• 作成日 : 2023年5月19日

契約書の偽造や改ざんにあたる行為は?問われる罪や防止策を解説

契約書を偽造する行為は「私文書偽造罪」、すでにある契約書を書き換える行為は「私文書変造罪」にあたり、処罰対象となります。偽造したのが印鑑のある契約書なら、罰金刑では済まされません。

この記事では、偽造・改ざんの罪を問われる行為や量刑の違いについて解説します。また、偽造・改ざんの防止策も紹介しますので、参考にしてください。

文書偽造罪の種類

文書偽造は以下の種類に分けられます。

  • 私文書か公文書か
  • 印鑑・署名があるか

印鑑のある公文書が最も信用力があるとされ、その分偽造すると重い処罰が予定されています。不正に偽造した文書を正式な文書として行使する目的があった場合は、刑罰が適用される可能性があるので注意しましょう。

公文書偽造罪

「公文書」とは国や地方自治体など公務所や公務員により作成される文書をいい、公文書を偽造すると「公文書偽造罪」に問われます。

「公文書」の具体例として、役所等で交付される免許証や保険証、印鑑証明書、住民票などがあります。また裁判官によって作成された判決書や、遺言の中でも公証人が証明した公正証書遺言なども公文書に含まれます。

公文書を偽造すると、刑法第155条により1年以上10年以下の懲役に処せられます。公文書は、社会的な信用が高い文書とみなされるため、偽造した場合は私文書よりも厳しい処罰が規定されています。

私文書偽造罪

「私文書」は公文書以外のすべての文書で、公的な立場にない私人や民間企業などが作成し、それにより事実の証明をしたり、権利義務を発生させたりするための書類です。「私文書」の代表例は、私人間や企業間で締結する取引契約書、私立大学の卒業証明書や成績証明書、自筆証書遺言などです。

私文書の偽造が行われるのは、通常何らかの目的で使用するためと考えられます。例えば、大学の卒業証明書ならば就職の目的を遂げるため、自筆証書遺言ならばより多くの遺産を取得するために偽造することが考えられるでしょう。

このように、何らかの目的のために押印や署名のある私文書を偽造すると、刑法第159条「私文書偽造罪」により3ヶ月以上5年以下の懲役に処せられます。

偽造した書類は無効となり、契約によって損害が発生した場合は、民事の損害賠償責任を負うことになります。

有印と無印の違い

私文書、公文書のなかでも、印章や署名があるものを「有印私文書」または「有印公文書」といます。

印鑑や署名は文書自体に信頼性を与えるため、それを信じた者を保護する必要性から、より重い刑罰が適用されます。

例えば、印鑑のある契約書を偽造した場合は「有印私文書偽造」の罪により、3ヶ月以上5年以下の懲役に処せられます。しかし、その契約書に印鑑や署名がなければ「私文書偽造」となるため、科せられるのは1年以下の懲役または10万円以下の罰金です。

刑罰の重さの順は、以下のとおりです。

  • 有印公文書偽造(刑法155条1項)1年以上10年以下の懲役
  • 有印私文書偽造(刑法159条1項)3ヶ月以上5年以下の懲役
  • 公文書偽造(刑法155条3項)3年以下の懲役または20万円以下の罰金
  • 私文書偽造(刑法159条3項)1年以下の懲役または10万円以下の罰金

このように、有印文書偽造は適用される罪が重く、罰金刑が予定されていません。そのため、有罪が確定すれば懲役刑に処せられることがあります。

契約書の偽造や改ざんにあたる行為

企業間などの契約書は「私文書」にあたるため、契約書の偽造は「私文書偽造罪」として処罰されます。文書に印鑑や署名があれば「有印私文書偽造罪」となり、懲役刑に処せられる可能性もあるでしょう。

権限のない者が他人名義の文書を作成することを「偽造」といい、すでに存在する書類の本質的でない部分を書き換えることを「変造」といいます。

刑法第159条1項で「私文書偽造罪」、同条2項で「私文書変造罪」がそれぞれ規定されており、法定刑はいずれも3ヶ月以上5年以下の懲役です。

以下で、契約書の偽造や変造にあたる具体的な行為について解説します。

署名や捺印を偽造する

署名や印章は、人や会社の同一性を保証するためのもので、正式な書面には欠かせません。偽造の署名や印章で契約書を作成した場合、「有印私文書偽造罪」として刑事処罰の対象となります。

例えば、権限がない者が他人の印鑑の印影や筆跡をまねて取引契約書を偽造した場合や、他人の名前で金銭消費貸借契約を締結した場合などです。

いずれの行為も、発覚すれば刑法159条に該当して3ヶ月以上5年以下の懲役に処せられ、損害が発生していれば、民法上の損害賠償責任を負います。

また、署名や捺印だけでなく、拇印の偽造も同じ罪に問われます。

契約書の原本やコピーを書き換える

すでに締結されている契約書を後から書き換える行為は、「有印私文書変造罪」として刑事罰の対象となります。法定刑は、3ヶ月以上5年以下の懲役です。

例えば、雇用契約書を締結して株式会社に入社後、従業員が知らないところで会社側が自己に都合の良い内容に雇用契約書の原本やコピーを書き換える行為は「有印私文書変造罪」(刑法第159条2項)が適用されます。

電子契約書の改ざん

2021年の電子帳簿保存法改正によって、電子で受け取った契約書などは、データのまま保管することが可能になりました。

業務のDX化により、企業間の契約を紙ベースではなく電子データで締結する企業も増えてきています。

電子契約のリスクとして、電子データでの契約締結後の書き換えや、インターネット上のサイバー攻撃による改ざんも考えられるでしょう。

電子契約を偽造、改ざんする行為は、電磁的記録不正作出罪(刑法第161条の2)に該当し、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

契約書の偽造を防ぐには

契約書は、取引相手によって後から改ざんされたり、自社の従業員によって無権限で偽造されたりする恐れもあるため、あらかじめ防止策を講じておく必要があるでしょう。

紙の契約書の偽造を防ぐ方法としては、以下の方法が考えられます。

  • 割印をする
  • 改ざん防止機能のある用紙を選ぶ

割印とは、契約書を複数ずらして重ね、複数枚にまたがって押印する方法です。契約当事者が1通ずつ保管している契約書を合わせれば印影が重なるため、契約後の改ざんを防止できます。

契約書が複数枚にわたる場合には、契約書のページのとじ目などに「契印」をすることで、契約書の連続性を証明することもできるでしょう。

他には、改ざん防止機能のある用紙で契約書を作成する方法もおすすめです。この用紙は、コピー機で契約書を複写するとCOPYという文字が浮き上がる特殊な仕組みになっているため、改ざんのリスクを軽減できます。

また、電子契約書の偽造・改ざんを防ぐためには、タイムスタンプやトラッキング機能など電子帳簿保存法のルールに基づいた対策が必要です。

契約書を偽造・改ざんされないように適切な予防策を

印鑑のある契約書を偽造すると、有印私文書偽造罪として3ヶ月以上5年以下の懲役刑に処せられる可能性があります。

契約書の偽造・改ざんをされないためには、紙ベースであれば割印や契印を押印する、改ざん防止機能のある用紙で作成するなどの予防策を講じましょう。

電子契約書であれば、タイムスタンプやトレッキング機能など、電子帳簿保存法のルールに基づいた対策が必要です。

あらかじめ適切な予防策を取ることで、偽造・改ざんをされにくい契約書を作成しましょう。

よくある質問

契約書の偽造にあたるのは、どのような行為ですか?

権限がない者が他人の印鑑の印影や筆跡をまねて、取引契約書を偽造した場合や、他人の名前を用いて契約を締結した場合などです。詳しくはこちらをご覧ください。

文章偽造罪にはどのような種類がありますか?

公務員等によって作成された公文書か、私人間の私文書かに分けられ、さらに押印があるものはそれぞれ「有印公文書」・「有印私文書」といいます。詳しくはこちらをご覧ください。


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