• 作成日 : 2023年9月29日

秘密保持条項とは?契約書における役割や文例を解説

秘密保持条項とは?契約書における役割や文例を解説

「情報」は企業にとって重要な資産の1つです。多種多様、質の高い情報を持つことは企業の競争力向上にも関わってきます。しかしモノとは異なり外部に流出しやすいため、他社との契約に際しては秘密保持条項を設けることが重要です。

当記事で、秘密保持条項として定める具体的な記載方法や例文を紹介するので、ぜひ契約書作成の参考にしてください。

契約書における秘密保持条項とは

「秘密保持条項」とは契約書に定める条項の一種であり、取引の相手方と共有した情報を外部へ漏洩させないことを目的とした条項です。契約書に常に定めなければならない条項ではありませんが、特に漏洩リスクが大きな情報を共有する場面でこの条項が設けられます。

秘密保持条項では、例えば秘密情報の管理方法や第三者への提供の可否・方法、契約が終了した後の取り扱いなどのルールを記載することになります。

なお、秘密保持条項として定めたルールが適用される範囲、つまり「何が秘密情報となるのか」について法的な決まりはありません。そのため秘密情報の定義から当事者間で定め、契約書に記載することとなります。

秘密保持条項の文例

秘密保持条項の例としてシンプルなものを以下に示します。

第〇条(秘密保持)

甲および乙は、本契約の履行にあたり知り得た秘密情報を、本契約履行のためのみに使用し、かつ相手方の同意なく第三者に開示または漏洩しないものとする。ただし、次の各号いずれかに該当する情報は除く。

(1)開示されたときに相手方が知得していたもの

(2)開示されたときにすでに公知であったもの

(3)開示された後で相手方の帰責事由なく公知になったもの

2 前項の義務は、本契約の終了後3年間存続する。

3 甲および乙は、秘密情報の使用の必要性が失われたとき、または本契約の終了後、相手方の指示に従い速やかに当該秘密情報を返還、または破棄する。

必要に応じて秘密情報の範囲や取り扱い方法、禁止事項などを調整する必要があります。必ずしも1つの条文にまとめる必要はありませんので、複数の条文を設けて細かくルールを定めること、見やすい契約書を作ることを目指すと良いでしょう。

秘密保持条項で記載すべき項目

秘密保持条項として記載すべき項目は多岐にわたります。いくつかに分類して以下で紹介していきますので、各社各項目について記載すべきかどうかを検討し、記載をする場合には具体的な条文の内容も考えていく必要があります。

紹介するのはあくまで一般的な例であるため、契約書を作成するときは個別の取引内容に適した内容へとカスタマイズすることに留意しましょう。

秘密情報の定義や範囲

まずは秘密情報の範囲を確定させることが大事です。何が秘密情報なのかの定義が明瞭でなければ、どれだけ権利義務を詳細に定めても秘密保持の実効性は担保されません。

上の文例はごくシンプルな表現を使っていますが、より具体的に定義づけをしても問題ありません。ただし長々と秘密情報について定義してしまうと契約書の視認性が下がってしまいますし、想定外に秘密情報の範囲が狭まってしまうおそれもあります。そこで定義の部分は慎重に検討を進めることが大事です。

例えば「秘密情報とは……」に続き次のような表現を使うことが考えられます。

  • 秘密である旨を明示して書面または電磁的方法により開示する情報
  • 口頭や上映、実演など、書面または電磁的方法によらず開示する情報であって、秘密である旨を告知した情報
  • 技術上、営業上その他業務上の一切の情報のうち、秘密である旨が明示されたもの
  • 相手方の施設内において知得した情報

また、特定のモノ(製品や部品のサンプルなど)を指定して、「これを提供するときは、秘密である旨の明示がなくても秘密情報として取り扱う」などと定めるケースもあります。

適用外となる情報

秘密情報の定義とも密接に関わるものですが、秘密情報として定められた範囲内の情報のうち、部分的に適用外とすべき情報も列挙するのが一般的です。

適用外となる情報を定めるのは、秘密情報の開示を受ける当事者にとって特に重要です。例えば「本契約の履行上、相手方から開示された情報」と秘密情報を抽象的に定められてしまうと、たまたま自社がすでに持っていた情報と類似しているとき、相手方から秘密情報であるとの主張されてしまうおそれがあります。秘密情報だという扱いになると、当該条項による義務を負うこととなってしまいます。

そこで上の例にもある通り、すでに知得していた情報や公知となっていた情報を適用除外とするのです。また、「独自の開発により得た情報」「正当な権限を持つ第三者から、秘密保持義務を負うことなく取得した情報」などと適用除外の情報を定めるケースもあります。

秘密情報の取り扱い方法

秘密情報を明らかにすることができれば、その取り扱い方法についてルールを定めます。どのように取り扱うのか、上の例では使用範囲と外部への共有の制限を設けています。

そもそも秘密情報を流出させたくないのであれば共有をしなければ良いのですが、情報を渡さなければ取引の遂行が難しいという現状があるからこそ、秘密保持条項まで設けて情報共有を行っているのです。

そこで情報を開示する側としては、第三者に勝手に秘密情報を渡さないことはもちろん、相手方内部であっても当該契約以外に使用されることを防ぐ必要があります。

より厳格な取り扱いを求めるときは、「秘密情報取扱管理者を定め、相手方から開示された秘密情報を、厳重に保管、管理する」「漏えい、盗難、紛失等の事態が発生した、またはそのおそれがあるときは、直ちにその旨を相手方に通知する」といったルールの設定も検討すると良いでしょう。

禁止事項

前項の取り扱い方法とも関連しますが、特に禁ずるべき行為があるときは、禁止事項も列挙すると良いです。

禁止事項をあえて設けるのは、相手方に契約違反に対する言い逃れをできる余地を与えてしまうリスクがあるためです。

例えば単に「秘密を守ること」などと規定した場合、退勤時に社内データを自宅に持ち帰る行為や個人宛のメールに資料を送信する行為などを防ぎきれない可能性があります。そのため持ち出しの禁止について詳細に定める、あるいは持ち出しをするための条件を定めるなどして対応することも検討します。

秘密情報の破棄・返還

相手方が適切に秘密情報を保持していたとしても、保持する必要性がなくなったのであれば破棄や返還を求めるべきです。情報の開示を受けた側としても、長く秘密情報を持ち続けるのはリスクがあります。

そこで指示に従って破棄または返還をしてもらえるよう、契約書に定めましょう。

対象となる期間

秘密保持条項が有効になる期間についても定めることがあります。期間の定めは、秘密情報の開示を受ける側にとって重要なルールです。

これ以上情報の共有を求めていないにもかかわらず相手方が次々と情報を送ってきた場合、いつまでも情報管理の負担がかかり続けてしまいます。

なお、期間にも種類があります。「秘密情報を取り交わす期間」や「開示された情報の秘密を保持する期間」。これらを使い分けて双方納得のいく期間の定めを設けると良いでしょう。

秘密保持条項をチェックする際のポイント

秘密保持条項のチェック方法は、秘密情報を開示する側・開示を受ける側の違いにより異なります。

秘密情報の開示を行う側が契約書を作成するときは、慎重に秘密情報の定義を行う必要があります。範囲は広い方が良いとも考えられますが、公知情報まで含んでしまうような書き方だと秘密保持の対象が不明瞭になってしまいます。

明確化したいものに関しては、別紙を作成し、そこにリスト化するなどの対応も検討すると良いでしょう。

開示を受ける側としては、秘密情報の定義が広すぎないかどうか、過度に自社に負担を課すものとなっていないかどうかをチェックすべきです。

いずれの立場からしても、明確化されておらず不明瞭な部分が多い秘密保持条項はトラブルの元となってしまい良くありません。弁護士など企業法務に強い専門家に見てもらうことが一番安全といえます。

秘密保持契約(NDA)を別途締結するケース

秘密保持条項は、ある契約書を構成する一要素です。売買契約書や業務委託契約書など、大元となる契約に付け足す形で設けられるものですので、シンプルなルールを定める場合に利用されるケースが多いです。

これに対して、より厳格に秘密保持のルールを定めたいというときは、「秘密保持契約書(DNA)」という秘密保持に特化した契約書を別途作成するのが一般的です。

別の契約書とすることで効力に差が出るわけではありませんが、文章量が多くなるとき、ルールが複雑化するときは、専用の契約とした方が双方にとって見やすいですし、理解もしやすくなります。

秘密保持契約書についてはこちらの記事も参考にしてください。

重要な情報を開示するときは秘密保持条項を忘れずに

秘密保持条項を軽く見てはいけません。内容を精査せずサインしてしまうことは双方にとって大きなリスクとなり得ます。特に情報を開示する側は、秘密保持条項記載の検討を忘れないようにしましょう。

秘密情報の開示を受ける側も受け取った契約書の内容をよくチェックし、具体的にどのような負担がかかるのか、過度に不利な内容にされていないかどうかを見ておかなければなりません。


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