきなのでしょうか。それについても法律で定められています。
(納税義務者)
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
2 一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。
印紙税法第3条では、印紙税の納税義務者は「課税文書の作成者」となっています。したがって、契約書を作成した側が負担することになります。ただし、「共同で作成した場合は双方が印紙税を納める義務がある」とも定められています。一般的に契約書は2通作成し、お互いが1通ずつ保管するため、双方がそれぞれに貼り付ける印紙代を負担するケースが多いです。
収入印紙が必要な契約書の種類
ここでは私たちにとって馴染み深い文書で、収入印紙が必要なものを紹介します。課税文書は、前述の別表第一の番号に基づいて「第1号文書」「第2号文書」と呼びます。
普段ビジネスや日常生活の中で私たちが触れる機会が多いものとしては、「第1号文書」「第2号文書」「第5号文書」「第7号文書」の4つが挙げられます。これらの特徴や、収入印紙に関するルールについて見ていきましょう。
第1号文書
第1号文書は不動産、権利、消費貸借、運送にかかわる契約書です。不動産売買契約書や賃貸借契約書、金銭貸借用証書(いわゆる借用書)、運送契約書などが挙げられます。
第1号文書は、記載された契約金額が1万円未満のものについては非課税となります。ただし、第1号文書と第3号文書から第17号文書の双方に該当する文書で、第1号文書に所属が決定されるものは、記載された契約金額が1万円未満であっても課税対象となる可能性があります。
また、2022年5月現在、不動産の譲渡にかかわる契約書については軽減措置が取られています。
第2号文書
請負契約に関する契約書で、工事請負契約書や広告契約書、物品加工注文請書、映画俳優専属契約書などが該当します。いわゆる「業務委託契約書」でも、契約内容が請負であれば収入印紙が必要になります。
第1号文書と同様に契約金額が1万円未満のものについては非課税となりますが、第2号文書と第3号から第17号文書に該当する文書で、第2号文書に所属が決定されるものは、記載された契約金額が1万円未満であっても課税対象になる可能性があります。
2022年5月現在、「請負に関する契約書」のうち建設工事の請負契約にかかわるものは、軽減措置が取られています。
第5号文書
第5号文書は、会社法や保険業法に規定されている文書です。吸収分割契約書や新設分割計画書のうち、会社法に規定されたもの、株式会社同士の合併や吸収分割にかかわる契約文書が該当します。印紙税額は一律4万円です。
第7号文書
第7号文書は継続取引にかかわる文書で、売買取引基本契約書や特約店契約書、代理店契約書、業務委託契約書、銀行取引約定書などが該当します。印紙税額は一律4,000円です。なお、契約期間が3ヵ月以内でかつ更新の定めがないものは非課税となります。
2022年版の印紙税一覧表
ここまで、どのような文書に収入印紙が必要になり、どちらが収入印紙代を負担するかということを説明しました。次に気になるのは、「収入印紙代がいくらかかるのか」ということでしょう。そこで、2022年4月現在の印紙税額を一覧表形式でまとめました。なお、軽減税率は省略しています。
番号 | 文書の種類 | 印紙税額 |
---|---|---|
1 | (1)不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約 (2)地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書 (3)消費貸借に関する契約書 (4)運送に関する契約書(傭船契約書を含む。) | 記載された契約金額が 10万円以下のもの:200円 10万円を超え50万円以下のもの:400円 50万円を超え100万円以下のもの:1千円 100万円を超え500万円以下のもの:2千円 500万円を超え1千万円以下のもの:1万円 1千万円を超え5千万円以下のもの:2万円 5千万円を超え1億円以下のもの:6万円 1億円を超え5億円以下のもの:10万円 5億円を超え10億円以下のもの:20万円 10億円を超え50億円以下のもの:40万円 50億円を超えるもの:60万円 契約金額の記載のないもの:200円 |
2 | 請負に関する契約書 | 記載された契約金額が 100万円以下のもの:200円 100万円を超え200万円以下のもの:400円 200万円を超え300万円以下のもの:1千円 300万円を超え500万円以下のもの:2千円 500万円を超え1千万円以下のもの:1万円 1千万円を超え5千万円以下のもの:2万円 5千万円を超え1億円以下のもの:6万円 1億円を超え5億円以下のもの:10万円 5億円を超え10億円以下のもの:20万円 10億円を超え50億円以下のもの:40万円 50億円を超えるもの:60万円 契約金額の記載のないもの:200円 |
3 | 約束手形又は為替手形 | 記載された手形金額が 10万円以上100万円以下のもの:200円 100万円を超え200万円以下のもの:400円 200万円を超え300万円以下のもの:600円 300万円を超え500万円以下のもの:1千円 500万円を超え1千万円以下のもの:2千円 1千万円を超え2千万円以下のもの:4千円 2千万円を超え3千万円以下のもの:6千円 3千万円を超え5千万円以下のもの:1万円 5千万円を超え1億円以下のもの:2万円 1億円を超え2億円以下のもの:4万円 2億円を超え3億円以下のもの:6万円 3億円を超え5億円以下のもの:10万円 5億円を超え10億円以下のもの:15万円 10億円を超えるもの:20万円 |
4 | 株券、出資証券若しくは社債券又は投資信託、貸付信託、特定目的信託若しくは受益証券発行信託の受益証券 | 記載された券面金額が 500万円以下のもの:200円 500万円を超え1千万円以下のもの:1千円 1千万円を超え5千万円以下のもの:2千円 5千万円を超え1億円以下のもの:1万円 1億円を超えるもの:2万円 |
5 | 合併契約書又は吸収分割契約書若しくは新設分割計画書 | 4千円 |
6 | 定款 | 4千円 |
7 | 継続的取引の基本となる契約書 (契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く) | 4千円 |
8 | 預貯金証書 | 200円 |
9 | 倉荷証券、船荷証券又は複合運送証券 | 200円 |
10 | 保険証券 | 200円 |
11 | 信用状 | 200円 |
12 | 信託行為に関する契約書 | 200円 |
13 | 債務の保証に関する契約書 (主たる債務の契約書に併記するものを除く。) | 200円 |
14 | 金銭又は有価証券の寄託に関する契約書 | 200円 |
15 | 債権譲渡又は債務引受けに関する契約書 | 記載された契約金額が1万円以上のもの:200円 契約金額の記載のないもの:200円 |
16 | 配当金領収証又は配当金振込通知書 | 記載された配当金額が3千円以上のもの:200円 配当金額の記載のないもの:200円 |
17 | (1)売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書 (2)金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外のもの | 記載された受取金額が 100万円以下のもの:200円 100万円を超え200万円以下のもの:400円 200万円を超え300万円以下のもの:600円 300万円を超え500万円以下のもの:1千円 500万円を超え1千万円以下のもの:2千円 1千万円を超え2千万円以下のもの:4千円 2千万円を超え3千万円以下のもの:6千円 3千万円を超え5千万円以下のもの:1万円 5千万円を超え1億円以下のもの:2万円 1億円を超え2億円以下のもの:4万円 2億円を超え3億円以下のもの:6万円 3億円を超え5億円以下のもの:10万円 5億円を超え10億円以下のもの:15万円 10億円を超えるもの:20万円 受取金額の記載のないもの:200円 |
18 | 預貯金通帳、信託行為に関する通帳、銀行若しくは無尽会社の作成する掛金通帳、生命保険会社の作成する保険料通帳又は生命共済の掛金通帳 | 1年ごとに200円 |
19 | 第一号、第二号、第十四号又は第十七号に掲げる文書により証されるべき事項を付け込んで証明する目的をもつて作成する通帳(前号に掲げる通帳を除く。) | 1年ごとに400円 |
20 | 判取帳 | 1年ごとに4千円 |
参考:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
収入印紙代を抑えるには電子契約がおすすめ
紙の契約書を作成する際に必要となる収入印紙ですが、実は電子契約であれば不要になります。過去、国会においても「印紙税は電磁的記録により作成されたものについては課税されない」という答弁がなされました。
参考:第162回国会(常会)答弁書|参議院
また、印紙税を徴収する国税庁も、以下のような見解を示しています。
注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考える。
引用:別紙1-3 事前照会者の求める見解となることの理由|国税庁
課税文書は、現物(紙に印刷された書面)を交付しない場合は課税文書を作成したことにならないため、印紙税はかからないと考えられます。電子契約を導入すると大幅なコストカットにつながるので、これを機会に電子契約を検討することをおすすめします。
電子契約システムを導入すれば、合法的に印紙税を節約することができます。また、収入印紙代だけでなく契約書作成にかかる人件費や紙代、印刷代、郵送費なども削減でき、生産性の向上にもつながります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
印紙税がかかる条件や納税義務者について把握しておこう
ビジネスの現場では、さまざまな文書が作成されます。作成した文書に収入印紙が必要かどうか、必要な場合はいくらかかるのかを把握して、正しく対応しましょう。また、取引先とどちらが収入印紙代を負担するのかについても、話し合っておく必要があります。
収入印紙代を含めて必要経費を削減したい、収入印紙を貼る手間を省きたい、印紙代について揉めたくないという場合は、電子契約システムの導入を検討するとよいでしょう。
よくある質問
契約書の収入印紙代は誰が負担すべき?
印紙税法では「課税文書の作成者」となっていますが、一般的には自社が保管する分の契約書の印紙代を支払うため、双方がそれぞれの契約書に貼付する印紙税を負担するケースが多いです。詳しくはこちらをご覧ください。
そもそも収入印紙とは?
印紙税法で定められた課税文書に貼付する証票のことです。収入印紙を購入し、文書に貼ると印紙税を収めたことになります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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