- 更新日 : 2024年11月14日
電子契約に二段の推定は適用される?判例や覆されるケースも解説
電子契約にも二段の推定は適用されます。しかし、電子署名があるからといって必ずしも安全とは言い切れないため、契約業務や電子署名の取り扱いは注意が必要です。
本記事では、二段の推定のルールや、推定が覆されるケースについて解説します。電子契約を運用し始めた事業者、これから運用を始めようと考えている方はご一読ください。
目次
電子契約に二段の推定は適用される
紙の契約では、押印がなされていれば基本的に本人が作成した「真正な文書」だと推定されます。これは「二段の推定」という考え方に基づくルールです。
そして、この二段の推定は、電子契約にも適用されますが、紙の文書が存在しないため、押印をすることができません。電子契約の場合、電子署名を施すことで押印の代わりとします。
なお、電子契約については以下の記事でくわしく解説しています。
そもそも二段の推定とは?
文書の成立について争われている場合、作成名義人が真の作成者であると立証される必要があります。そしてこれが認められると、その文書は「真正に成立した」ものとして取り扱われます。
どのようにして「真正に成立した」と評価するのかというと、民事訴訟法の次の規定に従い、本人の署名または押印の有無がポイントとなります。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
この規定があると、例えば契約書に本人の押印があれば、「その契約書は本人が作成したもの」ということが推定されるのです。
二段の推定の定義
押印がある文書でもその成立の真正について争うことは可能です。なぜなら押印に基づく推定は「その押印が本人の意思に基づいて行われた」という事実を前提としているためです。
もし本人の意思に基づかない押印であれば前提を満たさず、上の規定による推定効は働きません。
ただ、法律上は「名義人の持つ印章(ハンコ)と、文書中の印影が一致するのなら、その印影は名義人の意思に基づいて押印された」と推定されます(①)。
そしてこの推定効が働くことで、民訴法上の推定効も働く(②)ため、これら推定を覆すような事情がなければ印影の一致により真正な成立が認められることとなります。
このように推定が①②と2段階で機能することを「二段の推定」と呼んでいます。
二段の推定が必要とされる理由
二段の推定が働くことで、文書を証拠として使いやすくなります。もし文書の真正について裁判で争われたとしても、本人による押印であることが示しやすくなりますので、証明にかかる負担が軽減されるのです。
この仕組みがなければ、文書の成立について争いが起こるたびに訴訟が長期化してしまうなどの弊害も出てきてしまうでしょう。しかし二段の推定が機能することでこのような問題を回避しやすくなります。
また、この仕組みはあくまで「推定」であり、相手方の反証によって覆すことも可能です。一方的に決めつけられるわけではないので、不満があるときは本人による押印でないことを示せばよいでしょう。
二段の推定に関連する判例
二段の推定のうち、一段目の推定については条文によるものではなく判例上の解釈によるものです。過去に最高裁は次のように示しています(昭和39.5.12)。
成立の真正について争いがある文書に関しては、印影と名義人の印章の一致が立証されれば、名義人の意思に基づいて押印されたことが推定され、更に、民事訴訟法第228条第4項によりその印影に係る私文書は作成名義人の意思に基づき作成されたと推定される。
引用元:内閣府|押印についてのQ&A
この判例の大きなポイントは、「実印は第三者が無断使用できないように保管されているはず」ということを経験則に基づいて認めた点です。
電子契約に二段の推定を適用する方法は?
電子契約に基づき作成される、電子文書もこれを証拠とするためには「電子文書の成立が真正であること」を証明しないといけません。
ただ、電子文書の場合は紙のように押印や署名ができませんので、上に示した民訴法の条文はそのまま適用できません。ここで効力を発揮するのが電子署名法の次の規定です。
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
同規定により「本人による電子署名が付されていれば電磁的記録(電子文書)は真正に成立したと推定される」こととなります。ただし、これは書面(紙)における二段目の推定です。
一段目の推定を受けるには、書面だと本人のハンコとの一致が必要とされていたところ、電子署名であれば本人の秘密鍵によって生成されたことの検証が必要となります。
このことが示されれば、当該電子署名は名義人の意思に基づくと事実上の推定がなされ(①)、さらに電子署名法の規定に基づき電子文書の成立の真正が法律上推定されます(②)。
ただし、条文にもあるように推定効を得るには電子署名について「適正に管理し、本人だけが行うことができる状態」にしておかないといけません。容易に他人が同じ電子署名を施せる状態にあったのではいけませんので、電子署名に関しては、一定以上の技術的水準も要求されます。
電子契約において二段の推定が覆されるケースは?
電子契約にも「二段の推定」は適用されますが、上述のとおり「推定」であるがゆえに、これが覆されるケースもあります。電子契約の場合だとどのような場合に推定が覆されるのか、以下で詳しく説明します。
一段目の推定が覆されるケース
一段目の事実上の推定が覆るのは、仮に書面の場合なら、印鑑が盗難に遭った場合や本人による押印が事実上不可能な場合などが挙げられます。
もしシステムの不正利用によって、なりすまし被害を受けて電子署名が付されたのであれば、電子契約において推定が覆る可能性があるでしょう。
二段目の推定が覆されるケース
二段目の推定について、白紙の書面に押印をさせたその後他人が文書を完成させたときや、文書作成後の変造がされたとき、あるいは文書の内容を誤認させて押印させたときなどで覆ります。
電子契約でも同様に考えると、契約締結後に記載内容を改ざんされたときや、内容を誤認させて電子署名をつけさせたとき、その可能性を示すことで推定が覆る可能性があります。
電子契約をするときは電子署名を利用しよう
契約の締結に契約書の作成は必須ではないため、二段の推定を無視し、押印や電子署名を行わなくても常に契約が無効になるわけではありません。
しかしながら、事業者として安全に業務を遂行していくためには契約上のリスクはできるだけ排除しておくべきです。そのため契約書を作成することはもちろん、書面であれば押印をすること、電子契約であれば電子署名を利用することに留意してください。
また、印鑑の保管・管理を厳重に行うのと同じように、電子署名の運用についても十分注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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