• 作成日 : 2022年2月17日

遅延損害金とは?契約する上で押さえておくべき知識

遅延損害金とは?契約する上で押さえておくべき知識

契約を締結した後、相手が期限までに債務を履行してくれれば問題はありませんが、期限を過ぎても履行してもらえない場合は、相手に対して損害賠償を請求することができます。ここでは遅延損害金の概要や計算方法、延滞金との違い、法定利率の役割などについて解説します。

遅延損害金とは?

遅延損害金とは、期限までに債務が履行されなかった場合の損害賠償金のことです。元本に対して一定の利率で計算されるため、「遅延利息」と呼ばれることもあります。しかし債務の性質は利息ではなく、あくまで損害賠償金です。

債務不履行には「履行不能」「履行遅滞」「不完全履行」がありますが、金銭債務の債務不履行は履行遅滞に限られます。そのため「遅延損害金」は、金銭債務の債務不履行でよく使われる言葉です。しかし、遅延損害金は金銭債務の債務不履行に限られるものではありません。

遅延損害金と延滞金の違い

「遅延損害金」と似た言葉に「延滞金」がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。どちらも、期限に遅れた場合のペナルティとして課されるものである点は同じです。遅延損害金は民事一般の債権ですが、延滞金の対象は公的な債権である点が異なります。

公的な債権(公債権)とは、税金や下水道料金などです。ちなみに上水道料金は私法上の債権(私債権)なので、期限に遅れた場合は「延滞金」ではなく「遅延損害金」が発生します。公債権は公法上の原因によって発生し、債務者はこれに不服がある場合は不服申し立てをすることができます。一方、私債権は契約などの私法上の原因によって発生し、不服があっても不服申し立てをすることはできません。

公債権には税金のように強制徴収ができる強制徴収公債権と、強制徴収ができない非強制徴収公債権があります。強制徴収公債権は、裁判所の債務名義がなくても自力執行が可能です。非強制徴収公債権は私債権と同様に、支払督促や民事訴訟を提起して債権を回収することになります。

遅延損害金における法定利率について

法定利率とは、利息について当事者が利率を定めていない場合に適用される利率のことです。かつての民法では、法定利率は年5分(年率5%)とされていましたが、民法改正により、当初利率は年率3%とし、3年を1期とし、1期ごとに変動するものとなりました。日本では低金利が長く続いており、年5分というのはあまりにも実態とかけ離れていたため、民法改正で変動制が採用されることになったのです。

変動制では過去5年分の短期貸付の平均利率の平均値を「基準割合」とし、直近の利率との差が1%を超える場合は1%未満を切り捨てた上で、法定利率に反映させることになります。なお、法定利率が適用される基準時は「利息が生じた最初の時点」です(民法404条1項)。

債務不履行により遅延損害金が発生する場合についても、当事者間で利率を決めていなかった場合は法定利率による遅延損害金が発生します。この場合の「利息が生じた最初の時点」は、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」になります(民法419条1項)。

引用:民法|e-GOV法令検索

遅延損害金の計算方法

遅延損害金は、債務額に遅延損害金利率を乗じて計算します。算式は以下のとおりです。

遅延損害金=債務額×遅延損害金利率×延滞日数÷365(閏年の場合は366)

債務額とは、返済期限が到来した債務額のことです。遅延損害金利率は、当事者間で「遅延損害金利率は10%とする」などと取り決めをしている場合は、その利率になります(約定利率)。当事者間で遅延損害金利率について取り決めをしていない場合は、法定利率である3%が適用されます。具体例で見てみましょう。

ケース1:借入金100万円、年利10%、返済期限1年後一括返済、遅延損害金利率年利15%、返済期限より1年間債務不履行の場合

遅延損害金=(100万円+100万円×10%)×15%=16万5,000円

ケース1は借入金を1年後の期限に一括返済する場合で、1年間返済が行われなかったときの計算方法です。最も単純な計算方法といえます。

しかし、実際は分割で弁済する場合が多く、計算は少し複雑になります。分割する場合の計算方法を見てみましょう。

ケース2:借入金100万円、遅延損害金利率年利15%、2022年1月より毎月3万円を返済、2022年3月末まで債務不履行の場合

遅延損害金=(3万円×15%×31日÷365日)+(6万円×15%×28日÷365)+(9万円×15%×31日÷365日)=2,219円

月払いのため、ケース2では1ヵ月ごとに返済額が加算されていきます。

遅延損害金に上限はある?

遅延損害金の利率を設定する場合、上限はあるのでしょうか。利息制限法4条1項は「金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第1条に規定する率の1.46倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする」と規定しています。

「第1条に規定する率」は以下のとおりです。

  • 元本の額が10万円未満の場合:年利20%
  • 元本の額が10万円以上100万円未満の場合:年利18%
  • 元本の額が100万円以上の場合:年利15%

したがって、遅延損害金の上限は以下のようになります。

  • 元本の額が10万円未満の場合:年利20%×1.46倍=29.2%
  • 元本の額が10万円以上100万円未満の場合:年利18%×1.46倍=26.28%
  • 元本の額が100万円以上の場合:年利15%×1.46倍=21.9%

ただし利息制限法7条に特則があり、「第4条第1項の規定にかかわらず、営業的金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が年2割を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と規定されています。つまり、消費者金融などの業者の遅延損害金の上限は20%ということです。

なお、遅延損害金の上限を超えて支払った部分は無効になります。したがって上限を超えて支払ってしまった場合は、元本に充当されます。元本に充当した結果、完済になっている場合は、超過分は過払い金として貸主に返還を請求することができます。

債権者、債務者いずれも遅延損害金の知識を踏まえておこう

今回は、遅延損害金の概要や延滞金との違い、法定利率の役割、遅延損害金の計算方法などについて解説しました。遅延損害金は基本的に当事者間で自由に決めることができますが、利息制限法により一定の制限があります。当事者間で取り決めをしなかった場合は、法定利率による遅延損害金を求めることができます。遅延損害金の知識は債権者の立場はもちろん、債務者の立場になっても重要なので、本記事を参考にして知識を深めてください。

よくある質問

遅延損害金とは何ですか?

遅延損害金とは、期限までに債務が履行されなかった場合の損害賠償金のことです。遅延損害金の利率については、約定がある場合はその利率、約定がない場合は法定利率で計算されます。詳しくはこちらをご覧ください。

遅延損害金と延滞金の違いは?

遅延損害金は民事一般の債権(私債権)ですが、延滞金は公的な債権(公債権)です。公債権には「強制徴収公債権」と「非強制徴収公債権」があります。詳しくはこちらをご覧ください。


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