- 作成日 : 2023年12月22日
権利の主体とは?権利能力の範囲や事業者が知っておきたい点を解説
権利の主体とは、法的に権利能力を有する者のことです。権利能力があるのは人(自然人)と法人であり、契約の当事者となって権利を取得することや、義務を負うことができます。
本記事では権利の主体について概要を説明するとともに、権利能力がある者と認められない者、権利能力の始期・終期、具体的事例について解説します。
目次
権利の主体とは?
権利の主体とは、法的に権利能力を有する者のことです。権利の主体になれるのは人(自然人)と法人であり、契約などに基づいて権利を取得し、または義務を負うことができます。
権利の主体に対し権利の客体になるのは、有体物である「物」です。権利の主体と客体の違いをみてみましょう。
権利の客体との違い
権利の主体に対し、権利の客体となるのは、土地およびその定着物である不動産と、不動産以外の動産に分けられます。権利の主体である人や法人は、これら権利の客体である財産について取引行為を行います。
例えば、個人がスーパーに行って買い物をした場合、買い物をした個人は権利の主体であり、購入した物は権利の客体です。
また、企業間の取引で土地を売買した場合、取引をした各企業は権利の主体となり、土地が権利の客体になります。
権利主体について事業者がおさえておくべき点
事業者は契約締結の場面で権利主体に対する理解が必要です。事業者が契約を締結する際は、相手方が実在の会社であることを確認しなければなりません。法人格のない組織は権利の主体ではなく、契約当事者になれないためです。
また後述しますが、組合や権利能力なき社団には権利能力がなく、権利の主体とはなれません。契約当事者ではなく、代表者個人が代表者の肩書で契約する必要があります。
権利能力を有する者の具体例
権利の主体は法的に権利能力を有する者のことで、権利能力とは法律上の権利・義務の主体となりえる資格を指します。人(自然人)は生まれながらにして権利能力を有するとされ、法人は設立によって権利能力を取得することが可能です。
ここでは、「権利能力を有する者」の具体例について解説します。
人(自然人)
人(自然人)は出生により権利能力を有するとされています(民法3条1項)。人であれば、誰もが等しく権利能力を有するということです。
ただし、外国人は法令または条約の規定により、一部の権利能力が制限されています。土地や知的財産権の享有に制限が設けられていることがその一例です。
法人
法人とは、自然人以外の者で、法律により権利義務の主体となる資格を認められたものを指します。
法人の一例は、以下のとおりです。
- 会社(株式会社・合名会社・合資会社・合同会社)
- 一般社団法人
- 一般財団法人
- 公益社団法人
- 公益財団法人
- 宗教法人
- 学校法人
法人の権利能力は、定款または寄附行為で定められた目的の範囲に限られます。目的を超えた行為を法人の代表者が行った場合には、その行為は法人の権利能力の範囲を超え、法人に帰属しません。
権利能力が認められないケース
権利能力が認められないのは、権利能力なき社団や組合です。どちらも法人格がなく、契約の当事者になれません。
また、胎児や亡くなった人にも権利能力は認められていません。人の権利は、出生に始まり死亡によって終了するためです。
ここでは、権利能力が認められないケースを解説します。
権利能力なき社団
権利能力なき社団とは、法律の規定によらないで設立される団体のことです。一例として、同窓会や互助会、町内会、ボランティア団体など非営利目的で活動する団体があげられます。
法人は法律の規定に従って設立される必要があるため、権利能力なき社団は法人格を持たず、権利能力がありません。
権利能力なき社団は代表者の行為によって構成員全体のために権利を取得し、義務を負担します。
組合
組合とは、数人が協力して共同目的のために結成する団体のひとつです。民法上の組合は「各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる」(民法667条)と規定されています。
組合には権利能力がなく、組合自体は契約当事者になれません。組合が契約を締結する際は、各組合員または各業務執行者が当事者となります。
組合の財産は組合の所有にはならず、各構成員に持分が認められる「合有」であると考えられています。
亡くなった人・胎児
権利能力の消滅について法律上の規定はありませんが、死亡によって消滅するとされています。
また、私権の享有は出生に始まる(民法3条)とされ、権利能力は出生後に取得するのが原則です。そのため、出生前の胎児には権利能力がありません。しかし、胎児の権利能力については法律上の例外があり、この点に関しては後述します。
権利能力の始期、終期はいつ?
人と法人の権利能力は、始期と終期がそれぞれ決まっています。
ここでは、権利能力の始期・終期についてみていきましょう。
権利能力の始期
人の始期は出生時(民法3条)で、法人の場合は成立時に権利能力を取得します。出生の時期はいつになるかによって諸説はありますが、胎児が母体から露出している部分をとらえて、「一部露出説」と「全部露出説」という2つの説があり、民法上は「全部露出説」が通説です。胎児の身体が母体から全部露出した時点を出生とし、その時点から権利能力を獲得します。
ただし、法律では胎児の権利能力につき「相続」「遺贈」「不法行為に基づく損害賠償請求」の3つについて例外を規定しています。
相続や遺贈については、相続開始時に胎児が生まれていない場合でも、そのあとに胎児が出生したときは、相続開始時に遡って生まれていたものとみなすという規定があります。そのため、相続人または受遺者となることが可能です(民法886条・民法965条)。
また、胎児は不法行為に基づく損害賠償請求についても、生まれたものとみなされます(民法721条)。例えば、妻が妊娠中に夫が交通事故など不法行為によって死亡し、加害者に損害賠償請求をするような場合です。胎児が出生した場合、妻だけでなく生まれた子どもも不法行為時に遡って生まれたものとみなされ、損害賠償請求ができます。子どもの請求は、親権者である母親が代理して請求することになります。
権利能力の終期
権利能力の終期は、人の場合は死亡時(失踪宣告をした場合を含む)とされています。
法人の場合は、解散時ではなく清算結了時です。解散後は財産の処分や債務の弁済などの手続きがあり、権利能力を前提にして進めなければならないためです。
権利能力と意思能力、行為能力との関係性
権利能力のほかに、意思能力や行為能力という言葉があります。これらはどのように違うのか、詳しくみていきましょう。
意思能力との違い
意思能力とは、法律上有効な意思表示をする能力のことです。自分の行為の結果を理解できる精神的な能力を指します。意思能力がない状態でなされた法律行為は無効になります。
意思能力のない人も人として権利能力をもち、法定代理人や成年後見人などが代理して法律行為をすれば、権利を取得して義務を負うことができます。
行為能力との違い
行為能力とは、法律行為を単独で有効に行える能力のことです。行為能力を有しない者は未成年者や成年被後見人など類型的に定められ、制限行為能力者として自らが行う法律行為について制限されます。
制限行為能力者の法律行為はあとから取り消すことができ、取り消された場合、その法律行為は初めから無効であったものとみなされます。一方、制限行為能力者も人であるため、権利能力者です。親権者や後見人等の同意を得られた場合は、法律行為を有効化できます。
権利主体(権利能力)に関する判例・事例
権利主体(権利能力)に関しては、裁判で争われた事例が少なくありません。ここでは、権利能力なき社団と胎児の権利能力について、最高裁判所が判断を示した事例を紹介します。
権利能力なき社団に関する判例
権利能力なき社団の代表者が社団の名義で行った賃貸借契約について効力が争われた事案で、裁判所は権利能力なき社団の成立要件について判断を示し、賃貸借契約の効果を認めました。
判決では権利能力なき社団の成立要件について、下記のような点をもとに個別具体的に判断されるとしています。
- 団体としての組織を備えているか
- 多数決の原則が行われているか
- 構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続するか
- その組織についての代表の方法・総会の運営・財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているか
このような権利能力なき社団に該当する場合、その資産は総有的に帰属するとして、団体の代表者と賃貸人の間で締結した賃貸借契約は有効という判決が下されました。
胎児の権利能力に関する判例
父と妊娠中の内縁の妻がいる男性が電車事故で死亡した案件で、遺族である両者が電鉄会社との間で、今後本件に関して一切の請求をしないという内容の和解契約を結んだ事案です。
死亡した男性の実父が胎児の分も含めて弔慰金を受け取りましたが、その後、出生した子が損害賠償の請求をしたところ、 出生前に結んだ和解契約は後日出生した子に対して何ら効力はないという判決が出されました。
胎児の間は権利能力はないものの、無事に生まれると不法行為の時点に遡って権利能力を取得するというのが判決の理由です。
権利の主体について正しく理解しよう
権利の主体は法的に権利能力を有する者で、人と法人が該当します。人であれば誰もが同じく権利能力を有し、法律で権利義務の主体となる資格を認められた法人も、定款または寄附行為で定められた目的の範囲内で権利能力をもちます。
権利能力は意思能力や行為能力とは異なるため、それぞれの違いも把握しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
下請法の対象かどうか判断するには?資本金や対象取引の条件をわかりやすく解説
下請法の対象となるのは、下請法所定の4つの取引において、一定の資本金額の関係にある場合に限られます。下請法の対象となる場合、親事業者にはさまざまな義務が課せられます。そのため、その取引が下請法の対象となるのかを正確に把握しておくことが必要で…
詳しくみる行政契約とは?意味や種類をわかりやすく解説
行政契約とは、行政主体が契約の当事者となり、他の行政主体や私人との間で結ぶ契約をいいます。過去には、行政契約を公法上の法律関係として私人間の契約と区別する考え方がとられることもありましたが、現在では両者の区別はせず、あくまで契約としてその意…
詳しくみるフリーランス新法と下請法の違いは?企業の対応についても解説
フリーランス新法と下請法の違いを理解することは、企業にとって重要です。2024年11月に施行予定のフリーランス新法は、下請法と類似点がありながらも、適用範囲や義務内容に違いがあります。 本記事では、両法の比較や企業の対応について詳しく解説し…
詳しくみる時効とは?刑事と民事における定義や完成猶予などを解説
時効とは、ある出来事が一定期間継続しているとき、その状態に即した権利関係を確定させることです。時効というと、刑事上の時効を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実は民事上の時効も存在し、時効によって権利の取得や消滅が起きます。今回は、時効の概…
詳しくみる薬機法とは?概要や対象、規制内容を簡単に解説
薬機法とは、医薬品や医薬部外品、化粧品などの品質や有効性、安全性を確保するために、製造や販売、広告などに関する規則を定めた法律です。薬機法に違反すると、処罰の対象になり、社会的信用が失墜する可能性もあります。まずは、何が規制対象となっている…
詳しくみる企業結合規制とは?独占禁止法における定義や審査や届出基準、事例をわかりやすく解説
独占禁止法における企業結合規制とは、企業結合により、企業同士が事業活動を共同して行う関係になり、業界内の競争が制限されることを避けるためのものです。M&A(吸収&合併)の際に、適用される場合があります。本記事では、企業結合ガイドライ…
詳しくみる