• 作成日 : 2024年12月3日

約款とは?契約との違い、民法改正による定型約款の変更点などを簡単に解説

約款とは、事業者が多数の消費者と同じ契約をする際の定型的な契約条項のことです。2020年4月に行われた民法の改正では、約款のルールが新たに制定されました。

この記事では、約款と契約の違いや、民法改正による定型約款の変更内容などをわかりやすく解説します。

約款とは

約款は、企業が多数の消費者と契約をする際、企業側があらかじめ作成した定型的な契約条項のことです。主に生命保険、電気、ガスの供給契約、宿泊施設との宿泊規約などがあります。

これらは多数の利用者と同じ内容の契約を結びます。それぞれで別個に契約書を作成していると莫大な手間がかかるため、定型化された条項で構成された約款が用いられています。

約款の定義

約款とは、大量の同種取引を迅速・効率的に行う等のために作成された定型的な内容の取引条項です。

約款は取引全般においてよく利用されていますが、2020年3月以前は法律上の明確な規定は定められていませんでした。一方で、約款は不特定多数の人と契約を結ぶ際の定型的な契約条項であるため、内容をよく理解しないまま契約し、結果的に一方が不利益を受けるなどの問題点が指摘されていました。

そこで2020年4月の民法改正で約款に関するルールが整備され、新たに「定型約款」という名称で定義されました。

具体的には、約款のうち一定の要件を満たしたものを定型約款といい、定型約款に該当する契約については、以下の通り法律上の要件が明記されました。

  1. ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、
  2. 内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なもの を 「定型取引」と定義した上、 この定型取引において、
  3. 契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体

法務省「約款(定型約款)に関する規定の新設」より

なお、定型約款については、以下の記事で詳しく解説しています。

約款の法的効力

約款には契約書と同じく一定の法的な拘束力があります。

改正後の民法で規定された定型約款では、みなし合意という規定が新たに設置され、一定の条件を満たした場合は合意があったものとみなされ、法的効力が発生することとされました。

例として、生命保険の契約の際に契約書と別で渡される約款があります。約款の内容は数十ページ近くの分厚い冊子のものもあり、すべてに目を通す人は少ないでしょう。

しかし、内容をすべて把握しているかどうかにかかわらず、約款の内容が合理的であれば、法的効力が発生するのがみなし合意です。

逆にいえば、相手方にとって一方的に不利となる不当条項については、定型約款においてはみなし合意の対象外となり、法的効力は認められません。

約款と契約の違い

約款とよく似た言葉に契約がありますが、この2つは違います。

約款は多数の消費者に対してあらかじめ定型的に定められたルールを相手方に合意をしてもらう形を取ります。一方の契約は、当事者間において交渉を通じて個別に作成される形式となります。

一般的に約款は、事業者側が一方的にルールを決めるものですが、契約はあくまで当事者同士の交渉により締結されるのが一般的です。

また、約款は締結後も一定の要件を満たせば合意なく変更できますが、契約は当事者双方の合意なしに変更することはできません。

約款と定型約款の違い

2020年4月に改正された民法では、定型約款という定義が明確化されました。定型約款はこれまで慣習的に使われてきた約款のうち一定の条件を備えたもので、みなし合意の適用、約款内容の表示義務、約款の変更要件などの規定が新たに設けられました。

つまり、これまで用いられていた約款の中で、新たに規定された要件を満たすものが定型約款、それ以外は従来通り使われてきた約款ということになります。

今回の民法改正では、それまで解釈や理解が明確でなく意見が分かれていた約款の定義や運用について、法律上明確な定型約款が規定されました。約款を作成する事業者側にとっても相手方にとっても、よりわかりやすくなったといえるでしょう。

定型約款に該当する契約書類

定型約款は「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」(民法548条の2第1項)とされており、具体的には次のような書類が該当します。

保険約款

保険契約は、保険会社が多数の顧客を相手として保険契約を締結します。

保険会社から手渡される約款には、保険金の支払いや保険特約などの契約内容が詳細に記載されていますが、これらの内容が合理的であれば定型約款に該当します。

宿泊約款

旅館やホテルなどの宿泊施設の宿泊約款も定型約款とされます。

宿泊約款には、宿泊料金の支払いやキャンセル料、宿泊施設の利用時間、どのような場合に宿泊契約を解除できるのか、その他宿泊施設の利用についての詳細が記載されています。

特定小売供給約款

電力会社やガス会社と締結する電気・ガスの供給契約は定型約款とされます。

事業者側は個別の契約者に対して電力やガスを供給するため定型取引に該当し、一般的に特定小売供給約款といいます。

運送約款

旅客や貨物の運送について定めた運送約款も定型約款の1つです。

多くの乗客が利用する鉄道やバスなどは、利用する際にそれぞれ個別に運送契約を締結するなどということはなく、定型取引のうちの1つとされています。

運送約款には、運賃の他、切符の払い戻し、乗車券の購入方法などが記載されており、鉄道会社やバス会社のホームページまたは駅などで確認できます。

インターネット利用規約

インターネット事業者との間のインターネット利用規約も、必要な要件を満たした場合は定型約款の1つとされます。

インターネットの利用契約も事業者が多くの利用者と契約をし、サービスの利用については利用規約が作成されます。

利用規約にはサービスを提供する条件や契約料金、契約の解除などについて詳細が記載されています。

名称は利用規約でも、内容が定型取引に関するもので条件を満たせば定型約款にあたるとされます。

工事請負契約約款は定型約款には該当しない

工事請負契約の場合は、定型約款には含まれないとされています。

工事請負契約では、注文者が請負人に対して工事を発注しますが、その契約内容は個別の工事ごとに異なり、また多くの顧客や消費者を相手にする取引とはその性質が異なるからです。

定型約款は多数の顧客や消費者と行う取引に対して適用されるものであり、個別に内容を定める工事請負契約は定型約款には該当しません。

民法改正により定型約款のルールが変更

前述の通り、2020年4月に行われた民法の改正により定型約款の定義が明確に定められ、定型約款における契約の成立や変更要件などの規定が新設されました。

定型約款の定義

2020年4月の民法改正では、定型約款という言葉が明確に規定されました。

定型約款は「定型取引」を対象とするものです。定型取引とは、「ある特定の者が、不特定多数の者を相手として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの」です。定型約款は、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」(民法548条の2第1項)とされています。

定型約款を変更する要件

定型約款を変更するには、以下の通り一定の要件が必要です。

  • 変更が相手側の利益に適合する内容であること
  • 変更が契約目的に反しない場合で、変更の必要性、変更内容の相当性、変更する旨の規定の有無などの事情に照らし合理的であること

上記要件が満たされている場合には、約款の変更の効力が発生する時期を明確にし、以下の項目を周知することで定型約款の変更が可能です。

  1. 定型約款を変更する旨
  2. 変更後の定型約款の内容
  3. 変更後の定型約款の効力発生時期

定型約款のみなし合意

定型約款のみなし合意とは、以下の2つのうちどちらかの要件を満たした場合、個別の内容を認識していなくても有効とされることです。

  • 定型取引において、事業者と利用者が定型約款の内容に合意している
  • 定型約款を準備した者が、あらかじめ定型約款を相手方に表示している

つまり、一定の合意や表示を相手方にしている場合は「その内容について個別に認識していてもいなくても合意したものとみなす」という意味となります。これが定型約款のみなし合意といわれるものです。

なお、この場合は上記2つの要件のどちらかを満たせばみなし合意が適用され、必ずしも両方の要件を満たす必要はありません。

定型約款の表示義務

定型取引を行う、または行おうとする事業者は、相手方に定型約款の内容を示さなければなりません。例えば、書面の交付や電子メールでの送信、ホームページに掲載するなどの方法が挙げられます。

定型約款の表示は1回でよいとされていますが、取引を始める前に相手方から定型約款の表示請求が行われているにもかかわらず拒否した場合は、定型約款が契約内容に含まれなくなるため注意が必要です。

約款を作成するときの注意点

約款を作成する際には、何点か注意すべきことがあります。必要な項目が記載されていなかったり、内容に不備があったりすると思わぬトラブルにつながることもあります。

法律に違反していないか確認する

約款を作成する際は内容が法律に違反していないか必ず確認しましょう。

特に注意が必要なのは、消費者契約法の不当条項との関係です。事業者のみが一方的に有利になるような内容を定めた約款は無効となる場合があるため注意が必要です。

例えば、事業者の債務不履行によって生じた損害賠償など責任を免除する条項などです。これらは消費者契約法の他、民法の定型約款の規定でも明らかにされています(民法548条の2第2項)。

その他にも民法をはじめ、自社が取り扱う商品やサービスに関連する法律に違反していないかは十分確認する必要があります。

約款の変更手続きを明確にしておく

約款の内容は作成後に定期的な見直しや変更が必要になることが考えられ、約款を作成する際にはどのような手続きで変更するのかを明確にしておく必要があります。

また定型約款の変更要件として、前述のように変更の効力発生時期や変更後の内容を周知する必要があります。

個人情報の取り扱いについて記載する

定型取引は多くの顧客や消費者と取引をするものであるため、取引に際して入手した個人情報についても記載するようにしましょう。

利用者の氏名、住所などの個人情報をどのような目的で入手するのか、入手した個人情報をどのように利用するのかは重要な事項です。

事業者による個人情報の取り扱いは個人情報保護法によって、明示が義務付けられています。

これらを怠るとトラブルとなることも考えられるため、個人情報の取り扱いに関する事項は明確にしておくようにしましょう。

約款の作成・変更には民法改正後のルールに従うこと

2020年4月の民法改正では、定型約款という言葉が明確化され定型約款のみなし合意や変更要件などの規定が新たに制定されました。

多くの顧客や消費者を相手とする特定取引には、定型約款として決められた規定やルールがあり、新たに約款を作成する際にはこれらのルールに沿う必要があります。

社内で作成した約款が、必要な項目が記載されていなかったり、内容が不十分だったりすると思わぬトラブルになることも考えられます。

新たに約款を作成する場合は今回の記事を参考にしていただき、不明な点は専門家へ相談することをおすすめします。


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