• 作成日 : 2021年11月19日

2021年3月1日施行の会社法改正について

2021年3月1日、株主総会参考書類等の電子提供制度等を除いて改正会社法が施行されました。改正された会社法は、どのような内容なのでしょうか。この記事では、会社法改正の概要やポイント(株主総会参考書類等の電子提供制度、株主提案権の濫用制限、取締役のインセンティブ報酬、取締役の個人別報酬、会社補償・D&O保険、一定の会社への社外取締役の設置義務、社債管理補助者制度、株式交付制度)、企業に求められる対応などついて解説します。

会社法改正の概要

一部の内容を除き、2021年3月1日に改正会社法・会社法施行規則(法務省令)が施行されました。どのような改正があったのか、その概要を見ていきましょう

新旧対照表(記事内で取り上げた項目に限る)

旧法
新法
(新設)
株主総会資料の電子提供制度(325条の2から325条の5)
(新設)
株主提案権の濫用的な行使の制限(304条4項5項)
(新設)
取締役のインセンティブ報酬の規定(361条1項3号~5号)
(新設)
取締役の個人別の報酬内容(規則98条の5)
(新設)
会社補償・D&O保険契約(430条の2、430条の3)
社外取締役を置いていない場合の理由の開示(372条の2)
社外取締役の設置義務化(372条の2)
(新設)
社債管理補助者制度(714条の2~714条の7)
(新設)
株式交付制度(816条の2等)

会社法改正の目的とは

今回の会社法改正の目的は、端的にいえば社会経済情勢の変化に対応させることです。

そもそも、会社法は株式会社を中心に営利を目的とする会社という団体・組織について、設立・組織・運営・管理をし(1条参照)、会社を取り巻く利害関係を調整するために制定されているものです。そのような利害関係は、日々変化していきます。

「会社法の一部を改正する法律」によると、各制度の改正については「会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑みた株主総会の運営・取締役会の職務執行の一層の適正化を図ること」が目的であるとされています。

具体的な内容を見ますと、日本のコーポレートガバナンスをさらに発展させるため、これまでの会社法のルールにおいて生じてきた問題に対処するための改正や、社外取締役に関する改正など条文化が見送られてきたものの、一定の考え方が浸透・定着したことから条文化にこぎつけられた改正といえます。

会社法改正の公布日・施行日

会社法改正はいつ公布され、いつ施行された(される)のでしょうか。スケジュールは表のとおりです。なお、株主総会資料の電子提供制度の創設にかかる部分は、公布日から3年6ヵ月以内(2023年6月10日まで)に施行される予定です。

内容
施行日
公布日
株主総会資料の電子提供制度の創設
2023年6月10日までには施行
2019年12月11日
株主提案権の濫用的な行使の制限規定
2021年3月1日
取締役のインセンティブ報酬に関する規定の整備
取締役の個人別の報酬内容
会社補償・D&O保険の規律の整備
上場会社等への社外取締役の設置義務化
社債管理補助者制度の創設
株式交付制度の創設

会社法改正のポイント

ここでは、2021年3月1日施行の会社法改正で新たに創設された制度や、見直された制度についてどのような経緯でどのように変更されたのか、具体的な内容をポイントごとに解説します。

株主総会資料の電子提供制度の創設

株主総会資料の電子提供制度

これまで書面で行われていた株主総会の参考資料を、電子提供できるように条文が整備されました。具体的には、株主総会参考書類等(株主総会参考書類、議決権行使書類、計算書類、事業報告、連結計算書類)について定款に定めることで、電子提供措置(株主がデータで情報提供を受けられる状態におく措置)を取ることができるようになりました(325条の2)。

電子提供措置の例としては、上記書類を会社のホームページ上に掲載して、株主に対して当該ページのアドレスを書面で通知することが挙げられます。このような電子提供措置を取る場合、会社は株主総会の日の3週間前から株主総会の日の3ヵ月が経過するまでの間、電子提供措置を継続して取らなければなりません(325条の3)。

電子提供措置を取っていれば、株主総会招集通知には総会の日時・場所、目的事項、電子提供措置を取っていること等を記載すればよいとされています(325条の4)。

もちろん、株主の中にはデータ提供では都合が悪い人もいるでしょうから、そのような株主の不利益とならないよう、株主には書面交付請求権が認められています(325条の5)。

株主提案権の濫用的な行使の制限規定

会社法304条は、一定の株主に議案要領通知請求権(株主提案権の一つで、株主総会の日の8週間前までに株主総会の目的である事項につき、その株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを取締役に対して求める権利)を認めていますが、改正によりその株主が提出しようとする議案の数が10を超える場合は、10を超える部分の議案については権利として認めないこととされました(305条4項)。ただし、会社が任意に応じることはできます。

これは、一定の株主が大量の議案を提出した場合に、実りのある審議ができなくなることを防止するための規定です。その株主が提出した大量の提案のうちどれを採用するかは、その株主が優先順位を定めない限り、取締役が選ぶことができます(305条5項)。

取締役のインセンティブ報酬に関する規定の整備

取締役のインセンティブ報酬については、これまでは取締役に報酬として株式や新株予約権を発行しようとする場合に、これを想定した適切な規律がなかったため、適切な処理ができませんでした。

そこで、改正法ではインセンティブ報酬に関する規律を見直し、整備がなされました。具体的には取締役の報酬等のうち、その会社の募集株式・募集新株予約権については、当該募集株式・当該募集新株予約権の数の上限等を定款又は株主総会決議で定めなければならないとされました(361条1項3号4号)。

また、募集株式や募集新株予約権と引換えに、払込みに充てるための金銭を報酬等とする場合にも、取締役が引き受ける募集新株・募集新株予約権の数の上限等を定めなければならないことになりました(同項5号)。

取締役の個人別の報酬内容

従来の会社法では、取締役全体の報酬総額の限度額を定めれば足り、各取締役の報酬額を個別に定める必要はありませんでした。しかし、取締役の人数が減っても総額が変わらなければ、お手盛り防止の趣旨をまっとうできないとの批判がありました。そこで、改正法では一定の株式会社においての取締役の報酬について一定の事項を決定することとしました。

具体的には、一定の監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の取締役会は、取締役の個人別の報酬等の内容が定款・株主総会決議で定められた場合を除き、取締役の報酬等の内容として、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針(報酬等の決定方針)として、一定の事項を決定する必要があります。

一定の事項の内容については、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項(会社法施行規則98条の5第8号参照)として、会社法施行規則98条の5各号に定められています。例えば、個人別の報酬金額(1号)や業績連動型の報酬の場合の業績指標の内容(2号)、第三者に決定を委任する場合の決定権者の氏名・地位等(6号)などです。

会社補償・D&O保険の規律の整備

今回の改正では、会社補償やD&O保険といった制度の規律も整備されました。会社補償とは、株式会社が役員等に対して職務執行上生じた費用や損失をその会社が負担(補償)することをいい、これを約した契約は「補償契約」と呼ばれます(430条の2)。

役員等の利益相反取引規制違反については適用されない(同条6項)など一定の制約があり、補償の範囲も限界があるため(同条2項)注意が必要です。

D&O(Directors & Officers)保険契約は、条文上は「役員等賠償責任保険」と表現され、こちらも一定の制限があるものの、役員等が職務執行に関して責任を負うことなどで生じ得る損害について、保険者(保険会社)が填補することに関する契約です(430条の3)。

補償契約・D&O保険契約の内容の決定には、株主総会決議(取締役会設置会社では取締役会決議)が必要です。

上場会社等への社外取締役の設置義務化

社外取締役とは、2条15号の要件にあてはまる一定の独立性を有する取締役のことです。これまで、一定の監査役会設置会社で有価証券報告書の提出義務のある会社は、社外取締役を置いていない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を取締役が説明しなければならないとされていました。

今回の改正では、上記会社について正面から社外取締役の設置を義務付け(327条の2)、違反した場合の制裁は100万円以下の過料とされました(976条の19号の2)。

さらに、社外取締役が会社の業務を執行することで「社外」でなくなるのではないかという疑問に対処するため、一定の場合に会社が社外取締役に業務執行を委託でき、それを理由に社外性が失われるものではないことも定められました(348条の2)。

第三者が社債管理補助を行う制度(社債管理補助者制度)の創設

会社が発行する各社債の金額が1億円以上であるなどの場合、社債権者の保護する社債管理者を置く必要があるような社債権者が存在する可能性が低いという理由から、社債管理者を置く必要はないものとされています(702条ただし書)。

しかし、そのような場合でも一定の事務を第三者に委託する必要性は認められるため、会社は社債管理者よりも認められる裁量は限定的であるものの、社債管理補助者を設置することができるものとされました(714条の2)。

これが社債管理補助者制度であり、資格や権限などに関する規律が714条の3から714条の7にかけて置かれています。社債管理者であればできることでも、社債管理補助者は社債権者集会の決議を経なければできないこともあるので注意が必要です(714条の4第3項)。

企業買収合理化に向けた株式交付制度の創設

会社法の改正で「株式交付」制度が新設されました。これは、株式会社が他の株式会社を子会社とするために後者の株式を譲り受け、その株式の譲渡人に対して対価として前者の株式を交付する場合(会社法2条32号の2参照)をいい、「片面的株式交換」ともいわれます。

例えば、A社がB社を子会社にするためにB社株主からB社株を譲り受け、その対価としてB社株主にA社株式を交付する場合です。改正前は、株式交換(A社がB社を完全子会社とする場合)という制度はありましたが、完全子会社ではなく単なる子会社とする場合の制度がなかったため新設されました。

おおまかな流れは以下のとおりです。

  1. A社が必要事項を盛り込んだ株式交付計画を作成
  2. A社内で株主総会特別決議によって当該計画が承認される
  3. A社から、株式交付によりA社株式の割当てを受けたいB社株主(「譲渡しの申込みをしようとする者」)に計画の内容等を通知する
  4. B社株主が譲渡しを申込む
  5. A社は申込みのあったB社株について、どれを譲り受けるかなど割当てを決定し、B社株主に通知をする
  6. A社とB社株主との間に株式譲渡契約が成立し、株式交付の効力が発生する

企業に求められる対応

まず、株主総会参考書類等の電子提供制度の準備が必要です。早ければ2022年中に施行される予定であり、施行されたときに上場会社等は電子提供ができる状況になっている必要があります。

取締役のインセンティブ報酬として募集株式や募集新株予約権を与えていた場合は、今後は上限額について定款を変更するか、株主総会決議を経なければならず、こちらも準備が必要です。

また、一定の監査役会設置会社において、取締役が複数人いる場合における個人別の報酬の決定方針を確定していない場合は、早急に準備すべきです。

さらに、補償契約やD&O保険契約については、改正法施行前から類似の契約を締結していた場合は、改正会社法上の規律に適合しているかどうかを検討しておくべきです。一定の監査役会設置会社において社外取締役を設置していない場合は、設置に向けて早急に手を打つことが重要です。

会社法改正についてのまとめ

2021年3月1日に施行された改正会社法では、株主総会(株主総会参考書類等の電子提供制度)に関する規律や取締役の報酬(インセンティブ報酬、個人別の報酬)に関する規律において大きな変更がありました。企業としては変更点を確認し、自社が変更を求められる類型の会社であるか否かを確認する必要があります。

さらに、いくつかの制度(補償契約・D&O保険契約、社債管理補助者制度、株式交付制度)が新設されましたが、必ずしも使う必要はありません。ただし、将来利用する場合は制度の内容を正しく把握して、会社法に適合するように進めてください。

よくある質問

株主総会資料の電子提供制度では、総会関連のすべての書類を電子提供できるか?

いいえ。株主総会招集通知は基本的に書面を送付して行われますし、株主から書面交付請求を受けた場合は株主総会資料も書面で交付する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。

改正により、取締役の個人別の報酬金額を確定しなければならないか?

いいえ。取締役の個人別の報酬等について、その金額「又は」その算定方法の決定に関する方針(のいずれか)を決定すれば足ります(会社法施行規則98条の5第1号)。 詳しくはこちらをご覧ください。


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