• 更新日 : 2024年9月3日

永小作権設定契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説

永小作権設定契約書とは、土地について永小作権を設定する際に締結する契約書です。他人の土地上で耕作や牧畜をする際に、永小作権設定契約書が締結されることがあります。本記事では、永小作権設定契約書の書き方やレビュー時のポイントなどを、条文の具体例を示しながら解説します。

永小作権設定契約書とは?

「永小作権設定契約書」とは、永小作権を設定する際に締結する契約書です。

「永小作権(えいこさくけん)」とは、他人の土地において耕作または牧畜をする権利をいいます(民法270条)。賃借権と類似していますが、永小作権は物権であるため、原則として地主の承諾を得ずとも第三者に譲渡できます。

永小作権設定契約書を締結するケース

永小作権設定契約書は、地主が他人に土地を貸し、借りた側がその土地上で耕作または牧畜をする際に締結します。例えば、農作や牧場経営用の土地を他人に貸す場合や、反対に他人から借りる場合などには、永小作権設定契約書を締結することが選択肢の一つとなります。

ただし現在では、耕作や牧畜のための土地を貸し借りする際には、永小作権ではなく賃借権を設定するのが一般的になっています。そのため、永小作権設定契約書が締結されるケースは少ないのが実情です。

永小作権設定契約書のひな形

永小作権設定契約書のひな形は、以下のページからダウンロードできます。実際に永小作権設定契約書を作成する際の参考としてください。

永小作権設定契約書に記載すべき内容

永小作権設定契約書には、主に以下の内容を記載します。

①永小作権の設定

②農業委員会の許可

③永小作権設定登記

④小作料

⑤土地の引渡し

⑥契約の解除

⑦存続期間

⑧その他

永小作権の設定

(永小作権設定の合意)

第1条 甲は、乙に対し、下記の土地(以下「本件土地」という。)について、農地法第3条第1項に基づく〇〇市農業委員会(以下「農業委員会」という。)の許可を得ることを条件として、乙のために、耕作を目的とする永小作権を設定する。

所在  〇〇県〇〇市〇〇町〇〇丁目

地番  〇〇番

地目  宅地

地積  〇〇.〇〇平方メートル

2 乙は、本件土地を耕作の目的にのみ使用し、それ以外の目的に使用してはならない。

3 略

対象となる土地を特定したうえで、その土地に永小作権を設定する旨を定めます。使用目的も明記したうえで、目的外利用を禁止する旨を定めておきましょう。

農業委員会の許可

(永小作権設定の合意)

第1条 甲は、乙に対し、下記の土地(以下「本件土地」という。)について、農地法第3条第1項に基づく〇〇市農業委員会(以下「農業委員会」という。)の許可を得ることを条件として、乙のために、耕作を目的とする永小作権を設定する。

2 略

3 第1項の許可がない場合、本契約は効力を生じない(ただし、本項、次条、第9条および第10条を除く)。

(農業委員会の許可)

第2条 甲は、農業委員会に対し、○年○月○日までに、第1条第1項の許可の申請をしなければならない。

農地または採草放牧地について永小作権を設定する際には、農業委員会の許可を受けなければなりません。

永小作権設定契約書では、農業委員会の許可を受けた場合に初めて効力を生じる旨(一部の規定を除く)、および農業委員会に対する許可申請の期限を定めておきましょう。

永小作権設定登記

(永小作権設定登記)

第3条 甲は、第1条第1項の許可を得たときは、速やかに永小作権設定を原因とする永小作権設定登記手続をしなければならない。登記手続費用は、乙の負担とする。

永小作権を第三者に対抗するためには、永小作権設定登記を経る必要があります(民法177条)。

農業委員会の許可を受けたら速やかに登記手続を行うべき旨、および登記手続の費用の負担者を定めておきましょう。登記手続の費用は、永小作人の負担とするのが一般的です。

小作料

(小作料)

第4条 本件土地の小作料(以下「小作料」という。)は月額金〇〇円とする。

2 乙は、甲に対し、当月の小作料を、前月末日までに、甲が定める以下の金融機関の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は、乙の負担とする。

銀行名 :〇〇銀行 〇〇支店(店番号〇〇〇)

口座番号:普通 〇〇〇〇〇〇〇

口座名義:〇〇 〇〇

3 乙が小作料を第2項に定める期日までに支払わなかった場合、当該期日の翌日から支払完了に至るまで年〇%による遅延損害金を支払う。

永小作権に基づく土地の使用料は「小作料」と呼ばれます。小作料の金額、支払方法および不払い時の遅延損害金などを定めておきましょう。

土地の引渡し

(本件土地の引渡し)

第5条 甲は、乙に対し、第1条第1項の許可を得た後、甲乙間で別途合意する日に、本件土地を引き渡す。

地主が永小作人に対して、永小作権の対象土地を引き渡す日を定めます。永小作権設定契約書を締結する時点では、農業委員会の許可がいつ得られるか分からないので、実際の引渡日は別途合意としておくのがよいでしょう。

契約の解除

(契約解除)

第7条 乙が第4条第2項に定める期日までに甲に対し小作料を支払わない場合が合計〇回に達したときは、甲は、何らの催告をすることなく本契約を解除することができる。

2 甲が第5条で定める期日までに、本件土地を乙に対し引き渡さない場合において、乙が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、乙は、本契約を解除することができる。

3 本条による解除は、解除の相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。

賃料の不払いや土地の引渡しの不履行があった場合には、契約を解除できる旨を定めます。契約解除に当たって事前に催告を要するのか、それとも無催告で解除できるのかを明記しておきましょう。

存続期間

(存続期間)

第8条 本契約による永小作権の存続期間は、農業委員会の許可を受けた日から〇年とする。

永小作権の存続期間を定めます。

民法上、永小作権の存続期間は20年以上50年以下とされています(民法278条1項)。契約において存続期間を定めなかった場合は、別段の慣習がある場合を除き、30年となります(同条3項)。

存続期間については、自動更新を定めることも考えられます。更新後の存続期間は、50年以内とする必要があります(同条2項)。

その他

上記のほか、損害賠償・合意管轄・誠実協議などの条項を定めます。

永小作権設定契約書を作成する際の注意点

永小作権設定契約書を作成しようとする際には、まずそもそも「永小作権」の形態が適切であるかどうかを検討すべきです。耕作または牧畜の目的で土地を使用収益させることは、永小作権以外に賃借権の設定によっても可能であるため、永小作権と賃借権のどちらが適切であるかを検討する必要があります。

永小作権と賃借権の大きな違いは、永小作権は物権であるのに対して、賃借権は債権である点です。物権と債権を比較すると、物権の方が強力な権利であるため、地主としては他人に永小作権を認めることはリスクが高いと考えられます。

また、賃借権の存続期間は自由に設定できるのに対して、永小作権の存続期間は20年から50年までに限定されており、融通が利きにくいのも難点です。

これらの事情により、新たに永小作権が設定されるケースは、賃借権に比べて非常に少数となっています。

特に地主の側としては、相手方に永小作権を認めることに支障がないかどうかを、契約締結前に慎重に検討しましょう。

永小作権設定契約書を締結することにした場合は、定めるべき事項を漏れなく、かつ明確な文言で定めることが大切です。本記事で紹介した条文例を参考にして、適切な内容で永小作権設定契約書を作成しましょう。

永小作権設定契約書は賃借権との比較・農業委員会の許可などに要注意

永小作権設定契約書を作成しようとする際には、まず永小作権と賃借権を比較して、どちらを設定するのが適切であるかを検討しましょう。特に地主の立場では、物権である永小作権を設定するのはリスクが高い側面がある点に注意が必要です。

また、農地や採草放牧地への永小作権の設定については農業委員会の許可を要するなど、耕作用地や牧畜用地に特有の注意点にも気を付けなければなりません。永小作権設定契約書においても、農業委員会の許可をはじめとする特有の注意点を条文に反映させましょう。

永小作権設定契約書に関するトラブルを避けるには、必要な条項を漏れなく、かつ明確な条項で定めることが大切です。内容に不安がある場合には、必要に応じて弁護士のリーガルチェックを受けましょう。


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