- 作成日 : 2023年10月27日
消費者契約法とは?契約の取消権が有効なケースや最新の改正を簡単に解説
消費者契約法とは消費者と事業者間の情報量や交渉力の格差を是正し、消費者の利益を守るための法律です。一般消費者を相手方にサービスを展開している企業の方は、消費者契約法を正確に把握しておく必要があります。悪意がなくても、営業方法によっては契約が取消されたり契約内容が無効になったりする可能性があるからです。
本記事では消費者契約法の概要を紹介し、どのような場合に取消権が行使されるかなど、最新の法改正にも触れつつ解説をします。
目次
消費者契約法とは?わかりやすく解説
消費者契約法では、事業者の行為で消費者が誤認・困惑した場合に関して、契約申し込みの意思表示を取り消すことができるとの規定があります。その他、被害の発生および拡大の防止に向けて適格消費者団体が差止請求をできるなど、消費者の利益保護とそれによる「国民生活の安定向上」「国民経済の健全な発展への寄与」を法の目的としています。
消費者契約法はなぜできたのか
消費者契約法は消費者と事業者間の情報量や交渉力の格差を是正し、消費者の利益を守るために、平成12年に制定されました。
消費者と事業者は、契約を締結する際の情報量や交渉力に格差があります。事業者は、商品やサービスの販売、修理、保険などの業務に携わる専門家ともいえ、一方の消費者は商品やサービスに対する知識や経験も持っていないことが多いです。そのため、消費者は一方的に不利な契約を結んでしまう危険性が大きいのです。
そこで消費者契約法は、このような格差を是正するために設けられています。
消費者契約法の3つのルール
消費者契約法では消費者保護に向けてさまざまなルールが定められており、次の3つに分類することができます。
- 不当な勧誘を受けての契約締結は後から「取消し」ができる
- 契約内容に、消費者の利益を不当に害する条項が含まれているとき、当該条項は「無効」になる
- 消費者との取引を行う事業者に対して特定の「努力義務」を課す
これら3つのルールがあることで、同法はBtoC企業にとって重要な法律と位置付けられています。
不当な契約の「取消し」について
不当な勧誘に基づいて契約を交わしてしまったとしても、消費者契約法の規定により、その後取消すことが可能です。
例えば、消費者に誤認を生むような言動を事業者が行った場合や、契約拒絶の意思を示すのが難しい状況に追い込んだ場合、分量・回数などがあまりにも多いような契約の場合などです。以下で詳しく説明します。
契約の取消しができるケース
消費者契約法により契約の取消しができるケースをいくつか列挙します。
- 「このまま部品を交換しないと有害物質が出て人体に悪影響が出るから今すぐ交換をした方がいい」などと、不実告知をして契約を申し込ませた。
- 「この商品は将来絶対に値上がりをするから今すぐ購入すべきですよ」などと、本来不果実性があるにもかかわらず断定的判断を提供して契約を申し込ませた。
- 本当は消費者にとって不利な状況であるにもかかわらず、不利益事実を告知せずに契約を申し込ませた。
- 1人暮らしの消費者に対して10を超える布団一式を購入させるなど、通常必要と思われる分量を著しく超えて商品を購入させた。
- 「契約するつもりはありません」と意思を示した消費者に対して、玄関先でいつまでも居座って勧誘を続け、契約を申し込ませた。
- 「契約するつもりはありません」と意思を示した消費者に対して、事業所から退去しにくい状況に追い込んで勧誘し、契約を申し込ませた。
他にもさまざまなケースで取消権は発生します。消費者が正常な判断がしにくい状況を作り出して契約を交わすと取り消される可能性があり、トラブルに発展するおそれもあるため、留意しましょう。
不当な契約条項の「無効」について
契約は当事者間の自由な交渉に基づいて締結するのが基本です。たとえ一方に不利な内容になっていたとしてもそれ自体が問題にはなりません。
ただし、事業者と消費者との間には知識や交渉力において大きな差があることから、特に消費者の利益を害する不当な契約条項については無効になると法定されています。
なお、無効になるのは特定の条項であって、契約すべてが無効になるわけではありません。
契約条項が無効になるケース
事業者と消費者が交わした契約に、次のような条項が含まれているケースでは、当該条項は無効となります。
- 事業者が一切の責任を負わないと定めた条項
- 免責される範囲が明確でない条項
- どのような理由があっても消費者側からのキャンセルを認めない条項
- 成年後見制度の利用を理由とする契約の解除条項
- 異常に高いキャンセル料条項 など
例えば、「当社の製品によって損害が発生しても、当社は免責されるものとする」といった一切の責任を負わないとする条項を定めても消費者契約法により無効となります。「当社が過失を認めた場合のみ、損害賠償責任を負うものとする。」など、賠償責任を負うとは定めつつも容易に免責できる内容であるときもやはり無効となります。
キャンセル規定に関しても注意が必要です。「いかなる理由があっても契約後のキャンセルや返品はできません」といった条項は無効になり、「キャンセルするには1億円の解約料を支払う必要がある」などと法外なキャンセル料を設ける条項も無効です。また、遅延損害金に関しても年利14.6%を超えた部分は無効になります。契約で「家賃の支払いが遅れた場合、1月分の料金に対して年20%の遅延損害金を支払うものとする。」と定めても14.6%の超過分は無効です。
事業者に対する「努力義務」について
消費者契約法の規定により、事業者には契約トラブルが起こらないようにするため必要なさまざまな「努力義務」が課されています。努力義務とは「できるだけ〇〇をするよう頑張りなさい」という規定であって、その規定通りにしなくても違法になるわけではありません。
しかし、事業者としての信頼を失わないためにも極力努力義務には従うべきともいえるでしょう。その例を以下に示します。
努力義務の例
消費者と契約を交わす事業者は、特定の場面において次のような情報の提供等に努める必要があります。
- 契約条項を定めるときは、条文の意味に関して解釈違いが起こらないよう、意味が明確になるようにすること、また、平易な内容となるように配慮する。
- 勧誘をするときは、消費者の年齢や判断能力などさまざまな事情を考慮して、当該消費者が契約内容について理解できるように情報を提供すること。
- 「契約を解除したいけれど、やり方がわからないから教えて欲しい」と消費者から求められた場合、どうすれば解除ができるのか、具体的な手順など、必要な情報を提供すること。
- 「なぜそのような大きなキャンセル料が発生するのですか」と消費者から聞かれた場合、キャンセル料の算定根拠について説明をすること。
これら努力義務を事業者が果たすことで消費者はより安心して取引に臨むことができます。
消費者契約法の「取消権」と「クーリングオフ」との違い
消費者契約法では上記の通り特定の場合、消費者に対して「取消権」を認めています。また、これとは別に、消費者を保護する仕組みとして「クーリングオフ」も存在します。
どちらも「契約をなかったことにできる」という似た効果を持ちますが、混同しないように注意が必要です。両者には次のような違いがあります。
クーリングオフ | 取消権 | |
---|---|---|
根拠法 | 特定商取引法 | 消費者契約法 |
概要 | 契約から一定期間内なら無条件で契約が解除できる仕組み。 | 不当な勧誘等を受けたときに契約を取り消すことができる仕組み。 |
適用される行為 | 特定商取引法規定の特定の契約形態のみ | すべての消費者契約が適用対象 |
行使できる期間 | 契約書類を受け取ってから8日以内。特定の場合は20日以内。 | 誤認等に気付いてから1年以内かつ契約から5年以内 |
消費者契約法も特定商取引法も消費者保護を目的とする法律です。ただし、広く事業者と消費者間の契約に適用される消費者契約法に対し、特定の契約形態に特化した規律が特定商取引法です。
そこでクーリングオフの仕組みが使えるのも特定の場面に限られています。しかし、対象となる契約であれば、所定の期間内に無条件で解除をすることが可能です。
消費者契約法の最新の改正ポイント
消費者契約法は平成12年に施行されてからこれまでに何度か改正を経ています。平成19年から消費者団体訴訟制度の運用が開始され、平成20年・平成25年の法改正ではその制度の対象が拡大されました。
平成28年・平成30年、そして令和4年には、取消権が発生するケースや無効となる契約の条項、努力義務の内容が広げられています。令和4年における法改正のポイントを以下にまとめます。
取消権の拡充
上述の通り取消権が発生するケースはいくつかありますが、その範囲が改正法により広がりました。これまで認められなかった、次のようなケースでも消費者は契約を取り消すことが可能になっています。
- 勧誘であることを告げずに山奥など退去困難な場所に連れていき、そこで勧誘して契約を申し込ませた。
- 暴言を吐いたり威圧的な態度を取ったりして、相談しようとする消費者の連絡を妨げ、契約を申し込ませた。
- 契約前に目的物の現状を変えて、原状回復を著しく困難にして契約を申し込ませた。
- 霊感商法により不安をあおって契約を申し込ませた。 など
免責条項の無効
消費者による賠償請求を困難にさせるような、責任範囲が不明瞭な免責条項は無効になるとの規律が改正法により適用されるようになりました。
「法律上許容される場合、事業者の賠償額の限度は〇万円とする」などと一般の方が見てどのような場合に適用される免責条項なのかわからないものは、無効になるということです。
そこで「重大な過失がある場合を除き」や「軽過失である場合は」などと条文の書き方をあいまいにしないよう注意が必要です。
事業者による情報提供の努力義務
事業者には情報提供についての努力義務が課されています。
そのため、消費者(または適格消費者団体)の求めに応じ、解除料予定額やその算定根拠の概要を説明することや勧誘をするとき、事業者が知ることができた個々の事情(消費者の知識、経験、年齢、心身の状態等)を総合的に考慮すること、消費者の求めに応じ、解除権の行使に必要な情報を提供すること、定型約款について消費者が表示請求権を行使するために必要な情報を提供することなど、消費者等からの求めにできるだけ応じることが規定されています。
消費者契約法による事業者・企業の対応は?
従来、規定されている不当な勧誘をしないことはもちろん、改正法を踏まえてどのような行為が不当な勧誘にあたるのかを再認識しておく必要があります。企業法務の方が理解しているだけでは不十分であり、特に同法の内容は現場で営業にあたる方が知っておかないといけないルールがたくさん定められています。研修を実施するなどして避けるべき行為を押さえておくようにしましょう。営業に関してのマニュアルの見直しも行うとよいです。
問題なく契約の申し込みをしてもらえたとしても、契約書を作成するときは免責条項が無効になることのないよう留意しなくてはなりません。また、雛型の用意がある場合は文言に修正が必要かどうかチェックしておきましょう。
その上で、極力事業者に課された努力義務を果たせるように努めましょう。
消費者契約法の内容は全社的に周知すべき
企業法務に関わる法令はたくさんありますが、消費者契約法においては直接消費者とやり取りを行う現場の方が特に知っておかないといけない法律です。法改正もあり、旧法において問題がなかったとしても、改正されたルールによって今後トラブルに発展する可能性もあります。今一度、同法の内容を踏まえた営業・勧誘が実施できているか確認し、体制を整えておくことが大事です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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