- 更新日 : 2023年11月2日
企業法務とは?仕事内容や関連する資格、法律を解説
企業が安定して事業を継続するためには、法的なリスクを適切に管理し、最小限に抑える努力が求められます。その役割を担うのが「企業法務」です。この記事では企業法務について、具体的な仕事内容や関連する法律・資格などを解説します。
目次
企業法務とは?
企業法務は、「企業活動に伴う法律問題の予防や対応、指導などに関する諸活動」の総称です。
法的なトラブルの発生を予防することや、実際に発生したトラブルに対応することは、主に企業を守るための企業法務であり、前者を「予防法務」、後者を「臨床法務」と呼びます。
一方で新規事業やM&Aに関する法的検討など、経営戦略を手助けする場合の企業法務は「戦略法務」と呼ばれます。
これらの企業法務は、企業の信頼性の確保および企業価値の向上・競争力の強化において重要な役割を果たします。
適切に企業法務を行うためにはコンプライアンス体制の強化が必要であり、企業に重大な影響を及ぼし得るリスクを見極めて対策を講ずるリスクマネジメントも必要です。
企業法務の仕事内容
企業法務の仕事内容は企業ごとに異なりますが、すべての企業に共通する部分も多いです。企業法務の仕事内容のうち、主なものを取り上げて説明します。
契約書に関する業務、リーガルチェック
企業法務の基本的な仕事の一つが「契約書に関する業務」です。
作成した契約書や受領した契約書の内容をチェックし、法的に問題がないかどうかを確認します。法律の強行規定に反する条項が含まれていないか、法令に基づいて規定が必要な条項が抜け落ちていないかを確認するのはもちろん、自社にとって不利な内容となっていないか、取引の相手方に課すべきルールが記載されているかなど、さまざまな視点でリーガルチェックを行います。
企業が契約に基づく事業を円滑に遂行し、トラブルによる重大な損害を回避するためには、契約書の内容から取引のルールや自社が引き受けるリスクなどを適切に評価しなければなりません。
各種法令の遵守、コンプライアンス対応
企業が事業を運営するにあたっては、法令を遵守しなければなりません。企業に適用される法令は多岐にわたるため、法的な知識を持つ法務部の存在が欠かせません。外部の弁護士に対応してもらうこともありますが、専門家である弁護士とやり取りができる窓口としても法務部は重要です。
近年は、法令の遵守をはじめとするコンプライアンスの重要性がいっそう強調されています。社会から認められ、信頼される事業者となるためには、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識を高める必要があります。
したがって、法務部内に法的な知識を溜め込むだけでなく、必要な知識を社内に共有することも大切です。たとえば、適切な社内規程を設けて周知することや、従業員向けのコンプライアンス研修を実施することなどが求められます。
労務環境・労働問題に関する業務
企業は、従業員との関係において労働問題に直面するケースもあります。
労使関係について、企業は労働基準法・労働契約法・最低賃金法などの法令を遵守しなければなりません。法令の枠内で適切な労務環境や労働条件を設定するには、法務部が必要不可欠です。
知的財産権に関する業務
知的財産権とは、特許権・商標権・著作権・意匠権など、創作物等を保護する権利です。
企業は事業活動において数多くの創作物(発明・商品名・ロゴ・著作物・デザインなど)を生み出すほか、他社の創作物を利用することもあります。
知的財産権の管理をおろそかにしていると、他社に技術やノウハウを取られてしまうかもしれません。また、他社の知的財産権を軽視していると、侵害を理由に差止めや損害賠償を請求されるおそれもあります。
そのため、知的財産権の取得や管理、行使は、企業活動の中でも重要度の高い業務といえます。知的財産権については特許法・商標法・著作権法・意匠法などの法律が適用され、対応にあたっては法的な知識が必要になるため、法務部のよる対応が求められます。
債権回収や債権管理に関する業務
契約内容は守られなければなりませんが、常に契約通りに債務が履行されるとは限りません。財務状況が突然悪化したといった理由で、取引先から支払われるはずのお金が支払われないこともあります。
債権回収ができなくなるリスクを回避し、安定的に資金繰りを行うためにも、きちんと債権管理をしておかなければなりません。また、不払いとなった債権については、訴訟や強制執行などを通じて回収を図る必要があります。債権の不払いにつながり得る異常を早期に察知することや、異常を確認したときには早急に法的手続きを行うことなど、スピードが求められる業務です。
株主総会への対応
株主総会は、株式会社の意思決定を行う重要な場です。株主総会の運営にあたっては、会社法の規定を遵守するとともに、株主との対話が適切に行われるように準備しなければなりません。法務部の役割は、株主総会が円滑に開催されるためのサポートをすることです。
近年は新型コロナウイルスの流行もあり、株主総会をオンラインで開催する企業が増えました。各企業においては、会社法の規定を遵守しつつ、株主のニーズに対応する開催環境の整備が求められています。
M&Aや事業承継に関する業務
事業を拡大する手法にはさまざまなパターンがありますが、その1つに「他社の買収(=M&A)」が挙げられます。
ただし、それまで他社が管理していた事業を取得するときは慎重に行われなければなりません。当該事業の内容を的確に評価する必要があり、収益性などのほか、法的なリスクが含まれていないかどうかも確認する必要があります。
そのため、リスク回避の観点から買収対象の企業や事業に対するデューデリジェンス(調査)を実施します。外部の専門家にも依頼しつつ、多様な観点から企業価値を評価する重要な過程です。買収対象企業のプラスの側面のみならず、マイナスの側面についても正しく理解し、買収可否の判断や買収価格の決定を適切に行うことが求められます。
デューデリジェンスについて、詳しくは下記記事で解説しています。
企業法務に関連する法律
企業の活動は幅広いため、多様な法律が適用されます。事業内容などによって適用される法律は変わりますが、特に重要なものをいくつかピックアップします。
商法や会社法
企業活動において最も基礎的な法律が、「商法」と「会社法」です。
- 商法:「商人」や「商行為」などについて規定した法律。商取引に関する基本的なルールが定められている。会社に関する規定は、法改正により会社法に引き継がれた。
- 会社法:企業の設立や運営から解散にいたるまで、ライフサイクルすべてに関わる幅広いルールが規定されている。株式に関するルール、機関の設計、取締役に対する規制、株主の権利保護、組織再編など多数の条文で構成される。
個人情報保護法やGDPR
デジタル化が進む昨今では、多くの企業が個人情報をデータベース上で管理しています。データベースで管理された個人情報は流出するリスクを伴うため、「個人情報保護法」によって個人情報を取り扱う事業者に対して適用されるルールがまとめられています。
また、企業のビジネスがEU圏内に及ぶ場合は、EUにおける「GDPR」という法令にも注意しなければなりません。
GDPRについて、詳しくは下記記事で紹介しています。
消費者保護法
企業と一般消費者である個人の間には、知識や交渉力に大きな差があります。そこで一方的に消費者が不利益を被ることがないよう、法令による保護が図られています。消費者契約法や特定商取引法など、消費者保護を目的とした法律を「消費者保護法」と呼んでいます。
BtoC取引がメインとなる企業の場合は、特に消費者保護法の理解と遵守が必要です。法務部が主導し、営業担当などにも法令遵守を徹底してもらわなければなりません。
労働法
収入の大部分を給与に依存する従業員は、企業に対して弱い立場にあります。企業が一方的に不利な労働条件を課すケースも起こり得るため、労働基準法や労働契約法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法など、多数の法律により労働者の保護を図っています。これら法律を「労働法」といいます。
事業内容や組織の規模など問わず、従業員を雇用する企業は労働法への留意が必要です。
知的財産法
発明や意匠、著作物、商標、営業秘密などを守るため、「知的財産法」についても理解しておく必要があります。「知的財産法」は特定の法律を指す言葉ではなく、次に挙げる法律をまとめて呼ぶときの言葉です。
- 特許法
- 実用新案法
- 意匠法
- 商標法
- 著作権法
- 不正競争防止法 など
自社の事業内容に照らして、適用される知的財産法の種類およびルールを把握しておくことが大切です。
倒産法
企業は、自らの意思決定に基づいて事業を閉じることができます。一方で債務超過に陥り、事業を続けたくても続けられない状況になることもあります。そのような場合は、破産法や民事再生法、会社更生法などに従い、清算や再建の手続きを進めます。
これらの法律の総称が「倒産法」です。同法は債務者である企業のためだけでなく、同社が破産等を行うことでダメージを受ける債権者を保護するためのものでもあります。事業を終わらせるときも、法務部が最後に重要な役割を担うことになります。
企業法務に関する資格
一定分野につき、一定以上の知識が備わっていることを示すには、資格取得をアピールするのが効果的です。企業法務に携わる方に役立つ資格を以下にまとめます。
企業法務に関する資格 | |
---|---|
弁護士 | あらゆる法律問題を取り扱うことができる専門家。 契約書作成などのほか、訴訟代理なども可能。 |
司法書士 | 弁護士同様に法律系の専門家であるが、原則として登記業務や供託業務に特化している。 |
行政書士 | 法律系の国家資格であり、補助金や助成金の申請、届出などの公的手続き、書類作成などを取り扱う専門家。 |
弁理士 | 知的財産に関する専門家。 特許取得、商標登録などのサポートができる。 |
社会保険労務士 | 労働関連の知識を持つ専門家。 雇用契約、労務管理、給与計算、社会保険の手続きなどのサポートができる。 |
ビジネス実務法務検定 | 企業法務実務に関して一定の知識があることを示す検定。 |
ビジネスコンプライアンス検定 | 企業法務のうちコンプライアンスに特化した検定。組織のコンプライアンス体制の構築や運用サポートに役立つ。 |
個人情報保護士 | 個人情報保護法やマイナンバー法の知識を持つ専門家。 情報セキュリティに関する基礎知識も有する。 |
企業の法務担当者に向いてる人
企業の法務担当者には、法律の知識が求められます。契約内容のチェックや従業員・顧客とのトラブルに対処するには、法律上のルールを知っていなければなりません。法律の知識やスキルはもちろん必要ですが、その上で担当者には適性も求められます。
次のような人物は、法務担当者に向いているといえます。
- 注意力のある人
契約書などの文書を細部まで、注意深く確認する能力が求められる。小さなミスも見落とさずに指摘できることが重要。 - コミュニケーション能力が高い人
社内外のさまざまな関係者と連携を取ることがあるため、意図を的確に伝えられるコミュニケーション能力が必要。 - 情報収集や調査能力が高い人
あらゆる法律の知識をあらかじめ備えることは困難であり、法改正も起こるため、必要に応じて情報収集・調査を迅速に遂行できる能力が必要。
企業の法務部で働くには?
企業の法務部で働くためのルートはたくさんありますが、最も一般的なルートは「法律系の大学や大学院を卒業し、法務部枠で採用される」というルートです。また、「法務部以外の部署で就職し、その後法律系資格を取得して法務部に異動、あるいは転職する」というルートもあります。さらに、「(弁護士や司法書士などの)士業の事務所で就職し、その後企業の法務部に転職する」というルートもあります。
決まったルートや方法はなく、結局のところ各社が採用を認めてくれれば、法務部で働くことができます。とはいえ、転職して法務担当者となるには、通常は法的な知識や法務の経験が求められますので、少しでも有利に進めるためには、法律関係の仕事の経験や、資格の取得が効果的と考えられます。
企業法務はビジネスの持続的発展に欠かせない
企業法務は、企業が直面する法的課題やリスクを適切に管理し、ビジネスの持続的な成長を支援するという重要な役割を担っています。企業は、法的知識に加えてコミュニケーション能力・注意力・問題解決能力などを兼ね備えた人材を法務担当者として確保するよう努めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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