- 作成日 : 2022年8月26日
不動産売買や賃貸借が電子契約で締結可能に!法改正を解説
ペーパーレス化が進み、今では多くの書類が書面ではなくデジタルで作成されています。契約書も同様で、これまで電子化に対応していなかった不動産関連の取引でも、法改正により電子契約が認められるようになりました。この記事では、どのような法律が改正されたのか、どの部分がどのように改正されたのかを整理します。
目次
不動産関連の契約が電子契約で締結可能に
契約書の作成は、すべての契約で必須とされているわけではありません。しかし一定の契約に関しては、法令で契約書の作成や書面での交付が義務付けられています。このような規定は多くの不動産取引に適用されていたため、不動産取引では電子契約の導入があまり進みませんでした。
しかし、近年デジタル改革関連法によって宅地建物取引業法が改正され、不動産取引でも電子契約が幅広く利用できるようになりました。
2022年5月に宅地建物取引業法の改正が施行
デジタル改革関連法は、「デジタル社会形成基本法」「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」など複数の法律の総称です。後者の法律によって、押印および書面手続のルールを変更するために48もの法律が改正されました。法改正によって、不動産取引の分野でも電子化が進んだのです。
宅地建物取引業法もその一つで、2021年5月19日に改正法が公布され、2022年5月18日に施行されました。これによって、宅地に関する各種契約の締結における続きをすべてオンライン上で進められるようになったのです。
押印義務がなくなった書類
宅地建物取引業法の改正によって、押印の義務がなくなった書類を2つ紹介します。
1つは「重要事項の説明に係る書面」です。
旧法では、同法第35条第5項で「第一項から第三項までの書面の交付に当たっては、宅地建物取引士は、当該書面に“記名押印”しなければならない」と定められていました。この規定は、改正によって「第一項から第三項までの書面の交付に当たっては、宅地建物取引士は、当該書面に“記名”しなければならない」に代わり、押印義務に関する文言が削除されています。
同条第7項にも同様の変更がありました。「宅地建物取引業者は、前項の規定により読み替えて適用する第一項又は第二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に“記名押印”させなければならない」と定められていましたが、改正後は「押印」の文言が削除されています。
もう1つは「契約締結時に交付する書面」です。
旧法では、同法第37条第3項で「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に“記名押印”させなければならない。」と規定していましたが、「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に“記名”させなければならない。」という規定に変更されました。
電子化が認められた書類
重要事項説明書や契約締結時の書面は交付することが義務付けられていますが、それまでの押印の義務がなくなるだけでなく、電磁的記録の提供をもって書面交付とみなすとする変更も加えられています。
例えば重要事項説明書に関しては、35条に以下の規定が新たに設けられています。
8 宅地建物取引業者は、第一項から第三項までの規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第一項に規定する宅地建物取引業者の相手方等、第二項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方又は第三項に規定する売買の相手方の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第五項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供させることができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該宅地建物取引士に当該書面を交付させたものとみなし、同項の規定は、適用しない。
9 宅地建物取引業者は、第六項の規定により読み替えて適用する第一項又は第二項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第六項の規定により読み替えて適用する第一項に規定する宅地建物取引業者の相手方等である宅地建物取引業者又は第六項の規定により読み替えて適用する第二項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方である宅地建物取引業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第七項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。
引用:宅地建物取引業法 第35条第8項・第9項|e-Gov法令検索
契約締結時の交付書面に関して規定する同法第37条にも、同様の規定が新設されています。「媒介契約締結時の書面」に関しても、同じく電磁的記録の提供を書面交付とみなすとする規定が新設されました。
賃貸借契約・売買契約を電子化するメリット
不動産に関する賃貸借契約や売買契約の電子化を進めることで、様々なメリットを得られます。
よりスピーディーに契約を締結できるようになる
電子化によって、スピーディーな契約締結が実現します。契約締結にあたって紙の契約書が必須となれば、契約書の作成や印刷、郵送などに相当の時間がかかります。契約内容は決まっているのに、契約が成立するまでに数日から1週間以上かかることも珍しくありません。
電子化によって、このような問題が解決されます。契約書の作成から締結までをオンライン上で完結できるので、郵送でのやり取りの時間を省けます。瞬時に情報のやり取りができるため、双方の意見がまとまっていれば、1日で契約の締結を済ませることもできるでしょう。
このことは、契約当事者双方にとってのメリットといえます。物件を早く利用できるようになりますし、業者側も業務効率化やコスト削減につながるでしょう。
収入印紙が不要になる
不動産取引の一連の手続きが電子化されれば、「契約書の作成に際して貼付しなければならない収入印紙が不要になる」というメリットも享受できます。
収入印紙は印紙税を納めるために貼付するもので、印紙税は紙で作成される契約書等に課せられる税です。書面に記載されている金額、例えば売買代金などに応じて印紙税を納めなくてはなりません。
しかし、印紙税は紙で作成される契約書等を対象としており、電子化された契約書等は課税対象外です。したがって印紙税を納める必要がなくなるため金銭的な負担がなくなり、収入印紙の用意や貼付作業の手間もなくなります。
契約書の管理・検索が楽になる
契約書の電子化にあたっては、電子契約サービスを利用するのが一般的です。同サービスを利用することで電子化を効率的に進められますし、改正法への対応もスムーズになります。
また契約書の管理も容易になり、楽に検索ができるようになります。管理方法などは導入するサービスによって異なりますが、システム上で表題や日付、キーワードで検索すれば、すぐに目的の契約書を見つけられるでしょう。
賃貸借契約・売買契約を電子化するデメリット
賃貸借契約や売買契約を電子化することには様々なメリットがありますが、デメリットもあります。電子化による恩恵を最大化するためには、デメリットも理解した上で導入を進めることが大切です。
紙での契約を求められる場合がある
自社で電子化を進められたとしても、契約の相手方がそれを望まないケースがあります。「電子契約に抵抗がある」「仕組みがよくわからず不安」などの理由で応じてくれない可能性もあります。相手の承諾を得ることなく、電子契約や電子重要事項説明の導入はできません。
法改正によって電子化が“可能になった”だけで、電子化“しなければならない”と定められたわけではありません。そのため電子契約の利用を強制することはできず、紙を使った従来の運用もしばらくは併用する必要があるでしょう。併用によって、一時的に運用の負担が大きくなる可能性もあります。
契約フローの変更が求められる
電子化による恩恵を十分に受けるには、電子契約のフローの整備が必要です。契約フローを変更・整備しなければ一連の作業をスムーズに進められず、かえって効率が落ちるかもしれません。
まずは、押印申請等のフローを整備する必要があるでしょう。一般的な電子契約サービスには各種フローを電子化する仕組みがあるので、導入すれば比較的スムーズにフローを変更できるでしょう。その際は、改めて契約の起案者、チェック者、決裁者などを誰にするか検討することをおすすめします。これまでの「暗黙の了解」を引き継ぐのではなく、この機会に曖昧さを排除したルールや権限の設定を行いましょう。
不動産取引に電子契約を導入しよう
電子契約を新たに導入する際は、初期コストの発生や新しいフローの構築、運用の不慣れなどによって負担がかかるかもしれません。しかし、法改正によって電子契約が広く認められるようになったことで、今後は電子化がさらに普及すると考えられます。
電子契約サービスを利用すれば、スムーズに電子化を進められます。業務効率の向上も期待できるので、導入を検討するとよいでしょう。
よくある質問
電子契約を利用して締結できる不動産関連の契約はありますか?
不動産売買にかかる契約書や重要事項説明書、一般定期借地契約、定期建物賃貸借契約など、様々な不動産関連の契約で電子契約を利用できます。詳しくはこちらをご覧ください。
不動産関連の契約書を電子化するメリットは何ですか?
不動産関連の契約書を電子化するメリットとしては、「業務効率の向上」「印紙代が不要になることによるコストの削減」「契約書の管理が容易になること」などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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