- 作成日 : 2024年11月7日
賃貸借契約書を電子化する方法は?電子契約の流れや保管方法を解説
賃貸借契約書の電子化が進む中、企業の総務担当者にとって、契約手続きの効率化やコスト削減が大きな課題となっています。従来の紙ベースの契約は、契約書の郵送や保管、署名手続きなど、多くの手間がかかるため、電子契約への移行が求められています。
本記事では、賃貸借契約書の電子化の方法や流れ、保管方法について詳しく解説し、実務に役立つ情報を提供します。
目次
賃貸借契約書の電子化が解禁
賃貸借契約書の電子化が解禁され、契約手続きがより効率的かつ迅速に行えるようになりました。まず、賃貸借契約書の電子化が可能になった背景や、電子化が可能な書類について見ていきましょう。
賃貸借契約書の電子契約が可能になった背景
賃貸借契約書の電子契約が可能になった背景には、デジタル社会の実現を目指す「デジタル改革関連法」の成立があります。この法律は2021年5月19日に公布され、その一環として宅地建物取引業法(宅建業法)が改正されました。
改正前の宅建業法では、重要事項説明書(第35条)や契約締結時書面(第37条)などの書面交付が義務付けられていましたが、2022年5月18日の改正法施行により、これらの書面を電磁的方法で提供することが可能になりました。
この法改正の背景には、以下のような社会的要因があります。
- デジタル技術の進展と普及
- 新型コロナウイルス感染症対策としての非対面取引の需要増加
- 業務効率化とコスト削減の必要性
- ペーパーレス化による環境負荷の低減
また、2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法も、電子契約の普及を後押ししています。この法改正により、電子取引データの保存が原則として義務化され(電子帳簿保存法第7条)、不動産業界においても電子化への対応が急務となりました。
不動産賃貸で電子化が可能な書類
宅建業法改正により、以下のような書類が電子化可能となりました。
- 重要事項説明書(宅建業法第35条)
- 賃貸借契約書(宅建業法第37条)
- 媒介契約書(宅建業法第34条の2)
- 定期建物賃貸借契約書(借地借家法第38条第2項)
- 定期建物賃貸借契約の事前説明書(借地借家法第38条第4項)
これらの書類を電子化する際は、以下の点に注意が必要です。
- 相手方の承諾:電子的方法での提供には、相手方の承諾が必要です(宅建業法第35条第7項、第37条第3項)。
- 本人確認:電子署名法に基づく電子署名や、その他の方法で本人確認を行う必要があります。
- 改ざん防止:タイムスタンプの付与など、改ざん防止措置を講じる必要があります。
賃貸借契約書を電子化する方法
ここでは、賃貸借契約書を電子化する具体的な方法について解説します。
書面をスキャンしてPDF化する
既存の紙の賃貸借契約書を電子化する最も基本的な方法は、契約書をスキャンしてPDF化することです。この方法では、紙の契約書をデジタル形式に変換するため、電子データとして保存・管理が可能になります。PDF化する際には、スキャナーや専用アプリを利用し、契約書のすべてのページが正確に読み取られるように注意します。
PDF化された契約書は、電子帳簿保存法に基づく要件を満たすため、一定の要件(電子署名やタイムスタンプの付与など)を満たせば、法的効力を保持したまま保存できます。これにより、紙の契約書を物理的に保管する必要がなくなり、保管スペースの節約や契約書の管理の簡素化が図れます。
電子契約システムを利用する
賃貸借契約書を効率的に電子化するためには、電子契約システムを利用する方法が推奨されます。電子契約システムでは、契約書の作成、送付、署名、保管までを一元的に行えるため、紙の契約プロセスに比べて手続きが簡便かつ迅速です。電子署名法に基づき、電子署名やタイムスタンプが付与された契約書は、法的にも紙の契約書と同等の効力を持ちます。
特に、宅地建物取引業法においても、電子化された賃貸借契約書は、一定の条件を満たす場合に法的に有効なものとされており、法令遵守の観点からも安心です。電子契約システムを導入することで、契約書の管理がオンライン上で一元化され、契約の締結から保管までの流れが効率化されるため、不動産業務のデジタル化に大きく貢献します。
賃貸借契約書を電子化するときに文言変更は必要?
賃貸借契約書を電子化する際には、電子契約に対応するために契約書の文言を変更する必要がある場合があります。適切な文言変更を行うことで、法的な問題を回避し、電子契約書としての有効性を確保します。
電子化に伴う文言の変更箇所や変更方法
賃貸借契約書を電子化する際には、主に以下の箇所で文言の変更が必要となります。
- 契約締結日の記載方法
従来の紙の契約書では、「契約締結日」を明記することが一般的でした。しかし、電子契約では、電子署名を行った日時が自動的に記録されるため、別途「契約締結日」を記載する必要がなくなります。- 変更例
変更前:「本契約は、令和〇年〇月〇日に締結した。」
変更後:削除、または「本契約は、甲乙双方が電子署名を行った日をもって締結したものとする。」
- 変更例
- 契約書の作成方法に関する記述
紙の契約書では、「本書2通を作成し」などの文言が使用されていましたが、電子契約ではこの表現は適切ではありません。- 変更例
変更前:「本契約の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。」
変更後:「本契約は電磁的記録により作成し、甲乙双方が電子署名を行うことにより効力を生じるものとする。」
この変更は、電子署名法第3条に基づいており、電子署名が押印や署名と同等の効力を持つことを反映しています。
- 変更例
- 署名・押印に関する記述
電子契約では物理的な署名や押印ができないため、これらに関する記述を変更する必要があります。- 変更例
変更前:「甲乙記名押印」
変更後:「甲乙電子署名」
- 変更例
- 書面の交付に関する記述
宅地建物取引業法第35条(重要事項説明書)および第37条(契約締結時書面)に関連する記述も、電子化に伴い変更が必要です。- 変更例
変更前:「甲は、本契約締結に際し、宅地建物取引業法第37条に基づく書面を乙に交付した。」
変更後:「甲は、本契約締結に際し、宅地建物取引業法第37条に基づく書面を電磁的方法により乙に提供した。」
- 変更例
なお、これらの変更を行う際は、改正個人情報保護法に基づき、個人情報の取り扱いに十分注意する必要があります。また、不正競争防止法に定める営業秘密の管理要件を満たすため、電子契約システムのセキュリティ対策にも留意が必要です。
賃貸借契約書を電子化するメリット
賃貸借契約書を電子化することで、業務の効率化やコスト削減など、多くのメリットを享受できます。
郵送の手間や費用の削減
紙の契約書を作成する場合、契約当事者間で契約書を郵送して署名・押印を行う必要がありますが、電子化することでこの手間と費用を削減できます。特に遠隔地の契約者間でのやり取りがスムーズになり、契約書が物理的に郵送される時間を待つ必要がなくなります。
また、郵送中に契約書が紛失するリスクも回避でき、安心して契約手続きを進めることが可能です。この点は特に、賃貸借契約が頻繁に行われる不動産業界において、業務の効率化に大きく貢献します。
収入印紙代がかからない
紙の契約書では、契約金額に応じて収入印紙を貼ることが法律で義務付けられています。しかし、電子契約書には収入印紙を貼る必要がありません(印紙税法第2条参照)。これにより、特に賃貸借契約書など契約件数が多い場合、収入印紙代の大幅なコスト削減が可能です。例えば、数十万円規模の契約書には数千円の収入印紙が必要になりますが、電子契約ならこの費用を完全に省くことができます。
契約締結までスピーディー
電子契約では、契約書の作成から署名、締結までのプロセスがオンラインで完結するため、契約の締結が非常にスピーディーに行えます。従来の紙の契約書のように契約当事者の物理的なサインや押印を待つ必要がなくなり、時間的コストが大幅に削減されます。例えば、メールで契約書を送付し、電子署名を行うことで、数時間以内に契約を完了させることも可能です。この迅速な契約締結は、取引のスピードアップや業務効率の向上に大きく寄与します。
契約書の保管場所を問わない
紙の契約書は物理的な保管場所を必要とし、管理コストが発生しますが、電子契約書はクラウドやデジタルストレージで保管するため、場所を問わずに安全に管理できます。これにより、契約書の紛失や破損のリスクも回避できます。また、電子契約書はいつでも簡単にアクセスでき、契約内容の確認や更新も容易に行えます。電子帳簿保存法の要件に従った適切な電子データ管理を行うことで、法的な証拠としての効力も保たれます。
契約の更新も電子化できる
賃貸借契約書が電子化されると、契約の更新手続きも同様に電子化することが可能です。更新契約書の再作成や郵送の手間が省けるだけでなく、更新期限の管理も容易になります。電子契約システムには、契約の期限管理機能が備わっていることが多いため、契約更新時期が近づくと自動的に通知が送られる仕組みも整っています。これにより、契約の更新漏れを防ぎ、スムーズな取引継続が可能です。
賃貸借契約書の電子契約の流れ(メールで行う場合)
ここでは、文書作成ソフトで契約書を作成し、メールで送受信する場合の電子契約の流れについて解説します。
契約書の作成
まず、WordやExcelなどの文書作成ソフトを使用して賃貸借契約書を作成します。契約書には、賃貸物件の詳細、賃料、契約期間、支払方法などの必要事項を記載します。電子契約に対応するため、署名欄には「電子署名」を使用する旨を明記します。
PDF形式で保存
作成した契約書をPDF形式で保存します。PDF形式にすることで、文書の改ざんを防止し、電子署名やタイムスタンプを付与することが可能になります。
電子署名の付与
PDF形式の契約書に電子署名を付与します。電子署名は、契約書の作成者が自分しか知りえない秘密鍵を用いて契約書を暗号化し、契約書の改ざんを防止します。電子署名の付与には、Adobe Acrobatなどの専用ソフトを使用します。
メールで送信
電子署名を付与した契約書をメールで送信します。送信先には、契約相手のメールアドレスを指定し、契約書の内容を確認してもらいます。メールの本文には、契約書の確認方法や電子署名の有効性についての説明を記載します。
契約相手の署名
契約相手が契約書を確認し、同意した場合、相手方も電子署名を付与します。これにより、契約書が正式に成立します。
契約書の保管
締結された電子契約書は、適切な場所に保管します。クラウドサービスを利用することで、契約書の管理が容易になり、必要なときに迅速にアクセスできます。
賃貸借契約書の電子契約の流れ(電子契約システムの場合)
電子契約システムを使用した賃貸借契約の具体的な流れについて見ていきましょう。
電子契約システムの選定と導入
まず、電子契約システムを選定し導入します。システム選定時には、セキュリティ対策や使いやすさ、コストなどを考慮します。導入後、システムの設定や担当者の教育を行います。
契約書の作成
文書作成ソフト(例:Word)を使用して賃貸借契約書を作成します。契約書には、賃貸物件の詳細、賃料、契約期間、支払方法などの必要事項を記載します。作成後、契約書をPDF形式で保存します。
電子署名の付与
PDF形式の契約書に電子署名を付与します。電子署名は、契約書の作成者が自分しか知りえない秘密鍵を用いて契約書を暗号化し、契約書の改ざんを防止します。電子署名の付与には、電子契約システムの機能を使用します。
契約書の送信
電子署名を付与した契約書を、電子契約システムを通じて送信します。送信先には契約相手のメールアドレスを指定し、契約書の内容を確認してもらいます。システム上で契約書の送信履歴を管理できます。
契約相手の署名
契約相手が契約書を確認し、同意した場合、相手方も電子署名を付与します。これにより、契約書が正式に成立します。電子契約システムは、相手方の署名を確認し、契約書のステータスを更新します。
契約書の保管
締結された電子契約書は、電子契約システム内で適切に保管されます。システムは契約書の検索や管理が容易であり、必要なときに迅速にアクセスできます。また、法令に基づいた保管方法を遵守することが重要です。
電子化した賃貸借契約書の正しい保管方法
賃貸借契約書を電子化することで、契約書の保管や管理が簡便になりますが、法令に従った適切な保管方法が求められます。特に、電子帳簿保存法やセキュリティ対策に基づいて正しい保管を行うことが重要です。
電子帳簿保存法に沿ったデータ保管
電子化された賃貸借契約書は、電子帳簿保存法に基づく適切な保管が求められます。2022年の改正電子帳簿保存法では、一定の条件を満たせば電子データとして契約書を保存することが認められています。具体的には、電子データの真実性を確保するためにタイムスタンプの付与、訂正・削除履歴の記録、および検索機能の確保が必要です。
また、国土交通省の指針によれば、賃貸借契約書の保存期間は通常10年間が推奨されており、この期間中は適切な形でデータを保管し続ける必要があります。契約終了後も一定期間保管が求められるため、法的な保存期間を守りつつ、データが劣化しないようにクラウドや専用の電子保管システムを活用することが重要です。
セキュリティ対策
電子化された賃貸借契約書は、保管場所だけでなく、セキュリティ対策にも十分に配慮する必要があります。まず、クラウドストレージや電子契約システムを利用する際には、データの暗号化が施されていることを確認します。また、アクセス権限を限定し、契約書にアクセスできる人を必要最小限に制限することが大切です。
さらに、データが不正にアクセスされた場合の対策として、多要素認証やアクセスログの記録を導入することが推奨されます。万が一のデータ消失や改ざんに備え、定期的なバックアップを行うことも重要です。これにより、重要な契約データの紛失や漏えいリスクを最小限に抑え、安全なデータ保管を確保できます。
賃貸借契約書に関連したひな形・テンプレート
賃貸借契約書の作成は、法的要件を満たしつつ、当事者間の合意を適切に反映させる必要があります。宅地建物取引業法改正を踏まえた、最新の法令に準拠した賃貸借契約書の無料テンプレートを用意しましたので、是非、活用してください。
賃貸借契約書に最適な電子契約システムの選び方
賃貸借契約書を電子契約で管理することで、契約の効率化やコスト削減が期待できます。しかし、適切な電子契約システムを選ぶには、法的要件や機能性を十分に考慮する必要があります。
選び方と比較のポイント
賃貸借契約書に最適な電子契約システムを選ぶ際のポイントとして、まず法的要件に対応しているかどうかが重要です。電子署名法に基づき、電子署名やタイムスタンプが適切に付与された契約書は、紙の契約書と同等の法的効力を持ちます。従って、システムがこれらの法的基準を満たしていることを確認する必要があります。
また、賃貸借契約書の管理においては、契約書の進行状況をリアルタイムで確認できる契約管理機能や、契約の更新時期を通知するリマインダー機能も重要です。さらに、システムのセキュリティやアクセス制限機能も考慮し、契約情報が安全に管理されることを確認することが求められます。システムの導入費用や運用コストも比較ポイントであり、コストに対してどのような機能が提供されるのかを見極めることが大切です。
「マネーフォワード クラウド契約」は、賃貸借契約書の電子化に適した機能を多数備えています。紙の契約書と電子契約書を一元管理できるため、契約情報の分散や更新忘れを防げます。また、電子署名やタイムスタンプを付与し、法的効力を確保した形で契約を締結できるため、法令遵守の観点でも安心して利用可能です。さらに、契約の進行状況をリアルタイムで把握できる機能や、契約更新のリマインダー機能も備えており、賃貸借契約の管理における利便性が高い点も特徴です。マネーフォワード クラウド契約は、賃貸借契約書の電子化に適したソリューションだといえるでしょう。
賃貸借契約書の電子化で業務効率を向上させよう!
賃貸借契約書の電子化は、契約業務の効率化とコスト削減に大きく貢献します。電子化により、契約書の作成から署名、保管までがオンラインで完結し、郵送の手間や収入印紙の費用も削減可能です。さらに、契約書の保管や管理もクラウドで行えるため、物理的なスペースが不要になり、契約の更新時期の管理も容易になります。
企業における契約管理のデジタル化を進めるためには、法令遵守を踏まえたシステムの選定と正しい運用が不可欠です。賃貸借契約書の電子化を積極的に導入し、業務効率化を図りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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