• 作成日 : 2022年2月4日

専属的合意管轄裁判所とは?決め方についても解説

専属的合意管轄裁判所とは?決め方についても解説

契約書で「専属的合意管轄裁判所」を定めるケースは少なくありません。この条項は取引先との間でトラブルが生じ、裁判になった場合に利用する裁判所を指定するものです。ただし、裁判所の管轄に関するルールを踏まえて正しく記載しなければ、期待する効果を得られないことがあります。
この記事では管轄をテーマに、専属的合意管轄の意味や管轄条項を定める際の注意点などを解説します。

専属的合意管轄裁判所とは

「専属的合意管轄裁判所」とは、当事者の合意により指定した、紛争解決のための審理を専属的に管轄する裁判所のことです。

専属的合意管轄裁判所を定めると、基本的にはその裁判所でしか提訴できなくなります。

民事訴訟法第11条第1項により、当事者の合意によって管轄裁判所を定められますが、そのうち、付加的ではなく専属的に定めた管轄裁判所を専属的合意管轄裁判所といいます。

(管轄の合意)
第十一条 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。

引用:e-Gov法令検索

合意で定めたからといって、それだけで「専属的」な合意管轄裁判所になるわけではないからです。当事者が専属的合意管轄を設定するためには、どの裁判所を「専属の」管轄裁判所とするかという内容を含めなければならないのです。

専属的合意がなされていたとしても、法定の専属管轄と同様の効果は得られません。相手方が合意の内容と異なる裁判所に訴訟を提起した場合、その訴えに応じると当該裁判所に管轄が認められる可能性があります。

非専属的合意管轄裁判所との違い

「非専属的合意管轄裁判所」は合意管轄裁判所のうち、特に専属的ではないことを強調した呼び方です。

民事訴訟法第11条第1項による合意で管轄を指定していても、専属でなければ付加的に管轄裁判所を設定したことになります。つまり、法律上の管轄裁判所に加えて、当事者の合意によって指定した裁判所も管轄になるということです。

実務上は非専属的合意管轄ではなく、専属的合意管轄の条項を契約書に盛り込むことが多いです。専属にしなければ、わざわざ契約書に盛り込むメリットが薄れてしまうからです。
合意の内容として専属的である旨が明記されていないケースにおいて、法律上常に付加的になることが定められているわけではありません。
しかし「専属的」の文言がなければ非専属的合意管轄裁判所とみなされる可能性があるため、他の裁判管轄を排除したい場合は必ず「専属的」の文言を入れておくべきです。

管轄の種類

「管轄」とは、各裁判所の事件分担のルールのことです。どの裁判所に訴状等の書類を提出すればよいかを決めるルールということです。
管轄にはいくつか種類があるため、ここで整理しておきましょう。

事物管轄

「事物管轄」とは、第一審の裁判権について、地方裁判所と簡易裁判所のいずれにすべきか、という目的に照らして定められる管轄のことです。

基本的には訴訟の目的の価格によって分かれます。

  • 訴訟の目的の価格が140万円以下
    →簡易裁判所
  • 訴訟の目的の価格が140万円超
    →地方裁判所

ただし、当事者の合意があればいずれの裁判所に提起することも可能であり、合意がなくても「不動産に関する訴訟」であれば140万円以下でも地方裁判所へ提起することができます。
「不動産に関する訴訟」とは、不動産の引き渡しや不動産登記に関する訴訟、境界確定訴訟などのことであり、不動産を原因とする金銭訴訟は含まれません。

土地管轄

「土地管轄」とは、事物管轄等を持つ裁判所が複数存在する場合において、どの地の裁判所に分担させるべきか、という目的に照らして定められる管轄のことです。

基本的には、被告が所在する地によって分かれます。

  • 被告の普通裁判籍
    →現住所(住所不明なら居所、居所も不明なら最後の住所地)
  • 法人の普通裁判籍
    →主たる事務所(事業所が判明しないなら代表者等の住居所など)

土地管轄も原則は任意管轄であり、合意により別の裁判所を指定することができますが、一部の会社訴訟や人事訴訟では特別の規定が置かれているため注意が必要です。当事者が合意管轄を定めても排除される可能性があります。

また「財産権上の訴え」では支払いをすべき地、「不法行為に関する訴え」では不法行為があった地、「不動産に関する訴え」では不動産の所在地を管轄する裁判所でも提起可能、といったように例外がいくつか定められていることにも注意が必要です。

合意管轄

「合意管轄」とは、当事者の合意によって定める管轄のことです。専属的であろうと非専属的であろうと、当事者が話し合って契約によって設定したのであれば、合意管轄になります。

合意管轄を定められるのは、後述の法定専属管轄ではなく「任意管轄」である場合に限られます。専属管轄と任意管轄は強制力の有無によって区分され、任意管轄であれば当事者の意思によって、法定管轄とは異なる裁判所に管轄を認めることもできます。合意管轄は当事者の便宜のための管轄であり、原則として事物管轄・土地管轄は任意管轄です。

法律に定めのある専属管轄

法律に定めのある「専属管轄」は、特定の裁判所のみが裁判権を有するという意味の管轄です。

当事者の便宜よりも公益が要求されるケースでは、法定の専属管轄が定められています。会社訴訟や知的財産権に関する訴訟など多くの例があり、その場合、合意管轄はもちろん、応訴による管轄が生じることもありません。

例えば「株主総会決議取消訴訟」「株主代表訴訟」「株式会社の役員解任の訴え」の場合は、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所が専属管轄です。定款で定め、登記をした本店所在地で判断します。

専属的合意管轄裁判所の決め方・合意方法について

専属的合意管轄裁判所の主な定め方としては、「自ら作成した契約書に同意してもらう」「相手方の作成した契約書に同意する」が考えられます。
ここでは、これらのケースにおいて専属的合意管轄裁判所を決めるポイントを解説します。

なお、どちらも口約束では効力が生じません。書面での合意、あるいは合意内容を記録した電磁的記録によってなされる必要があります(民事訴訟法第11条第2項)。

参考:民事訴訟法|e-Gov法令検索

自ら契約書を作成し相手に提案する場合

管轄に関する条項を設ける際は、付加的合意管轄とならないように注意しましょう。第一審について、以下のように「専属的合意管轄」であることを明記します。

第〇条(専属的合意管轄裁判所)
本契約に関する一切の争訟は 東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

当該条項が適用される範囲についても記載しましょう。
民事訴訟法第11条第2項には、合意は「一定の法律関係に基づく訴え」に関してなされなければ効力を生じないと規定されており、「当事者間の一切の紛争」に適用する旨を記載しても無効になるおそれがあります。そのため、文言を「本契約に関する一切の紛争」とするなど、どの法律関係に基づくのかがわかるようにしましょう。
ただし、限定しすぎるとメリットを得られる範囲が狭くなるため、注意が必要です。「本契約に関する一切の訴訟」とすると、調停の場合に適用されない可能性があります。

これらを踏まえて、どの裁判所を指定するのかを検討します。
裁判所の選択に際して考慮すべき主なポイントは、以下のとおりです。

  • 自社にとって有利かどうか
  • 契約相手との公平性が保たれているかどうか
  • 簡易裁判所での審理の必要性

自社にとって有利かどうかは、「自社の活動拠点」「弁護士の場所」によって変わります。自社の活動拠点から離れるほど、裁判所に出向く手間やコストが大きくなります。また、顧問弁護士がいる場合や依頼する弁護士との距離が離れている場合もコストが大きくなります。そのため、できるだけ自社および自社が依頼している弁護士の近くの裁判所を指定するようにしましょう。

とはいえ、契約相手の負担が大きくなる裁判所を指定した場合は同意を得られないおそれがあり、移送(後述)されるおそれもあります。そのため、契約相手の場所もある程度考慮し、バランスのとれた内容にすることも大切です。例えば「被告の本社所在地を管轄する地方裁判所」などと被告地主義に則った内容にすれば、訴える側が出向くことになり、一方的に不利な場所での訴訟を避けられます。

簡易裁判所であれば、当事者および裁判所の訴訟行為を簡略化する特則が設けられており、簡易で迅速な紛争解決を図りやすいため、利用を検討するとよいでしょう。口頭での訴えで提起ができ、原則書面で弁論の準備をする必要はありません。簡易裁判所は、証拠の調査も口頭尋問に代えて書面の提出とすることが可能であるなど、簡易な手続きが認められるケースがあります。

相手の作成した契約書に合意する場合

相手方が契約書を作成することもあるでしょう。自社が仕事を受ける側の場合、自社に有利な管轄条項を定めるのは難しいです。
そのような場合でも、相手方に有利な内容を受け入れるのではなく、公平な内容にしてもらえるよう交渉してみましょう。前項で挙げたように、「被告の本社所在地を管轄する地方裁判所」としてもらえるかもしれません。

専属的合意管轄裁判所を決めるうえでの注意点

専属的合意管轄裁判所を決める際、自社にとって有利かどうかや相手方との公平性なども重要なポイントですが、以下の点にも注意が必要です。

専属的合意管轄は第一審に限る

合意管轄の基本として、「当事者の合意で定めることができるのは第一審に限られる」ということを覚えておきましょう(民事訴訟法第11条第1項)。

参考:民事訴訟法|e-Gov法令検索

日本は第一審の裁判に不服があれば第二審、第三審と裁判ができる三審制を採用していますが、第二審・第三審に関しては合意管轄による指定はできません。
契約書の管轄条項にも、第一審に関する合意管轄である旨を記載しましょう。

専属的合意管轄裁判所を2つ定めることはできない

専属的合意管轄裁判所として、複数の裁判所を指定することはできません。

「本契約に関する一切の争訟は 東京地方裁判所“または”大阪地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
「本契約に関する一切の争訟は 東京地方裁判所“および”大阪地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」

このような記載では、専属的合意管轄裁判所を定めたことにはなりません。ただし、いずれかの裁判所に提起をすれば受け付けてもらえる可能性はあります。

「Aの本社またはAの選択する裁判所」と定め、契約当事者の一方が任意に選択できる内容とした管轄の合意を無効とした判例(東京高決平成16年2月3日 判例タイムズ1152号283頁)があります。また「原告の本支店所在地を管轄する裁判所」と定めた条項についても、全国に数十ヵ所にある本支店所在地を一方的に選択して提起できることから無効となった判例(横浜地決平成15年7月7日 判例タイムズ1140号274頁)もあります。
合意管轄では管轄について予測可能性が担保されていることも重要で、一方的に相手方の防御の機会を奪うような合意は無効になり得ることを認識しておくべきです。

移送される場合もある

専属的合意管轄裁判所を適法に定めたとしても、提訴後に移送されることがあります。

(遅滞を避ける等のための移送)
第十七条 第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。

引用:民事訴訟法|e-Gov法令検索

民事訴訟法第20条では同法第17条の適用を除外していますが、同法第11条の規定によって定めたものは除くとしています。そのため、せっかく定めた専属的合意管轄であっても状況に応じて移送、つまり別の裁判所に送られる可能性があるのです。

訴訟の著しい遅滞を避ける必要がある場合や、当事者間の衡平を図るために必要がある場合は、同法第17条による移送が可能となります。
その判断においては、当事者の身体的事情や訴訟代理人の有無、事務所の所在地、経済力など諸般の事情が考慮されます。

具体的にどのような場合に移送が起こるのかをイメージするため、同法第17条により移送をされた事例と、移送の申立てが認められなかった事例を見てみましょう(いずれも合意管轄条項を理由に専属的合意管轄裁判所に提訴している)。

事案
結果
理由
貸金業者の原告が、福岡市居住の被告に対し、貸金返還訴訟を大阪簡裁に提訴
(大阪地決平成11年1月14日 判時1699号99頁)
福岡簡裁に移送被告が福岡市の弁護士を訴訟代理人として選任しており、大阪簡裁での審理では弁護士の旅費、自らの出頭の費用の負担は原告より相当大きい
信販会社の原告が、広島市に居住する被告に対し、貸金返還訴訟を東京簡裁に提訴
(東京地決 平成11年3月17日 判タ1019号294頁)
広島簡裁に移送(1)契約は広島支店で締結されている
(2)人証予定者が広島市に在住している
(3)被告は破産宣告を受けており、東京への出頭は相当困難
(4)他方、原告は全国に支店を有し、広島簡裁での応訴は被告と比較して特に大きな経済的不利益を受けない
カード会社の原告が、神戸市に居住する被告に対し、カード代金等請求訴訟を東京地裁に提訴
(東京高決 平成12年3月17日 金法1587号69頁)
移送申立を却下(1)被告から神戸地裁または大阪地裁への移送申立がなされたが、争点の整理は電話会議による弁論準備手続ないし書面による準備手続で可能
(2)立証について書証以外の証拠を取り調べる必要が認められない
商工ローン会社の原告が、原告の福岡支店で行われた貸付に関し、連帯保証人に対する訴訟を大阪地裁に提訴
(大阪地決 平成13年 4月5日 判タ1092号294頁)
福岡地裁へ移送(1)電話会議による弁論準備手続では十分な争点整理ができないおそれがある
(2)人証予定者がいずれも福岡地裁の管轄区域内にいる
自動車リース会社の原告が、熊本市居住の被告らに対し、東京地裁にリース代金請求訴訟を提起
(東京地決 平成15年12月18日 判タ1144号283頁)
熊本地裁に移送

(1)当該管轄合意は相手方の実質的な防御の機会を一方的に奪うものとなりかねないもので、無効とはいえないまでも相当なものとは認め難い
(2)リース契約の締結は熊本市で行われた
(3)被告らは地方の零細企業等であり費用・時間の関係で東京地裁へ出頭できない

専属的合意管轄を定めるメリット

専属的合意管轄を定めることで、紛争に関する手間やコストを抑えることができます。相手方にとって不利な裁判所を専属的合意管轄裁判所にすることで、訴訟提起の抑制効果も期待できます。一方の負担が大きすぎると移送される可能性がありますが、些細なトラブルでも裁判所を利用すれば、その都度対応しなければならないリスクを抑えられるでしょう。

簡易裁判所を採用すれば解決までの期間が短くなりやすく、また手間や費用も抑えやすいです。例えば、裁判所の許可があれば弁護士ではなく自社従業員等を法廷に立たせることで、弁護士費用を節約することもできます。
訴額が140万円を超えるケースでも、簡易裁判所への提起は可能です。

専属的合意管轄裁判所が合意できなかった場合はどうする?

専属的合意管轄裁判所に関して契約の相手方と揉めてしまい、なかなか合意がとれないことがあります。このような場合は、どうすればよいのでしょうか。

相談のうえ双方に公平な裁判所を設定する

事実上のパワーバランスがあったとしても、契約は当事者の合意がなければ成立しません。そのため、相手方が同意していないにも関わらず、自社のみが有利な裁判所を設定することは、移送の可能性もあるため避けるべきです。管轄に関する条項は相手方とよく相談し、双方に公平な裁判所を設定しましょう。

被告地主義を採用する

そもそも合意管轄は、契約の必須条項ではありません。何も記載しなければ「被告地主義」によって、訴えられる側の地を管轄とする裁判所で手続きを行うことになります。
特に必要がなければ、契約書に盛り込む条項を増やすことはありません。多くの条項を盛り込むことで双方の確認作業も増えますし、ミスによるリスクを負うことにもつながります。
「管轄に関する条項を設けない」「当該条項を削除してもらうよう交渉する」といったことも検討するとよいでしょう。

専属的合意管轄裁判所の決定は慎重に行おう

契約を締結する際は、相手方とのトラブルまで想定しない方が多いでしょう。しかし、将来どのような紛争が起こるかは予測できません。訴訟や調停を起こす(起こされる)場合、専属的合意管轄をどの裁判所に定めているかによって手間やコストが変わるため、専属的合意管轄裁判所について正しく理解したうえで契約を交わすことが大切です。

よくある質問

専属的合意管轄裁判所とは何ですか

専属的合意管轄裁判所とは当事者の合意により指定した、紛争を専属的に管轄する裁判所のことです。詳しくはこちらをご覧ください。

非専属的合意管轄裁判所との違いは何ですか

専属的であるかどうか、法定の管轄裁判所に付加して選択的に裁判所を利用できるかどうかが異なります。詳しくはこちらをご覧ください。


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