• 更新日 : 2023年8月1日

事業譲渡契約とは?テンプレをもとに契約書の書き方も解説

事業譲渡契約とは?テンプレをもとに契約書の書き方も解説

契約はどれも大切なものですが、会社の経営を他者に託す自社の今後を左右する事業譲渡契約は経営者のみならず、従業員の行く末にも大きく関わる重要事項です。それだけに、事業譲渡契約書に記載する内容は慎重に検討しなければなりません。

ここでは事業譲渡契約書の意義や記載内容、作成時の注意点などについて詳しく解説します。

事業譲渡とは

事業譲渡契約とは事業譲渡の際に、譲渡側(譲渡する側)と譲受側(譲渡される側)が締結する契約のことを指します。事業譲渡に至った理由や事情はさまざまであり、契約書も譲渡に至る経緯を考慮して作成する必要があります。まずは事業譲渡に関する基本的な事柄を押さえておきましょう。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、その名のとおり自社の事業を第三者に譲り渡すことです。会社が所有する有形・無形の財産や負債、契約上の地位などをまとめて第三者に譲り渡します。

会社が行っているすべての事業を譲渡することも、一部の事業を切り分けて譲渡することも可能で、当事者間の協議によって決定します。

親族同士など旧知の間柄で事業譲渡を行うケースも多いですが、近年では専門業者が仲介して全く接点がなかった第三者に譲渡するM&Aも盛んに行われています。

事業譲渡を行う目的

事業譲渡を行う目的の典型例は、採算部門を生き残らせることです。採算の取れている部門を切り離して事業譲渡し、残った不採算部門を清算することで、他社の下で採算部門を生き残らせることができます。それとは反対に、不採算部門だけを事業譲渡して、会社全体の収支改善を目指すケースもあります(ただし、不採算部門の買い手を見つけなければなりません)。

近年では事業承継の一手法として事業譲渡が行われることも多いです。これまで経営者は自分の親族や従業員に会社を継がせるケースが多かったのですが、後継者がいない場合は第三者に事業譲渡することで、経営を引き継ぐことができます。

事業譲渡を行うケース

事業自体は継続させて顧客へのサービスや従業員の雇用などは継続させたいけど、会社がその事業を抱えられない状況にあるというケースが挙げられます。この場合、採算が取れている部門だけを譲渡して残った不採算部門を清算するか、または採算性が低い事業のみを切り離して譲渡します。

近年は後継者不足に悩んでいる経営者も少なくありません。子どもがいない、あるいは事業を受け継いでくれる子どもや親族、従業員がいないといった事情を抱えていて事業譲渡を選択するケースも増えてきています。会社の事業をすべて譲渡することで、会社経営自体を第三者に引き継ぐことが可能です。

事業譲渡と株式譲渡の違い

株式譲渡とは、自身が所有する会社の株式を第三者に譲り渡すことです。経営者が100%を所有している自社発行株式をすべて譲渡すれば、会社の経営権は譲受側に移転します。また、一部の株式を譲渡することもできます。

一方で事業譲渡は、譲受人が取得するのは会社の事業(の一部)であり、経営権ではありません。株式譲渡は経営者が個人として行いますが、事業譲渡は会社が主体となって行う取引です。

なお事業譲渡の場合、譲渡される事業に係る負債や契約上の地位も譲渡されますが、その際には債権者や契約相手の承諾が必要となります。これに対して株式譲渡の場合、承継に関する債権者や契約相手の承諾は不要です。

事業譲渡契約を締結する必要性

事業譲渡契約とは、事業譲渡を行う際には譲渡側と譲受側が結ぶ契約のことです。事業譲渡契約書という書面を用いて契約を締結しますが、なぜ事業を譲渡する際には契約書の締結が必要なのでしょうか。ここからは事業譲渡契約を締結する必要性について見ていきましょう。

契約を締結する目的

前述のとおり、事業譲渡を行う目的や背景、経営者が抱えている事情は会社それぞれです。「赤字を出し続けている事業のみを譲渡したい」というケースと、「事業自体は順調だが後継者がいないため事業を譲渡したい」というケースでは、当事者間の立場も含め、大きく事情が異なってきます。会社の事業の一部のみを譲渡するのか、それとも全部の事業を譲渡するかによっても話が変わってきます。

事業譲渡の条件は、上記のような事情を踏まえて詳細に合意しなければなりません。会社の事業のどの部分を譲渡するか、譲渡の金額、譲渡前後の遵守事項など、決めるべき事柄はたくさんあります。後のトラブルを防ぐため、これらの多岐にわたる当事者間の合意内容を明確化したものが事業譲渡契約書です。

事業譲渡契約書の雛形・テンプレート

今回、株式会社同士で事業の一部を譲渡する場合の事業譲渡契約書のテンプレートをご用意しました。
このテンプレートを参考に、事業譲渡契約書を作成してみましょう。

事業譲渡契約書のテンプレートは下記のページからダウンロードできます。

事業譲渡契約書に記載すべき項目

ここからは事業譲渡契約書に記載すべき項目について詳しく見ていきましょう。上記の事業譲渡契約書の雛形・テンプレートをもとに解説しますので、理解を深めるという意味でも、ダウンロードしていただくことをおすすめします。

契約者

まずは誰と誰が契約を締結するのかを明記します。この項目で「以下「甲」という」「以下「乙」という」というように、譲渡側を甲、譲受側を乙に置き換えて、これ以降は両者の名称の代わりに甲乙を記載するのが一般的です。

目的

事業譲渡契約書の目的について記載します。譲渡する事業の内容や、事業譲渡に至った背景などを明確にしておきましょう。

取引内容

譲渡する資産の内訳、譲渡対価の金額や支払い期限、支払い方法、その他取引に関する取り決めを記載します。

租税公課の精算

国や自治体によって賦課徴収される税金や保険料の精算方法について記載します。租税公課の例としては法人税等や固定資産税などの税金、従業員の社会保険料などが挙げられます。

従業員の引き継ぎ

従業員を雇用している場合は、その処遇について規定します。事業の一部のみを譲渡する場合は、譲受側が新しく雇用する従業員と、譲渡側で雇用を継続する従業員に分かれるのが一般的です。雇用先の判断基準などを明記しましょう。

誓約事項

事業譲渡の前後において、譲渡側・譲受側のそれぞれが行うべきこと、および行ってはならないことについて明記します。

競業避止義務

競業避止義務とは、譲渡する事業と競合する行為してはならない義務です。例えば譲渡側が、譲渡した事業と同種の事業を近隣地域で展開するなどの行為が挙げられます。

損害賠償請求

いずれかの当事者の契約違反により、相手方に損害が生じた場合の賠償ルールを定めます。損害賠償の範囲を明確化することが重要です。

合意管轄

裁判を起こして相手方とのトラブルの解決を図る場合に、訴えを起こす裁判所名を具体的に明記します。

事業譲渡契約書を作成する際の注意点

事業譲渡契約書を作成する際の具体的な注意点を、項目ごとに見ていきましょう。

譲渡対象の範囲

前述のとおり、当事者は譲渡する事業を自由に決められるため、譲渡対象となる事業の範囲を明確に特定しなければなりません。事業をすべて譲渡する場合でも、負債も譲り渡すのか、契約時までに発生した利益はどう処理するかといった付随事項が多くあるため、疑義のない記載を心がけましょう。

従業員の転籍

譲渡する事業とともに従業員も譲受側に承継させるのか、従業員は譲渡側に残るのかについても定めなければなりません。従業員の雇用先は、事業譲渡の当事者のみで決めることはできません。譲渡側の従業員が譲受側に移る場合、その従業員の承諾を得る必要があります(民法第625条第1項)。したがって、従業員を転籍させる際は、対象となる従業員の決め方や転籍の手続きなどを明らかにしましょう。

商号続用時の免責登記

例えば、ある会社が自社の飲食店チェーン事業のみを他社に譲渡し、譲受会社が従前の飲食店の商号を継続して使用する場合は、

「その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う」

と規定されています(会社法(以下同)第22条第1項)。飲食店事業の債権者は、譲渡側、譲受側のどちらが債務の弁済責任を負うかを知らないケースが多いため、債権者保護のため譲渡会社だけでなく譲受会社も責任を負うとしているのです。
ただし、「譲受会社は譲渡会社の債務の弁済責任を負わない」という契約であれば、その旨を登記することで免責されます(同第22条第2項)。

登記をしておけば、従前の債権者は登記簿を見て債務者を正確に把握できるからです。
免責登記には譲渡会社の承諾が必要になるため、その旨を契約書に必ず記載しましょう。

公租公課の負担

譲渡する事業に関連する税金や保険料等の公租公課の支払い義務について、いつの時期から譲受会社が負担するかを記載します。

競業避止義務に関する記載

譲渡会社は、譲受会社と同一の区域内(市町村及びその隣接地)において、譲渡日から20年間、譲渡事業と同一の市町村および隣接市町村の区域内において、同一の事業を行うことはできません(同第21条)。これを競業避止義務といいます。ただし、競業避止義務の区域の範囲は当事者間の協議で自由に決められます。また、当事者の合意があれば禁止期間を最長30年まで延長することもできます(同第21条第2項)。禁止期間の短縮・免除も可能です。したがって、法律の規定と違う条件で競業禁止義務を定める場合はその内容を記載します。

収入印紙

事業譲渡契約書には、譲渡額に応じてかかる印紙税分の収入印紙を貼付します。例えば、譲渡額が1,000万円を超え5,000万円以下なら2万円、1億円を超え5億円以下なら10万円分の収入印紙が必要です。

事業譲渡契約書の内容が円滑な事業の引き継ぎを左右する

事業譲渡は会社の将来を左右する大きな節目です。細部にまで取り決めをしておかないと譲渡側と譲受側の間で揉めて事業譲渡が破談になる、顧客に迷惑がかかる、従業員の雇用や待遇が守られないなど、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。

事業を円滑に引き継ぐためには、お互いに納得がいくまでしっかりと協議を重ね、事業譲渡契約書にその内容をもれなく盛り込み、書面で契約を締結しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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