- 作成日 : 2024年2月1日
企業法務とは?法務担当が勉強すべき法律や社会人に役立つ資格・検定
企業法務とは、企業が関与するすべての法律的な業務を担当する部門のことです。企業法務の担当者はあらゆる法的な事柄に対応するため、多くの法律に関する知識を身につける必要があります。
今回は企業法務で習得しておきたい法律について解説し、法務担当に求められるスキルや関連する資格、検定を紹介します。
目次
企業の法務担当が勉強すべき法律
企業法務の役割は対外的・対内的な法的トラブルを防ぐとともに、発生したトラブルを早期に解決することです。さらに、経営の目的遂行のために、法的スキルを活用した戦術・戦略で、企業活動を支援する役割も求められています。
そのために必要とされるのが法律の知識であり、企業活動で欠かせないのが民法をはじめとする7つの法律です。
ここでは、企業法務の担当が勉強すべき法律の内容と、その法律が関わる仕事内容について解説します。
民法
民法は、私人間の権利・義務を規定する基本的な法律です。企業活動に欠かせない契約や取引のルールが定められています。
民法は大きく「財産法」と「家族法」に分かれ、特に企業活動で必要になるのは財産法です。財産法は「総則」「物権」「債権」に分かれ、企業活動のベースとなっています。
条文の多い法律ですが、まずは企業活動と関わりが深い財産法から勉強していくとよいでしょう。
会社法
会社法は、企業における会社の設立や運営、管理など、会社に関するさまざまなルールについて定めた法律です。2006年に施行され、その後も頻繁に改正が行われています。会社法には、取引相手や利害関係者の保護、法律関係の明確化といった役割があります。
分量の多い法律ですが、株主総会・取締役会などの株式会社の各機関や、自社に関連する法令は最低限押さえなければなりません。
労働法
労働法とは、使用者と労働者の関係性を規律し、労働関係および労働者の地位の保護・向上を図る法令の総称です。具体的な法律には、労働基準法、労働契約法、労働組合法、職業安定法などがあります。
労働法は、従業員を雇用し、労働させる際の基本ルールを定めています。従業員の雇用に関しては人事部が主に担当していますが、労使関係のトラブルなどは法務部が関わることも多く、労働法の知識が欠かせません。
法務担当者は各労働法のルールについて把握し、法令が遵守されるよう努めることが大切です。
商法
商法とは、商人の営業・商行為の基本ルールを定めた法律です。一般法である民法の特別法にあたり、重複する部分については商法が優先的に適用されます。
会社法と比較すると、会社に関するルールを定めた会社法は商行為全般を扱う商法の特別法にあたります。
企業活動では商法よりも会社法が優先的に適用されますが、企業も商法が規定する商行為の主体であり、商法についてもよく理解しておくことが必要です。
独占禁止法
独占禁止法は、企業間の公正かつ自由な競争を促進し、消費者の利益を図ることを目的とする法律です。ほかの事業者を市場から排除または支配する「私的独占」や、カルテル・入札談合といった不当な取引制限などが禁じられています。
独占禁止法に違反した場合、刑事罰を受けることもあり、企業に与える影響は計り知れません。リスクを避けるためにも、法務担当には法律の知識が求められます。
著作権法など知的財産法
知的財産法とは、知的財産を保護する法律の総称です。特許法や意匠法、商標法、著作権法があげられます。
知的財産は財産的な価値がある情報であり、形をもたない無体物です。知的財産法はこのような知的財産の創作を促進するため、他人が無断で利用できないよう、法的に保護することを目的とします。
自社の知的財産を守り、他社の権利を侵害することのないよう、法務担当者は知的財産法についても勉強が必要です。
特定商取引法
特定商取引法とは、違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。訪問販売や通信販売など消費者被害の多い取引を対象に、事業者が守るべきルールを定めています。
各取引類型の特性に応じて、「氏名等の明示の義務付け」や「不当な勧誘行為の禁止」など、行政規制が設けられています。
対象となる取引を行う企業の法務担当者は、特定商取引法についても把握しておくことが大切です。
企業法務を行う上で求められるスキル
企業法務の担当者に求められるスキルは、次の3つです。
- 法律の知識
- 文書・資料作成
- プレゼンテーション
それぞれの内容を詳しくみていきましょう。
法律の知識
企業法務の仕事は、法知識・法務スキルを活かした業務であり、幅広い法律を使いこなさなければなりません。そのため、担当者には法律の知識が不可欠です。前項で紹介した法律の基礎知識や、自社の業務に関係する法律の知識は最低限把握しておきましょう。
ただし、法令の種類は数多く、それらすべてを把握することは困難です。実務上は、業務に必要な法令やガイドライン、判例を適宜必要に応じて調べられるスキルを身につけておくとよいでしょう。
文書・資料作成
企業法務では、法律文書の作成や確認の作業が多く、文書・資料作成のスキルが必要です。
企業法務で作成する文書は、「情報を記録するもの」「社内外に発信するもの」の2種類に大別されます。情報を記録するものは主に契約書や議事録、社内規程などがあげられます。
契約書は契約のルールを定めた文書であり、トラブルになった際の解決基準を定めた合意の記録です。相手側との関係性を明確にし、万が一のトラブルの際にも内容が的確に読み取れる表現が求められます。
議事録や社内規程は、情報の漏れがなく、誰がみてもわかりやすく的確に記載されていることが大切です。
社内外に発信するものには株主総会招集通知、社内外への通知文書、取引先への連絡文書、経営層へのプレゼンテーション資料などがあります。
なかでも対外的に公表する文書は、法的に正確で整合性のある文書の作成が求められます。
プレゼンテーション
企業法務の担当者は、プレゼンテーションを行う機会も少なくありません。コンプライアンスなどの社内研修や会議での説明、経営層への報告などがあげられます。法務部内での勉強会で発表する機会もあるでしょう。
法改正の影響や法的リスクなど、専門的な法的事項をわかりやすく伝えるスキルが必要です。
また、法務担当は社内外との折衝や意見の調整などの役割があり、社内で法律の相談を受けることもあります。それらに対応するため、コミュニケーションスキルも求められます。
企業法務に関連する資格
企業法務の仕事をする上で特別な資格は必要ありませんが、取得しておくと便利な資格はあります。資格取得に向けた勉強により、業務に役立つ知識が身につきます。
また、これから企業法務に転職しようとする場合、有資格者は優遇されることも多いでしょう。
ここでは、企業法務に関連する資格と果たす役割を解説します。
弁護士
弁護士とは、依頼を受けて法律事務を処理する専門家です。弁護士法で「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定されているように、高度な法律の知識を使って人々の権利や利益を守ることを職業とします。
その仕事は紛争の予防や法廷での訴訟活動、個人の権利を守る人権擁護活動など多岐に渡ります。
企業で活躍する弁護士は、外部から依頼する顧問弁護士と、企業法務の担当として雇用される企業内弁護士の2通りです。企業内弁護士はその法的知識とスキルを活かし、企業の経営方針に沿って法務全般と法的トラブルへの対応、企業内ルールの策定などを行います。
司法書士
司法書士とは、司法や法律に関する分野で書類作成・手続代行などを行う専門家です。主に、不動産登記や商業登記などの書類作成・登記申請手続きといった業務を行います。
司法書士は弁護士と同じく法律に関する業務を行いますが、扱える業務の範囲が異なります。弁護士は法律に関するすべての業務に対応できるのに対し、司法書士が対応できるのは書類作成や登記といった一部の業務のみです。
企業法務の担当者が司法書士の資格を保有していれば、登記や法務局への書類提出を社内で対応できます。
行政書士
行政書士とは、公官庁へ提出する書類の作成や手続きの代行を行う専門家です。許認可等の申請書類の作成や提出手続代理、事実証明や契約書の作成など、幅広い業務を行います。
企業法務における仕事は、主に契約書や事実証明、許認可などの書類作成、申請代行を担当します。行政書士の資格を保有する社員がいれば、契約書作成を不備なく行えるため、トラブルの削減に役立つでしょう。
弁理士
弁理士とは、知的財産権に関する専門家です。知的財産の創出や知的財産権の取得、活用をサポートします。企業法務では主に特許や著作権などの知的財産権を特許庁に出願し、登録する業務を行います。
近年は経営戦略に知的財産を活用する企業も増えており、法務部のほかに知的財産部を設けて本格的に取り組んでいる企業も少なくありません。社内に弁理士の資格を保有する社員をおくことで、知的財産を活用する戦略をより進めやすくなります。
社会保険労務士
社会保険労務士とは、社会保険や労働関連の法律を扱う専門家です。社会保険や雇用関係、公的年金の分野において唯一の国家資格とされています。人事や労務管理を扱うため、企業内での活動は主に人事部の領域になるでしょう。
しかし、社会保険労務士で特別研修を修了した「特定社会保険労務士」であれば、裁判外紛争解決手続制度(ADR)に基づく紛争代理業務を行えるため、企業法務でも活躍します。紛争代理業務とは、従業員と事業主のあいだで個別労働関係紛争が起きたときに、代理人としての対応業務を行うことです。
一例として、解雇や賃金未払い、ハラスメントなどのトラブルについて、裁判外のあっせん業務に対応します。
企業法務の担当が特定社会保険労務士の資格を保有していれば、社内のトラブルにも速やかに対応できるでしょう。
企業法務の仕事に役立つ資格・検定
企業法務の仕事に従事する上で、関連する資格・検定を取得しておくと業務に役立ちます。特におすすめは、以下の資格・検定です。
- ビジネス実務法務検定
- 知的財産管理技能検定
- 個人情報保護士
ここでは、それぞれの内容・特徴を解説します。
ビジネス実務法務検定
ビジネス実務法務検定は、ビジネスで必要な法令の基礎知識や実践的な知識の習得を目的とした資格です。ビジネスに役立つ法律知識をバランスよく習得できるため、法務部門だけでなく、営業部門や管理部門などでも役立つ知識・スキルを身につけられます。
法務関連の資格の中で知名度が高く、3級・2級・1級とある資格のうち2級以上であれば、法務部への転職でも高い評価を受けることが可能です。
知的財産管理技能検定
知的財産管理技能検定は、知的財産を適切に管理・運用できることを証明する国家資格です。企業が知的財産を管理するうえで必要な知識・スキルを取得できます。1級〜3級の等級があり、1級は「特許専門業務」「コンテンツ専門業務」「ブランド専門業務」の3つに分けられています。
弁理士との違いは、法律上の独占業務が認められるか否かです。知的財産管理技能士は、企業内で知的財産に関する知識や技能を発揮する能力を証明する資格で、独占業務が付与されるものではありません。
一方、弁理士は外部から報酬を得て知的財産に関するスキルを提供する専門家であり、法律上の独占業務が認められています。
知的財産管理技能士の資格を取得していれば、特にコンテンツ制作会社など知的財産権が重要な役割をする会社で活躍できるでしょう。
個人情報保護士
個人情報保護士は、2005年の個人情報保護法施行に伴い設立された民間資格です。個人情報保護に関する正しい理解と専門知識を持ち、個人情報を適切に運用・管理するスキルが証明されます。
近年の情報化社会では、企業における個人情報の取扱いがますます重要となっています。情報漏洩や外部からのサイバー攻撃といったさまざまなリスクに対応するためには、個人情報に関する知識が欠かせません。
特に企業法務の担当者は、個人情報について正確で高度な知識が求められるでしょう。取得しておくと役立つ資格といえます。
企業法務に役立つ勉強方法
企業法務の担当者として業務を行う上では、法律知識・スキルの習得が欠かせません。ここでは、知識の習得に役立つ勉強方法を紹介します。
書籍や雑誌、論文を読む
法律に関する知識を提供する文献は数多く、書籍をはじめとして法律・実務雑誌や論文を読むことで、有益な知識を身につけられます。
初歩的な内容の書籍も充実しているため、レベルに合うものをみつけて空いた時間などに読むようにするとよいでしょう。
目標がないと継続しにくい場合は、ビジネス実務法務検定など資格取得を目的に勉強するのもおすすめです。
省庁や法務関連団体が主催するセミナーを受講する
各省庁や法務関連団体などでは、定期的にセミナーを開催しています。企業法務におけるスキルアップを目的に開催されるものも多く、ビジネス法務に関する最新情報を得られるのもメリットのひとつです。
書籍などで勉強をしていると不明な点が出てくることもあるでしょう。セミナーは、書籍では埋められない知識の隙間を埋める機会にもなります。また、同じ企業法務の担当者と同席し、意見交換できる場合があることもメリットです。
日頃からセミナー情報をチェックし、役立つテーマのセミナーがあれば積極的に受講してみましょう。
積極的に経営の業務に参加する
知識やスキルの習得の多くは、実務の経験により身につきます。実務を通して、書籍だけではわからない多くのことを学べるでしょう。
はじめは先輩や上司の指導を受けながら実務を覚えるOJTを行うことで、さまざまな業務のスキルが身につきます。経営の意思決定の場に参加するなど経営の業務に携われば、企業法務の担当者としての自覚も養われるでしょう。
SNSなどで情報収集をする
インターネットが普及している現代では、企業法務に関する知識やノウハウもオンライン上で取得できます。数多くの情報があり、なかには誤りを含むものもありますが、信憑性を見極めながら上手に活用しましょう。
SNSには法律の専門家や企業法務の担当者が投稿していることもあり、新しい情報も取得できます。独学でわからないことがあれば、質問して解消することも可能です。
企業法務は幅広い法律の知識が必要
企業法務の仕事をこなすためには、幅広い法律の知識が必要です。基本となる法律や自社の業務に関わる法律の基礎知識を身につけながら、必要に応じて関連の法令を調べるスキルも身につけておきましょう。
企業法務の担当者には、ほかにも文書作成やプレゼンテーションのスキル、コミュニケーション力などが求められます。
法令に関する最新の動向にもアンテナを巡らしておかなければなりません。e-GOV法令検索なども活用し、情報のチェックを怠らないようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
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