- 作成日 : 2022年6月24日
民法改正により連帯保証人制度が変わる?注意点を解説!
2020年の「民法大改正」で保証制度、特に連帯保証人に関する規定が大きく変更されました。今回の改正の目的は自身が債務者でないにもかかわらず、債務を背負うおそれのある連帯保証人を保護することです。どこがどのように変わったのか、具体例を挙げながら説明します。
目次
連帯保証人制度とは
保証とは、主たる債務者(以下「主債務者」)が債務を履行しなかった場合に、当該債務について保証契約を結んだ者が主債務者と同一の債務履行責任を負う制度のことで、保証人の債務を「保証債務」といいます。
この項では「保証」と「連帯保証」との違いや根保証について説明し、連帯保証人制度や根保証契約における問題点について見ていきます。
保証契約について
保証契約とは、主債務契約とは別に債権者と保証人との間で交わされる、主債務者が債務を履行しない場合に保証人が主債務と同一の給付をすることを約束する内容の契約のことです(民法(以下同)第446条1項)。
例えば、子が建物を借りる際に親が家主と保証契約を結ぶと、主債務者である子が賃料を払わない場合に、家主は保証人である親に賃料を請求できます。
どのような内容であれ、保証契約は保証人(保証債務者)にとって「他人の債務を負う」可能性があるという、重大かつ覚悟のいるものであるため、口頭ではなく必ず書面(電子契約も含まれる)による契約でなければなりません(同条2項)。
なお、保証人は自身に債務の履行を請求した債権者に、まず主債務者に請求することを求めることや、(催告の抗弁権・第452条)主債務者の財産から先に執行することを求めること(検索の抗弁権・第453条)ができます。
しかし、「連帯」保証人となると話は別です。連帯保証とは主債務者と連帯、つまり一緒に主債務を負うことです。したがって、連帯保証人には催告の抗弁や検索の抗弁の権利はありません(第454条)。要は主債務者に債務履行能力があろうがなかろうが、債権者に請求されれば連帯保証人は債務履行の責任が生じるのです。
注意しなければならないのは、一般的に「保証契約」が付く契約は、その多くが「連帯保証契約」であることです。「他人の保証人にだけはなるな」といわれるのもうなずけます。
参考:民法|e-Gov法令検索
根保証契約について
根保証契約は、一定の継続的な取引関係において生ずる債務を保証するという内容の保証契約です。例えば、ある会社が金融機関からたびたび融資を受けている場合に、融資の都度金融機関が保証人と保証契約を結ぶのではなく、保証人が今後の融資について一括して保証するような形態です。
根保証契約は、保証人にとっては毎回保証契約書を交わす手間が省けますが、保証債務の額が契約時には不明であるというリスクがあります。
そこで保証人保護の観点から、平成16年の民法改正で根保証契約においては極度額を定めることになりました(第465条の2)。また、保証すべき債務の元本確定の日付が契約締結日より5年以上後になっていた場合、その定めを無効とする規定も設けられました(第465条の3)。
しかし、それでも根保証契約にはさまざまな問題が残っていました。その問題点と、今回どのように改正されたかは次項で説明します。
民法改正による連帯保証人制度の変更について注意点
2020年の民法改正の大きな特徴は、保証人制度について保証の内容と意思を保証人となる者にしっかり確認させるための規定や、根保証契約における極度額を定めるべき契約の種類を拡大する規定が置かれたことです。
公証人による保証意思確認手続きが必要に
前述のとおり、実社会における保証契約の多くは連帯保証契約ですが、「連帯」が示すリスクを正しく理解していない、あるいは知人に頼まれて仕方なく連帯保証人となることによって、重大な事態に陥るケースが少なくありません。
そこで改正民法では、「個人」が「事業用の融資」の保証人になる場合は、公正証書で保証債務を履行する意思を表示しなければならないという規定が加わりました(第465条の6)。
債権者や債務者の説明だけでは伏せられてしまうおそれのある連帯保証債務の具体的内容を、第三者である公証人がその旨を理解しているかどうかを保証人となる者に確認することで、安易に保証人となることを回避させる効果が期待できます。
契約関係者への情報提供義務が必要に
主債務者には、事業のために負担する債務について個人に対して保証人となることを依頼する際に、自身の情報、すなわち財産や収支の状況、主債務以外の債務の有無であったりその履行状況などを提供する義務が課されることになりました(第465条の10)。
また、事業用の債務であるかどうかにかかわらず、債権者は保証契約締結後に保証人から請求があれば、主債務の残額や履行状況などの情報を保証人に提供しなければなりません(第458条の2)。
さらに、主債務者が期限の利益を喪失(債務の支払いを滞納し、一括払いをしなければならなくなること)したことを知った時から2ヵ月以内に保証人に通知しなければならなくなりました(第458条の3)。これは、連帯保証人が負う遅延損害金の負担を減らすことを目的とした規定で、通知がないと期限の利益の喪失時から実際に通知した時までの遅延損害金を請求することができなくなります (同条2項)。
根保証契約の極度額を定めることが義務化
従来の根保証契約に関する極度額の規定は、実はほぼ貸金契約のみに適用されていました。賃貸借契約の賃料債務や、会社が取引先に対して負担する可能性のあるすべての債務などを一括して負う根保証契約には、極度額を定める義務がなかったのです。
しかし、根保証債務が膨れ上がるおそれはどのような契約でも考えられ、従来の規定において問題点となっていました。
そこで改正民法では、第465条の2から始まる第5款第2目のタイトルを「貸金等根保証契約」から「個人根保証契約」に変更し、当該規定を個人根保証契約全般に適用させることとしました。
連帯保証人制度の変更に伴う具体例
保証人に関する規定の改正によって私たちに身近な契約はどのように変わるか、具体例を挙げて見ていきましょう。
賃貸借契約の場合
賃貸借契約の保証人となる場合の公正証書による意思の確認は、「事業用の融資」でなければ不要です。親が子の借りるマンションの保証人になる場合などは、これまでどおり契約書さえ交わせばよいということです。また、事業用の融資の保証であっても、保証人が当該会社の役員など一定の関係があれば公正証書は不要です(第465条の9第1号など)。
しかし、一般的に賃貸借契約の保証は根保証契約となることが多い中、極度額を定める旨の規定が賃貸借契約の根保証契約にも適用されることになったため、連帯保証人の負担は多少緩和されることになりそうです。
クレジットカードの場合
原則として、クレジットカードを申し込む際に保証人は不要です。月々の利用限度額が定められ、カードローンの貸付額も返済能力に応じて決められるので、万一の場合の損失額が他のローンに比べて低く抑えられるからです。
クレジットカードの保証人には根保証契約の極度額の定めなど、連帯保証人制度の変更点が適用されます。
融資の場合
融資は原則的に会社(事業)に対して行われるものなので、会社と無関係な個人に保証人を依頼する場合は公正証書で保証契約を結ぶ必要があります。
保証人となる者には、会社の財産や収支状況、主債務以外の債務などの情報を提供しなければなりません。提供を怠ったり、事実と違う情報を提供したりすると、そのことを債権者が知ることができた場合は、保証人は保証契約を取り消すことができます。
融資の場合、根保証契約の極度額に関する規定はもともと「貸金」として適用されており、新たな変更はありません。
民法改正では連帯保証人の保護に重点が置かれている
改正民法は、保証人に連帯保証契約の内容を契約前に確認させたり、事業用借入の場合は主債務者の財政状況の情報提供を義務付けたり、根保証契約全般に極度額の定めを置いたりすることで保証人の保護を図っています。
それでも、安易に連帯保証人になることはおすすめできません。やむを得ず保証人になった場合は、債権者や主債務者と定期的に連絡を取ると同時に、自身の債務でもあるという意識を持ち、しっかり備えておくようにしましょう。
よくある質問
連帯保証人制度とは何ですか?
保証人が主債務者と連帯、すなわち同一の責任を持って主債務の履行を負うという、保証人にとって負担の大きい制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
連帯保証人制度の変更点について、ポイントを教えてください。
保証人を保護するために保証意思の確認方法を厳格にし、事業用負債の場合は事前に債務者の情報を提供することを義務付けました。また、根保証契約に関する民法規定が根保証契約全般に拡大されました。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
下請法違反に該当する行為や罰則は?事例集・チェックシートも紹介
下請法は、下請事業者が不利益を被ることなく公正な取引が行われることを目的として定められた法律です。取り締まりの対象となる取引を限定し、「買いたたき」や「下請代金の減額」などの禁止事項を定めます。 下請事業者と契約を結び、業務を発注する際は、…
詳しくみる使用者責任(民法第715条)の要件は?概要や事例などを解説
企業は従業員の行為によって第三者に損害が生じないよう、監視監督する必要があります。従業員個人が行った行為によって第三者から使用者責任を追及され、損害賠償を請求される可能性があるからです。 使用者責任は企業にとって大きな負担であるため、リスク…
詳しくみる下請法の違反事例は?公正取引委員会による調査や罰則について解説
下請法とは、立場や資本力が優位な発注者による資本力の小さい受注者に対する不正な取引を防止する法律です。下請法は、取引内容と資本金の規模を判断基準として適用されます。 本記事では、下請法の概要や親事業者に発生する義務、よくある下請法違反の事例…
詳しくみる個人情報とは何か?法律上の定義や取扱事業者の義務を解説
個人情報保護は企業の重大な責務の一つです。そもそも個人情報とは何なのでしょうか。 今回は個人情報の法律上の定義や取扱事業者の義務についてわかりやすくご説明します。あらためて個人情報保護の重要性について考えてみましょう。 個人情報とは何? で…
詳しくみる民法555条とは?売買契約の成立要件や効果についてわかりやすく解説
民法555条とは、売買契約が成立する要件を定める条文です。売主がある商品やサービスの所有権を買主に移転することを約束し、買主が売主に代金を支払うことを約束すると売買契約が成立します。民法555条の成立要件や得られる効果、書面作成の必要性につ…
詳しくみる個人識別符号とは?法的な定義や事業者が気を付けるべき点を解説
個人識別符号とは、特定の個人を識別できるような文字や番号などのうち、法令に定められているもののことです。事業者が個人情報保護法に則って適切に情報を管理するためには、個人識別符号が含まれるデータを正しく利用・管理することが必要です。今回は、個…
詳しくみる