• 作成日 : 2024年9月27日

転抵当権設定契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説

転抵当権設定契約書は、抵当権に対してさらに抵当権を設定する際に締結する契約書です。転抵当権の特徴を踏まえつつ、必要な事項を適切に定めた契約書を作成しましょう。本記事では、転抵当権設定契約書の書き方やレビュー時のポイントなどを、条文の具体例を示しながら解説します。

転抵当権設定契約書とは

転抵当権設定契約書とは、抵当権者が自らの抵当権に対してさらに抵当権を設定する際、債権者(転抵当権者)との間で締結する契約書です。

抵当権者は、自ら有する抵当権を他の債権の担保とすることが認められています(民法376条1項)。これを転抵当といい、抵当権を他の債権の担保として利用することが可能です。その際には、転抵当権者(新たな債権者)と転抵当権設定者(原抵当権者)の間で転抵当権設定契約書を締結します。

なお、転抵当権を設定する場合の登場人物は、以下のように整理できます。

原抵当権設定者:自らが所有する不動産に、元々の抵当権を設定した者

原抵当権者・転抵当権設定者:元々の抵当権の設定を受けた後、その抵当権の上に転抵当権を設定した者

転抵当権者:転抵当権の設定を受けた者

転抵当権設定契約を締結するケース

転抵当権設定契約を締結するのは、抵当権を担保として資金調達をしたい場合や、他社に対して貸付けを行う際に担保を取りたい場合などです。

担保を提供すると、無担保の場合よりも多額の融資を受けられる傾向にあります。担保としては不動産の現物などを提供するケースが多いですが、抵当権そのものに価値がある場合には、転抵当権設定契約を締結して、抵当権を担保に供することも考えられます。

反対に、他社に対してお金を貸す立場では、価値のある担保を確保することが、確実な債権回収を図るために重要です。債務者が多額の債権を有しており、その債権が抵当権によって担保されている場合には、転抵当権設定契約によって抵当権を担保に取ることが有力な選択肢となります。

転抵当権設定契約書のひな形

転抵当権設定契約書のひな形は、以下のページからダウンロードできます。実際に転抵当権設定契約書を作成する際の参考としてください。

※ひな形の文例と本記事で紹介する文例は、異なる場合があります。

転抵当権設定契約書に記載すべき内容

転抵当権設定契約書には、主に以下の事項を記載します。

  1. 転抵当権を設定する旨
  2. 原抵当権の有効性・被担保債権額の確認
  3. 転抵当権の設定に関する付記登記手続き
  4. 原抵当権設定者の転抵当権設定者に対する弁済の制限
  5. その他

転抵当権を設定する旨

(例)

第1条

乙は、甲乙間で令和〇年〇月〇日に締結した金銭消費貸借契約に基づき、甲が乙に対して有する元本債権および利息債権を担保するため、下記抵当権(以下「原抵当権」という。)の上に、甲のために転抵当権(以下「転抵当権」という。)を設定し、丙はこれを異議なく承諾する。

原抵当権の表示

受付番号 令和〇年〇月〇日〇法務局〇支局受付第〇号

債務者および抵当権設定者  丙

転抵当権を設定する抵当権(=原抵当権)の情報(=登記の受付番号、債務者、抵当権者)を記載したうえで、原抵当権に転抵当権を設定する旨を明記します。

転抵当権が担保する債権(=被担保債権)の情報も明記しておきましょう。上記の例では「甲乙間で令和〇年〇月〇日に締結した金銭消費貸借契約に基づき、甲が乙に対して有する元本債権および利息債権」を被担保債権としています。

なお、上記の例では被担保債権が特定されていますが、被担保債権が不特定の場合は根抵当となり、極度額の定めなどを要する点に注意が必要です。

また上記の例では、原抵当権設定者である丙も、転抵当権設定契約書を当事者として締結する形をとっています。転抵当権の設定は原抵当権者が単独で行うことができるので、本来であれば原抵当権設定者を参加させる必要はありません。しかし、原抵当権の被担保債権が弁済されることにより、転抵当権者がコントロールできないところで転抵当権の担保価値が毀損されてしまうことを防ぐ観点から、原抵当権設定者が転抵当権設定契約に参加する意義はあると考えられます。

原抵当権の有効性・被担保債権額の確認

(例)

第2条

丙は、原抵当権が有効に成立し、かつ存続していること、および原抵当権の被担保債権額が本契約締結日において金○〇円存在することを表明し、保証する。

転抵当権を設定するためには、原抵当権が有効に成立し、かつ存続していることが必要です。上記の例では原抵当権設定者である丙にそのことを表明保証させていますが、原抵当権設定者が参加しない場合は、転抵当権設定者(原抵当権者)が原抵当権の有効性について表明保証をします。

また、転抵当権を実行した際に回収できる金額は、原抵当権の被担保債権額が上限です。そのため、転抵当権設定契約を締結する時点における原抵当権の被担保債権額についても、原抵当権設定者または転抵当権設定者(原抵当権者)に表明保証をさせましょう。

転抵当権の設定に関する付記登記手続き

第3条

甲および乙は、本契約締結後直ちに、転抵当権の設定に係る付記登記手続を行う。転抵当権設定の付記登記手続にかかる費用は、乙の負担とする。

転抵当権の登記は、原抵当権の登記に付記する形式で行います(=付記登記)。転抵当権設定契約の締結後、付記登記の手続きを直ちに行うべき旨を定めましょう。

付記登記手続きの費用は、転抵当権設定者(原抵当権者)が負担するのが一般的です。

原抵当権設定者の転抵当権設定者に対する弁済の制限

第4条

丙は、原抵当権によって担保されている債務を、甲の承諾なくして乙に対して弁済してはならない。

2 丙は、前項の債務につき、乙から弁済の請求を受けても、甲の当該弁済に関する承諾がない限り、当該請求を拒むことができる。

3 丙は、乙に対する債務が期限の到来または期限の利益の喪失により弁済期にあるときは、甲の転抵当権の被担保債権の弁済期にかかわらず、原抵当権の被担保債権の範囲内で甲に弁済し、転抵当権の抹消登記を請求できる。乙は、丙の甲に対する弁済について異議を述べることはできない。

前述の通り、転抵当権を実行した際に回収できる金額は、原抵当権の被担保債権額が上限です。そのため、転抵当権者がコントロールできないところで原抵当権の被担保債権が弁済されると、転抵当権の担保価値が毀損されてしまいます。

このような事態を防ぐためには、原抵当権設定者の転抵当権設定者(原抵当権者)に対する被担保債権の弁済を制限することが考えられます(上記1項、2項)。その場合は、原抵当権設定者が被担保債権を弁済する道を確保するため、転抵当権者に対する弁済を認める旨を定めておきましょう(上記3項)。

その他

上記のほか、転抵当権設定契約書には誠実協議条項や合意管轄条項などを定めます。

転抵当権設定契約書を作成する際の注意点

転抵当権設定契約書を作成する際には、担保価値が不当に毀損されないような仕組みを定めることが大切です。具体的には、原抵当権の被担保債権の金額を確認したうえで、原抵当権設定者の原抵当権者に対する被担保債権の弁済を原則禁止するなどの規定を定めましょう。

原抵当権設定者を転抵当権設定契約に参加させることができない場合は、原抵当権者(転抵当権設定者)に対して、表明保証や受領した弁済金の報告および担保提供を義務付けるなどの対応が考えられます。

転抵当のメリット

転抵当権を設定することには、転抵当権設定者・転抵当権者の双方において、主に以下のメリットがあります。

  • 転抵当権設定者のメリット|債権を早期に回収するのと同等の効果を得られる
  • 転抵当権者のメリット|債務者が倒産した際の損害を抑えられる

転抵当権設定者のメリット|債権を早期に回収するのと同等の効果を得られる

転抵当権設定者は、原抵当権を担保に供することにより、転抵当権者から融資を受けることができます。原抵当権の被担保債権の弁済期がまだ到来していなくても、転抵当権者から融資金を受け取れるので、被担保債権を早期に回収するのと同等の効果を得ることができます。

転抵当権者のメリット|債務者が倒産した際の損害を抑えられる

転抵当権者は、被担保債権の債務者が支払能力を欠くに至った場合でも、転抵当権を実行することにより、原抵当権を実行して被担保債権を回収することができます。倒産手続きが開始されても、転抵当権は原則として手続外で実行できるため、転抵当権者は自らの損害を軽減することが可能です。

転抵当権設定契約書は資金調達手段の一つ|担保価値の保全を念頭に作成しましょう

転抵当権設定契約書は、抵当権を担保とする資金調達を図る際に締結する契約書です。

転抵当権の実行によって回収できる金額は、原抵当権の被担保債権の額が限度となります。そのため、弁済等によって原抵当権の被担保債権が不当に減ってしまわないようにすることが大切です。転抵当権設定契約書において必要な規定を定め、担保価値の保全を図りましょう。


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