- 更新日 : 2023年8月1日
代理印とは?法的な有効性や電子契約における使い方について解説
印鑑にはさまざまな種類があり、適切に使い分ける必要があります。印鑑の押し方、使い方についても同様です。そこで押さえておきたいのが「代理印」についてです。ビジネスにおいて代理印を押す場面は珍しいものではありません。
当記事で代理印の押し方や法的な有効性などを紹介していきますので参考にしていただければと思います。
目次
代理印(代印)とは?
「代理印(だいりいん)」とは、本来押印を行うべき人物に代わって押印することを意味します。「代印(だいいん)」と呼ぶこともあります。
印鑑を本人の代わりに押すこと
印鑑は、本来その所有者が使用すべきものです。しかしこのルールを厳守していると手続が滞るおそれがあり、特にビジネスにおいて代表者1人しか押印ができないとなると取引が円滑に進められません。社内の事務的な作業もスピード感を持って進めることができなくなってしまいます。代表者としても押印のために時間を割かなくてはなりません。
そこで実務では、押印に関わる手続の責任を委任された人物が代わりに印鑑を使用することがあります。この行為を広く代理印または代印と呼んでいるのです。
代理印を利用するケース
代理印を利用するのは主に会社です。特に会社の規模が大きくなるほど代理印を利用する機会は多くなります。規模が大きな会社ほど取引の件数も増えますし、代表者がすべき他の仕事も増えてくるからです。
代理印の利用を想定して、あらかじめ社内規程で代理印に関する運用方法が定められていることもあります。その場合、誰が代理で対応するのか、どのような場合に代理で押印できるのかがある程度予測できることでしょう。
代理印は契約書や法的な文書でも有効か
まず押さえておきたいのは、「押印がなくても契約は有効に成立する」ということです。そのため代理印がなされたことのみをもって契約が無効になるわけではありません。
ただし押印には、文書の証拠としての能力を高める効果があります。
民事裁判においては文書の作成名義人が真の作成者であることの立証が重要であり、本人の印章による押印(または署名)があることにより、文書が真正に成立したことの推定が得られます(民事訴訟法第228条第4項)。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
この条文からは、代理人による押印でも本人のする押印と同様の効果が得られると読み取ることができます。しかしながら、ビジネスの文脈で利用される代理印が、同法でいうところの「代理人による押印」といえるのかどうかが問題となります。法的に認められた代理人による代理印といえるためには、本人から適切に権限を与えられているのかどうかがポイントとなります。
代理印の押し方
続いて、代理印のよくある運用方法、押し方について紹介していきます。
一般的に印鑑の右上や右下に「代」「代理」と記載
上述の通り印鑑の利用は法的な義務ではない以上、押し方に厳格なルールはありません。法令で押印の方法が定められているわけでもありません。とはいえ、代理印に限らず、印影がはっきりと視認できないような押し方は避けるべきです。かすれていたり一部欠けていたりすると、押印をする意味がなくなってしまいます。
こういった押印の基本は押さえた上で、代理印の慣習についても知っておくと良いでしょう。よくあるのは、下図のように印鑑の右上、あるいは右下に「代」または「代理」の記載を付すやり方です。この記載があることにより代理印であることを明示するのです。
左側に記載してはだめということではありませんが、左側には氏名や名称を記載する欄が設けられていることが多く、文字に被ってしまったり氏名・名称との分かれ目が不明瞭になってしまったりといった問題が起こり得ます。そのため右側に記載した方が無難といえます。
「代」の位置は社内規程に従う
一般的には前項で説明した通り、印鑑の右上または右下に代理印である旨を記載します。ただし、社内規程に別の運用方法が定められているときは、その方法に従うようにしましょう。統一した方が代理印の押されたものかどうかの確認も取りやすいですし、トラブルも避けやすくなります。
記載する文言についても同様です。「代理」や「代」など、文書により位置も文言もばらばらだと見栄えがよくありません。
電子契約を代理で処理する方法
昨今、導入されることも増えてきた電子契約では、紙で作成された書面のやり取りがありません。そのため印鑑も利用しません。そうすると、電子契約においては代理印の概念がなくなり、これまで同様の処理方法が通用しなくなります。
しかしながら電子契約の締結処理を代理で行うこと(=電子契約の代理処理)は、代理印の押印と同様によく行われています。このときの処理方法としては、大きく2つのパターンが考えられます。
1つは「代表者から権限の委譲を受けた者が自らの名義で電子署名を行う」というパターンです。もう1つは「代表者名義のまま別の担当者が電子署名の処理を行う」というパターンです。
前者は明示的に権限の委譲を行っており、その旨が相手方にも表示されます。後者の場合、権限の委譲は内部的に行われるのみで、相手方から見れば代表者が締結処理を行っているように見えます。代表者の意思に沿っていれば、このような締結処理も有効ですが、契約の有効性が後に争われる可能性もあります。実際のところは後者のパターンで処理されていることが多いです。
代理印を押すときの注意点
代理印を押すとき、次に挙げる事項には注意しましょう。
- 「代」または「代理」の記載を付すこと
代理印であることの記載がない場合、代理人により処理されたものかどうかが分からなくなる。
- 代理で押印を行う権限者をむやみに広げない
誰でも契約の締結ができてしまうと承認フローが機能しなくなり、会社側で管理できなくなってしまう。
- 代理印の運用方法の周知
どのように代理印を利用するのか、印鑑に沿える文言など、統一のルールを設ける。
- 電子契約の処理に対応する担当者も明確にする
電子契約の場合は遠隔で処理ができるため、より厳重にシステム上でのアカウント管理や電子署名ができる人物の制限をつける。
代理印の利用方法についてルールを定めよう
代理印の利用を認めることで取引の円滑化が図れますが、従業員全般にまで認めるべきではありません。契約の締結は会社にとって重要事項なので、その権限者の範囲は限定的であるべきです。代理印の権限者、使い方、記載する文言など、ルールの周知と徹底により安全な取引が実現されます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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