- 作成日 : 2024年12月3日
民法第522条とは?口約束の有効性や契約成立タイミングをわかりやすく解説
民法第522条は契約の成立に関して基本的なルールを定めた条文です。事業者の方もそうでない方も、日常的に契約を交わしていますので、同条の内容を一度チェックしておくとよいでしょう。
当記事では同条の規定を踏まえ、口約束による契約の有効性や成立のタイミングなどを解説しておりますので、契約の基礎をここで整理しておきましょう。
目次
民法第522条(契約の成立)とは?
民法第522条は、契約が成立するための要件を定めた条文です。どのような場合に契約が成立するのか、契約の成立にどのような方式が求められるのかを規定しています。
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
そもそも契約とは?
まず「契約」とは何か、ということを理解しておきましょう。
契約とは、ある行為をする・しないことなどを約束し合うことを意味します。例えばお店で商品を購入する約束(売買契約)、アパートを借りる約束(賃貸借契約)、会社で働く約束(雇用契約)など、私たちの生活にはさまざまな契約が関わっています。
契約の内容は当事者間で自由に決めることができるのが原則で、契約当事者間に上限関係などはありません。実質的な力関係の差はあっても、法的には、一方当事者から契約を強制されることは認められません。
契約が成立するタイミング
同条第1項では、契約は「申込み」と「承諾」によって成立すると規定しています。
- 「申込み」とは・・・契約内容を提示したうえで締結したいという意思を示すこと。
- 「承諾」とは・・・申込みに対して同意の意思を示すこと。
この「申込み」が行われ、それに対して「承諾」がなされた時点で契約は成立するのが原則です。
2020年4月民法改正の変更
2020年4月の法改正により、この条文は新設されました。
同条第1項では契約の成立要件として「申込みと承諾による成立」を規定しており、続く第2項では「契約方式の自由の原則」が明文化されています。
第1項については前項で説明した通りで、第2項に関しては、口約束でも契約が成立することが法律上明確に示されました。
契約書を作成して契約を締結するケースが多く、特に事業の一環で契約を交わす時は契約書を作成するのが通常ですが、契約の成立にこれが必須ではないのです。口頭など、自由な形式で契約を交わすことが法律上も認められています。
※例外的に書面の交付などを要する契約もある。
民法第522条の「契約の内容を示して」とは?
同条第1項では、申込みについて「『契約の内容を示して』その締結を申し入れる意思表示」と説明しています。
条文にある『契約の内容を示して』とは、申込者が契約を締結するうえで必要とされる、本質的な条件や重要事項を相手方に明確に伝えることを意味しています。単に交渉の開始を求める意思表示では該当せず、具体的な契約内容の提示を指します。
含めるべき要素は契約の種類や性質によって異なりますが、一般的に以下のような項目が重要と考えられます。
- 契約の対象(商品やサービスなど)
- 取引の価格・報酬
- 履行期限や履行の方法
- その他の重要な条件 など
これらの要素が明確に示されることで、相手方も承諾をするかどうかの判断ができる状態となります。
契約は口約束でも民法第522条により成立するのか
上述の通り、同条第2項の規定に基づいて、契約は口頭での約束でも成立します。
第1項で求めているのは「申込みとそれに対する承諾」であり、第2項では「特別の場合を除き方式の具備は不要」としか規定されていません。
そのため締結しようとしている契約に関して民法以外の法令が適用され、当該法令にて別途成立要件を定めていない限りは、口約束でも成立します。
ただし、口約束のみで契約を締結する場合は証明が困難で、後日、契約内容や成立の有無について争いが生じた場合に大きな問題となる可能性があるため要注意です。
書面の作成が必要な契約
例外的に書面の作成が必要とされる契約がいくつかありますので紹介します。また、契約書自体は不要でも、契約締結に関連して一定の書面作成が必要となる契約もありますので実務では注意が必要です。
契約の種類 | 書面の必要性 | 説明 |
---|---|---|
任意後見契約 | ○ | 任意後見契約に関する法律にて、公正証書によらなければならないと定められている。 |
事業用定期借地権設定契約 | ○ | 借地借家法にて、公正証書の作成が要件とされている。 |
定期借地権設定契約 | ○ | 借地借家法にて、書面による契約が必要とされている。 |
更新のない定期建物賃貸借契約 | ○ | 借地借家法にて、書面による契約が必要とされている。なお、書面によらない場合でも、通常の建物賃貸借契約として有効に成立する可能性はある。 |
農地の賃貸借契約 | ○ | 農地法にて、契約内容の書面化が必要と定められている。 |
建設工事請負契約 | ○ | 建設業法にて、書面作成が必要とされている。 |
月賦販売契約 | ○ | 割賦販売法にて、指定商品に関する割賦販売を行う時は書面を交付しなければならないとされている。 |
保証契約 | ○ | 民法にて、保証契約は書面でしなければならないと定められている。 |
著作権の知的財産権の譲渡契約 | ○ | 著作権法にて、著作権の譲渡は書面によらなければならないとされている。 |
贈与契約 | △ | 贈与契約の成立に書面は必須ではないが、書面によらない契約は一方からの解除ができてしまう。 |
雇用契約 | △ | 雇用契約の成立に契約書は必須ではないが、雇用にあたって労働者に労働条件通知書を交付しないといけない。 |
売買契約 | × | - |
委任契約 | × | - |
業務委託契約 | × | - |
契約が無効になるケース
民法第522条では契約の成立要件を定めていますが、この条文に照らして契約が無効になるケースをいくつか紹介します。
- 申込みの不存在
- 契約の内容を示したうえで行う申し入れがなければ、契約は成立しない。
- 例)単なる交渉や情報提供にとどまる。申込みの意思が不明確で契約内容が特定できない。
- 承諾の不存在
- 相手方からの承諾がない場合は契約が成立しない。
- 例)相手方が申込みを拒否した。承諾の意思が不明確。定められた期間内に承諾がされなかった。
- 意思表示の内容が合致していない
- 申込みと承諾、それぞれの指す内容が一致していない場合、契約は成立しない。
- 例)申込みの内容と異なる条件で承諾した。重要な契約条件について合意が得られていない。
- 意思能力を欠いている
- 契約当事者に意思能力がない場合、契約は無効。
- 例)幼児や重度の認知症患者など、契約の意味を理解できない状態の人が意思表示をした。
- 法令違反がある
- 契約内容が法令に反する場合、契約が無効になる可能性がある。
- 例)違法な取引を内容とする契約。公序良俗に反する契約。
以上のケースでは、同条の要件を満たさないか、関連する法令の規定により、契約が無効となる可能性があります。契約の有効性を確保するためには、これらの点に注意して契約を締結する必要があります。
民法第522条の規定により成立した契約の解除はできる?
一度有効に成立した契約は、原則として一方が勝手に解除することはできません。契約は当事者を拘束する法的効力を持つためです。
しかし、以下のようなケースでは契約の解除や申込みの撤回も認められます。
- 両当事者が契約解除に合意している
- 法定の解除事由に該当する場合(債務不履行など)
- 消費者と交わす一定の契約でありクーリングオフ制度が適用される場合
- 書面によらず締結した贈与契約の場合
- 錯誤や詐欺、強迫などに基づく行為であった場合
契約を守らないとどうなる?
契約を締結すると、当事者はその内容に従って行動する義務を負います。この義務を果たさず、互いに決めた約束を守らないとどうなるのでしょうか。
相手方が不利益を被ることになりますし、下表に示すように、違反をした側の当事者にもさまざまな問題が生じます。
損害賠償請求を受ける | 契約不履行により相手方に損害が生じた場合、その損害を賠償する責任が発生する。 あるいは契約書であらかじめ定めた違約金が発生し、その支払い義務が生じる。 |
---|---|
契約解除 | 相手方が相当の期間を設けて催告をしたにも関わらずその義務を履行しない場合、契約を解除される可能性がある。 |
信用を失う | 契約内容の不履行は、取引先や業界内での信用を大きく損なう可能性がある。継続的な取引関係にあった相手方からも契約更新をしてもらえず、将来の取引機会を失うことにもなりかねない。 |
法的措置 | 相手方が裁判所に訴えを提起し、強制執行などの法的手段を講じられる可能性がある。 また、その事実が公に知られることで一般消費者からの信用も落としてしまう恐れがある。 |
代金減額請求 | 売買契約や請負契約などでは、代金の減額を請求される可能性がある。 |
契約成立に書面か電子データでの保存が重要な理由
契約を交わす際、契約締結に関して書面(紙)または電子データを作成しておくべき理由として、まず「法的証拠としての重要性」が挙げられます。
契約内容や条件について争いが生じた場合、書面や電子データは証拠として使うことになります。口頭での合意は記憶に頼ることになり時間の経過とともに不正確になる可能性が高いです。そして何より客観的にその正しさを示すことが困難です。
一方、書面や電子データで保存された情報は客観的に提示しやすく、裁判所でも有力な資料として役立ちます。
また、事業者としては「業務効率と管理のしやすさが向上する」という点も挙げられます。
契約内容を書面または電子データで保存しておけば後からでも確認しやすくなります。いつ・誰と・どんな契約を交わしたのかが管理でき、契約業務にあたった直接の担当者でなくても状況を把握しやすくなります。電子契約システムを利用しておけばより管理性を向上させられるでしょう。
なお、コスト削減や契約業務の効率向上、セキュリティ対策、災害対策といった観点からは紙を使わない電子データの活用がおすすめです。電子データであればペーパーレスおよびリモートワークにも対応しやすいですし、適切なシステムを利用していればアクセス制限などにより安全に契約情報を管理できるようになります。万が一大きな災害被害を受けてもクラウド上でデータが保管されていれば消失する心配がありません。
民法第522条の要件だけでなく実務上の問題にも配慮が必要
契約成立の基本を定めた民法第522条の内容を理解しておくことは大事ですが、だからといって「契約は口頭でよい」という結論にはなりません。「口頭でも成立はするが、実務においては契約書を作成しておかないとさまざまな問題が起こり得る」というところまで理解し、契約業務の進め方を考えていくべきです。
契約書作成は時間も労力も要する業務ですが、この過程を怠ることなくトラブルに備えましょう。電子契約書であれば作成フロー一連がスムーズに進められますし、初めに環境を整えておけば大きな負担なく契約書が作成できるようになります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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